がん細胞にアポト−シスを誘導するというサプリメント
(フコイダン、紅豆杉、タヒボ、環状重合乳酸、アミグダリン、プロポリス、ω3不飽和脂肪酸、マイタケ-D-フラクションなど)


【抗がん作用の根拠】

 体内では、神経組織や筋肉組織を除いて、多くの細胞が細胞死と細胞分裂をくり返して絶えず入れ代わっています。不要な細胞や老化した細胞、あるいは傷ついた細胞は生理的な機構で死んでいって、残った細胞の分裂によって補充されています。この生理的な細胞死を「プログラム細胞死」あるいは「アポトーシス」と言います。血行の途絶(虚血)や強い細胞障害によって細胞が破壊される「壊死」とは違って、「アポトーシス」とは遺伝子の働きによって自ら死滅するのが特徴です。
 アポトーシスの機序で細胞が死ぬ過程には多くの遺伝子が関与しています。細胞死を誘導する遺伝子や、細胞死を阻止する遺伝子が複雑にからみ合って、細胞の分裂や増殖や死が調節されているのです。
 アポトーシスを誘導する遺伝子が不活性化し、アポト−シスを阻止する遺伝子が過剰に働き過ぎると細胞は死ににくくなります。これらの遺伝子に変異がおこって、細胞が必要な時に死ねなくなると、増殖と細胞死のバランスが崩れてその細胞は次第に数が増えることになります。アポトーシスの制御に異常を来して、死ぬべき時に死ねなくなることが細胞のがん化の第一歩といえます。
 がんが進展するにしたがって、一般に遺伝子変異の程度が増し、アポトーシスが次第に起こりにくくなります。それ以外にも、がん細胞が低酸素などのストレスを受けると、一種の適応現象として、アポトーシスに抵抗性になることが知られています。多くの抗がん剤は細胞のアポトーシスを引き起こすことによって効果を発揮しますが、がん細胞はいろんな機序によってアポトーシスに対して抵抗性になって行きます。
 以上のことから、がん細胞にアポトーシスを誘導する作用があれば、それはがんを縮小させる効果が期待でき、抗がん剤治療の代わり、あるいは併用として使用できます。がん細胞にアポト−シスを誘導すると宣伝されているサプリメントに以下のようなものがありますが、ほとんどは基礎研究のレベルであり、人間での抗腫瘍効果が証明されているわけではありません。

フコイダン:海藻に含まれている硫酸化多糖類の一種で、コンブ、ワカメ、モズクなどのヌメリの部分に含まれています。培養細胞を使った実験でがん細胞にアポトーシスを誘導すると報告されていますが、人体内でそのような作用が起こることは確かめられていません。フコイダン自体は高分子量の食物繊維だるため、消化管からほとんど吸収されないため、体内のがん細胞に作用する可能性はゼロだと言えます。

紅豆杉:中国雲南省の山岳地帯に自生するイチイ科に属する樹木で、その抽出物には抗がん活性の高いTaxol誘導体の他に、リグナン、ジテルペンなど天然の抗がん物質が多数含まれているため、がん細胞にアポトーシスを誘導する作用は十分に理解できます。しかし、抗腫瘍効果のでる量を摂取すれば抗がん剤と同じような副作用が出る可能性があります。

タヒボ:南米の熱帯雨林の原住民が昔から病気に使っていたノウゼンカズラ科の植物で、紫イペとも呼ばれます。樹皮に含まれるフラノナフトキノン誘導体などの成分が抗がん作用を示し、がん細胞にアポトーシスを引き起こすと宣伝されています。しかし、これらの成分の殺細胞作用はがん細胞に特異的なものではありません。がん細胞を殺す量を服用すれば副作用にも注意が必要です。

環状重合乳酸(CPL):3〜20個の乳酸が環状になった物質で、がん細胞がエネルギーを作り出す一連の反応をブロックするので、エネルギーを絶たれたがん細胞は自滅すると考えられています。がん細胞では主に嫌気的解糖系という酸素を必要としない方法でエネルギーを産生しており、このようながん細胞に特徴的なエネルギー産生系を阻害するため、がんに対して選択的にアポトーシスを誘導する可能性が示唆されています。しかし、ヒトでの抗腫瘍効果は証明されていません。

アミグダリン:ビワやアプリコットの種子に多く含まれる青酸配糖体で、ビタミンB17やリートリルともよばれています。アミグダリンはβーグルコシダーゼによって青酸とベンズアルデヒドに分解され、それらがさらに別の酵素によって安全な物質に代謝されます。がん細胞にはこの青酸を分解する酵素が欠如しているので、青酸がそのまま毒性を発揮し、がん細胞を殺すというメカニズムが考えられています。しかし、ヒトでの抗腫瘍効果は証明されていません。

プロポリス:ミツバチが自身の出す酵素と、樹木から採取した樹液や植物から集めた天然成分を混ぜ合わせて作り出されたヤニ状の天然物質です。種々のアミノ酸・ミネラル・酵素・ビタミン類をはじめ、多くのフラボノイドを含み、抗酸化力や免疫力を高める効果が知られています。プロポリスに含まれる成分の中に、がん細胞のアポトーシスを誘導したり、血管新生阻害作用や転移を抑制する成分が見つかっていますが、まだ培養細胞や動物実験レベルの研究です。

ω3不飽和脂肪酸:魚油に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)のようなω3不飽和脂肪酸は、プロスタグランジン産生に影響して、がん細胞の増殖や転移を抑える効果が報告されています。DHAやEPAが直接がん細胞に作用してアポトーシスを誘導するという実験結果が報告されていますが、まだ培養細胞レベルの研究です。

マイタケ-D-フラクション:βグルカンを含み、免疫力増強作用が主体ですが、培養細胞を使った実験でアポトーシスを誘導するという結果が報告されています。ただし、試験管内レベルの研究であり、アポトーシスを引き起こす濃度が果たして人間が服用した場合に達しうる濃度なのかは疑問です。

【注意すべき点】

 ほとんど全ての抗がん剤も、がん細胞を殺す時はアポトーシスでがん細胞を殺すことが知られています。しかし、アポトーシス誘導はがん細胞だけに特異的ではなく、増殖している正常細胞にも害が及ぶ点が問題です。がん細胞だけにアポトーシスを起こすのであれば、それは理想的な抗がんサプリメントとなりますが、実際はそのような根拠はないのに、そのように思い込ませる宣伝が行われているのがほとんどです。
 「がん細胞にアポトーシスを誘導する」というサプリメントの多くは、培養したがん細胞を使って、培養液に成分を添加して、アポトーシスが起こるかどうかを検討しています。しかし、アポトーシスを誘導する濃度が人体では達し得ない高濃度であったり、腸内や肝臓での代謝を無視した研究がほとんどで、人体においてがん細胞にアポトーシスを誘導することの検証は不十分です。
 たとえ、がん細胞にアポト−シスを誘導するだけの量を服用できたとしても、抗がん剤と同じような副作用が発生するはずです。つまり、がん細胞にアポトーシスを誘導することは、通常の抗がん剤の作用にも類似するため、安全性や慢性毒性に関するデータを持っていない場合には危険です。
 活性成分の血中濃度や代謝に関するデータがないものは信頼できません。培養細胞の実験でアポトーシスを起こす濃度と、内服して血中に達しうる濃度に整合性があること、動物実験での有効性と安全性のデータがあるものを選択することが大切です。ただし、このような条件を満たすサプリメントは皆無といっても過言ではありません。

【メモ1】アポトーシスとは


 ヒト成人の体は約60兆個の細胞から成り立っていますが、神経組織や筋肉組織を除いて、多くの細胞は細胞死と細胞分裂をくり返して絶えず入れ代わっています。不要な細胞や老化した細胞、あるいは傷ついた細胞は生理的な機構で死んでいって、残った細胞の分裂によって補充されています。この生理的な細胞死を「プログラム細胞死」あるいは「アポトーシス」といいます。血行の途絶(虚血)や強い細胞障害によって細胞が破壊される「壊死」とは違って、「アポトーシス」では遺伝子の働きによって自ら死滅するのが特徴です(図)。


図:2種類の細胞死:壊死とアポトーシス
壊死は強い細胞障害(ダメージ)によって生じる細胞崩壊であり、アポトーシスは遺伝子の働きによってプログラムされたプロセスによって起こる生理的な細胞死。

 生体組織では、老化した細胞や傷ついた細胞はアポトーシスの機序によって除去され、残った細胞が増殖・再生することによって、組織の若返りや修復を行なっています(図)。例えば、肝細胞の寿命は約200日といわれており、毎日200分の1の肝細胞がアポトーシスによって死に、それに相当する細胞分裂がおこっている計算になります。消化管の上皮細胞も皮膚の細胞も、常に新しい細胞で置き換えられています。神経や筋肉細胞は分裂能を喪失しているため、肝細胞や粘膜上皮細胞のように生理的な細胞回転により新しい細胞と置き換わることはできません。これらの一部の細胞種を除いて、その寿命には長短ありますが、多くの細胞はアポトーシスと細胞分裂を繰り返すことにより組織の若返りと恒常性の維持を計っているのです。平均すると体の約200分の一の細胞が毎日アポトーシスによって死に、それに相当する細胞が分裂によって補われているといわれています。正常な組織では増殖と細胞死のバランスが保たれて、決して無秩序に増殖することはありません。


図.アポトーシス(プログラム細胞死)
細胞は自ら死ぬための自殺(自滅)機構を持っている。老化した細胞や傷ついた細胞はアポ
トーシスの機序によって除去され、残った細胞が増殖・再生することによって、組織の若返
りや修復を行ない、組織の恒常性と維持している。

【メモ2】がん細胞はアポト−シスが起こりにくくなっている

 アポトーシスの機序で細胞が死ぬ過程には多くの遺伝子が関与しています。つまり、細胞死を誘導する遺伝子や、細胞死を阻止する遺伝子が複雑にからみ合って、細胞の分裂や増殖や死が調節されているのです。
 アポトーシスを誘導する遺伝子が壊れたり、アポト−シスを阻止する遺伝子が過剰に働き過ぎると細胞は死ににくくなります。これらの遺伝子に変異がおこって、細胞が必要な時に死ねなくなると、増殖と細胞死のバランスが崩れてその細胞は次第に数が増えることになります。アポトーシスの制御に異常を来して、死ぬべき時に死ねなくなることが細胞のがん化の第一歩といえます。
 がんが進展するにしたがって、一般に遺伝子変異の程度が増し、アポトーシスが次第に起こりにくくなると考えられます。それ以外にも、がん細胞が低酸素などのストレスを受けると、一種の適応現象として、アポトーシスに抵抗性になることが知られています。多くの抗がん剤は細胞のアポトーシスを引き起こすことによって効果を発揮しますが、がん細胞はいろんな機序によってアポトーシスに対して抵抗性になって行きます(図)。
 以上のことから、がん細胞にアポトーシスを引き起こす薬は、がんを縮小させる効果や、抗がん剤の効き目を高める効果が期待できるのです。


図:発がん過程ではアポトーシが起こりにくくなることが、増殖の進行と抗がん剤抵抗性と密接に関連している。

【メモ3】がん細胞にアポト−シスを誘導する作用のトリック

 ほとんど全ての抗がん剤も、がん細胞を殺す時はアポトーシスでがん細胞を殺すことが知られています。しかし問題は、アポトーシス誘導はがん細胞だけに特異的ではなく、増殖している細胞にも害が及ぶ点です。アポトーシスを誘導するという抗がんサプリメントが、本当にがん細胞だけにアポトーシスを起こすのであれば、それは夢の抗がん剤といっても過言ではありません。しかし、実際はそのような根拠はないのに、そのように思い込ませる宣伝が行われているのがほとんどです。
 アポトーシスのメカニズムを利用することにより、がん細胞の抗がん剤感受性を高めたり、がん細胞を殺すことが可能になりますので、多くのがん研究者はがん細胞にアポトーシスを誘導する方法の発見に努力しています。「がん細胞はアポトーシスの異常がおこっているから死ににくくなっているので、がん細胞にアポト−シスを誘導する物質は有望な抗がん剤になる」というアイデアは、1990年代になって多くのがん研究者を魅了するようになりました。それは、細胞が本来もっている細胞死のメカニズムを呼び起こして、がん細胞を特異的に殺すことができる夢のような抗がん剤を開発できる可能性を秘めていたからです。
 1990年代には、「がん細胞にアポトーシスを誘導する」という多くの物質が報告されるようになりました。植物などに含まれる天然成分にもアポト−シスを誘導するものがたくさん見つかるようになりました。しかし、このような研究の中には、現実的でない研究も多くあります。培養細胞にアポトーシスを誘導するという現象だけが注目されて、人体でのがんに同様のことが起こるのかの検証はほとんどなされていません。
 昔から使用されている抗がん剤も多くは、がん細胞にアポト−シスを引き起こします。細胞が強いダメージをうければ「壊死」で死ぬのですが、壊死をおこすような物質でも低濃度で処理すればアポトーシスになることがわかってきました。つまり、原因が何であれ、細胞が少し傷つけば、細胞は自分でアポトーシスのスイッチを入れるからです。非常に細胞毒性の弱いものでも、濃度を高くして細胞を処理するとアポト−シスが起こることもあります。「アポト−シスを誘導する」という言葉には、「がん細胞が忘れた生理的細胞死を呼び起こす」「遺伝子の仕組みを利用してがん細胞を殺す」という特殊な能力があるように錯覚するのですが、実際はトリックがかなり多いのです。
 「がん細胞にアポトーシスを誘導する」という健康食品の多くは、培養したがん細胞を使って、培養液に成分を添加して、アポトーシスが起こるかどうかを検討しています。しかし、アポトーシスを誘導する濃度が極めて高い場合が多いのです。1mg/mlという高濃度でアポト−シスを引き起こしても、それが人体では達し得ない濃度であれば意味がありません。例えば、大豆イソフラボンのゲニステインには、チロシン・キナーゼやトポイソメラーゼ-IIを阻害してがん細胞のアポトーシスを誘導したり、血管新生を阻害する作用などが報告されています。またウコンのクルクミンにも同様の作用が報告されています。しかし、これらの薬理効果が出る濃度というのは極めて高く、通常の摂取では到底達成できない高濃度なのです。むしろ、人体で観察される濃度ではがん細胞の増殖を促進するという報告もあるのです。
 βグルカンが主体の健康食品でも同様な宣伝が見受けられます。これらの健康食品が「マウスに植え付けたがんの増殖を抑え延命効果を示した」というのは抗腫瘍効果として評価できます。しかし、その抗腫瘍効果の機序として、「培養したがん細胞にこれらの健康食品を添加したら数百μg/ml以上の濃度でがん細胞の増殖を抑制したとか、アポトーシスを誘導した」という研究結果を持ち出して、これらが「がん細胞にアポトーシスを誘導する効果がある」という宣伝をしているものがあります。しかし、これらの健康食品を大量に摂取しても、数百μg/mlの高い血中濃度になることはありません。たとえ無理して大量を摂取してその濃度に達したとしても、それはがん細胞だけに作用するのではなく、増殖している正常の細胞にもアポトーシスを誘導するはずで、がん特異的という保証はありません。いろんな副作用が出てくるはずです。抗がん剤と同じ作用であり、副作用も言及しなければなりません。
 このように人体では達し得ない濃度でがん細胞を処理してアポトーシスや血管新生阻害が起こったという「証拠」を提出して、その製品の宣伝に使うとしたら、これは詐欺みたいなものです。多少の細胞毒性さえあれば、適当な濃度でアポト−シスを引き起こすことができます。正常細胞もアポトーシスのメカニズムを内在していますから、がん細胞にアポト−シスを誘導するものは、抗がん剤と同じように、増殖する正常細胞にもアポト−シスを誘導する可能性があります。がんに特異的である保証は無いという事実が隠されて、都合の良い解釈しか発表されていません。
 何らかの細胞機能を阻害する物質を細胞に作用させれば、活発に増殖している細胞の方がより影響を受けます。このような実験では、正常細胞と比較して、がん細胞の方がよく死にやすいという結果が出やすいのです。50%の細胞が死ぬ濃度を比較して、がん細胞の方が正常細胞より低いというデータから、がん細胞に特異的にアポト−シスを誘導しているという強引な結論を引き出している報告もありますが、他の抗がん剤と一緒で、増殖の早い細胞ほど、細胞の機能を障害すればより死にやすいだけなのです。
 単なる細胞障害活性をみているだけなのに、アポトーシスという言葉が出てくればあたかもすばらしい薬であるような錯覚をおこさせるトリックを使っているのです。人体でがん細胞に特異的にアポトーシスを起こすことを証明しないで、単に培養細胞だけの研究で「アポトーシスを誘導する」という無責任なキャッチフレーズを安易に宣伝に使用するのは、医学を知らない素人を騙す詐欺的行為のようにも感じます。
 抗がんサプリメントの商品を使った研究で、本当に生体内でがん細胞だけにアポトーシスを引き起こしているという信頼できるデータを出しているのは皆無と言える状況です。培養細胞の実験で使用している濃度が高すぎるとか、がん細胞特異的という点に対して疑問が多く、したがって、これらの抗がんサプリメントのエビデンスレベルは低いと言わざるを得ません。

【メモ4】アポトーシスを誘導すると宣伝しているサプリメントを選ぶ時の注意

 がん細胞にアポトーシスを誘導する作用が本当にあるのであれば、それはがんを縮小させる効果が期待できます。したがってそのような抗がんサプリメントは、抗がん剤治療の代わり、あるいは併用として使用できます。
 アポトーシスを誘導すると宣伝されている抗がんサプリメントは多数あります。この中には、人体内で、ある程度の抗腫瘍効果が期待できるものもあります。効く物をみつけるには、次の点を確認することです。
1) 服用して血液中に達しうる濃度で、がん細胞のアポトーシスを引き起こすことを確認していることが重要です。通常、数百μg/mlといった高濃度での効果は現実的でないことが多いようです。数ミクロンg/mlくらいであれば生体内でも効く可能性があります。
2) 動物実験でがん細胞を移植した実験で、その抗がんサプリメントの投与でがんの縮小効果が確認できていることが必要です。培養細胞だけでは信頼できません。がんを縮小させる投与量で正常組織のダメージや副作用が起こらないことの確認も安全性の立場から大切です。

 血中濃度のデータがないものは信頼できません。がん細胞にアポトーシスを誘導することは、通常の抗がん剤の作用にも類似するため、安全性や慢性毒性に関するデータを持っていない場合には危険です。このように、培養細胞の実験でアポトーシスを起こす濃度と、内服して血中に達しうる濃度に整合性があること、動物実験での有効性と安全性のデータがあるものを使用すべきです。

 抗がん剤ががんに効く理由は、がん細胞にダメージを与えてアポトーシスを誘導させているからです。がん細胞にアポトーシスを誘導するという抗がんサプリメントは、抗がん剤と同じような成分を含むことが予想されます。
 紅豆杉という抗がんサプリメントは抗がん剤として医薬品になっているタキソールという成分を含むことによって抗がん作用を発揮すると宣伝されています。この場合、がん細胞を抑えるだけの量のタキソールが吸収されれば、正常細胞にもダメージがかかって副作用がでてくるはずです。
 アポトーシスを誘導するという抗がんサプリメントには、「抗がん剤のように正常細胞には作用せず、がん細胞だけをアポトーシスに導く選択的抗がん性を発揮する」という宣伝文句があります。タキソールが含まれていることによって抗がん作用を示すといわれている天然紅豆杉ですら、そのような宣伝がなされています。タキソールが正常細胞にもダメージを与えて様々な副作用を引き起こすことは良く知られていますから、副作用が全くないというのはがんにも効かないレベルの量しか入っていないといっているのと同じです。
 どのような成分がどのような働きでアポトーシスを引き起こすのか確認することが大切です。副作用が全くないといっているときには、その効果について信頼できるデータをもっているか確かめることが大事です。

 「アポトーシスを誘導する」という効能は、その抗がんサプリメントをまるで夢の薬のような薬に錯覚させるような力を持ち、医学を知らない一般の人を騙す常套手段となっています。
 多くの抗がん剤がそうであるように、人体内でがん細胞にアポトーシスを誘導させる薬があるのは確かです。しかし、がん細胞に特異的と言えるものはまだありません。抗がんサプリメントを使ってアポトーシスを誘導させている実験のデータを専門的にみると、「アポトーシスを引き起こす」という点だけが強調されていて、培養細胞でアポトーシスを起こす濃度が、人体では達成できないような高い濃度である場合もあります。人体で達成できないような高濃度での効果であれば、その効果自体が人体では起こりえないことになります。そのようなデータを出している研究者は、そのデータの弱点や非現実性を知っているはずですが、わざと議論せずに隠しています。
 その健康食品を服用して、活性成分の血中濃度を測定し、その濃度の範囲で培養細胞を使った実験を行っていれば納得するのですが、活性成分の血中濃度を検討せず(あるいは隠して)、体内では達成できないような高濃度で行った実験結果で、「がんにアポトーシスを起こす」と宣伝している場合には、「著しく事実に相違する」あるいは「著しく人を誤認させる」誇大表示を禁止した健康増進法に違反する可能性があります。その説明を聞いた消費者の多くは、それを服用すれば体の中のがん細胞がアポトーシスで消滅することを期待するわけですから、このような起こりえない非現実的なデータで「がんに効く」と宣伝することは科学的なトリックを使った巧妙な詐欺行為のようにも感じます。
 がん細胞にアポトーシスを起こすというデータを公表することは、科学的な議論の一つですから、全く法律的な問題はありません。たとえ血中で達し得ない濃度であっても、それは単なる実験結果であって、その論文や研究者を非難することはできません。ただ、その結果を商品を売るための宣伝に使用し、医学を知らない消費者が誤認することを承知で提示している場合には、問題にすべきだと思います。培養細胞にアポトーシスを起こす濃度が人体で実現可能な濃度であることを示さないで、「アポトーシスを誘導するからがんに効く」といっている場合には、明らかに一般の人を騙す意図が販売業者にあると思います。

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