1 ガンの再発はなぜ起こる

ガンの再発を防ぐためには、ガン再発がおこる理由と、それを防ぐための理論を十分理解した上で、理論的に納得の行く方法を実践しなければなりません。

【ガン細胞が離れた所に飛んでいく事を転移という】

ガンができた元の場所を原発巣といいます。ガン細胞が原発巣だけに留まっているのであれば、たとえ大きな腫瘍であっても外科手術で完全に切り取ればガンを治すことができます。しかし、ガン細胞は原発巣から離れた所へ飛んでいって、別の場所にもガン細胞の塊を形成しながら全身に広がる性質を持っています。これをガンの「転移」といいます。全ての組織には、栄養物や老廃物を運搬するためにリンパ液と血液が流れており、ガン細胞はこのリンパ液や血液の流れに乗って、リンパ節や肝臓や肺など全身に運ばれ、新たなガン組織(転移巣という)を形成するのです。

転移はガン細胞が原発巣から離れて移動し、血管やリンパ管の中に入り、転移先の臓器内でまた血管外に出て移動し、増殖するという非常に複雑な過程を経て初めて成立します。従って、ガン細胞が転移するためには、ガン細胞同士が離れやすくなること、まわりの結合組織を分解しながら活発に運動すること、死ににくいことなどの条件が必要で、細胞の増殖や接着や死(アポトーシス)に関連する遺伝子(ガン遺伝子やガン抑制遺伝子)の異常が多数蓄積して、悪性化がより進んだガン細胞ほど転移しやすい傾向にあります。良性腫瘍と悪性腫瘍の最も大きな違いは、前者が原発巣だけに留まるのに対し、後者は転移によって全身に広がる性質を持っていることです。

【ガンの転移は大きくなるまで診断できない】

転移したての小さな転移巣は、どんな診断方法を用いても捉えられませんし、当然、手術で取り去ることも不可能です。転移巣のガン細胞が増殖し、目に見える大きさまで数が増えた時に初めてガンの転移が診断できるのですが、その時には既に数億個以上のガン細胞がいることになります(1グラムのガン組織で約10億個の細胞)。

全身にばら撒かれえるというガン転移の性質上、もし一個の転移巣が見つかれば、目に見えないレベルの転移巣は他の部位にも存在すると考えるべきです。例えば、大腸ガンの手術後1年たって、CTや超音波検査で肝臓に転移巣が一個見つかったとき、「ガンの転移が肝臓に一箇所見つかりました」としか医者は言えません。目に見えなければ他の部位にも転移がある確証は100%ではないわけですから、この説明は間違いではありません。しかし、実際は「目に見える転移巣が肝臓に一箇所あるから、目に見えないレベルの微小な転移巣が複数(場合によっては無数)あるはずです」というのが常識的な解釈です。このような患者さんの肝臓を病理組織学的に丁寧に調べると、顕微鏡でしか見つからないレベルの小さなガン転移巣を多数見つけることができるからです。

大腸ガンの肝臓転移では、目に見える転移が少数であれば転移巣を切除するほうがより長く生存できることが報告されています。目に見えないガン転移巣が肝臓全体に広がっている可能性は高いのですが、大きな転移巣を取り去ったあとに、残った目に見えないガン細胞を抗ガン剤などで増殖を抑制すれば、ガンで死亡するまでの時間稼ぎができるからです。残ったガン細胞が少なければ、免疫力や自然治癒力を高めてやるだけでガンの増殖を押さえ込むことも可能です。

【転移と取り残しのガン細胞が増殖して再発する】

リンパ液や血液の流れに乗って遠くの臓器に転移するようなガン細胞は、結合組織を分解しながら活発に移動する性質をもっており、周囲組織に広がっていきます。これをガンの浸潤性増殖をいいます。

ガンの外科手術では、目で見えるガン組織からできるだけ離れて組織を切除することが基本で、それは目に見えないところまでガン細胞の浸潤が及んでいるため、取り残すと再発するからです。これを局所再発といいます。例えば胃ガンで浸潤性の強い未分化ガンでは、肉眼的に認められるガンの端から5cm離しても、切除断端にガン細胞を認めることがあります。このようにガンを取り残すと必ず局所再発が起こってきます。

ガンの外科手術後の再発というのは、ガン組織を切除した局所に取り残しがあった場合と、すでにガンが他の臓器に転移していた場合に起こります。ガンがどこかに残った場合、次第に増殖して多くは5年以内にそのほとんどが発症してしまいます。治療の効果を比べるために5年生存率(その治療を受けた人の何パーセントが5年後に生存しているかを表わす率)が使われたり、「がんは手術して5年経てば治った」という話を聞くのは、手術後5年後以降に再発することは稀であるからです。しかし、手術の後に補助療法(抗がん剤や放射線による治療)を追加して、再発や転移があっても5年以上生き延びることも珍しくありませんし、増殖の遅いガンでは10年以上してから再発するものもあります。

【手術で完全に切除したつもりでも再発することがある】

治療後にガンが再発してくる確率は、がんの種類(発生臓器)や進み具合(ステージ)によって異なります。ガンを切除したあとに、ガン細胞の性質(悪性度)や広がり、リンパ節への転移の有無などを顕微鏡で検査すると転移や局所再発の可能性を推測することができます。ガンが大きかったり、リンパ節に転移が見つかったりすると、たとえ目で見える転移がなくても、体のどこかにガン細胞が残っている可能性があるので、手術後に抗ガン剤や放射線療法によって残存しているかもしれないガン細胞を叩いて再発を予防します。

ガン組織が限局していてガンから十分な距離をおいて切除し、リンパ節転移や他の臓器への転移も見つからなかった場合、その手術は治癒切除といいます。ガンを根こそぎ切除して、体に残っているガン細胞は居ないと考えるわけですから、治癒切除の場合は理論的にはガンの再発は起こらないはずです。しかし、このような治癒切除でも10−20%は5年以内に再発しているという事実があります。その理由は、目にみえない小さなガン転移は診断できないことと、たとえ小さくても肉眼的に見える大きさになったガンは転移するには十分な悪性度を持っていることが多いからです。

大雑把にいって、直径1cmのガン組織(約0.5グラム)には約5億個のガン細胞が、米粒大の大きさで1000万から2000万個のガン細胞がいます。手術中に目で見えるところに米粒大のガン転移があれば見つけることができるかもしれません。しかし、その十分の1の大きさになると肉眼的な診断は困難です。肝臓の中に転移巣がある場合には直径が1cm以上でもみつかりません。臓器の中にある場合には、CTやエコーで検査すれば転移巣を検出することができますが、この場合には1cmくらいに大きくなっていないと検出は困難です。つまり、ガン細胞が数億個に増えるまでは多くの場合、体の外からガンの転移を検出することは困難なのです。

【ガン組織の増大速度を遅くすれば再発を遅らせることができる】

腫瘍の体積が2倍になる時間を体積倍加時間(Doubling Time, DT)といっています。一個のガン細胞が30回分のTDを経て約10億個(≒230)のガン細胞からなる約1グラムのガン組織に成長し、さらにもう10回分のDTを経ると1kgのガン組織になる計算です。

固形ガン(胃ガンや肺ガンのように塊をつくるガン)のDTは通常は数十日から数百日のレベルと言われています。例えば、早期大腸癌の平均DTが26ヶ月(18-58ヶ月)という報告や、肺癌の平均DTが166日という報告がなされています。しかし、転移するようなガン細胞は増殖速度も早いのでDTはもっと短くなっています。

ガン転移は、最初は一個のガン細胞から始まって次第に数が増えていきます。ガン細胞の増殖速度が早ければガン組織のDTは短くなりますが、細胞の増殖速度を遅くしたり、免疫細胞がガン細胞を殺す力を高めたり、血流を阻害してガン組織に栄養が十分行かないようにすれば、そのガン組織のDTを長くする事ができます。

DTが1ヶ月のガン組織は40ヶ月で1kgの大きさに成長してしまいますが、DTを2倍にすれば1kgになるのに80ヶ月かかることになります。つまり、DTを2倍に伸ばすことができれば、手術後の生存期間を2倍に伸ばすことができます。たとえガン細胞を完全に殺すことができなくても、ガン組織の増大速度を遅くするような方法をとれば、ガンと共存しながら延命することが可能となるのです。ガン組織のDTを少しでも長くする方法を幾つも併用すれば、もっと長く再発を遅らせることができ、より長くガンと共存していくことが可能となるのです。

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