Q3:漢方で使う人参は野菜のニンジンと違うのですか?

野菜のニンジンはセリ科の植物で、パセリ、ミツバ、セロリなどヨーロッパ系の野菜の仲間です。一方、漢方薬で使われる生薬の人参は薬用人参・朝鮮人参・高麗人参などとも呼ばれ、これはウコギ科のオタネニンジンの根が原料で、軽く湯通しして乾燥させたものを使っています。

人参は消化吸収機能を高め、蛋白合成を促進し、新陳代謝と免疫力を高める効果があります。強壮作用や抗疲労作用があり、全身の機能低下を回復させ、種々のストレスに対する体の適応能力や抵抗性を強くするなど多彩な効果を持っています。

人参の学名はPanaxginsengといい、このPanaxという属名はギリシャ語のPan(万能)とacos(薬)から名付けられたもので、ヨーロッパでもその多彩な薬効が知られていたことがわかります。

人参は体力が低下し消化管機能の衰えた状態に適していますが、太って血色のよい活動的な者(漢方では実証という)が服用すると、興奮・不眠・のぼせ・顔面紅潮・湿疹・血圧上昇などの有害作用が見られることがあるので注意が必要です。漢方薬なら何でも安心というのではなく、人参のような滋養強壮薬でさえ、使い方を間違えると有害な作用が出てくる事を知っていなければなりません。

人参はがん治療にどのような効果がある?

がん治療における薬用人参およびその成分の薬効や有用性については多くの報告があります。 薬用人参の主要成分はステロイド骨格をもつサポニンであるジンセノサイド(ginsenoside)といわれる物質です。ジンセノサイドには多くの種類があり、様々なメカニズムで抗腫瘍効果を示すことが知られています。幾つかのジンセノサイドはがん細胞の増殖を抑制したり、アポトーシスによる細胞死を引き起こす作用も報告されています。またがん細胞の悪性度を弱めたり(分化誘導という)、転移を抑制したりするものも報告されています。

細胞膜と反応して細胞膜上のレセプターやイオンポンプの活性に影響する作用や、ステロイドホルモンのように遺伝子転写にも作用することが報告されています。抗がん剤の多剤耐性と密接に関連するp-糖蛋白は、細胞膜に存在して細胞毒性物質を細胞外へ排除するポンプの役目を持っています。幾つかのジンセノサイドがp-糖蛋白のポンプ作用を阻害して、薬剤耐性のがん細胞の薬剤感受性を増進させることが報告されています。

その他、免疫応答に及ぼす影響に関しては、抗体の合成を促進したり、細胞障害性T細胞およびナチュラルキラー細胞活性を増強し、制がん剤による白血球減少を抑制する作用なども報告されています。さらにがんの浸潤・転移を抑制したり、腫瘍組織を栄養する血管が増えるのを抑える効果があるジンセノサイドも報告されています。

佐賀医大の山本らは、消化器がんを中心とする悪性腫瘍をもつ患者について、手術後の食欲不振に対する紅参末の効果について報告しています。術後に食欲不振を訴えた89例のうち67例に食欲の改善が認められ、また体重や血清のアルブミンやコリンエステラーゼの数値も投与前に比べて投与後で有意に上昇しました。そこで薬用人参から食欲不振を改善する物質を単離する研究が進められました。

がん細胞からいろいろな毒素が出ることが知られています。がん細胞が出すこのような毒素は一般に「トキソホルモン」と呼ばれています。「トキソ」とは「毒」という意味であり、トキソホルモンとは毒ホルモンといえます。愛媛大学の奥田らは、がん患者の食欲不振や体重減少に関与している物質としてトキソホルモンの一種であるトキソホルモン-Lを発見しています。トキソホルモン-Lはがん細胞から分泌される分子量約7万の蛋白質で、脂肪細胞における脂肪分解を促進したり、食欲不振を引き起こします。つまりがん患者を痩せさせるがん毒素といえます。奥田や山本らの検討により、薬用人参に含まれるサポニンの一種であるジンセノサイドRb2がトキソホルモン-Lの作用を強く阻害することがわかりました。さらに薬用人参の酸性多糖体がトキソホルモン-Lによる脂肪分解や食欲不振を引き起こす作用を阻害することも報告されています。このように、がん患者における痩せや食欲低下に対して薬用人参が有効である理由が科学的にも証明されています。

薬用人参によるがん予防効果についても最近検討されています。薬用人参を長期間摂取しているグループは、がんに罹るリスクが半分以下に減少することが韓国での疫学調査で明らかになっています。この報告は、40歳以上の4千人以上を対象に、薬用人参の摂取状況とがん罹患率を検討した結果であり、薬用人参によるがん予防効果は特定のがん種に限定するのではなく、胃がんや肺がんをふくめて多くの種類のがんに対して予防効果があることが示されています。たとえば、薬用人参非摂取グループの発がんリスクを1にした場合、薬用人参摂取グループの胃がんになるリスクは0.33で、肺がんになるリスクは0.30と報告されています。薬用人参を多く摂取している人ほど発がんリスクが低いことも報告されています。ただし、薬用人参でも種類によって効果が異なるようで、紅参が最もがん予防効果が高いといわれています。

がん予防効果のみでなく、紅参のがん治療効果も報告されています。発がん剤と腫瘍プロモーターを用いた二段階皮膚発がん実験において、紅参は発がんを抑制し、マウス肉腫やメラノーマの移植腫瘍の増殖に対する抑制作用も報告されています。また人参サポニンの中には発がん物質による遺伝子の変異を抑える作用(抗変異原性)があることも報告されています。

このように、薬用人参には免疫賦活作用に加えて、抗変異原性作用、がん細胞の増殖や転移の抑制作用など示されており、がんの発生や悪性度を増していく過程を複数のメカニズムで抑えていく効果を持っています。

(人参の抗腫瘍効果について:リンク)

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