抗がん剤治療とホスピスケアの間を埋める補完・代替医療:

がん患者は「もう治療法が無い」と言われるのが怖くて、無駄な抗がん剤治療にしがみついています。抗がん剤依存症になっています。標準治療は、抗がん剤治療が中止になれば、ホスピスでの緩和ケアしか選択肢が無いことが問題です。標準治療は低用量の抗がん剤を使うメトロノミック・ケモテラピー漢方治療などの代替療法をエビデンスが無いといって否定しています。しかし、末期のがん患者に対する抗がん剤治療の方がエビデンスが乏しいのです。がん治療以外に使用されている既存の安価な医薬品を使った副作用の少ないがん治療も報告されています。臨床試験で効果が証明された代替療法もあります。がん患者は自分でそのような治療法にアクセスすることも一つの選択肢になると思います。

有効なのに標準治療に使われない薬がある理由

がんの標準治療の足りない部分を補ったり替わりになる治療法が「補完・代替医療」の定義ですので、がんの補完・代替医療で使用されている薬やサプリメントは基本的には標準治療では使用されていません。
  
「臨床試験で有効性が証明されていれば標準治療で使われるはずだから、補完・代替医療で使用されている薬やサプリメントは有効性が証明されていないものだ」という意見で、補完・代替医療を否定し、標準治療以外は認めない医師もいます。しかし、これは全くの間違いです。    
標準治療で使用されていない医薬品やサプリメントの中に、がん治療に有効性が証明されたものは多数あります。十分なエビデンスがあっても標準治療で使われないのは特許の問題が関連しています。
  
標準治療で使用される薬は日本では基本的に保険適用薬に限られます。「保険医は、厚生労働大臣の定める医薬品以外の薬物を患者に施用し、叉は処方してはいけない」という規則が定められています。(保険医療機関及び保険医療養担当規則の第19条)
  
治験用に用いる場合に限って例外は認められていますが、基本的には保険医療機関や保険医が保険適用薬以外を患者に使用することは禁じられているのです。
  
保険適用されるためには、製薬会社が臨床試験を実施し、有効性や安全性を証明して、厚生労働大臣に製造販売の承認を受けなければなりません。この場合、その物質の特許があれば、その薬を独占して販売できるため利益を得ることができます。
しかし、特許が取れない場合は、莫大な費用(何十億円とは何百億円)を出して臨床試験を実施するメリットがありません。特許がなければジェネリック薬(後発医薬品)がすぐ出て来て利益が得られないためです。
その結果、どの製薬会社も薬として申請しません。誰かが申請しなければ保険薬あるいは承認薬として認可されることはないので、標準治療の中で使用されることは永久にないことになります。

例えば、ジクロロ酢酸ナトリウム2-デオキシグルコースメラトニンなど世界中でがんの代替医療で使用され、臨床試験で有効性が示されている物質も、何十年も前から知られている物質で物質特許が取れないので、製薬会社は費用を負担して臨床試験を実施することも、医薬品として開発することもありません。研究者が公的なグラント(研究費)を使って小規模な臨床試験を行っている程度です。
  
また、サプリメントとして日本でも流通しているビタミンD3ドコサヘキサエン酸(DHA)などがん治療における有効性が臨床試験で証明された物質も、保険薬にはなり得ないので標準治療を行っている保険医が使うことはありません。このような薬やサプリメントは患者さんが自分の意思と自己責任で利用するしかないということになります。


がん治療以外の既存薬でも、抗がん作用が確認されれば、がん患者を対象にして新たに臨床試験を実施して、抗がん剤として適応を追加することはできます。
しかし、特許権の存続期間は原則として特許出願日から20年で、通常は臨床試験を開始する前に出願するので、臨床試験が終了して薬として認可される頃には特許は10年程度しか残っていません。さらにがん治療薬としての別の臨床試験が終わるころには特許が切れるので、そのような申請も行われない可能性が高いと言えます。
  
例えば、胃酸分泌阻害薬のシメチジン、糖尿病治療薬のメトホルミン、シクロオキシゲナーゼ-2阻害薬のセレコキシブ(celecoxib)、高脂血症治療薬のシンバスタチンなど、他の疾患の治療に用いられている薬で抗がん作用が臨床試験で示されている薬があります。これらは特許が切れているので今後がん治療薬として開発されることも認可されることもないと言えます。
がん治療の目的で使用しようとすると、保険適用の疾患を持っていなければ処方はできません。つまり、保険診療の医療機関では、保険適用の病気を持っていなければ、たとえがんに対する効果が証明されていても使えないことになります。
  
しかし、自由診療の医療機関であれば保険適用外の処方も可能になります。このようながん治療において有用な保険適用外使用の例は多くあり、そのような知識があれば、安い費用でがん治療の効果を高めることができます。
  
以上のような理由で、サプリメントやがん以外の治療に使われている既存薬や古くから知られている抗がん成分などは、たとえがん治療に有効性が証明されても、標準治療に使われることはないことになります。そして、それらはがんの補完・代替医療の重要な薬になります。

がんが縮小しなくても延命できる


標準治療における抗がん剤治療は最大耐用量の抗がん剤を投与します。
患者さんが副作用に耐えられる(死なない)範囲で最大限の投与量を設定するのが最も腫瘍の縮小効果(奏功率)が高いというのが、最大耐用量を投与する根拠になっています。
  
がん細胞を最大限に死滅させることが、患者の最大の利益になるという考えに基づいています。
薬剤耐性のがん細胞が出現する前にがんを全滅させるためには、最大の攻撃を行うことがベストだという理論です。
  
この方法は急性白血病や悪性リンパ腫のように抗がん剤が効きやすい腫瘍の場合は有効です。
しかし、抗がん剤が効きにくい固形がんの場合は、むしろ最大耐用量の抗がん剤投与は、正常細胞のダメージによる副作用が強くなるだけでなく、がん細胞の増殖や浸潤や転移を刺激する可能性が指摘されています。
  
例えば、高用量の抗がん剤投与によってがん組織が強くダメージを受けると、がん細胞やがん組織の間質にいるがん関連線維芽細胞などからダメージを受けたがん組織を修復するため様々な炎症性サイトカインケモカイン増殖因子などが産生されます。このような因子によって血管内皮前駆細胞が骨髄から動員されて、血管形成が促進されて、がん細胞の増殖や転移が促進することが明らかになっています。  
さらに、抗がん剤が遺伝子の突然変異を引き起こして、悪性度を促進させることも指摘されています。免疫細胞の働きを阻害する副作用もあります。
  
固形がんの場合、現在の抗がん剤治療では、最大の攻撃を加えても、全滅させることは不可能です。
固形がんに対して、最大耐用量の抗がん剤を投与する戦略では、腫瘍は一時的に縮小しても、薬剤耐性のがん細胞が増えて、次第に抗がん剤が効かなくなり、最終的には治療が失敗して患者は死にます。

このような最大耐用量投与による「がん細胞の最大の死滅を目指す抗がん剤治療」は、がん細胞の進化論の観点からは最適な治療とは言えず、むしろ薬剤耐性のがん細胞の出現を促進し、患者の死を早め、有害である可能性が指摘されています。

「がん細胞を最大に死滅させる」という目標でなく、「患者の生存期間を最大にする」という観点から治療法を再検討する必要があります。
「縮小なくして延命なし」という考えが正しく無いことは、最近の多くの研究で明らかになっています。

低用量の抗がん剤を継続的に服用するメトロノミック・ケモテラピー  

最大耐用量を投与する標準的な抗がん剤治療に代わって、最近注目を集めているのが、低用量頻回投与の抗がん剤治療で、メトロノミック・ケモテラピー(Metronomic Chemotherapy)と呼ばれる治療法です。
メトロノミックとは、リズムを刻む「メトロノームの様な」という意味で、メトロノミック・ケモテラピーとは、メトロノームのように規則的に低用量の抗がん剤を頻回に投与していく抗がん剤治療法です。 
  
最大耐用量を投与する抗がん剤治療では、正常組織のダメージを回復させる期間をもうけるために、週一回とか月に一回というように間歇的な投与法になりますが、この休薬期間に腫瘍血管内皮細胞が急速に再生し、腫瘍血管の新生が亢進して、腫瘍の増大が起こります。 
  
一方、メトロノミック・ケモテラピー(休薬期間をもうけない長期間の低用量投与)では、腫瘍の増大に必要な血管新生を抑制でき、がん細胞の増殖を阻止できると考えられています。 さらに、低用量の投与であるため、副作用が少なく、また免疫細胞の働きを抑えている制御性T細胞の働きを阻害するので、免疫力はむしろ高くなるという効果も報告されています。  

近年、メトロノミック・ケモテラピーの有効性を示す報告が多くなっており、最大耐用量を投与する現行の抗がん剤治療に代わる「体にやさしい抗がん剤治療法」として注目されつつあります。

がん治療に使える非がん治療薬の例  

がん以外の病気の治療薬で、がんの再発予防や治療に有用性が指摘されているものは多数あります。これらの中から、人間での効果が報告されているもの、副作用や安全性について問題の少ないもの、作用メカニズムがある程度判っているものなどが、「非がん治療薬の組合せによるがん治療」の候補になります。
  

単独では抗腫瘍効果の弱い非がん治療薬を組み合わせて、がん細胞の増殖を抑える方法を検討した研究論文も最近よく見かけるようになりました。
このような治療法のターゲットと候補の薬として次のようなものが報告されています。

ワールブルグ効果阻害
がん細胞はグルコースの取込みと解糖系が亢進し、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化が抑制されています。これを好気性解糖あるいは発見者の名前からワールブルグ効果と言います。このワールブルグ効果を正常の方向に仕向けるとがん細胞は死滅します。2−デオキシ-D-グルコースジクロロ酢酸ナトリウムメトホルミンなどが利用可能です。超低糖質高脂肪食によるケトン食も有効です。

血管新生阻害
がん細胞はVEGF(血管内皮細胞増殖因子)などの因子を分泌して腫瘍組織を養う血管を新たに作ります。血管新生の過程を阻止すればがん細胞の増殖を阻止できます。サリドマイド、COX-2阻害剤のcelecoxib(商品名:セレコックス)、駆虫薬のメベンダゾールなどが利用可能です。
また、メトロノミック・ケモテラピー(低用量のシクロフォスファミドの頻回投与など)も血管新生を阻害する効果があります。

シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)とVEGFは相乗的に血管新生を促進し、がん細胞の増殖や転移を促進していることが明らかになっています。COX-2阻害剤のセレコキシブ(celecoxib)はCOX-2活性とVEGFの産生の両方を阻害する作用があります。
セレコックスは単独では抗腫瘍効果は弱いのですが、多彩な抗腫瘍のメカニズムを持っているので、他の抗がん治療薬と組み合わせると相乗効果が期待できます。

細胞分裂阻害
がん細胞が増殖するために細胞分裂が亢進しています。細胞分裂を阻害する薬は標準治療で使われている抗がん剤に多くあります。その代表が微小管形成をターゲットにしたタキサン系やビンカアルカロイドです。しかし、これらは末梢神経障害などの強い副作用があります。副作用があまり無く微小管形成を阻害する既存薬としてメベンダゾールノスカピンが利用可能です。
メベンダゾールは駆虫薬、ノスカピンは非麻薬性鎮咳薬として使用されています。この2つはチュブリンのコルヒチン結合部位に結合してチュブリンの重合を阻害します。コルヒチン結合部位に作用する微小管阻害薬は神経障害を起こさないと言われています。

抗炎症作用
がん組織では炎症細胞が浸潤し、活性酸素や炎症性サイトカインの産生によって、がん細胞の増殖や血管新生が促進されます。炎症を増悪させるNF-κBなどの転写因子の活性を抑制したり、プロスタグランジン産生を高めるシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の活性を阻害すると、がん細胞の増殖を抑制できます。COX-2阻害剤のcelecoxib(セレコックス)などの非ステロイド性抗炎症剤が利用できます。COX-2によって産生されるプロスタグランジンは血管新生を促進し、がん細胞のアポトーシス抵抗性を亢進し、抗腫瘍免疫を抑制する作用があります。COX-2阻害剤のセレコックスは多数のメカニズムで抗腫瘍効果を発揮します。
NF-κBを活性化を阻害する作用がサリドマイドオーラノフィンに報告されています。オーラノフィンは慢性関節リュウマチの治療に使われています。

アポトーシス誘導
がん細胞はアポトーシス(細胞死)に抵抗性になっています。がん細胞内でのアポトーシスの制御に重要な関与をしているのがBcl-2やBaxといったBcl-2ファミリー遺伝子です。アポトーシスを阻止するBcl-2の活性や発現を抑制し、アポトーシスを誘導するBaxの活性や発現を促進するとがん細胞を死にやすくできます。
メベンダゾールcelecoxibにそのような作用が報告されています。

アルデヒド脱水素酵素阻害
がん幹細胞はアルデヒド脱水素酵素の活性が亢進しています。アルデヒト脱水素酵素はがん幹細胞の生存や増殖や自己複製に何らかの重要な働きを行っていることが指摘されています。アルコール中毒の治療薬のジスルフィラムはアルデヒド脱水素酵素の活性を阻害することによって抗がん作用を示すことが報告されています。

酸化ストレス亢進
がん細胞内で活性酸素の産生を高めると、酸化ストレスによってがん細胞の増殖を抑え、死滅させることができます。がん細胞に酸化ストレスを高める方法として、高濃度ビタミンC点滴、メトホルミン、ジクロロ酢酸ナトリウム、アルテミシニン誘導体、オーラノフィン、ジスルフィラムなどが利用できます。

漢方治療
薬草には体力や免疫力を高める成分、炎症を抑制し解毒を促進する成分、血管新生を阻害する成分、がん細胞の増殖を抑える成分などの宝庫です。これらの薬草を煎じて服用する漢方治療は症状の緩和や延命に有効です。

これらの他にも、副作用の少ない方法でがん細胞の増殖を抑える作用が期待できる薬やサプリメントは多くあります。抗がん剤の副作用が強い場合や、抗がん剤治療の効果が期待できない場合は、抗がん剤以外の代替療法も利用すれば、抗がん剤依存症から離脱できます。

○ がんの統合医療とは:

◯ がんの統合医療における問題点:なぜ日本で統合医療が広まらないのか?(リンク)

◯ がんの漢方治療や補完・代替療法に関するご質問やお問い合わせはメール(info@f-gtc.or.jp)でご連絡下さい。全て院長の福田一典がお答えしています。

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