漢方薬によるがんの補完医療:
がんの治療中や治療後に利用できる医療用漢方製剤

がんの治療中や治療後に起こりうる症状に対して、健康保険を使って医療用漢方製剤(エキス製剤)や煎じ薬を処方してもらうことができます。また、一部の漢方処方は薬局で購入できる製品(一般用漢方製剤)もあります。標準治療で症状の改善が見られない場合は、漢方治療を試してみると効果が出る場合があります。以下の表のような漢方処方が役に立ちます。

がんの治療中や治療後に利用できる可能性のある医療用漢方製剤(五十音順)
青字のものは一般用漢方製剤(薬局で購入可)があるもの

安中散(あんちゅうさん)

ストレスで胃がしくしく痛む、食欲がない、胸やけや胃もたれがある(がん一般の治療中)

胃苓湯(いれいとう)

水溶性下痢、嘔吐

茵ちん蒿湯(いんちんこうとう)

黄疸や肝硬変、口内炎

温清飲(うんせいいん)

乳がんのホルモン療法中のいらいらや精神不安

黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)

手術後の体力や抵抗力の低下。食欲不振、全身倦怠、体重減少。手術などの傷の治りが悪い。

黄連解毒湯(おうれんげどくとう)

がん一般の治療中の口内炎、いらいら、

黄連湯(おうれんとう)

胃もたれ、吐き気、口内炎

乙字湯(おつじとう)

加味帰脾湯(かみきひとう)

体力低下し、貧血気味で、精神不安を訴える。不眠や不安感

加味逍遥散(かみしょうようさん)

乳がんのホルモン療法中の更年期症状(いらいらや精神不安、肩こり、のぼせ、など)

桔梗湯(ききょうとう)

のどの痛み(扁桃炎、扁桃周囲炎)

きゅう帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)

痔出血や下血が続いて貧血やめまいがある

桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)

便秘(腹がはって大便を排泄したいが気持ち良く出ない、軟便やコロコロした便を排便した後またすぐに便意をもよおす)大腸がんの手術後など

桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)

開腹術後で腹部の膨満感や便通が不規則。便意を催すが快便しない。便秘と下痢を繰り返す。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

乳がんで体力のある人の更年期障害(のぼせ、肩こりなど)

桂枝茯苓丸加よく苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)

乳がん治療後やホルモン療法中の更年期症状(頭痛、肩こり、めまい、のぼせ)があり肌の荒れがある。生理不順や月経困難症

桂枝人参湯(けいしにんじんとう)

疲れやすく、食欲が低下し、吐き気、嘔吐、胃部停滞感、下痢

啓脾湯(けいひとう)

体力低下した人の下痢、消化不良

牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)

抗がん剤治療に伴う神経障害(しびれや神経痛)

五苓散(ごれいさん)

むくみ、下痢(がん一般)

柴陥湯(さいかんとう)

肺がんなどで、強い咳が出て、痰が切れにくく、胸痛を訴える

柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)

膵臓がんや胆のうがんの腹痛

柴朴湯(さいぼくとう)

気分が塞いで、食欲が無い。倦怠感がある

柴苓湯(さいれいとう)

水溶性下痢、むくみ

酸棗仁湯(さんそうにんとう)

心身ともに疲労して眠れない。精神不安

三黄瀉心湯(さんのうしゃしんとう)

乳がんのホルモン療法中で、体力があり便秘で、のぼせいらいらが強い

滋陰降火湯(じいんこうかとう)

体力低下し、のどに潤いがなく、粘稠な痰を伴う咳がある。微熱や便秘がある

滋陰至宝湯(じいんしほうとう)

体力低下した人の慢性の咳や痰。食欲不振や倦怠感(末期がんなど)

炙甘草湯(しゃかんぞうとう)

体力低下し、疲れやすく、動機、息切れを訴える

芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)

抗がん剤の副作用による筋肉痛(がん一般)

十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)

がん剤治療中や治療後の体力低下、骨髄抑制(貧血や白血球減少)

潤腸湯(じゅんちょうとう)

体力低下し、胃腸機能の衰えた人の便秘

小建中湯(しょうけんちゅうとう)

小児向けの滋養強壮薬

小柴胡湯(しょうさいことう)

慢性化した呼吸器感染

小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)

上気道の炎症性疾患(扁桃炎、扁桃周囲炎)

小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)

がん治療中の吐き気

真武湯(しんぶとう)

末期がんで全身機能が低下している。胃腸虚弱で消化不良

清暑益気湯(せいしょえっきとう)

体力低下、食欲不振、全身倦怠感、下痢、軟便、体重減少

清心蓮子飲(せいしんれんしいん)

残尿感、頻尿、排尿痛

清肺湯(せいはいとう)

体力低下した人の切れにくい痰を伴う咳。長引いて咽頭痛、声がれ、血痰がある

疎経活血湯(そけいかっけつとう)

関節痛、神経痛、筋肉痛

大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)

便秘

大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)

体力があって血液循環が悪い人の便秘

大建中湯(だいけんちゅうとう)

開腹手術後の腸管通過障害に伴う腹痛、腹部膨満

竹じょ温胆湯(ちくじょうんたんとう)

咳や痰が多く、眠れない

調胃承気湯(ちょういじょうきとう)

体力がある人の便秘

猪苓湯(ちょれいとう)

泌尿器系疾患で、排尿困難、排尿痛、残尿感、頻尿

猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)

頻尿、残尿感、排尿痛。
体力中等度で皮膚が乾燥し、色つやが悪い

桃核承気湯(とうかくじょうきとう)

体力がある人の便秘

当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)

性器出血や痔出血があり、貧血や冷え、下腹部や腰の痛みを訴える

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

体力虚弱で冷え症や貧血、むくみがある女性患者。がん一般で、体力の低下した女性で、めまい、たちくらみがある場合。乳がんのホルモン療法中の更年期障害。

二陳湯(にちんとう)

抗がん剤治療中などにおける吐き気、嘔吐、胃部不快感

女神散(にょしんさん)

乳がんのホルモン療法中でのぼせ、めまい、不安感、動機、不眠などの症状がある

人参湯(にんじんとう)

胃腸虚弱な人の下痢

人参養栄湯(にんじんようえいとう)

治療中および治療後の体力低下、食欲低下、貧血

麦門冬湯(ばくもんどうとう)

肺がんで咳や痰がでる。がん一般で、咽頭炎やしわがれ声。呼吸器や消化器など大きな手術後の呼吸器感染症

八味地黄丸(はちみじおうがん)

前立腺がん患者の残尿感、夜間頻尿、排尿困難

半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

がん患者全般における抑うつ、精神不安、動機、めまいなどの不安神経症の症状

半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)

塩酸イリノテカンによる抗がん剤治療中の下痢。がん一般で、みぞおちのつかえ感、吐き気、食欲低下、下痢(腹がはって軟便、下痢)、消化不良、げっぷ、むねやけ、口内炎

茯苓飲(ぶくりょういん)

胸焼け、吐き気、食欲不振

茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんはんげこうぼくとう)

気分がふさいで、胃内容物の停滞感や胃部膨満感がある。めまい、どうき、はきけ

防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)

乳がんや骨盤内臓器の手術(子宮がんや卵巣がん)後のリンパ浮腫、むくみ

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)

体力があって便秘がちで皮下脂肪の多い人の肥満。がんの再発リスクを高める肥満を解消する目的での使用。体重オーバーが再発リスクを高める乳がんや大腸がんなど

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

がん一般で、がん治療中および治療後の体力低下、免疫力低下(かぜをひきやすい)、感染症が治りにくい、食欲がない、疲れがとれない、下痢しやすいなど

麻子仁丸(ましにんがん)

大便の硬い人の便秘。病後の虚弱者

抑肝散(よっかんさん)

神経がたかぶって眠れない

抑肝散加陳皮半夏(よっかんさんかちんぴはんげ)

体力低下し神経過敏でいらいらして、眠れない。

六君子湯(りっくんしとう)

がん一般で、がん治療中および治療後で、食欲がない、疲れやすい、吐き気がある

竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)

排尿痛や残尿感(泌尿器・生殖器に炎症がある場合)

がんの治療中や治療後、緩和ケアなどの状況において、上記の68処方は、がんの種類や症状に応じて使い分けると、QOL(生活の質)の向上や体調の改善に有効です。がんの種類別に使用頻度の高い処方を以下にまとめています。

1)消化器系のがん(胃がん、大腸がん、食道がん)

消化器系のがんは消化管の一部を切除することが多いため、手術後の消化吸収機能に障害が残ることが多く、その結果、栄養状態の悪化、体力や抵抗力の低下、消化不良や下痢をきたしやすいのが特徴です。
抗がん剤治療が加わると、さらに食欲や体力や抵抗力(免疫力)の低下が著しくなります。このような、胃腸機能の失調による症状や、体力や抵抗力の低下に対しては、漢方治療が有効な場合が多くあります。
手術できない場合は、原発のがんによる症状(腹痛、腹部膨満感、吐き気、嘔吐など)に対して、標準治療を主体とした治療法で対処しますが、漢方治療をうまく併用することによって症状の緩和に役立つことがあります。
消化器系のがんを対象にした漢方治療の有効性に関する臨床試験の報告は多数あり、たとえば、六君子湯、補中益気湯、十全大補湯、半夏瀉心湯、大建中湯などの処方は臨床試験などで有効性のエビデンスが報告されています。

治療中

食欲がない、食事がおいしくない、吐き気や胸やけがある。

六君子湯、桂枝人参湯、茯苓飲、茯苓飲合半夏厚朴湯(気分がふさいでいる時)

吐き気が強い

小半夏加茯苓湯、二陳湯

胃がしくしく痛む、胸焼け、胃もたれがある

安中散、黄連湯

消化不良、軟便、下痢

啓脾湯、胃苓湯、人参湯、半夏瀉心湯

体重が減少し、体力低下や倦怠感が強い

補中益気湯

体力が低下し、貧血や白血球減少がある

十全大補湯、人参養栄湯

体力が低下し、不安で眠れない

加味帰脾湯

心身ともに疲労して眠れない

酸棗仁湯

体力が低下し、疲れやすく、動機や息切れをする

炙甘草湯

神経が高ぶって眠れない

抑肝散、抑肝散加陳皮半夏

不安感が強い、憂鬱で気分がはれない

半夏厚朴湯

便秘気味

潤腸湯、大黄甘草湯、麻子仁丸(大便が硬い)、調胃承気湯

慢性的に出血して貧血がある

当帰建中湯、きゅう帰膠艾湯。十全大補湯、人参養栄湯

手術後

再発予防

体力が低下し、体重が減少している

補中益気湯、清暑益気湯

貧血が続く、白血球の数が増えない

十全大補湯、人参養栄湯

手術後の傷の治りが悪い

黄耆建中湯

開腹手術後に腸管の通過が悪く、腹部膨満感がある。

大建中湯

開腹手術後の便通異常。腹部膨満感、便意を催すが快便しない。便秘と下痢を繰り返す

桂枝加芍薬湯、桂枝加芍薬大黄湯(便秘が強いとき)

胃腸機能が衰えて便秘がち

潤腸湯、大黄甘草湯、麻子仁丸(大便が硬い)

便秘(体力がある場合)

調胃承気湯、桃核承気湯


2)肺がん

肺がんは、咳や痰による症状、呼吸器感染症を合併しやすい特徴があります。手術で根治する早期例は比較的少なく、進行がんで見つかることが多いので、抗がん剤治療が中心になることが多く、副作用による症状が問題になることが多いです。抗がん剤治療中の副作用に関しては他のがんの場合と大差はありません。
肺がんの抗がん剤治療中に漢方薬を併用すると、副作用が軽減し、抗腫瘍効果が高まり、生存率が高まるというメタ解析(複数のランダム化臨床試験を統計的に解析すること)の結果が報告されています。

治療中

咳や痰が多い。痰が切れない

麦門冬湯、清肺湯

喉に潤いがなく、粘稠な痰がでる。微熱や便秘がある

滋陰降火湯

咳と痰が長く続き、食欲と体力が低下し倦怠感が強い

滋陰至宝湯

咳き込んで胸に痛みがある

柴陥湯

咳や痰が多く、眠れない

竹じょ温胆湯

微熱が続いて、倦怠感がある

小柴胡湯

食欲がない、食事がおいしくない、吐き気がある

六君子湯

吐き気が強い

小半夏加茯苓湯、二陳湯

体重が減少し、体力低下や倦怠感が強い

補中益気湯

体力が低下し、貧血や白血球減少がある

十全大補湯、人参養栄湯

体力が低下し、不安で眠れない

加味帰脾湯

心身ともに疲労して眠れない

酸棗仁湯

体力が低下し、疲れやすく、動機や息切れをする

炙甘草湯

消化不良、軟便、下痢

啓脾湯、胃苓湯、人参湯、半夏瀉心湯

手足がしびれる(抗がん剤の副作用)

牛車腎気丸、疎経活血湯

不安感が強い

半夏厚朴湯

手術後
再発予防

食欲がない

六君子湯

倦怠感がつよい

補中益気湯、清暑益気湯

貧血が続く、白血球の数が増えない

十全大補湯、人参養栄湯

再発が心配で不安感が強い、眠れない

加味帰脾湯、半夏厚朴湯

咳が続いている

麦門冬湯、小柴胡湯


3)乳がん

乳がんは消化器がんや肺がんなど他のがんに比べると予後は良く(治りやすい)、手術侵襲も少ないので、体力や栄養状態が問題になることは少ないようです。
しかし、進行した乳がんの場合は、抗がん剤治療による副作用や、リンパ節廓清によるリンパ浮腫、ホルモン療法による副作用(更年期障害など)など様々な問題が生じます。
がんの漢方治療で多く使用される高麗人参や甘草にはエストロゲン作用が指摘されているので、ホルモン療法中は特別な必要性がなければ、これらの入った処方は使用しない方が無難かもしれません(問題無いと言う意見もありますが、懸念されている以上は、問題無いというエビデンスが確立するまでは、避けておくのが無難です)
ホルモン依存性乳がんの場合は、手術後に長期間(5年以上)ホルモン療法が再発予防の目的で行われます。ホルモン療法の副作用対策は「治療中」と「手術後の再発予防」の両方で問題になります。

治療中

 

 

体力が低下し、貧血気味で、めまい、立ちくらみがある

当帰芍薬散

ホルモン療法中の更年期障害(のぼせ、肩こり、めまい、など)

当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、桂枝茯苓丸加よく苡仁、

精神不安があっっていらいらする。

温清飲、加味逍遥散

ホルモン療法中などで、のぼせ、不安感、動機、不眠が強い

女神散

食欲がない、食事がおいしくない、吐き気や胸やけがある。

茯苓飲、茯苓飲合半夏厚朴湯(気分がふさいでいる時)

吐き気が強い

小半夏加茯苓湯、二陳湯

胃がしくしく痛む、胸焼け、胃もたれがある

安中散、黄連湯

しびれ、神経痛

牛車腎気丸、疎経活血湯

筋肉痛

芍薬甘草湯

神経が高ぶって眠れない

抑肝散、抑肝散加陳皮半夏

不安感が強い、憂鬱で気分がはれない

半夏厚朴湯

便秘気味

潤腸湯、大黄甘草湯、麻子仁丸(大便が硬い)、調胃承気湯

食欲や体力が低下し、倦怠感が強い
(ホルモン依存性で無いとき)

補中益気湯、清暑益気湯

体力が低下し、貧血や白血球減少ある
(ホルモン依存性で無いとき)

十全大補湯、人参養栄湯、加味帰脾湯

手術後

再発予防
(術後のホルモン療法を含む)

体力が低下し、貧血気味で、めまい、立ちくらみがある

当帰芍薬散

ホルモン療法中の更年期障害(のぼせ、肩こり、めまい、など)

当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、桂枝茯苓丸加よく苡仁、加味逍遥散、温清飲、女神散

リンパ浮腫、むくみ

五苓散、防已黄耆湯

手足がしびれる(抗がん剤の副作用)

牛車腎気丸、疎経活血湯

不安感が強い

半夏厚朴湯

体力があって便秘がちで皮下脂肪の多い
(肥満は再発リスクを高めるので、減量は再発予防に役立つ)

防風通聖散

便秘気味

潤腸湯、大黄甘草湯、麻子仁丸(大便が硬い)、調胃承気湯

体力があって血液循環が悪い人の便秘

桃核承気湯、大黄牡丹皮湯

便秘でのぼせとイライラが強い

三黄瀉心湯

貧血が続く、白血球の数が増えない
(ホルモン依存性で無いとき)

十全大補湯、人参養栄湯

再発が心配で不安感が強い、眠れない

加味逍遥散、半夏厚朴湯

手術後の傷の治りが悪い

黄耆建中湯


4) 前立腺がん

前立腺がんは比較的ゆっくり増殖することが多く、早期に見つかった場合は身体的侵襲(体力的負担)の少ない治療法(放射線治療や内分泌療法など)で根治することが多いがんです。年をとってから発症するがんの代表で、高齢者に多いため、高齢に起因する症状(体力低下、下肢倦怠感、腰痛など)を訴える場合も少なくありません。また、前立腺肥大症を合併している場合は、排尿困難(尿が出にくい)、頻尿(尿の回数が多い)、残尿感(排尿後、尿が出切らないで残った感じがする)、夜間多尿、尿意切迫(尿意を感じるとトイレに行くまでに排尿を我慢できない状態)、下腹部不快感などの症状が問題になります。このような症状は漢方治療の対象になります。
放射線治療の副作用としては、前立腺のすぐ後ろに直腸があるため、頻便や排便痛、出血、また膀胱への刺激により頻尿や排尿痛などが挙げられ、照射方法によっては放射線皮膚炎や下痢が生ずることがあります。
内分泌療法の副作用としては急に発汗したり、のぼせやすくなる”hot flash”(ホットフラッシュ)と呼ばれる症状が起こることが一般的です。抗男性ホルモン剤を使用した場合には下腹部に脂肪がつきやすく体重が増加しやすくなります。女性ホルモン剤では心臓や脳血管に悪影響を及ぼし、重篤な場合には心不全や脳梗塞などが起こることがあります。
進行がんではドセタキセルなどの抗がん剤治療が行われ、骨髄抑制や食欲低下や倦怠感やしびれなどの副作用が問題になります。以上のような治療に伴う副作用の緩和に漢方治療は有用です。

治療中

排尿困難、残尿感、頻尿、排尿痛がある

猪苓湯、清心蓮子飲

排尿困難、残尿感、頻尿、排尿痛があり、皮膚が乾燥し、色つやが悪い

猪苓湯合四物湯

泌尿器・生殖器に炎症があって、排尿痛や残尿感がある

竜胆瀉肝湯

下半身の疲労脱力、腰痛、夜間の頻尿、排尿困難

八味地黄丸、牛車腎気丸

放射線治療後の下血

きゅう帰膠艾湯

性器出血や下血があり、貧血、下腹部や腰の痛みがある

当帰建中湯

食欲低下、全身倦怠感

六君子湯、補中益気湯

消化不良、軟便、下痢

啓脾湯、胃苓湯、人参湯、半夏瀉心湯

体力が低下し、貧血や白血球減少がある

十全大補湯、人参養栄湯

体力が低下し、不安で眠れない

加味帰脾湯

ホットフラッシュ(急な発汗、のぼせ)

 

桂枝茯苓丸、加味逍遥散、黄連解毒湯、女神散、
三黄瀉心湯(便秘がある場合)

手術後

再発予防

食欲が低下、体重が減少し、体力低下や倦怠感が強い

六君子湯、補中益気湯、清暑益気湯

貧血が続く、白血球の数が増えない

十全大補湯、人参養栄湯

下半身の疲労脱力、腰痛、夜間の頻尿、排尿困難

八味地黄丸、牛車腎気丸

腰痛、しびれ、神経痛

牛車腎気丸、疎経活血湯


5)肝臓がん

現在の日本では、肝細胞がんの80%がC型肝炎ウイルス(HCV)、15%がB型肝炎ウイルスの持続感染に起因すると試算されています。したがって、肝臓がん患者さんは慢性肝炎や肝硬変による症状(食欲不振、全身倦怠感、腹部膨満感、便秘・下痢など便通異常など)が問題になるのが他のがんと異なる特徴です。また、肝臓全体が発がんリスクが高い状態にあるため、治療後の再発が多いのも特徴です。
外科療法、穿刺療法(経皮的エタノール注入療法、ラジオ波焼灼療法など)、肝動脈塞栓術の3療法が中心です。最近では陽子線、重粒子線などの放射線治療が、肝がんの治療に適応されることもあります。抗がん剤治療は、他の治療で効果が得られない場合に行われることがありますが、治療効果があまり高くないのが現状です。
慢性肝炎や肝硬変による症状の改善、治療に伴う副作用の軽減、再発予防の目的で漢方治療が役立ちます。抗がん剤治療との併用で生存率が向上することを示すメタ解析の結果や、十全大補湯が肝臓がんの治療後の再発を予防する効果が報告されています。
インターフェロン治療中は漢方薬の併用で間質性肺炎の発症が高まる可能性が指摘されているため、漢方治療の併用はできません。

治療中

(インターフェロン治療中は併用しない)

体力消耗が著しく、下肢倦怠感、下痢、盗汗がある

補中益気湯

食欲が無い、元気がない、疲れやすい、下痢気味

六君子湯

胃がしくしく痛む、胸焼け、胃もたれがある

安中散、黄連湯

体力が低下し、胃腸が弱り、消化不良、下痢がある

啓脾湯、人参湯、桂枝人参湯、半夏瀉心湯

憂鬱、イライラ、不安感がある

加味逍遥散

体力低下、貧血、白血球減少

十全大補湯、人参養栄湯

下痢、むくみ

五苓散、柴苓湯、猪苓湯

みぞおちから上腹部、脇腹にかけてつまった圧迫感がある。食欲がない。口が苦く、粘った感じや、吐き気がある。

小柴胡湯

体力低下し、貧血気味で不眠や不安感がある

加味帰脾湯

心身ともに疲労して眠れない

酸棗仁湯

体力が低下し、疲れやすく、動機や息切れをする

炙甘草湯

痔がひどくなった

乙字湯

痔や下血によって慢性的に出血して貧血がある

当帰建中湯、きゅう帰膠艾湯。十全大補湯、人参養栄湯

こむら返りが起こる

芍薬甘草湯

いらいら、めまい、ふらつき、動悸、神経が高ぶって眠れない

抑肝散、抑肝散加陳皮半夏

不安感が強い、憂鬱で気分がはれない

半夏厚朴湯

黄疸がある

茵ちん蒿湯

手術後の傷の治りが悪い

黄耆建中湯

開腹手術後に腸管の通過が悪く、腹部膨満感がある。

大建中湯

開腹手術後の便通異常。腹部膨満感、便意を催すが快便しない。便秘と下痢を繰り返す

桂枝加芍薬湯、桂枝加芍薬大黄湯(便秘が強いとき)

胃腸機能が衰えて便秘がち

潤腸湯、大黄甘草湯、麻子仁丸(大便が硬い)

便秘(体力がある場合)

調胃承気湯、桃核承気湯

手術後

再発予防

食欲がない、食事がおいしくない、吐き気がある

六君子湯

体重が減少し、体力低下や倦怠感が強い

補中益気湯

体力が低下し、貧血や白血球減少がある

十全大補湯、人参養栄湯

上腹部が重苦しい、微熱が続いて倦怠感がある

小柴胡湯

再発が心配で不安感が強い、眠れない

加味帰脾湯、半夏厚朴湯


6)膵臓がん

膵臓がんは難治性がんの代表です。早期発見が難しく、見つかった時点で手術が不可能な場合が多いがんです。手術できても再発率が高く、予後が悪いがんです。手術できない場合は、抗がん剤治療が主体になりますが、膵臓がんは抗がん剤治療が効きにくいがんです。
がんが進行すると、食欲や体力の低下、体重減少、倦怠感、腹痛や腰痛、消化不良や下痢などの症状が強くなります。抗がん剤治療の副作用軽減や、がんの進行に伴う症状の改善が漢方治療の主な目標になります。

治療中

食欲がない、食事がおいしくない、吐き気や胸やけがある。

六君子湯、桂枝人参湯、茯苓飲、茯苓飲合半夏厚朴湯(気分がふさいでいる時)

体重が減少し、体力低下や倦怠感が強い

補中益気湯

体力が低下し、貧血や白血球減少がある

十全大補湯、人参養栄湯

体力が低下し、不安で眠れない

加味帰脾湯

胃がしくしく痛む、胸焼け、胃もたれがある

安中散、黄連湯

消化不良、軟便、下痢

啓脾湯、胃苓湯、人参湯、半夏瀉心湯

便秘気味

潤腸湯、大黄甘草湯、麻子仁丸(大便が硬い)、調胃承気湯

上腹部が重苦しい、微熱が続いて倦怠感がある、腹痛がある

小柴胡湯、柴胡桂枝湯、芍薬甘草湯

吐き気が強い

小半夏加茯苓湯、二陳湯

不安感が強い、憂鬱で気分がはれない

半夏厚朴湯

手術後

再発予防

食欲がなく、体力が低下し、体重が減少している

六君子湯、補中益気湯、清暑益気湯

貧血が続く、白血球の数が増えない。体力が低下し倦怠感がある

十全大補湯、人参養栄湯

再発が心配で不安感が強い、眠れない

加味帰脾湯、半夏厚朴湯

開腹手術後に腸管の通過が悪く、腹部膨満感がある。

大建中湯

開腹手術後の便通異常。腹部膨満感、便意を催すが快便しない。便秘と下痢を繰り返す

桂枝加芍薬湯、桂枝加芍薬大黄湯(便秘が強いとき)


7)その他のがん

「がんに漢方は効かない」という意見があります。確かに、がんの縮小効果を優先する西洋医学の基準では、漢方治療はがんにはほとんど効きません。しかし、栄養状態を良くしたり、体力や免疫力を高め、がん治療の副作用を軽減し、症状を改善することができれば、がん治療に役立つはずです
漢方治療を併用して延命効果が得られることを示す臨床試験の結果も報告されています。体の治癒力を高め、様々な症状に対処できる漢方治療は、西洋医学の標準治療を補完する治療法として有用です

治療中

食欲がない、食事がおいしくない

六君子湯、

疲れやすく、食欲が低下し、吐き気や胃もたれ、下痢がある

桂枝人参湯

胸焼け、吐き気、食欲不振

茯苓飲、茯苓飲合半夏厚朴湯(気分がふさいでいる時)

胃がしくしく痛む、胸焼け、胃もたれがある

安中散、黄連湯

吐き気が強い

小半夏加茯苓湯、二陳湯

消化不良、軟便、下痢

啓脾湯、胃苓湯、人参湯、半夏瀉心湯

体重が減少し、体力低下や倦怠感が強い

補中益気湯、清暑益気湯

体力が低下し、貧血や白血球減少がある

十全大補湯、人参養栄湯

体力が低下し、不安で眠れない

加味帰脾湯

心身ともに疲労して眠れない

酸棗仁湯

体力が低下し、疲れやすく、動機や息切れをする

炙甘草湯

いらいら、めまい、ふらつき、動悸、神経が高ぶって眠れない

抑肝散、抑肝散加陳皮半夏

不安感が強い、憂鬱で気分がはれない

半夏厚朴湯、加味逍遥散

便秘気味

潤腸湯、大黄甘草湯、麻子仁丸(大便が硬い)、調胃承気湯

慢性的に出血して貧血がある

当帰建中湯、きゅう帰膠艾湯。十全大補湯、人参養栄湯

咳や痰が多い。痰が切れない

麦門冬湯、清肺湯

微熱が続いて、倦怠感がある、上腹部の圧迫感がある

小柴胡湯

下痢、むくみ

五苓散、柴苓湯、猪苓湯

こむら返りが起こる

芍薬甘草湯

黄疸がある

茵ちん蒿湯

手術後の傷の治りが悪い

黄耆建中湯

開腹手術後に腸管の通過が悪く、腹部膨満感がある。

大建中湯

開腹手術後の便通異常。腹部膨満感、便意を催すが快便しない。便秘と下痢を繰り返す

桂枝加芍薬湯、桂枝加芍薬大黄湯(便秘が強いとき)

胃腸機能が衰えて便秘がち

潤腸湯、大黄甘草湯、麻子仁丸(大便が硬い)

便秘(体力がある場合)

調胃承気湯、桃核承気湯

口内炎

茵ちん蒿湯、黄連解毒湯

のどの痛み、扁桃炎

桔梗湯、小柴胡湯加桔梗石膏

腰痛、しびれ、神経痛

牛車腎気丸、疎経活血湯

手術後

再発予防

食欲がない

六君子湯

倦怠感がつよい

補中益気湯、清暑益気湯

貧血が続く、白血球の数が増えない

十全大補湯、人参養栄湯

再発が心配で不安感が強い、眠れない

加味帰脾湯、半夏厚朴湯

咳が続いている

麦門冬湯、小柴胡湯

小児の体力低下、虚弱体質

小建中湯

 

 


8)緩和ケア

栄養状態を良くし、体力や生体防御力を高めるだけで延命効果が期待できます。がん性悪液質を改善すれば、QOL(生活の質)を高め、延命効果が得られます。症状が緩和しQOLを高めることができれば、残された時間を有意義に過ごすことができます。

食欲がない、食事がおいしくない

六君子湯、

疲れやすく、食欲が低下し、吐き気や胃もたれ、下痢がある

桂枝人参湯

胸焼け、吐き気、食欲不振

茯苓飲、茯苓飲合半夏厚朴湯(気分がふさいでいる時)

胃がしくしく痛む、胸焼け、胃もたれがある

安中散、黄連湯

吐き気が強い

小半夏加茯苓湯、二陳湯

体重が減少し、体力低下や倦怠感が強い

補中益気湯

体力が低下し、貧血や白血球減少がある

十全大補湯、人参養栄湯

体力が低下し、不安で眠れない

加味帰脾湯

いらいら、めまい、ふらつき、動悸、神経が高ぶって眠れない

抑肝散、抑肝散加陳皮半夏

不安感や抑うつ感が強い

半夏厚朴湯、柴朴湯

イライラする

加味逍遥散

心身ともに疲労して眠れない

酸棗仁湯

体力が低下し、疲れやすく、動機や息切れをする

炙甘草湯

消化不良、軟便、下痢

啓脾湯、胃苓湯、人参湯、半夏瀉心湯

全身機能が低下し、胃腸が弱り下痢気味

真武湯

咳や痰が多い。痰が切れない

麦門冬湯、清肺湯

喉に潤いがなく、粘稠な痰がでる。微熱や便秘がある

滋陰降火湯

咳と痰が長く続き、食欲と体力が低下し倦怠感が強い

滋陰至宝湯

咳き込んで胸に痛みがある

柴陥湯

咳や痰が多く、眠れない

竹じょ温胆湯

微熱が続いて、倦怠感がある、上腹部の圧迫感がある

小柴胡湯

手足がしびれる(抗がん剤の副作用)

牛車腎気丸、疎経活血湯

慢性的に出血して貧血がある

当帰建中湯、きゅう帰膠艾湯。十全大補湯、人参養栄湯

下痢、むくみ

五苓散、柴苓湯、猪苓湯

こむら返りが起こる

芍薬甘草湯

黄疸がある

茵ちん蒿湯

傷の治りが悪い

黄耆建中湯

開腹手術後に腸管の通過が悪く、腹部膨満感がある。

大建中湯

開腹手術後の便通異常。腹部膨満感、便意を催すが快便しない。便秘と下痢を繰り返す

桂枝加芍薬湯、桂枝加芍薬大黄湯(便秘が強いとき)

胃腸機能が衰えて便秘がち

潤腸湯、大黄甘草湯、麻子仁丸(大便が硬い)

口内炎

茵ちん蒿湯、黄連解毒湯、黄連湯

のどの痛み、扁桃炎

桔梗湯、小柴胡湯加桔梗石膏

腰痛、しびれ、神経痛

牛車腎気丸、疎経活血湯

排尿困難、残尿感、頻尿、排尿痛がある

猪苓湯、清心蓮子飲

排尿困難、残尿感、頻尿、排尿痛があり、皮膚が乾燥し、色つやが悪い

猪苓湯合四物湯

泌尿器・生殖器に炎症があって、排尿痛や残尿感がある

竜胆瀉肝湯

下半身の疲労脱力、腰痛、夜間の頻尿、排尿困難

八味地黄丸、牛車腎気丸

放射線治療後の下血

きゅう帰膠艾湯

性器出血や下血があり、貧血、下腹部や腰の痛みがある

当帰建中湯

内容が決まったエキス顆粒製剤では、がん治療の補完・代替医療としては限界があります。生薬を組み合せて作る煎じ薬は、症状や治療の状況により合った漢方薬を作成できます。また、抗がん作用のある生薬を多く使えば、がん細胞の増殖を抑える効果も得られます。

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