Q-06:サメ軟骨はがんに効くか?

【概略】

がんが大きくなるためには、栄養や酸素を運ぶ血管を増やしていく必要があります。新しい血管が増生することを「血管新生」と呼び、がん組織の血管新生を阻害することは、がん細胞を兵糧攻めにして、ついにはがん細胞の塊を小さくすることができます。

がん治療薬として数多くの血管新生阻害剤が開発されていますが、健康食品の中で血管新生阻害成分が含まれるものとして「サメ軟骨」があります。初期のころの研究では、がんの通常療法で効果のなかった末期がん患者を対象に有効性が報告され、がん治療後の再発を予防する効果も期待されていました。

しかし、その後の大規模なプラセボ対照比較臨床試験では、有効性が否定されています。
サメ軟骨粉末に関しては、血管新生阻害作用を期待できる量(1日50〜100g)を服用することは困難(特有な臭いや胃腸障害による吐き気や食欲不振などの副作用が強い)ということで、有用性は否定されています(効果よりも副作用の方が強い)。サメ軟骨に含まれる血管新生阻害成分を抽出した製品が二重盲検試験で検討されていますが、現時点ではまだがん治療における有効性は得られていません。

したがって現時点では、サメ軟骨を使用したサプリメントのがん治療における有効性を示すエビデンス(証拠)は無いという結論になります。

【がん組織が大きくなるには血管の新生が必要】

体の組織が生きていくためには血液から栄養や酸素の供給をうけることが必要で、血管が詰まって血液が流れなくなると組織は死んでしまいます。がん細胞は正常細胞を押しのけて自分勝手に増殖するようになった細胞ですから、回りの正常な組織から栄養や酸素を奪おうとします。その手段として、がん細胞自身が血管を作る蛋白質(血管増殖因子)を分泌して新しい血管を増やそうとします。新しい血管を作ることを血管新生といい、新生した血管を経路としてがん細胞が転移を起こす場合も多くなります。

図:がん細胞は新生血管を作り出す増殖因子を放出し、栄養と酸素を運ぶ血管を増やして増殖する。原発巣から遊離したがん細胞は新生血管を介して血管内に入って他の場所に運ばれ(遊送)、血管壁に着床し、血管外に出て転移巣を形成する。

【サメ軟骨から新生血管抑制物質が見つかっている】

がん組織の血管新生を抑えることができれば、がんの増殖や転移を止めることができ、がん細胞が栄養や酸素を取り込めなくなるとがん細胞は死にいたります。そこで、血管新生を抑える薬が抗がん剤として開発されるようになりました。健康食品ではサメの軟骨ががん組織の血管新生を抑えるものとして注目されました。

サメ軟骨の成分の中に血管新生阻害物質が見つかり、がんや炎症性疾患の血管新生を抑える目的で開発されました。サメ軟骨エキスの開発者であるレーン博士の製法は特許が認可され、粉末サメ軟骨エキスのカーティレイドは93年12月、米国食品医薬品局よりがんの治験薬として承認を受けています。 初期の頃の研究では、サメ軟骨製剤の血管新生阻害作用が人間でも観察され、動物実験などで抗腫瘍効果が報告されています。しかし、プラセボ対照臨床試験では、現時点ではまだ有効性は確認されていません。(文献参照)

【文献的考察】

○サメ軟骨の抗腫瘍効果には賛否がある。

Oral shark cartilage does not abolish carcinogenesis but delays tumor progression in a murine model.(マウスの実験モデルでサメ軟骨の経口摂取は発がんを抑制しなかったが、腫瘍の進展を遅らせる)Anticancer Res 21:1065-9, 2001年
マウスに発がん剤を投与して発生させる腎臓がんの実験モデルで、粉末化したサメ軟骨を経口投与すると、腎臓がんの発生はコントロール群(サメ軟骨非投与)で19ヶ月であったのに対して、サメ軟骨投与群では55ヶ月であった。サメ軟骨にはマウスの腎臓発がんモデルにおいて、がん化の進展速度を遅らせる効果があった。
The effect of shark cartilage extracts on the growth and metastatic spread of the SCCVII carcinoma.(SCCVIIがん細胞の増殖と転移に対するサメ軟骨の効果)Acta Oncol 37:441-5, 1998年
マウスにSCCVII というがん細胞を移植した実験で、サメ軟骨粉末を経口投与しても、がん組織の増大速度や転移を抑制する効果は認めなかった。
1997年の段階ではサメ軟骨エキスの抗腫瘍効果は確認されていない。米国のがん治療研究財団が癌患者を対象に大規模研究を行い、進行がん患者に大量のサメの軟骨の粉末を摂取させ、抗がん作用があるかどうか研究した。しかし、抗がん作用は確認できなかったと、第33回米国臨床腫瘍学会で報告された。(Medical Tribune 1997年8月21日)

○血管新生阻害作用の可能性は報告されている。

Demonstration of inhibitory effect of oral shark cartilage on basic fibroblast growth factor-induced angiogenesis in the rabbit cornea.(ウサギの角膜における塩基性線維芽細胞増殖因子誘導性の血管新生に対する経口サメ軟骨の阻害効果)Biol Pharm Bull 24:151-4, 2001年
塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含んだペレットをウサギの角膜に移植して、血管新生を刺激する実験モデルにおいて、粉末化したサメ軟骨の経口投与は、bFGFで引き起こされる血管新生を阻害した。つまり、粉末化したサメ軟骨を口から摂取しても、角膜における血管の新生を抑えるレベルの阻害物質が吸収される。

○人における血管新生に対する阻害効果も指摘されている。

Antiangiogenic effects of the oral administration of liquid cartilage extract in humans.(ヒトにおける液体サメ軟骨エキスの経口摂取の血管新生阻害作用)J Surg Res 87:108-13, 1999年
モントリオール医科大学のヒトのボランティアでの研究。29人の健康な男性ボランティアをランダムに3群に分け、液体サメ軟骨エキスを23日間毎日経口投与し、12日目にポリビニールアルコールを詰めた穴のあいたシリコンチューブを前腕部の皮下に埋め込んだ。23日目にチューブを取り除き、内皮細胞の密度などで血管新生の程度を組織学的に比較した。液体サメ軟骨を1日量で0ml、7ml、21ml、投与したグループの血管内皮細胞密度はそれぞれ、 3.15 +/- 0.11 、2.24 +/- 0.10、2.47 +/- 0.10であった。結合組織の量の指標であるヒドロキシプロリンの量には差は認めなかった。これらの結果より、液体サメ軟骨の服用が創傷における血管新生を阻害する臨床効果があることが示唆された。

○サメ軟骨中の血管新生阻害物質としてプロテオグリカンやペプチドなどが指摘されている。

The characterization of angiogenesis inhibitor from shark cartilage.(サメ軟骨に含まれる血管新生阻害物質の性状)Adv Exp Med Biol 476:209-23, 2000年
サメ軟骨から抽出された血管新生阻害因子のSCF2の解析を報告。SCF2は分子量が約10キロダルトンの、ケラタン硫酸とペプチドグリカンを含有する耐熱性のプリテオグリカンであった。
Effect of U-995, a potent shark cartilage-derived angiogenesis inhibitor, on anti-angiogenesis and anti-tumor activities.(サメ軟骨由来血管新生阻害物質U-995の血管新生阻害作用と抗腫瘍効果)Anticancer Res 18:4435-41, 1998年
サメ軟骨から抽出された血管新生阻害物質であるU-995は、分子量が10キロダルトンと14キロダルトンの2つのペプチドから構成されていた。U-995は血管内皮細胞の増殖を抑制し、コラーゲンの溶解を阻害し、血管新生とがん細胞の増殖を抑制した。
Angiogenic inhibitor protein fractions derived from shark cartilage.(サメ軟骨由来の血管新生阻害蛋白)Biosci Rep 28:15-21, 2008
サメ軟骨中の血管新生阻害物質として分子量 14.7 と 16 kDaの蛋白質を同定した。

○進行肺がんを対照としたプラセボ対照二重盲検試験では、抗腫瘍効果は認められなかった。

Chemoradiotherapy with or without AE-941 in stage III non-small cell lung cancer: a randomized phase III trial.(ステージIIIの非小細胞性肺がんに対する化学放射線療法とAE-941の効果:ランダム化第3相臨床試験)J Natl Cancer Inst. 102(12):859-65. 2010
血管新生阻害剤が非小細胞性肺がんやその他のがんの患者の生存期間を延長させる効果が報告されている。液体サメ軟骨エキスには血管新生阻害作用があることが報告されているため、抗がん作用が期待されている。そこで、手術不能のステージIIIの非小細胞性肺がん患者を対象とした第3相臨床試験(米国とカナダの共同研究によるランダム化プラセボ対照二重盲験試験)にて、標準化されたサメ軟骨製剤AE-941の効果を検討した。
手術不能のステージIIIの非小細胞性肺がん患者379人を対象に、通常の化学放射線治療を行い、AE-941投与を併用した群とプラセボ(偽薬)を投与した群に分けて比較検討した。その結果、全体の生存期間、無進行生存期間、奏功率など全ての指標において、AE-941投与群はプラセボ群と有意差を認めなかった。
平均生存期間はプラセボ群が15.6ヶ月に対してAE-941投与群は14.4ヶ月であった。無進行生存期間(progression-free survival)は、プラセボ群が10.7ヶ月に対してAE-941投与群は11.3ヶ月で、統計的に差は認めなかった。副作用の程度にも両者間に差を認めなかった。すなわち、手術不能のステージIIIの非小細胞性肺がん患者の化学放射線治療にサメ軟骨エキスのAE-941を併用しても、有用性は認められなかった。

以上をまとめると
1)サメ軟骨の粉末そのものを製品化したサプリメントには、がん治療における有効性や有用性は認められない。(サメ軟骨粉末の過剰摂取によって高カルシウム血症の副作用が発生する可能性が指摘されている)
2)サメ軟骨中に含まれる血管新生阻害物質などの抗腫瘍成分を抽出・濃縮した製品に関しては、ある程度の有効性を示唆する報告はあるが、現在まで(2010年7月の時点)の臨床試験の結果からは、サメ軟骨製品をがん治療に使用することを推奨できるエビデンスは乏しい。
(新しい製品の開発などで、有用なものが出て来る可能性は残されているが、現時点では推奨できる製品は無い)

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