ウコンに含まれるクルクミンは抗酸化作用と抗炎症作用によってガンを予防する.
【概略】
ウコンは健康増進の様々な効果をもった民間薬で、その成分のクルクミンのガン予防作用が注目されています。ウコンを加工した健康食品やウコンを含むハーブティーが市販されており、これらを利用することはガンの予防に効果が期待できます。
【ウコンはカレー粉やたくわんの着色剤として食品に使われている】
ウコン(Curcuma
longa)はインドや東南アジアなど熱帯地方に生えているショウガ科の植物です。日本で流通している生薬の「欝金」はウコン(Curcuma longa)の根茎を用いていますが、中国ではこのCurcuma
longaの根茎は姜黄(きょうおう)と呼ばれています。国内では、沖縄、九州南部、屋久島に自生し、また栽培もされています。
その根の部分は生姜に似ており、その乾燥粉末は「ターメリック」という香辛料であり、カレー粉の黄色い色素の元でもあるので馴染み深い食材です。黄色色素を利用してたくわんの着色剤やウコン染めの名で染料としても使われています。
昔から薬草としても使われており、利胆(胆汁の分泌促進)、芳香性健胃薬の他に止血や鎮痛を目的に漢方処方にも配合されます。肝臓の解毒機能を強化し、二日酔いの防止にも効果があります。最近では、胃腸病や高血圧などの幅広い効用も認められるようになりました。
【炎症はガンの発生や進展を促進する】
マクロファージや好中球は、細菌や真菌など外界からくる病原体を攻撃したり、ウイルスに感染した異常細胞やガン細胞を除去することにより、生体防御機構の中心的役割を果たしています。このときマクロファージや好中球は炎症性刺激に応答して、活性酸素を産生し、さらに誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)やシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の合成を高めます。iNOSは一酸化窒素(NO)というフリーラジカルを産生し、COX-2はプロスタグランジンを作りだし、炎症反応を増幅させます。iNOSとCOX-2はNF-kBという転写因子(遺伝子のスイッチをオンにする蛋白質)が活性化されることによりマクロファージの中で量が増えます。これらの炎症反応は生体防御における生理的な応答ですが、炎症が遷延して慢性炎症の状態が長期間持続すると、活性酸素や一酸化窒素などのフリーラジカルやプロスタグランジンはガンの進展を促進します(図)。一般に慢性炎症がガンの促進因子であり、抗炎症剤がガン予防剤となるのはこのような理由によるものです。
図:炎症は生体防御と発ガン促進の2面性をもっている。
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【ウコン成分クルクミンは転写因子NF-kBの活性を阻害して抗炎症作用と抗腫瘍活性を示す】
1988年、アメリカのラトガ−ス大学薬学部のコニー博士らは、マウスを使った実験を行い、ウコンに含まれるクルクミン(curcumin)が皮膚ガンの発生を抑制するという研究結果を報告しました。それ以来、日本や台湾を中心にウコンのガン予防効果の研究が進められています。発ガン物質を使った動物実験では、皮膚ガン、胃ガン、大腸ガン、乳ガン、肝臓ガン、などの発生を抑える効果が報告されています。
クルクミンは胆汁分泌を促し、脂肪の消化吸収を助ける作用があり、肝臓の解毒作用を強化する働きがあります。強い抗酸化作用と同時に、NF-κBという転写因子の活性化を阻害することにより、炎症や発ガンを促進する誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)やシクロオキシゲナーゼー2(COX-2)の合成を抑えてガンの発生を予防したり、ガン細胞を死にやすくするなどの効果が最近の研究で明らかにされガン予防物質として注目を集めています(図)。
図:クルクミンは、抗酸化作用、炎症細胞からの誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)やシクロオキシゲナーゼー2(COX-2)の合成を阻害する作用、ガン細胞のアポトーシス感受性を高める作用、などによってガン再発を予防する。
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転写因子のNF-κBは、通常は細胞内でIκBという阻害蛋白と結合して不活性な状態で存在しています。マクロファージに炎症性のシグナルが来ると、IκB蛋白が分解してNF-κBはフリーになって細胞の核に移行します。核内においてiNOSやCOX-2などの遺伝子の調節領域に結合して、これらの蛋白質の合成を開始します。最近の研究で、クルクミンはIκBの分解を阻止してNF-κBの活性化を抑制することによって、マクロファージからのiNOSやCOX-2の合成を抑えることが明らかになっています。
また、ガン細胞においては、活性酸素などによってNF-κBが活性化されると、増殖が促進され、アポトーシスという細胞死が起こりにくくなります。アポトーシスとは、細胞がある情報を受けて、自ら能動的に死んでいく「プログラムされた細胞死」のことをいいます。多くのガン細胞は、転写因子NF-κBが活性化されるとアポトーシスが起こりにくくなって増殖速度が早くなります。ガン細胞で活性化されたNF-κBを阻害してやるとガン細胞が抗ガン剤で死にやすくなり、クルクミンがガン細胞のNF-κBの活性化を阻害してガン細胞のアポトーシスを引き起こすことが報告されています。
このように、クルクミンのNFkB活性の阻害は、炎症細胞からの誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)やシクロオキシゲナーゼー2(COX-2)の合成を阻害し、ガン細胞のアポトーシス感受性を高めて死にやすくすることにつながり、さらに抗酸化作用も加わってガン予防効果を発揮することになります。
【クルクミンは放射線治療の副作用を弱め抗腫瘍効果を高める】
放射線治療はがん細胞を殺すために行うのですが、放射線照射は活性酸素を発生させるので正常組織のDNAも傷つけて別のがんが発生したり、残っているがん細胞を悪化させたりする可能性もあります。放射線自体に発がん性があることはよく知られています。マウスやラットに放射線を当てて皮膚がんや乳がんを作る実験モデルにおいて、クルクミンが放射線による発がんを予防することが多く報告されています。
また、放射線照射による酸化ストレスによって、前述のようにNF-kBの活性化が起こると、ガン細胞はアポトーシスを起こしにくくなって放射線治療に抵抗するようになります。つまり、がん細胞に放射線を照射していると、次第に放射線が効きにくくなるのです。放射線の殺細胞効果に対してがん細胞が抵抗性を獲得することをクルクミンが予防する実験結果も報告されています。クルクミンはがん細胞に直接アポトーシスを引き起こす作用も報告されていますので、放射線治療中にクルクミンを摂取することは、抗腫瘍効果を高めることになります。
クルクミンが放射線の発がんを予防し、放射線の抗がん活性を高める効果が実験で報告されていますので、乳がんなどで放射線治療を行うときにクルクミンを併用すると、治療効果を高めると同時に、再発を予防する効果も期待できそうです。
【ウコンの利用の仕方】
クルクミン含量の多いウコン・エキスを粉や粒にした健康食品も販売されています。お茶(ハーブティー)として日常的に飲用することもできます。ウコン茶を煎じるときは、1日量を6〜10グラムとし、400〜600ミリリットルの水に加えて沸騰させます。沸騰して5分ほどたったら火を止め、これを2〜3回に分けて空腹時に飲むようにします。また、煮物や焼き物に入れると、ショウガに似た独特の風味が楽しめます。抗酸化作用や免疫力増強作用のあるハーブティーとしてウコンと高麗人参の組み合わせは効果があります。
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