第4章:がん再発予防に効果が期待できる薬草・民間薬・健康食品

 4.サメ軟骨やサメ肝油は腫瘍血管の新生を阻害してがんの発育を抑える

     【概要】
     【がん組織が大きくなるには血管の新生が必要】
     【サメの軟骨や肝油には新生血管抑制物質が含まれている】
     【サメ軟骨の抗腫瘍効果には賛否がある】
     【血管新生阻害作用の潜在的副作用】

【概要】

 がんが大きくなるためには、栄養や酸素を運ぶ血管を増やしていく必要があります。新しい血管が増生することを「血管新生」と呼び、がん組織の血管新生を阻害することは、がんを兵糧攻めにして、ついにはがん細胞の塊を小さくすることができます。
 新しいがん治療薬として血管新生阻害剤の研究・開発が注目されていますが、健康食品の中で血管新生阻害成分が含まれるものとしてサメの軟骨や肝油があります。血管新生の阻害が主な作用であるため、発がんを予防するのではなく、腫瘍の段階まで進んだがんの成長を阻止し、治療後に残ったがんの再発を予防する効果です。軟骨粉末エキスでは大量服用が困難なため有効性が出にくいようですが、血管新生阻害成分を抽出した製品も販売されています。サメの肝油からもスクアラミンやその他の未知の成分による血管新生阻害作用が報告されています。

【がん組織が大きくなるには血管の新生が必要】

 体の組織が生きていくためには血液から栄養や酸素の供給をうけることが必要で、血管が詰まって血液が流れなくなると組織は死んでしまいます。がん細胞は正常細胞を押しのけて自分勝手に増殖するようになった細胞ですから、回りの正常な組織から栄養や酸素を奪おうとします。その手段として、がん細胞自身が血管を増やす増殖因子を分泌します。新しい血管を作ることを血管新生といい、新生した血管を経路としてがん細胞が転移を起こす場合も多くなります(図27)。
 がん細胞が腫瘍血管を新しく作るために、まずがん細胞は血管内皮細胞増殖因子という蛋白質を分泌して、近くの血管の内皮細胞の増殖を刺激します。さらに周囲の結合組織を分解する酵素を出して増殖した血管内皮細胞をがん組織の方へ導き、血管の内腔を形成する因子を使って新しい血管を作っていきます。これらのステップのいずれかを阻害してやると血管新生を阻止できます。
 がん細胞が100個くらいになると、それ以上大きくなるためにはがん組織専用の血管が必要になって、がん細胞が血管を新生するための増殖因子を産生しだすといわれています。したがって、腫瘍の血管新生を阻害する薬を早期から飲んでおけば、残ったがん細胞の増殖を抑制して再発を防ぐことになります。
がん組織が小さいうちに腫瘍血管の新生を阻害できればがんの退縮(消えてなくなること)も可能と考えられています。

 図27:がん細胞は新生血管を作り出す増殖因子を放出し、栄養と酸素を運ぶ血管を増やして 増殖する。原発巣から遊離したがん細胞は新生血管を介して血管内に入って他の場所に運ばれ(遊送)、血管壁に着床し、血管外に出て転移巣を形成する

【サメの軟骨や肝油には新生血管抑制物質が含まれている】

 がん組織の血管新生を抑えることができれば、がんの増殖や転移を止めることができ、がん細胞が栄養や酸素を取り込めなくなるとがん細胞は死にいたります。そこで最近は、血管新生を抑えることを目的とした薬が抗がん剤として開発されるようになりました。健康食品ではサメの軟骨と肝油に含まれる血管新生阻害物質が注目されています。
 サメにはがんの発生が少ないことが知られています。サメは体重の6%が軟骨でできていて、軟骨には血管がないことから、サメ軟骨には血管の増殖を阻害する物質があって、そのためにがんが増殖しにくいのではないかという仮説をもとに研究が行われました。その結果、サメ軟骨の成分から血管新生阻害作用が見つかり、がんや炎症性疾患の血管新生を抑える目的で開発されています。
 塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含んだペレットをウサギの角膜に移植して、血管新生を刺激する実験モデルにおいて、粉末化したサメ軟骨の経口投与は、bFGFで引き起こされる血管新生を阻害しました。つまり、粉末化したサメ軟骨を口から摂取しても、角膜における血管の新生を抑えるレベルの阻害物質が吸収されことが示されています。
 モントリオール医科大学で行われたヒトのボランティアでの研究では、液体サメ軟骨製剤で十分量を摂取した場合にはヒトでも血管新生阻害が観察されています。29人の健康な男性ボランティアをランダムに3群に分け、液体サメ軟骨を23日間毎日経口投与し、12日目にポリビニールアルコールを詰めた穴のあいたシリコンチューブを前腕部の皮下に埋め込み、23日目にチューブを取り除いて内皮細胞の密度などで血管新生の程度を組織学的に比較しました。液体サメ軟骨を1日量で0ml、7ml、21ml、投与したグループの血管内皮細胞密度はそれぞれ、 3.15 +/- 0.11 、2.24 +/- 0.10、2.47 +/- 0.10でした。液体サメ軟骨の服用が創傷における血管新生を阻害する臨床効果があることを示唆しています。
 サメ軟骨の中のグリコサミノグリカンという成分には炎症を抑えたり、免疫力を高める作用も見つかっています。さらにがん細胞を殺す物質も報告されており、血管新生阻害だけでなく、複数のメカニズムでがんを予防したり治療する効果が期待されています。
 サメの肝油からも
スクアラミンやその他の未知の成分による血管新生阻害作用が報告されており、サメ肝油がサプリメントがとして販売されています。

【サメ軟骨の抗腫瘍効果には賛否がある】

 マウスに発がん剤を投与して腎臓がんを発生させる実験で、サメ軟骨粉末を経口投与すると、腎臓がんの進展速度を遅らせる効果があったと報告されています。この実験では、腎臓がんの発生はコントロール群(サメ軟骨非投与)で19ヶ月であったのに対して、サメ軟骨投与群では55ヶ月でした。
 一方、他の動物発がん実験モデルでは、
サメ軟骨粉末を経口投与しても、がん組織の増大速度や転移を抑制する効果は認めなかったという研究結果も報告されています。しかし、ある実験系で効果がなくても、効果なしという結論は出せません。全く効果のないものは、どのような実験系を用いても効果が証明できないはずです。抗腫瘍効果の弱いものは動物の移植腫瘍の実験では有効性が証明できないことが多いのですが、弱い抗腫瘍効果でもがんの種類によって効果が現れることがあるからです。 
 サメ軟骨エキスは多数の商品が販売されていますが、基本的にはサプリメントの扱いですのでヒトでの臨床効果についての確認や証明はまだ不十分です。
米国のがん治療研究財団ががん患者を対象に大規模研究を行い、進行がん患者に大量のサメの軟骨の粉末を摂取させ、抗がん作用があるかどうか研究しましたが、抗がん作用は確認できなかったと第33回米国臨床腫瘍学会で報告されています。最近では米国のメイヨークリニックからの報告でも、サメ軟骨粉末エキスはがん治療には有用性はないという結論が出されています。血管新生阻害作用を期待するには1日50g以上の大量を摂取しなければならず、胃腸障害などの副作用によるデメリットが大きいと結論づけられています。
 このようにサメ軟骨粉末エキスでは、抗腫瘍効果ははっきりしませんが、サメ軟骨エキスを大量に摂取できる液体サメ軟骨エキスを使用することにより、前述のようにヒトでも血管新生阻害作用が確認されていますので、がん再発の予防にはある程度の効果は期待できると考えられます。
大きながんを縮小させるほどの効果は期待できませんが、微小ながんが大きくならないようにする再発予防の目的では効果が期待できるかもしれません。

【血管新生阻害作用の潜在的副作用】

 健常な成人においては、体の中で血管が新生する必要はありません。人体において血管が新生されるのは、妊娠初期(胎盤形成や胎児の発生過程)、炎症部位(慢性関節リュウマチ、糖尿病性網膜症、乾癬など)、創傷治癒過程(手術後やケガ)、虚血部位周囲での側副血行路の形成(心筋梗塞や閉塞性動脈硬化症など)とがん組織が上げられます。したがって、血管新生阻害作用を持つ物質は、炎症性疾患や腫瘍に対して治療効果を持つ反面、胎児の発育や創傷治癒や障害し、虚血性疾患を悪化させるという副作用を有します。
 血管新生阻害剤として最も有名なのが、
サリドマイドです。サリドマイドはもともとは催眠薬として40年ほど前に発売されていましたが、妊娠初期にサリドマイドを服用した母親から、手や足の発育不全や聴覚障害を持つ子供が多く生まれ、サリドマイドの強力な催奇形性が明らかとなって発売中止になりました。しかし、この催奇形性の原因を研究するうちにサリドマイドには血管新生阻害作用にあることが判明し、現在では、がんや炎症性疾患の治療に応用されるようになりました。
 健康食品で血管新生阻害作用を唱えているものとして、サメ軟骨エキスやサメ脂質などがあり、それらはリュウマチのような炎症性疾患やがんなど、血管新生が病気の進展に関与している疾患に対する治療効果が期待されています。しかし、
血管新生阻害による薬効(病的な血管新生を阻害すること)のみが強調され、血管新生阻害作用に内在する問題点(生理的血管新生を阻害することによる副作用)には言及されていません。
 血管新生阻害作用が本当にあるのであれば、妊娠初期に服用すれば、胎盤形成に影響したり、四肢形成の初期段階で必要な血管新生が阻害され、胎児の発育に悪影響を及ぼすはずです。さらに、手術を受けるときには創傷治癒を妨げ、狭心症や心筋梗塞のような虚血性心疾患をもっている人には、血管新生を阻害して虚血症状を悪化させる可能性もあるのです。
 サメ軟骨やサメ脂質のなかには、薬剤として開発されるような血管新生阻害物質が存在しますが、健康食品として売られているものには、それらの活性成分が薬効を示すに十分な量含まれているわけではないので問題ない、という業者の本音も聞かれます。
しかし、腫瘍血管の新生を阻害すると言っているのであれば、手術後の創傷治癒を妨げ、狭心症や心筋梗塞のような虚血性心疾患をもっている人には、血管新生を阻害して虚血症状を悪化させる可能性を警告しておくべきです。
 文献上は、サメ軟骨やサメ脂質によるこのような潜在的な副作用を懸念する警告がなされています。また、サメ脂質は血液凝固を阻害する可能性もあるので、手術前後での使用には特に注意が必要です。サメ軟骨の粉末を大量に服用した場合には、胃腸障害だけでなく、カルシウムの摂取量が増えることによて高カルシウム血症が起こる可能性も指摘されています。

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