その他
【メラトニン】
メラトニンは脳の松果体から分泌されるホルモンで、体内時計の調節によって快適な睡眠をもたらし、時差ぼけを解消するサプリメントとして使用されていますが、免疫力や抗酸化力の増強や抗がん作用が報告され、前立腺がんや乳がんや肺がんなど、多くのがんの予防や治療における有効性が多数の臨床試験で実証されています。手術後の傷の治りを促進し、抗がん剤や放射線治療の効果を高め副作用を軽減する効果も報告されています。ただし、免疫系統の悪性腫瘍(白血病やリンパ腫)では服用しない方が良いと言われています。
睡眠障害や時差ぼけには1mg程度のメラトニンがサプリメントとして使用されますが、がんの予防や治療には1日10〜40mgくらいの量を服用します。メラトニンは日本ではまだサプリメントとして許可されていませんが、海外から個人輸入で使用者は多いようです。
【核酸】
遺伝子情報の担い手であるデオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)は、細胞が分裂して増殖するときに合成されます。体を維持する上で必要な量の核酸は、主に肝臓などでアミノ酸から容易に合成できる(de novo合成)として、経口的に摂取した核酸類や生体内で代謝された核酸の分解産物を回収して必要な核酸を合成する(salvage合成)経路はそれほど重要でないとされてきました。
しかし、最近の研究で、核酸食品の補充が、消化管機能や免疫機能を改善する効果が指摘されています。生体内で核酸需要が増加する外科的治療後の回復期などに核酸のde novo合成が追い付かず、食品やサプリメントから補充される核酸が有用である可能性が示唆されています。サプリメントとしての核酸の原料としては、ビール酵母、家畜の精巣、魚(サケなど)の精巣(白子)などがあります。
核酸食品の補充は、細胞増殖が活発な骨髄やリンパ組織、消化管粘膜、皮膚、生殖器の機能増強に有用とする考えもありますが、核酸の栄養因子としての役割には疑問もあり、その有用性については今後の検討が必要です。
【L-カルニチン】
L-カルニチンは細胞内における脂質の代謝に不可欠で、不足するとミトコンドリアでの脂肪酸の燃焼が障害されて、細胞におけるエネルギー産生が障害されます。脂肪酸はL-カルニチンが結合しないとミトコンドリアの中に入ることができないからです。
体脂肪の燃焼を促進することで、ダイエットのサプリメントとして人気がありますが、細胞のエネルギー産生を高める効果があるので、様々な病気の治療にも応用されています。がんにおいても、抗がん剤治療による倦怠感や抑うつ気分を軽減する効果が報告されています。
L-カルニチンはヒトの体内で合成されますが、カルニチンの合成には2つの必須アミノ酸(リジン、メチオニン)、3つのビタミン(ビタミンC、ナイアシン、ビタミンB6)、還元型鉄イオンが必要で、これらの栄養素の一つでも不足すればカルニチンは不足することになります。
L-カルニチンの合成は肝臓、腎臓、脳でのみ起こり、食事性カルニチンの主な供給源は肉類と乳製品であり、穀類、果物、野菜にはほとんど含まれていません。体内で合成されますが、がんの治療で体力が消耗したり、栄要素が不足するとL-カルニチンの欠乏がおこり、細胞内でのエネルギー産生が低下します。抗がん剤治療中には、腸粘膜の障害で食事性カルニチンの吸収が低下し、肝臓や腎臓機能のダメージで体内での合成が低下し、尿中の排泄も増えることが報告されています。がんの代替医療では菜食主義を徹底する治療法もありますが、肉や乳製品を完全に排除する食事もカルニチンの不足を引き起こします。
抗がん剤治療中をはじめ、がん患者が訴える倦怠感や体力低下に、体内でのL-カルニチンの不足の関与が指摘されています。カルニチンの不足は脳でのエネルギーの枯渇を引き起こし、抑うつ気分や思考力の低下の原因にもなります。
L-カルニチンが抗がん剤治療中の倦怠感や抑うつ気分を改善するという臨床報告や、抗がん剤による神経細胞や心臓へのダメージを軽減するという報告があります。
【プロバイオティクス】
プロバイオティクス(probiotics)は抗生物質(antibiotics)に対比される言葉で、文字通りには「生命に有益な物質」という意味ですが、健康に有益な効果をもたらす腸内細菌(いわゆる善玉菌)、あるいは善玉菌の増殖を促進する物質(フルクトオリゴ糖など)のことを意味します。
ウェルシュ菌やクロストリジウム菌などのいわゆる悪玉菌といわれている腐敗菌は、腸内の蛋白質やアミノ酸を腐敗させて発がん物質を産生します。一方ビフィズス菌などの乳酸菌は、悪玉菌の増殖を抑制し、発がん物質の産生抑制や免疫賦活作用などの健康作用を発揮します。大腸がんのみならず種々のがんの発生予防や再発予防に有効であることが報告されています。
プロバイオティクスは安全で、腸ガスの一時的な増加以外に副作用はみられません。毎日10〜100億個の生きたアシドフィルス菌あるいはビフィズス菌や、乳酸菌の成長を促進するフラクトオリゴ糖類を、食品やサプリメントとして摂取することは、がんの予防や治療にも有用と考えられています。大腸内に棲み着いている乳酸菌を増やす作用のある乳酸菌生成エキスも販売されています。
【スルフォラファン】
スルフォラファンは、アブラナ科の野菜(ブロッコリ−、キャベツ、ケ−ルなど)に含まれる辛味成分であり、発がん物質の解毒を促進することによってがん予防効果を発揮することが報告され、がん予防のサプリメントの素材として利用されています。
肝臓における異物代謝には第1相反応(フェースI)と第2相反応(フェースII)があります。第1相では酸化反応、還元反応、加水分解などによって異物を不活化し、第2相では様々な抱合反応などにより異物を無毒化しています。第2相(フェースII)解毒酵素には、グルタチオンS-トランスフェラーゼなどがあります。
第1相で働く薬物代謝酵素のなかには、不活性な発がん物質を活性化する場合もあります。一方、フェースII解毒酵素と言われる代謝酵素は、様々な発がん物質を無毒化するので、フェースII解毒酵素を誘導する物質は発がん予防効果が期待できます。食品素材などにこうした解毒酵素の誘導を促進する成分が見い出されており、その代表的がスルフォラファンです。
【ジインドリルメタン】
ブロッコリーやケールなどのアブラナ科の植物や野菜に含まれる抗がん成分として、スルフォラファンの他にGlucobrassicin(グルコブラシシン)が知られています。
このグルコブラシシンは加水分解してインドール-3-カルビノール(Indole-3-carbinol, I3C)になり、さらに胃の中の酸性の条件下では、I3Cが2個重合したジインドリルメタン(3,3'-diindolylmethane, DIM)になります(下図)。
I3CとDIMは、乳がんや前立腺がん細胞など多くのがん細胞の増殖を抑えたり、アポトーシス(細胞死)を引き起こすなどの直接的な抗がん作用が報告されています。
さらに、エストロゲンの代謝を促進する酵素を誘導して乳がん細胞の増殖を抑える効果や、ダメージを受けたDNAを修復する酵素を誘導する作用が報告されています。
米国では、インドール-3-カルビノールもジインドリルメタンもどちらもサプリメントとして販売されています。
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