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がん治療最前線 2003年1月号 ページ18〜21
がんは全身病。見えないうちから手を打て!
生活習慣・漢方・西洋薬で乗り切る福田式リスク別再発防止

がんは再発するとやっかいだ。なかなか一筋縄ではいかない。だからこそ再発防止に力を注ぐ必要がある。そこで、西洋医学と東洋医学、この両極の視点から再発防止に取り組む、ユニークな方法を紹介しよう。銀座東京クリニックの福田一典院長が考え出したその方法は、名づけて「福田式リスク別再発防止法」

【再発予防の重要性】

 「皆さん、がんが再発してから、ああしておけばよかった、こうしておけばよかったって後悔するんですけど、再発してから治療するのは大変なんです。本当は再発する前から禁煙や食生活の改善などの予防に努めておくべきですね」
 国立がんセンター研究所や岐阜大学などで長年がん予防研究に力を注いできた銀座東京クリニックの福田一典院長は、再発予防の重要性をそう力説する。
 がんの医学、医療は近年大きく進歩し、新しい治療法も続々と出てきている。にもかかわらず、がんによる死亡者は減ることなく増え続ける一方だし、治癒率も一向に改善しない。ここに、「がんになった」ことから出発して、治すことに力点を置く西洋医学の根本的欠陥があると福田院長は考える。そしてその欠陥を補うために、「がんにならない」ことに着目した東洋医学の発想を取り入れる必要性を見い出し『癌予防のパラダイムシフト』(医薬ジャーナル社刊)を上梓している。

【目に見えるがんは氷山の一角】

 それにしても、なぜ再発予防が必要なのか。これは非常に重要な点で、この理解なくして再発予防は実りあるものとはならない。福田院長は東洋医学と西洋医学の両者を統合させたそのがん予防の視点からこう指摘する。
「がんは、がんと診断された時点で7割はすでに転移しているはずです。毎年50万人ががんと診断され、30万人が死亡しているという事実からみてそう見るのが自然でしょう。
 そもそもがんというのは、氷山の一角だという。その下には、がんになりやすい体質という大きな山が潜んでいる。
「1個のがんが出たということは他にもがんができやすい状態になっているということです。またがんは広がりやすい性質も持っている。その意味でがんは全身病です。しかも目に見えるようになったときには、1グラムで10億個からのがん細胞がある。したがって、がんは小さい、見えないうちから手を打たなければいけないのです」

【再発リスク別の再発予防法】

それでは、このような小さなうちからがんをたたき、再発・転移を予防するにはどうすればいいのか。福田院長は、西洋医学と東洋医学双方の長所を取り入れ、再発のリスク別にそれぞれに応じた再発防止を行うのがより効果的という。そしてこう注意を喚起する。
「絶対に医者任せにしてはいけません。定期的に検査して、がんが現れたら何か処置をする。こうした後手後手の策しか採らないのが西洋医学の考え方ですから。自分でできることはたくさんあります」
 まず、(1)再発の危険性が非常に少ない場合は、食生活をはじめ、生活習慣を改善する、次いで、(2)(1)よりも再発リスクが高い場合は、漢方薬を用いる、さらに、(3)もっとリスクが高い場合にはCOX(シクロオキシゲナーゼ)-2を阻害する非ステロイド性抗炎症剤のセレコキシブ(セレブレックス)を処方する、という段階別に再発防止を図ればいいというのだ。
「まず(1)では、早期がんで、5年生存率95パーセント以上、再発リスクが非常に少ない人が対象です。この場合は食生活を改善するだけでもかなりの効果が上げられるでしょう。他に、禁煙、運動、気持ちの持ち方の指導など、生活習慣の改善を図りますが、方法は一次予防と全く同じです」(福田院長)
 一次予防、すなわちがん発生の予防法は、世界中でさまざまなものが研究され、すでにほぼ確立している。あとは推奨された予防法を人々がいかに実践するかだけだ。

【がん予防のための勧告、実践指針】

 国立がんセンターや米国がん研究財団などから発表されているがん予防のための勧告や実践指針を記しておこう。参考にしていただきたい。

1)発がん因子の摂取を減らす
 ○禁煙。
 ○動物性脂肪や赤身の肉は取りすぎない。
 ○アルコールは酒1日1合(女性はその半分)以下。
 ○食品添加物、残留農薬に注意する。
 ○カビの生えたものは食べない。
 ○焦げや薫製は避ける。

2)発がん抑制因子の摂取を増やす
 ○野菜や果物、豆類など植物性食品が豊富な食事をする。
 ○胚芽米、玄米など、精製度の低いでんぷん質を主体の食事をする。

3)身体機能のバランス維持と運動
 ○適性体重を維持し、痩せすぎ、肥満を避ける。
 ○適度な運動(たとえば1日1時間程度の速歩など)。

4)がんを抑制する積極的対策
 ○抗酸化物質の適切な摂取。
 ○免疫賦活食品の摂取
 ○温泉、ハーブ、アロマテラピーなど、心身リフレッシュ。
 ○気功などで心身の調和
 ○ビフィズス菌などにより腸内環境の改善。

【漢方薬を用いた再発防止】

 さらに再発リスクの高い場合、福田医師は漢方薬を積極的に処方する。5年生存率が50〜70パーセント、ステージでいえばIII程度の場合である。
「東洋医学では、冷え性、虚弱、気の巡り、血の巡りが悪い、気うつなどということを、がん体質である、と考えます。まず、こうした体質を改善する、悪い状態をいい状態にするのに漢方薬を使います」
 再発防止のポイントは、(1)免疫力を上げる、(2)抗酸化力を高める、(3)血行をよくする、(4)腸内環境を整備して、解毒機能を高める、これらの4つの方法を組み合せて処方することだ。漢方では、その人が持つ体質のウィークポイントを見直すことによって体の基盤そのものを底上げしてやるのだ。
「再発リスクの低いがんの段階からも漢方薬を使います。再発リスクの低いがんの段階なら、この体質改善によって、かなりの程度防ぐことができるのですが、もう少し再発リスクが高くなれば、それだけでなく、がん予防に効果があるといわれる抗がん生薬を用います」
 抗がん生薬といっても、福田医師が用いるのは通常の顆粒薬、エキス剤ではなく、煎じ薬である。
「体質改善だけなら散剤、エキス剤(煎じ薬をインスタントコーヒー状に粉末化したもの)でもいいんですが、がんにはそれほど効きません。精油成分にがんに効くものが多く含まれているのですが、これは蒸発しやすい成分なのでエキスにすると飛んでしまうのです」
 福田医師は100種類以上の生薬の中から20〜30種類を調合して、漢方薬として処方する。
 どんな生薬を用いるかというと、たとえば元気を高める高麗人参や黄耆、がんに効果のある霊芝や半枝蓮、血の巡りをよくする桃仁、牡丹皮、造血機能を高める当帰、芍薬、胃の調子をよくする白朮、生姜など。
「免疫力を上げることは必要ですが、免疫力を上げるだけでは意味がないのです。免疫力を上げるには胃腸の状態をよくする必要がありますし、栄養が十分吸収されるためには血のめぐりがよくないといけないし、水分代謝もよくないといけない。このように体全体を総合的に考えて生薬を組み合せていく必要があります」
 では、具体的ながん、たとえば乳がんを予防するために用いる煎じ薬の中身をみてみよう。
「乳がんでは、血の巡りをよくし、免疫力を上げるのが基本です。免疫力を上げ、がん予防効果があるといわれる四物湯、それに血行をよくする桂枝茯苓丸を用います。これが基本で、あとは患者さんの状態に応じて生薬の種類・量を加減します」
 四物湯の成分は当帰、芍薬、川きゅう、地黄の4種類、桂枝茯苓丸の成分は桂皮、茯苓、芍薬、桃仁、牡丹皮の5種類。芍薬は両方で重複しているので、この8種類の組み合せが基本になる。この上に、さらに紅花を加えたり、もっとリスクが高いときには、駆お血剤で抗がん活性がある三稜や莪朮を用いるという。

【患者個々の症状、体質に応じた処方】

 ただし、漢方薬治療はそれぞれの患者個々の状態によって行われる要素が大きいのが特徴である。がんの部位別による治療よりも、むしろ患者個々の症状、体質による違いのほうが大きいのだ。
「手術や抗がん剤治療によって、患者さんの体はしばしば血虚気虚の状態に陥っています。その場合はそれに応じた処方が必要です」
 血虚とは血の生成が不足し、栄養状態が悪化して体力が低下した状態である。外科的手術、慢性疾患、がんによる血の消耗などによっておこる。
 気とは生体を循環するエネルギーのことで、この気が不足した状態が気虚である。
「手術後や抗がん剤治療の場合なら、十全大補湯や駆お血剤の紅花桃仁牡丹皮などを用います。しかし、大手術をして体力が失われたときには、いきなり十全大補湯を服用するのはきついので補中益気湯で消化機能を高めたり、六君子湯でまず体力をつけることが重要です」
 もちろん、極端に体力の落ちている場合、下痢のひどい場合などには、状況とその人の体質に応じて専門家に相談することが必要だ。
 また手術や化学療法への抵抗力や回復力を増すものとしては、薬用人参と黄耆の組み合せ、人参養栄湯などもある。
 要するに、漢方薬は間違った使い方さえしなければ服用に問題はない、という。

【注目されるCOX-2阻害剤の抗腫瘍効果】

 漢方薬による再発予防の基本は、多少のがん細胞が体内に残っていたとしても、免疫力を上げ、抗酸化力を高め、血行をよくし、体内環境を整えることなどによりがんの増殖を抑えることにある。このようにして体の基盤をつくりながら、2年後に起こるかもしれない再発を、10年後にまで引き延ばす。がんの休眠状態をつくりだすことによって、がんとの共存をはかるのだ。
 しかし漢方薬により抗酸化力、解毒機能、新陳代謝、血液循環をよくし、免疫力をあげ、がん体質の改善を図っても、さらに再発のリスクが高い場合、福田医師は非ステロイド性抗炎症剤などの西洋医薬を併用し、再発防止を図る。
 福田医師は、国立がんセンター研究所時代に、このCOX-2の研究をしており、この最新研究結果に詳しい。
COX-2阻害剤は、今本来の抗炎症作用よりも抗腫瘍効果で注目されている薬です」
 シクロオキシゲナーゼ(COX)は体内に存在する酵素で、COX-1とCOX-2がある。COX-1は胃や腸などの消化管、腎臓、卵巣などに存在し、胃液分泌、利尿などの生理的役割を担っている。一方、COX-2は炎症細胞やがん細胞などに多く存在し、炎症反応、血管新生、発がんなどに関与しているとされている。COX-2が過剰に発現しているがんは、大腸がんを筆頭に、乳がん、胃がん、食道がん、肺がんなどが報告されている。
 抗炎症剤の多くはCOX阻害効果がある。抗炎症剤を服用すると大腸がんや乳がんなどの発症が少なくなることが報告されている。たとえばアスピリンを常用している人は大腸がんで死亡するリスクが半分近くになると報告されている。
 しかし、従来の抗炎症剤は、胃壁などを保護するCOX-1も阻害してしまう。また生理機能に必要なプロスタグランジンの合成も阻害するので、いい治療薬ではない。そこで福田医師は、COX-1は阻害せず、COX-2の作用だけを阻害するCOX-2阻害剤のセレブレックスを使用している。
「COX-2阻害剤にもさまざまあるのですが、文献上抗腫瘍効果で一番注目されているのがセレブレックスです。しかも、注目されている点は、単にCOX-2を阻害するだけでなく、それ以外で抗腫瘍効果があるとされていることです。他にも、血管新生阻害作用やアポトーシス(細胞の自死)を起こす作用もあるとされているので、使っています。抗がん剤のような毒性もあまりなく、漢方薬との相性もいいです。さらにサプリメントを併用することもあります」
 セレブレックスは日本では未認可であるが、欧米では認可済みで、がん予防薬、さらに治療薬として注目を集めている。
 このように、がんを直接たたこうとする西洋医学と、体の治癒力を高めてがんを大きくしないという発想の東洋医学とをうまく合体させて、効率よくがん予防効果を上げようというのが福田式再発防止法なのである。

 

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