がん治療薬としてのメラトニン(Altern Med Rev 1999;4(5):304-329からの抜粋 )

メラトニン(Melatonin)は昼と夜の周期に反応して脳の松果体から分泌され、体の日内リズムを調整しているホルモンであり、スタンダードな抗酸化物質ではないが、ヒドロキシルラジカルやパーオキシラジカルに対する消去活性は強い。

メラトニンはin vitroの研究で、興味深い抗腫瘍効果が見つかっている。乳癌細胞のp53蛋白(がん抑制遺伝子の一種)の発現量を増やし、癌細胞の増殖を抑制することが報告されている。

メラトニンは癌に対する防御力を高めるように TNF, IL1, IL-2, IL-6, やガンマインターフェロンなどの多くのサイトカインの産生を調節する(1)。

メラトニンは多分、TNF分泌を抑えることによって転移性癌をもった患者の悪液質を軽減することが示されている。1日20mgのメラトニンを服用している人は、保存的治療のみを受けている人に比べて体重減少が少なく(3 kg vs. 16 kg)癌の進行も遅い(53% vs. 90%)ことが報告されている(2)。

別の研究では、シスプラチン治療を受けている非小細胞肺癌の63例が、1日10mgのメラトニンを摂取するか、保存的治療のみかの群にランダムに分けられて効果の検討が行われた。 保存的治療のみの患者の平均生存期間が3ヶ月であったのに対して、メラトニンを服用した患者の平均生存期間は6ヶ月であり、1年以上生存した患者は、保存的治療のみが32例中2例であったのに対して、メラトニン服用者では32例中8例であった。この臨床研究で、薬物に起因した毒性は認められなかった(3)。

脳転移のある患者において、メラトニンを1日20mg服用した患者の1年生存率は、保存的治療のみより明らかに高かった(4)。悪性黒色腫や転移癌の患者のの生存率を高めるという報告もある(5、6)。免疫系に対する効果に基づいて、メラトニンは他の癌治療との併用も検討されなければならないと主張されている(6)。

癌の集学的治療において、進行癌に対してメラトニンに十分な効果があるという証拠は得られなかったが、これについてはさらに研究が必要である(7)。動物実験によれば、体重1kgあたり250mgのメラトニン投与は毒性が認められなかった(8)。

放射線療法とメラトニン:

グリオブラストーマの30例による臨床試験において、放射線照射単独とメラトニンの1日20mg投与を併用した場合の効果が比較された。1年後の結果で、放射線のみのグループは16人中1人しか生存できなかったが、メラトニンを服用したグループでは14人のうち6人が生存した。また、メラトニンを服用した患者では放射線治療による副作用はより少なかったことが観察された(9)。

メラトニンと化学療法:

標準的な癌化学療法の補助療法として、メラトニンは多くの研究が行われている。
タモキシフェンのみで治療して進行した転移性乳癌の治療において、タモキシフェンとメラトニン(1日20mg)を併用したフェースIIの臨床試験が行われた。14例中4例がこの治療に部分的な反応を示し、癌進展までの平均が8ヶ月であった。治療における副作用はなく、多くの患者において、不安や抑うつの軽減が観察された。

乳癌以外で化学療法に反応しなかった転移性の固形癌の患者において同様の併用療法が行われて検討された。25例中16例が部分的に反応して癌の進行が抑えられ、25例中7例が1年以上生存した(10)。

別のフェースII研究では、メラトニンの1日20mg投与により、エピルビシン治療中に血小板減少を来した乳癌患者12例のうち9例において血小板数が正常値に回復した。この12例のうち5例では腫瘍の縮小が認められた(11)。

進行した非小細胞 肺癌において、シスプラチンとエトポシドによる治療と、それにメラトニン(1日20mg投与)を併用した場合の違いが検討された。1年後の生存率は、シスプラチンとエトポシドのみの治療が36例中6例であったのに対し、メラトニンを併用したグループでは34例中15例であり、明らかに延命効果を認めた。腫瘍の縮小効果も、抗癌剤のみが36例中6例であったのに対し、メラトニン投与群は34例中11例であった。骨髄抑制や神経障害や悪液質の程度も、メラトニンを併用したグループは、抗癌剤だけのグループより軽度であった(12)。

カルボプラチンとエトポシドによる骨髄抑制に対しては、二重盲検試験にてメラトニンの防御効果は認められなかった。この臨床試験では抗癌剤の投与量が多かったためにメラトニンの効果が出なかったのかもしれない。この著者らは、メラトニンによる抗癌剤の効果の増強は疑わしいと結論づけている(13)。

1日40mgのメラトニン投与は種々の固形癌に対するインターロイキンー2の効果を高めることが明らかになっている(14)。非小細胞肺癌の治療において、メラトニン(1日40mg)とインターロイキンー2の併用療法は、シスプラチンとエトポシド併用療法より、効果が高いことが認められた。

文献:

1. Neri B, DeLeonardis V, Gemelli MT, et al. Melatonin as biological response modifier in cancer patients. Anticancer Res 1998;18:1329-1332.

2. Lissoni P, Paoorossi F, Tancini G, et al. Is there a role for melatonin in the treatment of neoplastic cachexia. Eur J Cancer 1996;32A:1340-1343.

3. Lissoni P, Barni S, Ardizzoia A, et al. Randomized study with the pineal hormone melatonin versus supportive care alone in advanced nonsmall cell lung cancer resistant to a first-line chemotherapy containing cisplatin. Oncology 1992;49:336-339.

4. Lissoni P, Barni S, Ardizzoia A, et al. A randomized study with the pineal hormone melatonin versus supportive care alone in patients with brain metastases due to solid neoplasms. Cancer 1994;73:699-701.

5. Lissoni P, Brivio O, Brivio F, et al. Adjuvant therapy with the pineal hormone melatonin in patients with lymph node relapse due to malignant melanoma. J Pineal Res 1996;21:239-242.

6. Lissoni P, Barni S, Crispino S, et al. Endocrine and immune effects of melatonin therapy in metastatic cancer patients. Eur J Cancer Clin Oncol 1989;25:789-795.

7. Anonymous. Evaluation of an unconventional cancer treatment (the Di Bella multitherapy): results of phase II trials in Italy. Italian Study Group for the Di Bella Multitherapy Trials. BMJ 1999;318:224-228.

8. Vijayalaxmi R, Meltz ML, Reiter RJ, et al. Melatonin and protection from whole-body irradiation: survival studies in mice. Mutat Res 1999;425:21-27.

9. Lissoni P, Meregalli S, Nosetto L, et al. Increased survival time in brain glioblastomas by a radioneuroendocrine strategy with radiotherapy plus melatonin compared to radiotherapy alone. Oncology 1996;53:43-46.

10. Lissoni P, Paolorossi F, Tancinin G, et al. A phase II study of tamoxifen plus melatonin in metastatic solid tumor patients. Br J Cancer 1996;74:1466-1468.

11. Lissoni P, Tancini G, Paolorossi F, et al. Chemoneuroendocrine therapy of metastatic breast cancer with persistent thrombocytopenia with weekly low-dose epirubicin plus melatonin: a phase II study. J Pineal Res 1999;26:169-173.

12. Lissoni P, Paolorossi F, Ardizzoia A. A randomized study of chemotherapy with cisplatin plus etoposide versus chemoendocrine therapy with cisplatin, etoposide and the pineal hormone melatonin as a first-line treatment of advanced non-small cell lung cancer patients in a poor clinical state. J Pineal Res 1997;23:15-19.

13. Ghielmini M, Pagani O, de Jong J. Double-blind randomized study on the myeloprotective effect of melatonin in combination with carboplatin and etoposide in advanced lung cancer. Br J Cancer 1999;80:1058-1061.

14. Lissoni P, Barni S, Tancini G. A randomized study with subcutaneous low-dose interleukin 2 alone vs. interleukin 2 plus the pineal neurohormone melatonin in advanced solid neoplasms other than renal cancer and melanoma. Br J Cancer 1994;69:196-199.