漢方薬・薬草・ハーブ類


【抗がん作用の根拠】

 漢方薬は複数の生薬を組み合わせて作ります。生薬は、免疫力や抗酸化力や解毒機能を高める成分の宝庫であり、抗腫瘍活性を示す成分も多数見つかっています。経験的あるいは薬理学的に薬効が認められている生薬や薬草・ハーブ類をうまく活用すれば、がんの予防や治療に役立つと考えられ、伝統医学や民間療法で使用されている薬草・ハーブ類がサプリメントの素材として多く利用されています。

【注意すべき点】

 漢方薬やハーブ類には副作用がないと思われがちですが、これは大きな間違いです。薬草やハーブも使い方を間違うと、いろんな副作用が出てきます。漢方薬では、体力や体質や病状を無視して使用すると副作用が発生します。
 西洋薬との相互作用が問題になることもあります。薬草やハーブの使用によって、肝臓での薬物代謝酵素の働きを高めたり阻害したりして、抗がん剤などの医薬品の代謝に影響する場合もあり得えます。抑うつ状態の改善に使用されるセント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)は肝臓での薬物代謝酵素の量を増やすことによって、一部の医薬品の作用を減弱させることが明らかになっており、抗がん剤や鎮痛剤の効果を弱める可能性も指摘されています。
 また、キャベツや芽キャベツ、アルファルファといったアブラナ科の植物が一部の薬物の代謝を亢進することも指摘されています。これらの植物に含まれるインドールが原因といわれており、がん予防効果があるアブラナ科野菜を使ったサプリメントも販売されているので注意が必要です。
 薬物代謝酵素に対する影響は複雑なため、まだ十分に研究が行われていませんが、肝臓の薬物代謝酵素に影響する成分を含む生薬や薬草は他にも数多く存在する可能性があります。したがって、健康食品や漢方薬と併用中に一般薬の効果が通常よりも低い場合や効き過ぎる場合は、植物成分による薬物代謝酵素への影響も念頭に入れておく必要があります。
 薬草や植物の中にはがん細胞の増殖を促進する成分も見つかっており、体力や抵抗力を増強する薬効が、がん細胞の増殖に加担する場合もあり得えます。外国で販売されている薬草を使用したサプリメントから、ヒ素や水銀や鉛のような有害金属や農薬が高濃度に検出されたという報告もあります。医薬品の規制が不十分な国から薬草や漢方薬を購入するときは、十分な注意が必要です。
 栄養補助を主体とする食品系のサプリメントと異なり、明らかな薬効成分を含有する漢方薬や薬草を素人判断で使用することは、様々な問題を抱えているがん患者の場合には勧められません。漢方薬やハーブの知識と、がんの病態や治療に関する知識を持っている医師や薬剤師の指導のもとに使用することが大切です。

【メモ1】漢方薬ががんに効く理由


 長い歴史の中で、体の治癒力を引き出したり、病気を治す薬草が見つけられ、それらを組み合わせてさらに効果を高めるノウハウを蓄積してきたのが漢方です。漢方薬ががんに効く理由は、抗がん力を高め、がん細胞の増殖を抑える生薬が多数用意されているからです。
 例えば、胃腸の調子を整えて元気をつける「補気・健脾薬」、栄養を改善して抵抗力を高める「補血薬」、体の潤いを増す「滋陰薬」、体の機能の停滞を改善する「理気薬」、組織の血液循環を良くする「駆お血薬」、体の水分の分布と代謝を良くする「利水薬」、体を温めて新陳代謝を高める「補陽薬」、生命力を高める「補腎薬」、炎症を抑えたり解毒機能を補助する「清熱解毒薬」、がん細胞の増殖や転移を抑える「抗がん生薬」などと生薬を分類することができますが、それぞれのカテゴリーに数十種類の生薬が用意されているのです。このような生薬の中から、10数種類のものを選び出して組み合わせることによって、その人にあったオーダーメイドの薬を作ることができます。
 また、薬効成分の観点からは、漢方薬は滋養強壮、抗酸化,血液循環、抗腫瘍などの効果がある成分の宝庫というとらえかたもあります(図)。がんに効果のある薬効成分を利用するというのは他の抗がんサプリメントと同じです。漢方薬の場合は、医薬品の扱いの場合には医師の処方が必要ですが、健康食品として販売されているものも多くあります。


図:漢方薬はがんに効く成分の宝庫

 十全大補湯ががん細胞の悪性化進展(プログレッション)を抑制することが報告されています。メチルコランスレン誘発の自然退縮型がん細胞を、異物であるゼラチンスポンジと同時に皮下移植すると、致死的増殖性を獲得した癌細胞に不可逆的に変換します。ゼラチンスポンジの移植により炎症反応などが惹起され、その結果産生されるフリーラジカルやサイトカインや増殖因子により退縮型癌細胞がより悪性のがんに進展するという実験系です。このような腫瘍の悪性化進展の実験モデルを用いて検討した結果、十全大補湯の経口投与によりこの悪性転化が有意に抑制されることが明らかとなっています。作用機序としては、十全大補湯の成分によるラジカル消去作用や、免疫系の賦活による抗腫瘍効果などが推測されています。
 抗がん剤治療に漢方薬を併用すると、抗がん剤の副作用を軽減し、患者の免疫を低下させることなく、所定の濃度と期間の抗がん剤を投与できることが報告されています。中国および日本における多くの臨床的研究において、化学療法や放射線療法のみの場合にくらべて、同時に漢方薬治療を併用した場合には、治療の有効率が有意に高くなること、副作用もより軽度になり、QOLが優れていることが報告されています。
 漢方治療は体の抵抗力や治癒力を高める治療手段として、以下のような目的で活用することができます。
(1)がん治療に耐える体の土台を作り、侵襲的治療の副作用を軽減する:
 外科手術や化学療法、放射線療法などは適応がある場合は積極的に行なうべきです。これらの侵襲的治療がもたらす生体防御能の減弱を防止し、合併症の発症を回避し、体力回復をはかる目的に漢方治療は有用といえます。免疫力低下の防止や回復促進に有効な補剤は、侵襲的治療の結果引き起こされる種々の副作用を防止あるいは軽減することができます。感染に対する抵抗力を高めて日和見感染を予防することもできます。栄養状態や免疫力が高いと抗がん剤はよく効き目を現します。体全体の治癒力を高めることはがん治療に耐える体を作り、治療効果を高めることになります。
(2)生体機能調節によりQOLを高める:
 漢方治療は、がん病態における生体側の異常を是正することにより全身状態の改善やQOL(生活の質、生命の質)を高めることができます。痛みや食欲不振や倦怠感など様々な症状の改善に有用です。
(3)がん化学療法や放射線療法の増感作用:
 直接局所のがん巣を完全に取り除くためには漢方薬は理想的な薬とはいえず、西洋医学の治療手段には及びません。漢方薬は放射線・化学療法あるいは手術による生体機能の障害を防止・矯正することにより、これらの治療効果を高めることができます。駆お血剤は血行改善によって治療効果を高める効果が期待できます。ある種の生薬(抗がん生薬)にはがん細胞に対するアポトーシスや細胞分化の誘導作用なども認められています。
(4)再発予防、がんにならない体質への改善
 たとえ一つのがんを克服しても、またすぐ別のがんが発生するようでは元も子もありません。体ががんになりやすい状態では再発や転移も起こりやすくなっています。免疫能や生体防御能の低下や、炎症やフリーラジカルの発生は、がんの発生や再発のリスクを高めます。つまりがんになりやすい体質傾向を引き起こします。
 補剤の免疫賦活作用や、清熱剤・駆お血剤の抗炎症作用・微小循環改善作用・フリーラジカル消去などは、がんの発生予防(微小がんの顕在化抑制)や再発予防の目的に効果が期待できます。

【メモ2】メモ2:がんを促進したり体調を悪くする薬草や漢方薬もある

 民間薬の薬草やハーブ、生薬や漢方薬には副作用がないと一般に思われがちですが、これは大きな間違いです。モルヒネやジギタリスやアトロピンのように強い薬効と危険な副作用を持った西洋薬ももとは薬草や生薬から抽出・分離されたものです。抗がん剤の中には植物から見つかったものが多くあります。生薬も使い方を間違うと、いろんな副作用が出てきます。西洋薬との相互作用が問題になることもあります。また、漢方薬はハーブを外国から輸入する場合には、何が入っているか曖昧な場合には使用しない方が無難です。
 発がん過程を促進する作用をもったものを「発がんプロモーター」といいますが、薬草や植物の中には強いプロモーター活性を持つものも知られています。例えば、米国南西部とメキシコ北西部の伝統医療や自然療法で使用される薬草など約2500種について、移植腫瘍の増殖に対する影響が調べられています。その結果42種の植物が著明な増殖促進効果 (コントロールの1.75〜4.66倍)を示しました。
 日本では殆ど使われていませんが、中国で古くから使用されている生薬の中には極めて強いプロモーター活性を持つものがあります。例えば、巴豆(ハズ)はトウダイグサ科の植物で、その種子の油は下剤や、皮膚刺激薬として軟膏にして凍傷予防に用いられています。しかし、Croton oilとして知られる巴豆の油には強力な発がんプロモーター活性をもつホルボールエステルが含まれています。
 さらに、芫花(ゲンカ:ジンチョウゲ科のフジモドキの花蕾)や甘遂(かんつい:トウダイグサ科の Euphorbia kansui の根)や京大戟(キョウダイゲキ:トウダイグサ科の Euphorbia pekinensis の根)にもホルボールエステルが含まれており、芫花については中国でこの植物を研究した者が高頻度で喉頭がんになっており、注意が喚起されている生薬です.
 このような発がんプロモーター作用が明らかな生薬は現在日本では使用されませんが、外国から入手したものを使用する場合には気をつけなければなりません。
 中国から輸入された漢方薬で、多数の健康障害が発生していることが問題になっています。医薬品の規制が不十分な国から薬草や漢方薬をみやげや輸入で購入するときは、十分な注意が必要です。

【メモ3】抗がん剤治療中の使用を避けた方がよいハーブの例

 抗がん剤の中には肝臓で代謝(分解)されるものが多くあります。薬を分解する酵素を薬物代謝酵素といい、その代表はチトクロームP450(CYPと略す)という酵素です。CYPには100種類以上が存在しますが、薬物代謝にはCYP3A, CYP2D, CYP2Cなどが主に関与しています。CYP3Aというのは100種類以上あるチトクロームP450の中の3Aという分子種ということです。
 食品や医薬品の中には、薬物代謝酵素のチトクロームP450を阻害したり誘導することによって他の薬の薬物動態に影響する場合があります。
 グレープフルーツジュースの成分であるナリンギンがチトクロームP4503A4(CYP3A4)の薬物代謝を阻害するため多くの薬剤の薬物動態に影響することが明らかとなっています。降圧剤など幾つかの薬がCYP3A4で代謝されることが知られており、グレープフルーツを多く食べている人がこのような薬を服用すると、肝臓での代謝が阻害されて、血中濃度が高くなって効き過ぎる結果になります。
 一方、抑うつ状態の改善に使用されるセント・ジョンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)はCYP3A4やCYP1A2を誘導することによって、これらの薬物代謝酵素で代謝される薬剤(シクロスポリン、ジゴキシン、ワルファリン、など)の作用を減弱させることが明らかになっていま。
 ニンニクもCYP3A4を誘導することによって、CYP3A4で代謝される薬を使用している時にニンニクを摂取すると、その薬の代謝(分解)が促進されて、効果が弱まる恐れがあります。
 一方、イチョウ葉エキスや高麗人参(朝鮮人参)はCYP3A4やCYP2D6を阻害し、これらの薬物代謝酵素で分解される薬の効き目を高める可能性があります。CYP3A4 やCYP2D6は多くの抗がん剤の代謝に関与していることが判っています。
 薬物代謝酵素に対する影響は複雑なため、相反する報告もあります。ニンニクに関してはCYP3A4を誘導すると考えられていますが、ある研究ではCYP3A4を阻害するという結果も報告されています。まだ十分に研究が行われていないのですが、がん予防効果やがん細胞の増殖を抑えるような薬草や生薬には、肝臓の薬物代謝酵素に影響する可能性が十分にあります。健康食品や漢方薬の摂取によって抗がん剤の効き目が影響を受ける可能性があることは常に念頭に入れておく必要があります。
 米国でサプリメントとして多く使われているハーブに関して、抗がん剤との相互作用の観点から表に示すような警告がなされています。 (出典:J Clin Oncol 22: 2489-2503, 2004)
セントジョーンズワート
(St. John’s Wort)
・全ての化学療法と併用を禁止(CYP3A4,CYP1A2,CYP2B6,CYP2C9,P糖蛋白などの誘導)
ニンニク
(Garlic)
・ ダカルバジンとの併用を禁止(CYP2E1阻害)
・ 他の化学療法との併用に注意(データ不足のため)
・ 血小板減少があるときは注意(血小板凝集阻害作用のため)
イチョウ
(Ginkgo)
・ カンプトテシン、シクロフォスファミド、EGFR-TK阻害剤、エピポドフィロトキシン、タキサン類、ビンカアルカロイドとの併用に注意(CYP3A4,CYP2C19阻害)
・ アルキル化剤、抗腫瘍性抗生剤、プラチナ製剤との併用は勧められない(フリーラジカル消去活性のため)
・ 血小板減少があるときは注意(血小板凝集阻害作用のため)
エキナセア
(Echinacea)
・カンプトテシン、シクロフォスファミド、EGFR-TK阻害剤、エピポドフィロトキシン、タキサン類、ビンカアルカロイドとの併用を禁止(CYP3A4誘導)
大豆
(Soy)
・タモキシフェンとの併用は禁止(抗エストロゲン作用を阻害)
・エストロゲン依存性の乳癌や子宮癌の治療との併用は禁止
高麗人参
(Ginseng)
・カンプトテシン、シクロフォスファミド、EGFR-TK阻害剤、エピポドフィロトキシン、タキサン類、ビンカアルカロイドとの併用に注意(CYP3A4阻害)
・エストロゲン依存性の乳癌や子宮癌には推奨できない
バレリアン
(Valerian)
・タモキシフェン(CYP2C9阻害)、シクロフォスファミド及びテニポシド(CYP2C19阻害)との併用に注意
カバ
(Kava)
・ 肝機能障害を起こす抗がん剤との併用は禁止
・ カンプトテシン、シクロフォスファミド、EGFR-TK阻害剤、エピポドフィロトキシン、タキサン類、ビンカアルカロイドとの併用に注意(CYP3A4,CYP2C19阻害)

グレープシード
(Grape seed)
・カンプトテシン、シクロフォスファミド、EGFR-TK阻害剤、エピポドフィロトキシン、タキサン類、ビンカアルカロイドとの併用に注意(CYP3A4,CYP2C19阻害)
・アルキル化剤、抗腫瘍性抗生剤、プラチナ製剤との併用は勧められない(フリーラジカル消去活性のため)

【メモ4】漢方薬の薬物代謝酵素阻害について

 抗がん剤治療中に適切な漢方治療を行なうと、抗がん剤の副作用を軽減することができます。漢方薬は体力や抵抗力や食欲を高め、組織の血液循環や新陳代謝を促進することによって、抗がん剤治療でダメージを受けた骨髄細胞や消化管粘膜上皮細胞の回復を促進するからです。 
 しかし、抗がん剤の副作用を軽減する効果があるとき、抗がん剤の効き目を阻害している可能性を検討しておく必要があります。前述のセント・ジョーンズワートのように、薬物代謝酵素CYP3A4の活性を高めることによって、抗がん剤の分解を促進し、抗がん剤の効き目を弱めている可能性があるからです。
 漢方薬や、それに使われる生薬について、薬物代謝酵素に対する影響が検討されていますが、試験管レベルの研究が主で、人間が実際に漢方薬を服用した場合の影響については、ほとんど判っていません。
 富山大学和漢医薬学総合研究所の手塚康弘助教授らのグループは、ヒト肝細胞中の薬物代謝酵素シトクロムP450(CYP)に対する阻害作用を多数の漢方生薬で検討しています。その研究によると、ヒトCYP分子種の中で、特に合成医薬品の代謝に関わる割合の高いCYP3A4活性とCYP2D6活性を阻害する作用が、約4分の1の生薬に認められたと報告しています。
 例えば、生薬のゴミシ(五味子)やゴシュユ(呉茱萸)には、CYP3A4を強力に阻害する成分が含まれていることが報告されています。例えば、ゴミシに含まれるGomisin BやGomisin Cは、強いCYP3A4阻害活性を持つ抗真菌薬のケトコナゾールと同じくらいのCYP3A4阻害作用を有することが示されています。
 抗がん剤の中には、CYP3A4やCYP2D6で代謝されるものが多くあることは前述しました。CYP3A4やCYP2D6が阻害されると、抗がん剤の分解が阻害されて、効き目が強くなる可能性があります。効き目が強くなることは治療には良いのですが、副作用も出やすくなります。
 しかし、通常の漢方処方に含まれるゴミシの量が、ヒトの体内でも阻害活性を示すのかは、明らかではありません。1日数グラム服用しても、吸収される阻害成分の量が、阻害作用を示す血中濃度よりかなり低い可能性もあるからです。生薬中から多くの抗がん物質が見つかっていますが、生薬に含まれる量が少なくて体内に吸収される量が少なければ、抗がん作用が期待できないのと同じです。
 臨床での漢方治療の経験では、適切な漢方治療を行なって抗がん剤の副作用が強くでることはほとんど経験しません。むしろ、副作用が少ないので、薬物代謝酵素の誘導が起こっているのではないかという懸念の方が大きいように思います。
 漢方薬は多くの生薬を組み合わせて作製しますが、少数の生薬を偏って多く使用したりしなければ、あまり問題はないように感じています。阻害する成分や活性を高める成分などが混在している状況では、薬物代謝の極端な阻害や活性化は見られないように感じています。しかし、これはあくまでも経験的なものであり、ある種の漢方薬や生薬が抗がん剤の効き目に影響する可能性はいつも念頭に入れておく必要があります。

【メモ4】セント・ジョンズワートとは

 セントジョンズワート(St.John’s wort)は日本名を西洋オトギリソウといい、それに含まれるヒペリシンやヒペルフォリンをいった成分が、気分をつかさどる神経系の化学伝達物質に作用して、抗うつ作用を示します。その抗うつ作用の有効性は一部の医薬品と同程度だというデータもあり、軽いうつ症状には十分な効果が期待できます。ドイツでは医師によって処方されており、米国や日本ではサプリメントとして多くの利用がいます。
 副作用はほとんどありませんが、他の医薬品の効果を妨げる作用が知られています。
セント・ジョンズ・ワートは薬物代謝酵素のCYP3A4やCYP1A2の肝臓での量を増やすことによって、これらの薬物代謝酵素で代謝される薬剤(シクロスポリン、ジゴキシン、ワルファリン、など)の作用を減弱させることが明らかになっています。
 イリノテカン(商品名:カンプト、トポテシン)のような抗がん剤の効き目を弱くすることも報告されています。イリノテカンはDNA合成を阻害する抗がん剤で、肺がん、大腸がん、胃がん、卵巣がん、乳がん、子宮頚がん、悪性リンパ腫などの治療に広く用いられています。
 また、抗がん剤の細胞からの排泄を促進するP糖蛋白の発現を誘導することによって抗がん剤の効き目を弱くする可能性も指摘されています。逆に、セント・ジョンズ・ワートに含まれる成分がP糖蛋白の作用を阻害して、抗がん剤の作用を強める可能性を示唆する報告もあります。
 いずれにしても、多くの抗がん剤の効き目に影響する可能性が高いため、抗がん剤を使用している患者が、気分改善のためにセント・ジョンズ・ワートを服用することは勧められません。がん性疼痛の緩和に用いられるモルヒネやその代謝産物もP糖蛋白によって運ばれるので、セント・ジョンズ・ワートによってそれらの効果が影響を受ける可能性があります。また手術前も麻酔薬や抗生物質などの医薬品の効き目に影響する可能性があるので、手術の予定がある時は早めに服用を中止しておく方が無難です。

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