Q-13:手術や化学療法、放射線療法を受ける前に服用しておくと効果のある漢方薬はありますか?

薬用人参黄耆の組み合わせは、手術や化学療法などの侵襲的治療に対する抵抗力や適応能力を高めることが知られています。

代表的な漢方薬として補中益気湯十全大補湯人参養栄湯があり、これらを服用しておくと、がんの侵襲的治療による体力や抵抗力の低下などの副作用を防止する効果が期待できます。

【補剤の体力増強、免疫賦活作用】

人参・黄耆・朮・茯苓・甘草などは体力や免疫力を高める生薬ですが、これらは単球/マクロファージの活性化により感染防御や抗腫瘍に働く細胞性免疫を賦活化することが知られています。気を補う漢方薬(補気剤という)の代表である補中益気湯の投与は免疫力を高めることが報告されています。人参養栄湯十全大補湯という漢方薬にはさらに骨髄の造血機能を回復させる効果も証明されています。このような漢方薬には生体防御のひずみを是正して免疫細胞の働きを高め、特に栄養不全・加齢・ストレスや慢性疾患における細胞性免疫機能の低下を改善する作用が期待できます。

神奈川県立がんセンター外科の岡本らは、マウスにおける実験において、十全大補湯混合飼料を摂取させることによって、悪液質誘起作用のあるTNF-αによる体重減少を阻止し、TNF負荷によって誘導されるNK細胞活性の低下を軽減することを報告しています。これらの実験結果より、十全大補湯には悪液質からくる体重減少や、免疫能の低下を軽減する作用のあることが明らかになっています。

悪性腫瘍術後のの愁訴として多く経験する易疲労感や精神的不安感・睡眠障害などに対して十全大補湯や補中益気湯などの補剤が有効であることが示されています。消化器腫瘍を対象として、化学療法による食欲不振や全身倦怠感などの症状の改善を目的として補中益気湯を用いた治験が行われ、80%以上の患者において、食欲不振や全身倦怠感の改善が認められています。

手術などで抵抗力や免疫力が低下すると、健常人には感染しないような弱毒菌にも感染して重篤な状態に陥りやすくなります。これを日和見感染といいます。補剤は免疫力を高めることにより日和見感染を含めて感染症全般に対する抵抗力を高める効果があります。

【十全大補湯の骨髄機能改善作用】

関西医科大学の池原らは、放射線照射マウスに対して十全大補湯が多能性造血幹細胞の活性を促進することを明らかにしています。生体防御に関与する血球系の細胞は、多能性造血幹細胞から、常にホメオスターシスを維持しながら供給されています。したがって多能性造血幹細胞活性の増強は、生体防御に関与しているT細胞・B細胞・NK細胞・マクロファージ・顆粒球・血小板などの活性化にも間接的につながり、十全大補湯による骨髄機能に対する種々の効果を説明することができるのです。
さらにその活性成分について検討した結果、その中に含まれているオレイン酸やリノレン酸などの不飽和脂肪酸が、その作用の本態であることを突き止めています。これらの脂肪酸は造血幹細胞に直接作用するのではなく、造血支持細胞に働きかけて間接的に多能性幹細胞の増殖を刺激する作用であることを報告しています。
しかし、これらの脂肪酸は食事中からも多く摂取しており、これらの脂肪酸を多く含む方剤も多くあるので、ヒトにおける放射線障害に対する十全大補湯の予防効果を単純に脂肪酸だけの作用で説明するには無理があるかもしれません。他の成分が脂肪酸の作用を強めている可能性や、低分子量成分や多糖類成分にも造血系を刺激する活性があることも報告されています。

副作用を抑えるというのは抗ガン剤そのものの作用を抑えている可能性もありますが、十全大補湯を投与すると抗ガン剤の血中濃度は上昇していたという報告もあります。十全大補湯には抗ガン剤の濃度を高めながら副作用を軽減しするという理想的な効果があるようです。顆粒球減少症に対してはG-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)が使用されますが、十全大補湯を併用することによりG-CSFの使用量が減ったという報告があります。高価な薬の使用量を減らせるメリットは大きいと思います。十全大補湯それ自身に転移抑制や再発予防などの抗腫瘍効果が報告されています。

十全大補湯などの作用の一部は、茯苓・芍薬・桂皮・甘草などの単味生薬の煎液でも多少は認められますが、最適投与濃度においてもいずれも方剤をこえる効果は通常みられません。これは、方剤が複合的、相乗的に作用していることを示唆しています。

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◯ がんの漢方治療や補完・代替療法に関するご質問やお問い合わせはメール(info@f-gtc.or.jp)でご連絡下さい。全て院長の福田一典がお答えしています。

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