【マルチビタミン・ミネラル】
(カロテノイド、ビタミンC、ビタミンE、コエンザイムQ10、セレン、亜鉛など)


【抗がん作用の根拠】

 抗酸化性ビタミンと言われるカロテノイド、ビタミンC、ビタミンE、コエンザイムQ10は、体内で発生する活性酸素やフリーラジカルを消去することによって、がんや老化に対する予防効果が期待されています。 
 セレンは、生体の抗酸化システムで重要な役割を果たすグルタチオン・ペルオキシダーゼ活性に必要であり、セレンの補充は体内の抗酸化力を高めることによってがん予防効果を発揮すると考えられています。
 亜鉛は多くの酵素の働きに必要で、不足すると免疫機能など様々な生理機能の低下を引き起こします。亜鉛の補充により放射線による皮膚障害が軽減するという研究報告もあります。
 5大栄養素(炭水化物、蛋白質、脂質、ビタミン、ミネラル)は食事からの摂取が基本ですが、通常の食事でもビタミンやミネラルは不足しがちであり、がん患者では特に、ビタミンやミネラルの消耗による不足がみられます。ビタミンやミネラルは様々な酵素反応に必要であり、これらの不足は生理機能の低下を引き起こします。
 以上のような観点から、マルチビタミン・ミネラル、特に抗酸化能や免疫機能を高めるカロテノイド、ビタミンC、ビタミンE、コエンザイムQ10、セレン、亜鉛などを主体にしたサプリメントが、がんの予防や治療の補助として利用されています。

【注意すべき点】

 抗がん剤や放射線治療中に抗酸化性のサプリメントを併用することは、抗がん剤の抗腫瘍効果を高め、副作用を軽減する効果があると、メリットを強調する意見があります。しかし一方、抗がん剤治療や放射線療法は、どちらもフリーラジカルの細胞障害作用を利用するのであるから、これらの治療中はフリーラジカルを消去するような抗酸化性のサプリメントを過剰に摂取することは推奨されないという見解が、がん専門医の間では主流です。
 飲酒や喫煙をしている人では、ベータカロテンの摂取は発がん過程を促進する結果が数多く報告されています。酸素分圧の高い組織ではベータカロテンが抗酸化剤ではなく酸化剤として作用する可能性や、薬物代謝酵素のcytochrome P450を誘導することによって発がん物質の活性化促進や酸化ストレス亢進の原因となって発がん促進剤(co-carcinogen)となる可能性が指摘されています。カロテノイドを利用する場合には、アルファカロテンやリコペンなどを含むマルチ・カロテノイドを使用するのが安全で、ビタミンCやビタミンEなど他の抗酸化性ビタミンとバランス良く摂取するべきです。
 ビタミンCの大量の摂取は、メソトレキセートと併用すると、腎機能障害を引き起こす危険性が指摘されています。ビタミンCによって尿が酸性化すると、メトトレキセートの代謝産物(7-hydroxymethotrexate)が不溶性になって尿細管の中で沈殿し腎障害を引き起こすことが報告されています。また、メソトレキセートは、ビタミンB群の葉酸の代謝を阻害することによって抗がん作用を発揮するため、葉酸を含むサプリメントはメソトレキセートによる治療に影響を及ぼします。
 亜鉛の過剰摂取は発がんリスクを高めるという報告があります。1日100mg以上の亜鉛をサプリメントとして服用している人は前立腺がんが発生するリスクが約2倍以上に上昇することが、臨床試験で明らかになっています。亜鉛とセレンの吸収は拮抗関係にあり、亜鉛の摂取量を増やすとセレンの吸収が低下することが、発がんリスク増加の機序として指摘されています。
 マルチ・カロテノイド、ビタミンC、ビタミンE、コエンザイムQ10、セレン、亜鉛などをがんの発生予防や再発予防の目的で利用するときには、これらの多種類のビタミンやミネラルをバランス良く複合したサプリメントを適量補充することが大切で、単独での摂取や偏った過剰摂取は勧められません。
 がん治療中は、不足しがちなビタミンやミネラルを補充することは大切ですが、過剰な摂取は治療を妨げる場合もあるということを認識しておく必要があります。

【メモ1】抗がん剤や放射線治療中の抗酸化性ビタミンの是非について:

 医学的な結論はまだ出ていないのですが、抗がん剤や放射線治療中には、抗酸化物質の過剰な摂取は、治療効果を弱めるという意見があります。
 抗がん剤治療や放射線療法は、どちらも活性酸素などのフリーラジカルの力を利用してがん細胞を壊そうという治療法です。したがって、これらの治療と併用して、活性酸素やフリーラジカルを消去する効果をもつ抗酸化性の健康食品やサプリメント(ビタミンC,ビタミンE,コエンザイムQ10,カロテノイド, フラボノイドなど)を併用すると、これらの治療効果を妨げるという意見が米国などでは主流になっています。抗がん剤や放射線治療を受けている最中には抗酸化作用をもったサプリメントは使用しないように指導されるのが一般的です。
 しかし反対の意見も多くあります。抗がん剤や放射線治療中に抗酸化性のサプリメントを併用する方が、副作用は少なく、抗腫瘍効果も高めることができるというメリットを強調している論文も多く発表されています。これらの論文では、「天然の抗酸化物質が、生体内で通常のがん治療を妨げる可能性を示唆する証拠はない」「抗酸化剤の投与は、それが化学療法や放射線療法との併用の有無に拘わらず多くの有益な効果を示す」「抗酸化剤のサプリメントを摂取している人は、そうでない人に比べて、通常治療によく耐え、体重減少が少なく、生活の質が良くなり、延命している」という記載がなされています。中には、抗がん剤や放射線治療中に抗酸化性サプリメントの大量摂取を推奨するような代替医療もあります。
 一般的に、抗がん剤や放射線治療中に、野菜や果物など抗酸化物質の豊富な食事を摂取することは標準治療でも推奨されています。基本的には、抗酸化性ビタミンもいろんなものをバランスよく、適切な量を摂取している限りはがんの予防や治療において特に大きな問題になることはありません。
 しかし、問題は摂取する量です。サプリメントを利用すると野菜や果物から摂取される数十倍の量を摂取する場合があり、このような場合は、抗がん剤や放射線治療への影響を考えておく必要があります。特に、ビタミンEやコエンザイムQ10やカロテノイド類など脂溶性の抗酸化性ビタミンは、食事からは摂取できないような大量を、サプリメントでは簡単に摂取できるので注意が必要です。
 抗酸化性のサプリメントを過剰に摂取することがメリットがあるかどうかは賛否両論があるのは確かですが、現時点では推奨されないというのががん専門医の見解であり、はっきりした結論が出るまでは、抗がん剤や放射線治療の最中は、抗酸化性サプリメントを必要以上に摂取するのは控える方が無難です。

【メモ2】抗酸化剤はがん進展を抑制する?

 体のなかで絶えず発生する活性酸素を消去し、酸化障害から体を守る防御システムが体には備えられています。活性酸素などのフリーラジカルを消去する物質をラジカル・スカベンジャーとか抗酸化物質と呼びます。スカベンジャーとは「清掃者」という意味であり、抗酸化物質とはフリーラジカルに電子を与えることができる物質です。体内では前述のSODやカタラーゼなどの消去酵素や、さらにカロテノイドやビタミンEやビタミンCなどの抗酸化物質が、次々に発生する活性酸素を消去していき、体内の酸化防御システムを形成しています。
 しかし、この酸化防止の能力は年齢とともに徐々に衰えていきます。私たち人間の酸化防止能力のピークは20歳台で、40歳を過ぎる頃から急速に衰えていくといわれています。がん年齢というのは、まさに酸化防止能力や免疫監視機構の能力が低下する時期と一致しています。若いうちは、発生する活性酸素を片っ端からスカベンジャーが退治してくれることで、酸化が進まないように食い止めることができますが、そのうちスカベンジャーのパワーが追いつかなくなってくるのです。そうすると活性酸素が勢力をふるい始め、酸化が否応なしに進み、老化やがんの原因となるのです。
 アメリカのD.ハーマン博士は老化の原因は活性酸素にあると提唱しています。体の中の様々な組織や器官が酸化されるとこれらの臓器や組織の機能低下が生じます。老化とともに免疫力の低下や消化吸収機能の障害が起こり体の抵抗力が低下します。その結果がんが発生しやすい体になるのです。この考え方に従えば、逆に活性酸素の害を減らすことができれば、老化の進行を抑えることができ、がんに打ち勝つ抵抗力を高めることができることになります。
 慢性の炎症状態が発がんのリスクを高めることは良く知られています。炎症の場では好中球やマクロファージなどの細胞が活性化されて活性酸素や一酸化窒素の産生量が増加し、これらのフリーラジカルはDNAの変異や細胞増殖を引き起こしてがんの進展を促進するのです。多くの実験で、抗酸化剤が変異細胞の悪性転化を抑制することが報告されています。
 以上のように活性酸素やフリーラジカルの害を軽減する抗酸化性物質はがんの発生や再発を予防し、がん細胞の悪性進展を抑える作用があることが理解できます。カロテノイドやビタミンC・E、コエンザイムQ10といった抗酸化性ビタミンが抗がんサプリメントとして利用される根拠は活性酸素やフリーラジカルの害を防いでくれるからです。

【メモ3】喫煙と飲酒の量の多い人ではベータカロテン摂取で発がんが促進される

 抗酸化性ビタミンのがん予防効果の研究は、臨床試験のレベルで多くの検討がなされています。しかし、有効性を証明したものでは無く、「有効性が証明できなかった」あるいは「有害性が認められた」という結果であることに注意が必要です。
 カロテノイド(ベータカロテン、リコピン、など)やビタミンC、E、コエンザイムQ10などの抗酸化性のビタミンを補充することは、がんや心臓病の予防に効果があることは古くから示唆されており、多くの臨床試験が行われています。しかし、抗酸化性ビタミンをサプリメントメントで補ってもはっきりしたがん予防効果は認められないという報告が多数を占めています。長期間の及ぶ研究でわずかに予防効果が認められたという報告もありますが、日頃の食事からも様々な抗酸化物質を摂取しているので、サプリメントメントで補充してもはっきりした差がでにくいのかもしれません。
 ここでは、ベータカロテンががん予防の観点から有害性が証明されていることを解説しておきます。
 緑黄色野菜や果物の摂取の多い人はがんの罹患率が低いことが知られています。その理由として緑黄色野菜や果物に含まれるベータカロテンのがん予防効果が推測されました。多くの疫学的研究から、ベータカロテンの摂取量が少ない、あるいはベータカロテンの血中濃度が低い人達が、がん(特に喫煙と関連が深い肺がんや頭頸部がん)になる確率(リスク)が高いことが明らかになったからです。
 そこでベータカロテンのがん予防効果を検証する目的で、大規模な臨床試験がアメリカが中心となって1980年台からスタートしました。その結果は予想とは逆で、非喫煙者が10年以上ベータカロテンを服用し続けても、がん罹患に関しては何ら利益も害ももたらさない、喫煙者に対しては1日20mg以上のベータカロテンの投与は肺がんの罹患率を上昇させ、有害である可能性がある、というものでした。
 米国における喫煙者を対象とした一つの臨床試験では、4年後の比較で、ベータカロテン投与群の肺がん罹患率がコントロールに比べて28%も上昇したため、試験の途中で中止となりました。そして米国国立がん研究所は1996年初頭に「がん予防効果があるとされるベータカロテンの栄養補助剤は、効果がないだけでなく、肺がんのリスクを高めるおそれがある」と発表したのです。
 飲酒もベータカロテンの害を増強することが報告されています。ラットにベータカロテンとアルコールを長期間投与すると、体の中での酸化障害は増強するという結果が報告されています。アルコールは体内でフリーラジカルの発生を増やす原因になるのですが、このような状況では、ベータカロテンは抗酸化剤として体を守る方に働くのではなく、酸化剤として体を酸化させる方向で作用するというのです。
 大腸腺腫の治療後の再発を予防する効果を確かめる研究では、飲酒と喫煙の習慣の無い人ではベータカロテンは腺腫の再発を予防する効果が認められましたが、喫煙と飲酒の習慣のある人では逆に大腸腺腫の発生を高める結果も報告されています。
 このように、飲酒や喫煙をしている人では、ベータカロテンの摂取は害になる可能性を示す結果が多く報告されています。ベータカロテンを飲んだグループは、がんだけでなく心臓病の死亡率も飲まないグループより高い、という研究データも報告されています。米国ではベータカロテンのサプリメントメントの摂取は勧められないという結論がだされています。
 喫煙者における肺がんの発生をベータカロテンが促進することのメカニズムは十分解明されていません。いろいろな考えがありますが、抗酸化剤の2面性が関連している可能性も指摘されています。つまり抗酸化剤(anti-oxidant)は状況によっては酸化剤(pro-oxidant)にも成りうるという点です。一般に抗酸化剤はフリーラジカルに電子を与えることによってフリーラジカルを安定にしますが、一方、電子を取られた抗酸化剤のほうはフリーラジカル、つまり酸化剤としての性質を持つようになります。
 低分子で水溶性の抗酸化剤は電子を与えたあと尿中に排泄されるため問題は無いのですが、ベータカロテンのように油に溶けるものは排泄されずに体内に止まって酸化剤として働く可能性もあるのです。ビタミンEやベータカロテンは細胞膜に入って活性酸素からの障害から細胞を守っていますが、時間とともに酸化されてその効力は低下し、逆に酸化剤としての性質を持ってきます。ビタミンCには、一度酸化したビタミンEやベータカロテンなどを還元し元に戻す働きがありますが、このような水溶性の抗酸化剤が十分補給されない状態で、脂溶性の抗酸化剤だけを大量に摂取することは、却って良くないことが理解できます。
 喫煙者では、煙草の煙の中のフリーラジカルが肺組織の細胞を常時酸化しています。アルコ−ルは肝臓のチトクロームP450(CYP2E1)という薬物代謝酵素を誘導し、この酵素によって体内で活性酸素の量が高まることが知られています。したがって、喫煙や飲酒の多い人では、水溶性の抗酸化剤の補給なしに脂溶性の抗酸化剤であるベータカロテンだけを大量にとることが危険であることは推測できます。さらにベータカロテン自体に薬物代謝酵素のシトクロム P450を誘導する作用があるため、発がん物質の活性化促進や酸化ストレス亢進の原因となって発がん促進剤(co-carcinogen)となる可能性も指摘されています。

【メモ4】抗酸化性ビタミンはバランスよく摂取すればがんの発生や再発の予防に有効かもしれない
(ただし、反対意見も多い)

 抗酸化力を高めることは老化やがんの予防に有効であることは常識的には正しいので、過度の期待をもたなければ日頃からカロテノイド、ビタミンC、E、コエンザイムQ10といった抗酸化性ビタミンを摂取することは問題ありません。ただし、一部のビタミンを偏って大量に摂取することは勧められません。
 体に良いと考えられている健康食品やサプリメントメントも、状況によっては悪い効果を与えることがあります。ベータカロテンが発がんを促進するという臨床試験の結果は、栄養補給剤の片寄った取りすぎは有害になる場合もあるという事と、喫煙しながら薬で肺がんを予防しようとする考えは間違っている、ということを示しています。
 ベータカロテンも食物から摂取するなら問題はなく、健康にも役立ちますが、成分として大量に摂取することは好ましくない結果を招くことを認識しておくべきです。特に、飲酒や喫煙している人がベータカロテンだけを大量に摂取することは避けるべきです。
 がんや老化の予防の目的でカロテノイドをサプリメントメントで摂取するなら、ベータカロテンだけでなく、リコピンやルテインやアルファカロテンなど各種のカロテンを含んだ混合タイプを選ぶことが大切です。
 また、ビタミンCやカテキン類のような水に溶けるものでも、遷移金属(鉄や銅イオン)が存在するとそれと反応してフリーラジカルを産生することが知られています。お茶に含まれるカテキンには抗酸化作用によってがん予防に効果があることが良く知られていますが、カテキンも大量に取ると発がん作用を示す可能性も報告されています。
 このように抗酸化剤は、場合によっては有害作用が現われるという抗酸化剤の2面性も理解しておく必要があります。例え天然のものでも、精製して純粋な成分にした抗酸化剤を、一種類に偏って多量に取ることは避けたほうがよいようです。がんや心臓病の予防のために抗酸化剤のサプリメントメントを摂取するときには、天然のものをあまり精製せず、あるいはいろいろ組み合わせて摂取することが大切です。
 再発予防や2次がんの発生予防の目的で、がん治療後に抗酸化性ビタミンの使用は推奨する意見が多いのですが、この点に関しても反対の意見もあります。例えば、乳がん治療後にビタミンCやEなどの抗酸化剤を摂取することによって再発のリスクの減少を認めた研究がある一方、マルチビタミンを摂取したグループの方が乳がんの再発率が高まるという結果も報告されています 。

【メモ5】治癒力の鍵を握る必須ミネラル 

 体に必要な栄養素として、タンパク質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルを5大栄養素と言います。通常の食事ができれば、タンパク質や脂質や糖質が欠乏することはありませんが、ビタミンやミネラルは健常人でさえ不足しがちです。特にがん患者さんは、食事の摂取が少なくなると、ビタミンやミネラルの不足が目立ちます。
 ミネラルを補充したくらいでがんを消滅させたりできるわけがないと多くの人は考えるかもしれません。たしかに、ミネラルにはがんを直接殺す作用はありません。しかし、体の免疫力や抗酸化力や再生能力などは、必須ミネラルが不足していると満足に行なうことができないのです。ミネラルは細胞の分裂や酵素反応に必須だからです。
 酵素というのは、生体内における化学変化を促進する蛋白質で、食物の消化から、細胞のエネルギー産生、物質の分解や合成などの代謝、細胞増殖など細胞や組織の中で起こるほとんどの化学反応は酵素によって行われます。酵素の種類によって特定のビタミンやミネラルが必要な場合が多いので、ビタミンやミネラルの欠乏は酵素反応を阻害し、体の治癒力や抵抗力を低下させる原因となるのです。
免疫力と密接に関連するミネラルに亜鉛があります。亜鉛は300種類もの酵素の働きに必要で、細胞の成長と分裂に重要なカギをにぎっているため、亜鉛が不足すると免疫細胞の産生と働きがうまくいかなくなります。
 免疫システムそのものを活性化する「免疫賦活(増強)剤」と呼ばれる薬や健康食品が使用されますが、免疫増強作用をもった薬剤や健康食品をいくら大量に使っても、栄養状態が悪ければリンパ球を十分に作れません。たとえ、蛋白質や脂質や糖質を十分に摂取しても、ミネラルが不足すれば働けないのです。
 ミネラルは体に備わった抗酸化酵素の働きを高めるためにも重要な働きをしています。スーパーオキシドを過酸化水素に変えるスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の活性にはマンガン、銅、亜鉛が必要です。過酸化水素を水と酸素に分解するカタラーゼには鉄が、グルタチオン・ペルオキシダーゼにはセレン(セレニウム)が必要です。
 セレンの不足はがんの発生と密接に関連しています。セレンに富んだ食事は大腸、直腸、肝臓、乳房、卵巣、前立腺、膀胱、肺、皮膚のがんや白血病のリスクを減少させることがわかっています。土壌中のセレン濃度が高い地域ほど がん発生率が少ないという結果が報告されており、それはセレン濃度が高い地域に育つ農作物はセレンの含量が多く、それを食べる住民の血中セレン濃度も高くなって体の抗酸化力が増すことががん予防につながると予想されているのです。
 生体の抗酸化システムで重要な役割を果たすグルタチオン・ペルオキシダーゼは、その酵素活性部位にセレンをセレノメチオニンの形で含むため、セレンが欠乏するとグルタチオン・ペルオキシダーゼの活性が減少して体の抗酸化力が低下することになるからです。
 体の傷を治す力(創傷治癒力)、細胞の働きの大本である遺伝子の異常を絶えず監視しているDNA修復システム、組織の欠損を補う再生能力が全ての細胞・組織・臓器に備わっており、この自己修復・再生システムの働きによって、体の構成成分を一定にしかも正常な状態に保全することが可能になります。このような自己修復がスムーズに行われるためには、必須ミネラルの働きが重要です。細胞が分裂したり、細胞内外の酵素反応の多くに必須ミネラルが関わっているからです。さらに体の恒常性を維持する上で必要な神経やホルモンの働きにも、ミネラルは重要な役割を担っています。
 体の治癒力や抵抗力を高めるためには、必須ミネラルの欠乏に注意が必要で、適切なサプリメントで必須ミネラルを補充することはがんの予防や治療において有効です。

【メモ6】セレンと亜鉛の拮抗作用について

 がん予防と関連する代表的なミネラルとしてセレンや亜鉛などが知られています。その他のミネラルも不足すれば生体機能の低下を引き起こすので、不足する場合には補充することががんの予防や治療に有用となります。
 生体の抗酸化システムで重要な役割を果たすグルタチオン・ペルオキシダーゼは、その酵素活性部位にセレンをセレノメチオニンの形で含むため、セレンが欠乏するとグルタチオン・ペルオキシダーゼの活性が減少して体の抗酸化能が低下することになります。セレンに富んだ食事は多くの種類の発がんリスクを低下させることが報告されています。一般的に低セレン血症はがんの危険因子として認識されており、発がん実験や移植腫瘍を用いた動物実験でも、セレンの抗腫瘍効果は数多く報告されています 。
 亜鉛は多くの酵素の働きに必要で、免疫機能に大きな影響をもっています。亜鉛が不足すると免疫機能の低下により発がんのリスクが増大するという意見もありますが、亜鉛の豊富な食物を摂取している人では発がんリスクが高いという報告もあります。この理由として、亜鉛の血中濃度が高いときにはセレンの血中濃度は低いという両者の拮抗関係が示唆されています。つまり、亜鉛の摂取量を増やすとセレンの吸収は低下することが知られているのです。実験的にも、亜鉛は濃度が高すぎても低すぎてもがんの危険を増やすことがわかっています。
 食事摂取が不十分ながん患者ではミネラルの不足が抵抗力や回復力の低下の要因となっていますので、がん患者におけるミネラル補充の重要性はもっと認識されるべきです。しかし、セレンと亜鉛の拮抗関係のように、吸収や利用においてお互いに拮抗するミネラルが多いので、バランスよく摂取することが大切で、カルシウムやマグネシウムや亜鉛といったように限られた種類のミネラルを単独で摂取することは推奨できません。がんの代替治療でセレンの大量投与が行われる場合がありますが、臨床効果の根拠は乏しく、過剰投与による副作用も問題もあるので推奨できません。食事からの摂取が不十分な場合には、それぞれのミネラルの推奨量の範囲で補充して、欠乏状態にならないようにすることが基本です。

【メモ7】C型慢性肝炎患者は鉄の取り過ぎに注意

 多くの人にとって、鉄の多い食事をしても、体内の鉄が過剰になることはありません。食事やサプリメントから多量の鉄を摂取しても、体内に十分な鉄の貯蔵がある場合は、腸からの吸収を制限する仕組みが備わっているからです。体内の鉄が不足すると食事からの鉄の吸収は高まり、不足がなければ余分な鉄は腸から吸収しないように調節されているのです。しかし、C型慢性肝炎の場合はこの制御システムに異常が起こっているようです。
 肝炎とは肝臓に炎症が起こっている病気です。肝炎が長く持続(慢性化という)している状態が慢性肝炎という病気で、慢性肝炎の状態が続くと肝硬変や肝臓がんになる可能性があります。肝硬変というのは慢性肝炎の結果、肝臓のコラーゲン線維が多くなり硬くなった状態です。肝臓の線維化と同時に肝細胞の遺伝子に変異が蓄積してがん細胞が発生しやすくなります。
 肝炎を起こす原因としてはウイルス、アルコール、薬物などがあります。ウイルス性肝炎は肝臓に肝炎ウイルスが住み着くことによって発症します。日本人の肝臓病の約80%はウイルスによって引き起こされ、ウイルス感染による慢性肝炎の80%以上はC型肝炎ウイルスによって起こっています。現在日本ではC型肝炎ウイルスに感染している人は200万人以上と言われています。
 C型慢性肝炎や肝硬変の患者さんの肝臓には鉄が過剰に蓄積していることが明らかになっています。鉄はフリーラジカルや活性酸素の産生を促進し、肝臓の炎症を悪化させます。肝臓の炎症が悪化すると、正常の肝細胞が死んで肝機能が低下し、がんの発生も促進されます。
 そこで、C型慢性肝炎の患者さんには、鉄の摂取量を制限した食事療法が行われており、その有効性が確かめられています。すなわち、鉄分の少ない食事をすることによって肝機能の数値が改善することが多くの研究で確かめられています。肝臓に蓄積した鉄を減らすために、1回に200〜400mlの血液を抜く瀉血治療がC型慢性肝炎の治療として有効であることも認められています。瀉血すると、ヘモグロビンの形で多量の鉄を内部にもつ赤血球を体外に排出させ、肝臓に蓄積した鉄を減らすことができるからです。
 C型肝炎患者では鉄の取り過ぎが病気を悪化させるということに関連して、肝炎患者におけるサプリメントの摂取が問題になっています。というのは、C型慢性肝炎では、1日の鉄の摂取を6mg以下に制限すると肝臓の炎症が軽減することが確かめられているのですが、健康食品やサプリメントの中には、かなり多くの鉄が含まれている製品があって、過剰な鉄摂取によって肝炎悪化の原因になっていることがあるからです。
 たとえば、肝疾患の患者さんがよく服用しているクロレラ、ウコン、青汁の原料として知られるケールには鉄が多く含まれており、これらの健康食品の摂取によって肝炎が悪化している例も報告されるようになりました従来、肝臓に良いとされてきたシジミや豆、肉や魚も、鉄が多く含まれるので、あまり取りすぎるのは良くないという意見もあります。従来から、肝臓疾患の場合は、高蛋白、高カロリーの栄養素の高い食事が推奨されているのですが、鉄の取り過ぎだけは避けた方が良いようです
 病院にいっても肝機能の数値が良くならないからと、健康食品を頼みにする患者さんも多くいますが、肝臓に良いと信じて選んで買っている健康食品が肝炎を悪化させている可能性もあるのです。サプリメントや健康食品の多くは、鉄の含量を表示したものは少ないので、肝炎の方は、鉄の含量が不明な健康食品やサプリメントは利用しない方が無難です。

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