第6章:がんに立ち向かう「心」と「精神力」を養う方法

 4.サイモントン療法はリラクセーションとイメージ療法を組み合わせた精神療法

     【概要】
     【カール・サイモントン博士によって確立されたがんの精神療法】
     【健全なイメージは治癒力を高める】
     【体をリラックスさせて白血球ががん細胞を殺している状況を想像する】

【概要】

 サイモントン療法とは、リラクセーションとイメージ療法を組み合わせ、患者の身体面、精神面、さらに魂の側面まで考慮にいれた総合的な心理サポート療法です。患者自身が自らすすんで治癒力を高める努力をし、それによって治療効果を高めることを目的としています。がん患者に、自分の白血球ががん細胞を攻撃している様子をイメージさせるのが特徴で、通常の治療法と併用することにより、相乗的な治療効果が期待できます。

【カール・サイモントン博士によって確立されたがんの精神療法】

 カール・サイモントン博士(O. Carl Simonton)は放射線腫瘍医で、がんを治療するための心身一体療法のパイオニアとして知られています。博士はがんの治療過程において成功する人たちに見られる共通点は何か、さらに、逆に成功しない人たちとの相違点は何かということに注目してきました。治療の成績がよい患者とよくない患者との違いが病気に対する態度にあることを知り、患者の信念を積極的なものに変えることによって、治療の効果を高めることができないかと考え、1969年ごろから応用心理学の観点からがん治療効果を高める精神療法の可能性を検討してきました。
 方法は、
リラクセーションメディテーション(瞑想)ヴィジュアリゼーション(イメージ療法)が基本となり、さらに病気に対する考え方や、家族のサポートの重要性が教えられ、がん治療中の人々の不安解消法や、心理的介入による治癒促進の可能性を求める目的において大きな示唆を与えています。
 サイモントンの著書には、がんの心理療法に関して現在考えられられている理論的根拠がほとんど述べられています。すなわち、リラクセーションとイメージ療法の役割、楽観的(ポジティブ)なイメージや思考の利点、悲観的(ネガテヒィブ)な感情の克服の方法、目標の設定、生体フィードバック法の利用、規則的な適度な運動、再発や死の恐怖への対策、家族の援助システム、カウンセリングなど、現在、がんの心理療法で行われている方法のほとんどがサイモントンの方法にまとめられています。

【健全なイメージは治癒力を高める】

 サイモントン博士は、積極思考(positive thinking)ではなく健全思考(healthy thinking)を重視しています。医師の診断を受けたとき、病気の見通しや治療法について相談したとき、多くの人がポジティブあるいはネガティブにイメージを経験し、これらのイメージは体の治癒力にも影響します。不安を引き起こす不健全な信念(=イメージ)を、もっと健全な信念に変えることにより病気に対する治癒力を高めることができるとサイモン博士は考えています。
 がんは、変化が必要であるということをあらわす体からのメッセージであり、生活上のストレスに対して健全に対処する方法を学ぶ必要があることを教えており、がんを自分の生活習慣や人生に対する考え方を変えるチャレンジでありよい機会であると捉えることの大切さを述べています。このような健全でポジティブな思考をもつことは、生きる活力と幸福感とこころの安定をもたらし、免疫系を最高の状態に保つ助けとなり、治癒システムによい影響を及ぼします。 
 積極的に期待しているイメージを描くことによって、思い通りの結果を得ることができるようになります。自分の望む結果のイメージを心の中に描くことを繰り返し行うと、自分の望む結果が実際に起こるのではないかと期待するようになります。このように積極的に期待をかけるようになる結果、その人は、自分が望む結果に沿った行動をするため、実際にそういう結果が起こるように自分で仕向けることになります。これは、
予言の自己成就という考え方と似ています。がん患者自身が積極的にがんと戦う意欲を高めるうえでイメージ療法は有用です。
 
「生」への目標設定によって治癒力を活性化することができます。将来の目標をたてるように求めることで、自分の生きる理由を明確にし、それを達成するために全力を注ぐ手助けをすることによって、患者をもう一度「生きる」方向に向けさせる事ができ、自分をあらためて生きる方向に向け直すことができます。はっきりした積極的な行動をとらせるためには、患者に新しい人生の目標をたてることを求める方法が効果的です。
 サイモントン療法では
霊的(スピリット)な側面も重視しています。スピリット(spirit、魂、霊性)とは人間に特有の生命の根幹であり、われわれの人生における感情や動機の源となっています。健康になるためには、こころとからだ、さらに魂を再統合することが必要といわれています。日本では、「霊」という言葉は、あまりよいイメージがもたれていないと思われますが、博士は、「人間の力を超えた宇宙の法則と調和して生きる感覚」のようなものを指す言葉として使っています。この感覚を得るためには、人によってそれぞれ個性的な道を取ればよく、宗教もその一つの方法と位置づけています。
 このようなサイモントンの考えは漢方医学における心身一如の考えと共通し、イメージ療法の原理は気功や瞑想など東洋の精神コントロールおよび心身の調和法と極めて類似しています。

【体をリラックスさせて白血球ががん細胞を殺している状況を想像する】

 リラックスした状態において、自分の望む状況や目標を頭の中に具体的なイメージとして描くという作業をする方法がサイモントン博士のイメージ療法です。効果的なイメージ療法を行うためには心身ともに非常にリラックスした状態になることが重要であり、リラックス状態に入る方法は、気功における入静の方法と極めて似ています。すなわち、体の筋肉に意志を集中させ、頭の先から始めて足先へと徐々に、それぞれの部分の筋肉がリラックスするように意識します。ついで、がんの細胞のイメージをはっきりと頭の中に描かせ、さらに、受けている治療の効果が具体的にがん細胞を破壊する状況を描かせ、また、自分の体内にある自然の抵抗力が健康を回復するうえに活動している状況をはっきりと視覚化するという作業をするように導きます。腫瘍は弱い柔らかい細胞の塊であるように想像し、化学療法や放射線療法で腫瘍が縮小し、白血球ががん細胞を殺している状況を想像します。がん細胞がだんだん縮少していく状況や、その結果として、健康を次第に回復していく状況を具体的かつ明確に頭の中に描くことが重要で、サイモントン博士の著書には次のような方法が述べられています。

1。照明のあまり強くない静かな部屋で、ドアを閉めて、楽な椅子にすわり、足を床にぴったりつけ、眼を閉じる。
2。自分の呼吸をはっきり意識する。
3。2、3回深呼吸をする。息を吐き出すたびに、心の中で「リラックスしよう」と言う。
4。まず自分の顔に注意を向け、顔の筋肉の緊張をイメージとして描き、その緊張が緩む状態をイメージする。(ロープの結び目とか、握り拳のようなイメージで緊張を意識し、この緊張が解ける様子を、たとえば、弾力を失った輪ゴムのように楽になることを心の中で描く)
5。顔と眼のあたりの筋肉がリラックスするのを味わう。筋肉のリラクセーションの波が顔ばかりでなく全身に広がるのを意識する。
6。顔と眼のまわりの筋肉を強く緊張させる。それからリラックスさせ、そのリラクセーションが全身に広がるのを意識する。
7。筋肉のリラクセーションのイメージを体の下の方に順に移していく。顔、首、肩、背中、上腕、前腕、手、胸、腹、両もも、ふくらはぎ、くるぶし、足、と次第にリラックスさせる。こうして、全身がいっそうリラックスするまで行う。体の各部が緊張している所を描いて、次にその緊張がとけ、リラックスするところを描く。
8。次に、自分が気持ちのよい自然の中にいるところを思い描く。まわりの色、音、雰囲気を細かく心の中に描いて、その中にひたり、気持ちよい感じを想像する。
9。2、3分の間、そのままこの自然の中でとてもリラックスした状態でいることを想像する。
10。がんのかたまりをイメージする。このとき、がんはとても弱い細胞で、しかも混乱した細胞からできていることを思い出す。正常に生活しているときには、私たちの体は、がん細胞を破壊していることを思い出す。(正常な状態では、自分の体に備わっている防衛力が、がん細胞を攻撃している事を理解しておく)
11。治療を受けている場合には、その治療が体内に入ってくる状況を想像する。放射線治療を受けているときは、放射線エネルギーの束ががん細胞を攻撃し、化学療法をうけているときには薬ががん体内に入り、血流に入って流れるところを想像し、その薬ががん細胞を殺すところを想像する。このとき、正常細胞よりがん細胞のほうが弱いため、これらの治療により、がん細胞のほうがより攻撃をうけて死にやすいことを考える。
12。自分の体の中の白血球が、がん細胞の巣食っているところに入っていき、異常な細胞を攻撃し、破壊しているところを思い描く。
13。がんが小さくなっていく様子をイメージする。死んだがん細胞は、白血球に運び出され、肝臓や腎臓を通じて体外に排出され、尿や便となって出ていくところを想像する。
14。もしどこかに痛みがあれば、その部分に白血球の軍隊が流れ込み、痛みを和らげる状況を思い浮かべる。どのような問題であっても、自分の体自身で癒すように命じる。こうして、体がだんだん回復していく状態を想像する。
15。健康が回復し、病気がなく、エネルギーに満ちあふれてくる状況を描く。
16。次に、自分が人生の目標に近づいている状況を描く。生きてきた目的が達成され、家族がみんな健康な毎日を送り、まわりの人たちと自分の関係が一層意味のあるものになるのを想像する。健康になりたい理由が大きければ、それだけ健康をとりもどしやすいということを思い出す。そして、この機会を使って、自分が何を差しおいてもまずしなければならないことに自分の意志を集中する。
17。健康の回復に自分が関与していることを、心の中で自賛する。このイメージ療法を毎日3回ずつ行っている状況を想像する。このエクササイズを意識がはっきりした状態で行っている状況を描く。
18。まぶたの筋肉を軽くして、目を開ける用意をし、そして、自分のいる部屋に意識を戻す。
19。眼を開け、そして、いつもの行動に戻る。

イメージを描く上で次のような点が参考として挙げられています。まず最初に呼吸にこころを集中させ、頭から足先に向かって、順に体をリラックスさせます。このようなリラックス法は気功と類似しています。さらに、がんに対する信念を変えます。がんはもともと弱くて不完全な細胞の集まりにすぎず、容易に排除できるというイメージをもつことです。そして自分の白血球が強くて数が多く、がんを排除する十分な力があると想像し、実際に治療によってがん細胞がなくなっていく状態をイメージするのです。
 そのため、がんをハンバーグとか魚の卵のように、くずれやすい柔らかいものとして描きます。また、治療は強力で、大きな力を持っているとイメージします。白血球は体に備わっている自然治癒力の象徴であり、白血球の数を非常に多く、力を非常に強いものとしてイメージします。
 積極的な期待がもてるくらい強いイメージが描けるようになるためには、専門的な知識をもったカウンセラーの指導も必要で、間違ったイメージを持つことは病気の悪化にもつながります。
詳しい内容には以下の著書を参考にして下さい。また、日本でサイモノトン療法を実践し普及している団体もあります。インターネットで検索すれば情報を入手できます。

がんのセルフ・コントルール;サイモントン療法の理論と実際。カール・サイモントン、ステファニー・M・サイモントン、ジェームス・クレイトン著(近藤裕、笠原敏雄、河野友信、訳)創元社、1982
がん治癒への道;サイモントン療法の新たな展開。O・カール・サイモントン、リード・ヘンソン、ブレンダ・ハンプトン著(堀雅明、伊丹仁朗、田中彰、訳)創元社、1994


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