Q-8:漢方薬による肝臓がんの予防

肝臓がんは、肝炎ウイルスの感染がもともとある人が発病することが多く、治療後も再発しやすいという特徴があります。小さな肝臓がんを見つける画像診断と、がんに狙いを定めてがん組織をつぶす内科的局所治療の進歩により、肝臓がんでも延命できるようになりました。しかし、西洋医学の治療はがんが出てくるまで待って片っ端からつぶしていくという「モグラたたき」的な方法が主体になっています。肝炎の状態が続くかぎり発がんの危険性は残るため、西洋医学による定期的な診断と治療に加えて、肝機能を良好に保ちがん細胞の発生を遅らせる有効な手段を併用することが大切です。

【C型肝炎から慢性肝炎、肝硬変を経て肝がんになることが多い】

わが国では、肝臓がんによる死亡者数は2016年の統計で年間2万8千人もの人が肝臓がんで亡くなっています。悪性腫瘍の死亡順位の中で肺がん・大腸がん・胃がん・膵臓がんについで5位です。

日本人の肝臓がんのほとんどはB型C型肝炎ウイルスの持続感染者で、慢性肝炎肝硬変を経て肝臓がんに至るという経過をたどっています。肝がんをひきおこす肝炎ウイルスは、血液を介して感染するため、輸血のときのウイルスの有無のチェックや、注射針のディスポ化などの感染阻止対策を徹底することにより予防可能となりました。しかし、このような感染対策ができなかったときにウイルスに感染し、現在も持続性感染が続いている人が、日本だけでも二百万人以上います。

現在日本では、肝臓がんの80%はC型肝炎が原因になっています。C型肝炎に感染すると、多くの場合、程度の差はありますが、肝臓に急性の炎症が起こります(急性肝炎)。約2割の患者さんはは体の治癒力がうまく働いてウイルスが排除され、急性肝炎の段階で治癒してしまいます。この場合にはがんの危険性はありません。しかし、7~8割の患者さんはウイルスを除去できなくて慢性化し、慢性肝炎肝硬変に進行します。肝硬変になると肝臓がんを発病する可能性が高くなります。C型肝炎の場合、感染してから30年以上経過してから発がんすることが多く、C型慢性肝炎からの肝発がん率は年1~2%、C型肝硬変からのそれは6~7%といわれています。

図:肝がんになるまでの経過(C型肝炎の場合) 日本人では、C型肝炎ウイルスに感染し、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変を経て、肝臓がんになるケースがもっとも多い。ウイルスに感染してからがんを発病するまでには、だいたい30年~35年かかる。

【肝臓の炎症ががんの原因となる】

ウイルス性肝炎を背景にしていてもB型とC型ではがんの発症のしかたに違いがあります。B型肝炎ウイルス感染では、肝線維化があまり進んでいない時期から、肝線維化が進んで肝硬変の状態になった時期まで、肝病態のどの時期からでも発がんが起こります。B型肝炎ウイルスはDNAウイルスであり、ウイルスDNAが肝細胞のDNAに組み込まれるため遺伝子の変異が起こりやすいからと考えられます。

一方、C型肝炎ウイルスRNAウイルスで遺伝子への組み込みは起こりません。C型肝炎ウイルスに感染すると、ウイルスが肝臓に住み着きます。そのため、肝臓では慢性的な炎症が起こり、細胞の壊死と再生がくり返されます。炎症細胞から放出されるフリーラジカルは遺伝子を傷つけ、細胞の増殖はがんの進展を促進します。C型肝炎の場合、持続的な炎症に伴う慢性肝炎から肝硬変への連続的な進展に伴い発がんの危険性が高まるのです。

C型肝炎ウイルス感染では、肝発がんの頻度は肝線維化の程度を比例しています。肝の線維化は肝臓における炎症反応の結果として起こり、肝線維化の進展は肝細胞の障害と炎症反応の持続を意味しています。炎症が強ければ強いほど、慢性肝炎から肝硬変への移行も早まり、がんの発生も促進されることになります。しかし、肝細胞の障害を意味するトランスアミナーゼ(GOT,GPT)の数値を低い状態に長く保てば、ウイルス排除の有無にかかわらず発がん率の著明な低下がみられることが報告されています。したがって、ウイルス性肝炎になったからといって、必ずがんになるわけではなく、肝臓の炎症を抑え、解毒能や新陳代謝を良くして治癒力を高めておけば、がんの発生を予防することも可能です。

【西洋医学の肝がん治療はモグラたたき的発想が主】

近年の画像診断や腫瘍マーカーによる診断能の向上によって、小さい肝臓がんの発見も可能となり、また治療法も進歩しています。

肝臓がんが見つかった場合、がんの完全な切除が可能で、かつ手術に耐えられるだけの肝臓の機能が残っている場合には外科的治療が行なわれます。ただし、慢性肝炎や肝硬変を経て肝臓がんになった場合には、がんを取り除いても、残った肝臓にがんが再発する可能性が高いのが実情です。従って、再発するたびに手術を行うのは患者さんにとって非常に大きな負担になります。そのため、がんが小さい場合には、できる限り内科的局所治療が行われます。

内科的局所治療とは、超音波による映像でガンの位置を確認しながら、体外から直接ガン組織に特殊な針を刺し、エタノールを注入してガン細胞を凝固させたり、マイクロ波ラジオ波でガンを焼いて殺す治療法です。大きながんの場合には、がん組織を養っている肝動脈にカテーテル(細い管)を挿入して、抗がん剤を持続的に注入してがんを殺す方法もあります。

これらの治療によりがん組織だけをねらい撃ちしながら時間稼ぎをすれば、肝臓がんで死ぬまでの期間を延長させることはできます。しかし、これらの方法はがんが見つかるのを待って、出てきたらつぶすという「モグラたたき」の発想です。

肝炎ウイルスの持続感染によって肝臓がんが発生するような状況では、肝臓自体が既にがんを発生しやすい状態にあるため、再発を繰り返して根治は難しいのが実情です。がんの早期発見と治療の繰り返しでは限界があり、発がん自体を抑制する予防法の確立が最も重要となります。

肝臓の炎症を抑え、抗酸化力を高めて肝臓の酸化障害を抑え、さらに微小循環を改善したり、がん細胞の増殖を遅くするような薬を利用すれば、がんの発生や再発が予防できるのですが、西洋医学には適当なものがありません。この戦略においては、漢方治療や代替医療の中に有効な方法があります。

【肝臓がん予防効果の戦略とは】

肝臓がんの発生を予防する根本的治療は肝炎ウイルスを体内から排除することで、その目的でインターフェロン抗ウイルス剤が使用されます。これらの治療により肝炎ウイルスが排除されれば発がんリスクはなくなります。
しかし、肝炎ウイルスが排除されなかった場合と、すでに慢性肝炎や肝硬変になっている場合は、発がんのリスクはあります。

発がんを促進する最大の要因は、炎症の持続によって活性酸素の害(酸化ストレス)が増えることと、細胞死に伴って細胞の増殖活性が促進されるからです。ウイルスを排除できなくても、肝臓の炎症を抑え、肝細胞の壊死と炎症の程度を反映するGOTやGPTを低い状態に維持することにより、肝がんの発生率を有意に低下できることが示されています。

日本における肝がんの原因として、最近のデータでは、C型肝炎ウイルス感染が80%以上を占め、B型は10%以下になっています。したがって、現在の日本の肝がん予防においては、もしウイルスの排除ができない場合には、炎症の程度を抑えることができれば発がん抑制が期待できると考えられます。抗炎症作用や免疫調節作用を有する薬剤によって肝細胞の死を減らして細胞増殖を抑え、炎症細胞からのフリーラジカルや炎症性サイトカインなどの産生を減らすことができれば、理論的にはがんは予防できます。グリチルリチン製剤の注射により肝細胞障害の指標である血中トランスアミナーゼの低下がみられます。すなわち、グリチルリチン製剤の抗炎症作用および肝保護作用により、肝細胞障害の進展を抑えて、結果として肝発がんの予防効果も期待されています。グリチルリチンという薬品は、甘草という生薬からみつけられたものであり、これは漢方薬の構成生薬のなかでも最も高頻度に使用されている生薬です。生薬の中には、甘草の他にも、がん予防効果が報告されているものが数多くあり、血液循環や新陳代謝や抗酸化力を高める生薬などをうまく組み合わせて服用すれば強いがん予防効果が期待できます。

【漢方薬による肝がん予防効果】

小柴胡湯には、免疫調節作用、肝細胞保護作用、抗酸化・抗炎症作用、肝血流増加作用、肝再生促進作用、肝線維化抑制作用などが報告されており、ウイルス性肝炎の治療に用いられています。そこでウイルス性肝炎の患者を、小柴胡湯の投与を受けた群と投与を受けなかった群に分けて追跡し、肝臓がんの発生率を比較したところ、小柴胡湯の投与を受けた肝炎患者グループのほうが、そうでない患者グループに比べてガンの発生率が低くなることを、大阪市立大学の岡らのグループが報告しています。そのメカニズムについても多くの研究が報告されていますが、小柴胡湯を構成する7つの生薬の総合的作用が肝発ガンを抑制するものと考えられています。

例えば、人参に含まれるジンセノサイドにはがん細胞の性質をおとなしくさせる作用(分化誘導作用)や、がん細胞の増殖や転移を抑制する作用などが報告され、また多糖成分には免疫力を増強して抗腫瘍効果を示すことが指摘されています。 柴胡に含まれるサイコサポニンや黄ゴンのフラボノイド類(バイカリン、バイカレイン、オーゴニンなど)にはがん細胞の増殖を抑制する作用が報告されています。生姜のジンゲロールにはがん細胞の転移抑制などの抗腫瘍効果が報告されており、甘草のグリチルリチンには抗炎症作用やガン予防効果などが知られています。
がん予防のための機能性食品(健康食品)の研究では、生姜と甘草はがん予防効果を有する食品のトップクラスに位置づけられており、また、薬用人参によるがん予防効果も疫学的に証明されています。したがって、このような多彩な薬理効果を有する生薬の組み合わせからなる漢方薬には、複数のガン予防のメカニズムが作用するため、より効果的ながん予防効果が期待できると理解できます。種々の肝臓がんの動物モデルで小柴胡湯の発がん抑制効果が報告されています。

しかし、ウイルス性肝炎の患者に一律に小柴胡湯を投与することに関しては、漢方の立場からは問題もあります。漢方は、患者のその時々の状態に応じて漢方薬を使い分け、経過により処方を変えていくことにより最大の効果が期待できます。一般的に、肝炎の活動性が高いときには、抗炎症作用をもつ清熱剤茵チン蒿湯など)や、あるいは清熱薬と補益薬(抵抗力を高める薬)を同時に含む和剤小柴胡湯など)が適する状態といえ、一方、炎症の活動性が低く、体力や肝臓機能の低下した状態(=虚)であれば、補剤補中益気湯など)の適応となります。これらに、さらに組織の血液循環を改善する生薬や、肝臓の解毒能や抗酸化力や免疫力を高める生薬などを、病状に応じて併用するとがんの発生を抑える効果が出てきます。丹参白花蛇舌草などには肝機能改善作用やがん予防効果などが報告されています。

小柴胡湯による肝がん予防効果が明らかなのは、慢性肝炎の状態で活動性の炎症が存在するときです。このときには抗炎症作用をもつ柴胡と黄ゴンの作用が中心となって炎症を抑え、ガン予防効果を発揮すると考えられます。近年、小柴胡湯は肝硬変に使用すると、間質性肺炎などの副作用を起こしやすいという理由から、肝硬変への使用が禁止になりました。しかし、漢方治療の基本を知っていれば、肝硬変が小柴胡湯の適応病態でないことは容易に理解できます。肝臓の線維化が進行して肝臓の機能の低下した肝硬変は、漢方的には肝臓局所および全身状態ともに虚証の状態であり、和剤の適応状態というより、補剤駆オ血剤の適する状態と考えられます。

肝臓だけでなく全身状態にも目を向けると、肝硬変では免疫力の低下や血液循環の障害の方が発がん要因として重要です。実際に、肝硬変の漢方治療の研究では、補中益気湯などの補剤や桂枝茯苓丸などの駆オ血剤の有効性のほうが多く報告されています。さらに、抗酸化作用やがん細胞の増殖を抑える効果のある生薬を使ったり、あるいはむくみや腹水などがあるときは水分代謝を良くする利水薬なども併用して、体内環境を良好な状態に維持できると、肝がんの発生を遅らせることができます。このように、肝臓がんの予防には、肝臓内の炎症の状態や病気の進展の状況など西洋医学的な検査成績も参考にしながら、漢方の考え方も取り入れて総合的な対策を行うほうが理にかなっているといえます。

画像をクリックするとサイトに移行します

◯ がんの漢方治療や補完・代替療法に関するご質問やお問い合わせはメール(info@f-gtc.or.jp)でご連絡下さい。全て院長の福田一典がお答えしています。

前のページに戻る