甘草(カンゾウ)Glycyrrhiza uralensis, licorice

[基原]マメ科のウラルカンゾウおよびナンキンカンゾウの根。

[薬能・薬理作用] 

○主成分はトリテルペノイド配糖体のグリチルリチンで非常に強い甘味があり、ステロイドホルモン様作用・抗アレルギー作用・抗消化性潰瘍作用・免疫賦活作用・抗腫瘍作用・抗変異原抑制作用・抗ウイルス作用など多彩な作用を持っている。

○他の薬の薬性を調和させ、薬効が過剰にならないように緩和させ、副作用の軽減を図る目的や、味をよくする矯味薬としても使用される。漢方薬の70%以上に使われている。

○大量を服用したり、利尿剤と併用すると、血清カリウム値の減少、高血圧、むくみなどの副作用が出現。(glycyrrhizinおよびglycyrrhetinic acid には、11-hydroxy-steroid dehydrogenaseを阻害して内因性のステロイドが増加し、ミネラルコルチコイドのレセプターを増加させるため)

[常用量/日]1〜6g(副作用に注意しながら使用する)

文献的考察:

グリチルリチンはC型ウイルス性肝炎の炎症を抑え、ALT(肝細胞障害の指標)の数値を低下させる。(この効果は肝臓がん発生のリスクを下げることと関連していることが知られている)

1) Glycyrrhizin-Induced reduction of ALT in european patients with chronic hepatitis C. (van Rossum TG, Vulto AG, Hop WC, Schalm SW.)
Am J Gastroenterol 2001 Aug;96(8):2432-2437

C型ウイルス性肝炎では、炎症による肝細胞障害の指標であるALTの値を低値に維持できれば肝がん発生を予防できること、グリチルリチンにはウイルス性肝炎におけるALTの値を下げる効果があることが、日本の報告から明らかになっている。
ヨーロッパのC型ウイルス性肝炎患者での検討したところ、週に3回あるいは6回のグリチルリチン製剤の静脈内投与を4週間続けることにより、ALTの数値比はそれぞれ 26% と 47% 低下した。このうち、週3回投与の場合で10% (41人中4人)、週6回投与で20% (15人中3人)の患者においてALTの数値は正常まで減少した。低下したALT値はグリチルリチン製剤の投与を中止することにより再度上昇した。副作用は見られなかった。
結論として、C型ウイルス性肝炎患者において、グリチルリチン製剤の静脈内投与は炎症を抑える効果があり、その効果は週3回より週6回投与の方が効果的であった。

グリチルリチンは生体防御能を高め、抗腫瘍免疫を増強する。(1型ヘルパーT細胞を活性化する)

2) Glycyrrhizin enhances interleukin-12 production in peritoneal macrophages.
(Dai JH, Iwatani Y, Ishida T, Terunuma H, Kasai H, Iwakula Y, Fujiwara H, Ito M.)
Immunology 2001 Jun;103(2):235-243

単球やマクロファージから産生されるインターロイキン−12(IL-12)は、Th1型ヘルパーT細胞を誘導して抗腫瘍免疫を活性化する作用がある。リポポリサッカライドの働きでマクロファージからのIL-12の産生が刺激されるが、グリチルリチンをあらかじめ投与しておくと、転写因子のNF-kBの活性が上昇してIL-12遺伝子の発現量が増加する。

(甘草は補気薬で免疫増強作用が知られている。グリチルリチンがマクロファージのIL-12遺伝子の発現量を増加させる作用は、甘草の抗腫瘍効果と関連することが示唆される)

3) Glycyrrhizin increases survival of mice with herpes simplex encephalitis.(Sekizawa T, Yanagi K, Itoyama Y.)Acta Virol 2001 Feb;45(1):51-54

マウスのヘルペス脳炎の実験モデルで、グリチルリチンの投与は脳内でのヘルペスウイルスの増殖を抑え、生存率を高めた。ウイルスに対する生体防御能を高めることを示唆している。

4) Glycyrrhizin, an active component of licorice roots, reduces morbidity and mortality of mice infected with lethal doses of influenza virus.(Utsunomiya T, Kobayashi M, Pollard RB, Suzuki F.)
Antimicrob Agents Chemother 1997 Mar;41(3):551-556

マウスに致死量のインフルエンザウイルスを感染させる実験モデルにおいて、グリチルリチンはT細胞からのインターフェロンガンマの産生を誘導して生存率を向上させた。(インターフェロンガンマの産生刺激は1型ヘルパーT細胞の誘導を示している)

グリチルリチンには抗炎症作用や細胞保護作用がある。

5) Glycyrrhizin inhibits the lytic pathway of complement--possible mechanism of its anti-inflammatory effect on liver cells in viral hepatitis.(Fujisawa Y, Sakamoto M, Matsushita M, Fujita T, Nishioka K.)Microbiol Immunol 2000;44(9):799-804

グリチルリチンは補体の作用を阻害して、肝炎による肝細胞障害を抑制する。

6) Glycyrrhizin improves the resistance of MAIDS mice to opportunistic infection of Candida albicans through the modulation of MAIDS-associated type 2 T cell responses. (Utsunomiya T, Kobayashi M, Ito M, Pollard RB, Suzuki F.)
Clin Immunol 2000 May;95(2):145-155

LP-BM5マウス白血病ウイルスを感染させたマウスはカンジダに感染しやすくなる。この易感染性はグリチルリチンを投与することによって正常レベルまで回復した。2型ヘルパーT細胞 (Th2)を正常マウスに注入するとカンジダに感染しやすくなる。このマウスにグリチルリチンを投与するとカンジダ感染に対する抵抗力が増強した。(甘草の活性成分であるグリチルリチンには細胞性免疫を抑制する2型ヘルパーT細胞の働きを抑える作用がある。)

グリチルリチンには抗変異原性作用や発がん抑制作用がある。

7) Inhibition of hepatocellular carcinoma by glycyrrhizin in diethylnitrosamine-treated mice.(Shiota G, Harada K, Ishida M, Tomie Y, Okubo M, Katayama S, Ito H, Kawasaki H.)Carcinogenesis 1999 Jan;20(1):59-63

発がん剤のdiethylnitrosamineをマウスに投与する肝臓発がん実験モデルで、グリチルリチンは肝臓の発がんを抑制した。

8) Inhibition of mouse skin tumor-initiating activity of DMBA by chronic oral feeding of glycyrrhizin in drinking water.(Agarwal R, Wang ZY, Mukhtar H.)
Nutr Cancer 1991;15(3-4):187-193

7,12-dimethyl-benz [a]anthracene (DMBA)をイニシエーターとし、12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate (TPA) をプロモーターとして引き起こされる二段階皮膚発がん実験において、甘草の水溶性成分の主成分であるグリチルリチンを飲み水に混ぜて投与すると、皮膚癌の発生を抑制した.

その他多くの発がん実験で甘草やグリチルリチンやその代謝産物に発がん抑制効果や抗変異原性作用があることが報告されている。

アメリカのデザイナーフーズの研究において、甘草はがん予防効果のある食品のトップクラスに位置づけられている。

甘草の成分のイソリクイリチン(isoliquiritin)には血管新生阻害作用が報告されている。

9) Inhibitory effect of isoliquiritin, a compound in licorice root, on angiogenesis in vivo and tube formation in vitro.(Kobayashi S, Miyamoto T, Kimura I, Kimura M.)Biol Pharm Bull 1995 Oct;18(10):1382-1386

甘草の成分のフラボノイドであるイソリクイリチン(isoliquiritin)は、慢性炎症における血管の新生を、血管のチューブ形成を阻害することによって抑制した。

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