ニンニクやその仲間(ニラ、ネギ、ラッキョウなど)のニオイの成分にガン予防効果がある。

【概略】

適量のニンニクを常食するとガンを初め多くの疾病を予防治療する効果があります。発ガンのイニシエーションおよびプロモーションの両方の過程を阻害することが多くの実験系で示されており、アメリカのデザイナーフーズ・プログラムにおいては、ガン予防に重要な食物の頂点に位置されています。ニンニクの仲間(Allium属の食用植物)にニラ、ネギ、ラッキョウ、アサツキなどがあります。これらに共通しているのは、豊富なイオウ化合物を含んでいて、酵素の作用で分解して臭気成分や薬理成分を生成することで、これらの成分の中からガン予防物質が多く見つかっています。中国の疫学調査によると、これらの野菜を多く食べている地域の住民は、そうでない地域と比べて胃ガンと食道ガンの発生率が3分の1以下であることが報告されています。ただし、ニオイの出ない料理法ではニンニクのガン予防効果は期待できないことと、刺激性があるので生での多食は賢明でないことを念頭において置く必要があります。

【Allium(アリウム)属の野菜は昔から薬用に使用されている】

Alliumというのはガーリック(Garlic)の古いラテン名で、語源は「匂い」という意味の alereまたはhaliumだそうです。Allium属というのはユリ科ネギ属の植物の総称で、観賞用や食用など多くの種類があります。食用としては、ニンニク、ニラ、ラッキョウ、ネギ、タマネギ、アサツキなどの野菜があります。ハーブの「チャイブ」も、この仲間です。

ニンニクやネギなどのアリウム属の野菜はスタミナ食品として人気があり、昔から薬用としても使用されています。中国では、ニンニクは大蒜(たいさん)、ニラは韮菜(きゅうさい)、ラッキョウは薤白(がいはく)、ネギは葱白(ソウハク)というそれぞれの生薬名で、漢方薬に使用されています。これらは、体を温め血行を促進し、殺菌作用や滋養強壮作用などがあります。

これらのアリウム属の生薬や野菜の効能は、これらに含まれる臭いの成分が関わっています。ニンニクの細胞内にはアリインという無臭の成分が含まれています。ニンニクを切ったり、すりおろしたりすると同じくニンニクに含まれているアリナーゼという酵素の作用によってアリインが強いニオイを発するアリシンという成分に変化します。 

アリシン(allyl 2-propenethiosulfinate)の正体は揮発性のイオウ化合物で、この成分がニンニクの幅広い薬理効果のほとんどに関与する重要な成分となっています。アリシンはビタミンB1と結合して、アリチアミンという物質に変化します。アリチアミンは活性持続型ビタミンとも呼ばれ、効率よく体内に吸収され新陳代謝を活発にし、エネルギーの生産力を高め、体力増強や抗疲労効果など様々な効果を発揮します。 さらに、 アリシンには各種のバクテリアやカビに対し強い抗菌活性を持っています。

Allium属のニオイの成分には血小板凝集阻害作用があり、シクロオキシゲナーゼ阻害作用などアラキドン酸代謝系に作用することが報告されています。例えば、ラッキョウ(生薬名:薤白)は、血小板凝集阻害作用や腹部を温め血行を良くする作用があり、狭心症などの心疾患に用いる漢方処方にも使用されています。

さらに、Allium属野菜は、発ガン過程のイニシエーションおよびプロモーションの両方の過程を阻害することが多くの実験系で示されており、ガン予防効果が注目されています。

【ニンニクはガン予防のデザイナーフーズのトップ】

食事によるガン予防を目的としたプロジェクトにアメリカのデザイナーフーズ・プログラムがあります。デザイナーフーズとは、ガンの予防を目的としてデザイン(設計)された食品ということです。

アメリカ国立ガン研究所を中心として、ガンの予防に対して食品がどのような機能を果たすのかを科学的に解明することを目的に1990年にスタートしました。主として植物性食品に焦点をあてた研究が進められ、これまでガン予防に有効な野菜、果物、香辛料が発表され、その頂点に位置づけられたのがニンニクでした(図)。

図:ガン予防効果のある食品

ニンニクにガンの予防効果が期待される背景には、アメリカで行われてきた疫学研究の成果があります。疫学とは、集団中に頻発する病気の発生について生活環境との関係から考察するというもので、1989年にアメリカ国立ガン研究所と北京ガン研究所との共同研究によりニンニクとガン発生に関する疫学データが示されました。中国山東省で実施された調査の結果、ニンニクの摂取量が増加すると胃ガン発生のリスクが減少することが明らかにされました。

Allium vegetables and reduced risk of stomach cancer.
(You WC, Blot WJ, Chang YS, Ershow A, Yang ZT, An Q, Henderson BE, Fraumeni JF Jr, Wang TG.)J Natl Cancer Inst 1989 Jan 18;81(2):162-4

1999年の日本と中国の共同研究では、胃ガンと食道ガンの発生頻度が最も高い地域の一つである中国の江蘇省(Jiangsu province)の揚中市(Yangzhong city)で、これらのガンの発生率とニンニクやタマネギなどのアリウム属や野菜の摂取量の関係を調査されています。アリウム属の野菜を週に1回以上食べている人は、月に1回以下の人に比べて、胃ガンや食道ガンの発生は3分の1程度であったと報告されています。ニンニクの摂取が多いと大腸ガンの罹患率が低いことも報告されています。

Protective effect of allium vegetables against both esophageal and stomach cancer: a simultaneous case-referent study of a high-epidemic area in Jiangsu Province, China.(Gao CM, Takezaki T, Ding JH, Li MS, Tajima K.)Jpn J Cancer Res 1999 Jun;90(6):614-21

Garlic consumption and cancer prevention: meta-analyses of colorectal and stomach cancers.
(Fleischauer AT, Poole C, Arab L.)Am J Clin Nutr 2000 Oct;72(4):1047-52

こうした疫学調査に加え科学的な成分研究の結果、ニンニクなどAllium属の野菜に含まれるニオイの成分にガンの発生や増殖を抑制する作用のあることが明らかになっています。

【ニオイの元のイオウ化合物にガン予防効果が報告】

アリシンを初めとして、ニンニクには多種類のイオウ化合物が含まれています。その中のジアリルスルフィド、アリメチルスルフィドなどのイオウ化合物に、発ガン物質を不活性化する酵素や、体外に排出する解毒作用を促進する作用が報告されています。

動物を用いた発ガン実験では、いろんなガンの発生予防効果が報告されています。例えば、発ガン物質である4-nitroquinoline 1-oxide (4NQO)をオスのラットに投与して舌ガンを発生させる実験で、ニンニク (250 mg/kg, 経口, 週3回)を摂取したラットは、発ガンのイニシエーションとプロモーションの両方の過程が抑制されました。腫瘍組織内の、抗酸化酵素(グルタチオン・ペルオキシダーゼやグルタチオン・S・トランスフェラーゼ )や抗酸化物質(還元型グルタチオン)の組織内濃度が増えており、脂質の酸化が抑制されていたため、ニンニク成分は抗酸化力を高めることによって、発ガン過程を抑制することが示唆されています。

Prevention of 4-nitroquinoline 1-oxide-induced rat tongue carcinogenesis by garlic.(Balasenthil S, Ramachandran CR, Nagini S.Fitoterapia 2001 Jun;72(5):524-31

さらに、これらのイオウ化合物が、細胞内のシグナル伝達機構に作用して、ガン細胞の増殖を抑制し、細胞死(アポトーシス)を誘導するなどの作用も報告されています。

Antiproliferative effects of allium derivatives from garlic.
(Pinto JT, Rivlin RS.)J Nutr 2001 Mar;131(3s):1058S-60S

ニンニクのガン予防効果はアリナーゼという酵素の働きによって産生されるニオイの成分にあるため、このニオイの成分ができる前に加熱処理してアリナーゼの働きを壊してしまうと、ガン予防の効果が無くなります。ニンニクを丸ごと電子レンジで60秒、オーブンで45分間加熱するともはやアリナーゼは不活化するため、食べてもガン予防効果は全く期待できないようです。ニンニクを潰したあとに10分間置いた後なら加熱してもガン予防効果は残るという実験もあります。つまり、ニオイのないニンニク料理はガン予防効果が期待できないようです。

The influence of heating on the anticancer properties of garlic.
(Song K, Milner JA.) J Nutr 2001 Mar;131(3s):1054S-7S

【ニンニクは抗酸化力を高めるセレニウムを多く含む】

セレニウムは、肝臓で合成される抗酸化酵素であるグルタチオン・ペルオキシダーゼの主要な成分であるため、抗ガン作用のあるミネラルとして話題になっています。

土壌中のセレニウム濃度が高い地域ほど ガン発生率が少ないという研究がアメリカから発表されていて、その理由としてセレニウム濃度が高い地域に育つ農作物を食べる住民は、血中セレニウム濃度も高くなるためガンの発生が少ないのではないかと推測されています。

ニンニクにはセレニウム化合物が含まれていて、それによる発ガン予防効果も報告されています。ニンニクに含まれる、セレニウム化合物のGamma-glutamyl-Se-methylselenocysteine (GGMSC)は、以前からガン予防物質として報告されているSe-methylselenocysteine (MSC)と同様に、強力なガン予防効果があることが最近報告されています。GGMSCは経口摂取で体内に良く吸収され、尿中に排泄され、長期に投与するとMSCの場合と同様に、組織にセレニウムが蓄積していました。GGMSC やMSCの投与は、発ガン剤を投与したラットのガンの発生を抑制し、GGMSC やMSCがガン細胞のアポトーシスを引き起こすという報告があります。

Characterization of the biological activity of gamma-glutamyl-Se-methylselenocysteine: a novel, naturally occurring anticancer agent from garlic.
(Dong Y, Lisk D, Block E, Ip C.)Cancer Res 2001 Apr 1;61(7):2923-8

さらに、ニンニクに多く含まれるセレニウム化合物には血管新生阻害作用も報告されています。

Selenium-induced inhibition of angiogenesis in mammary cancer at chemopreventive levels of intake.(Jiang C, Jiang W, Ip C, Ganther H, Lu J.)Mol Carcinog 1999 Dec;26(4):213-25
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