抗がんサプリメントの誇大広告に騙されない方法
【「学会や論文発表」「特許取得」「臨床試験実施中」は効果が公に認められた訳では無い】
健康食品の宣伝の中に、「○○学会で発表」とか「○○雑誌に報告」とか「特許出願中」などという表現が記載されることがあります。これらは、品質や効果を科学的に研究している努力として評価しても良いと思いますが、宣伝の戦略として利用している場合もあるようです。
学会に発表する場合、その実験の方法や結果の正しさは事前に問題にはなりません。その学会の会員になれば、どんなにデタラメな研究であっても発表の機会は与えられます。学会発表したときに、実験内容の不備や問題点を指摘されて、その研究そのものがボロクソに非難されたとしても、その議論は記録には残らず、学会発表したという事実だけが残って、宣伝に利用されているものも多くあります。
論文発表も同じで、レベルの高いジャーナルであれば、ちゃんとした研究方法をとっているか、統計処理は正しいか、結果の解釈が間違っていないか、という点が審査されます。しかし、超一流の学術雑誌でも、ねつ造した研究が発表されることもありますし、外見的に体裁が整ってつじつまが合えば、多くは審査を通ってしまい掲載されます。都合の良い点だけを強調して新しい知見であると主張すれば、審査員も認めざるをえません。
日本の論文雑誌では、お金さえ払えばほとんど無審査に近い状態で掲載される学術雑誌も多くあります。研究者には良心がありますから、まったくデタラメな研究結果を報告することは稀ですが、かなり無理した解釈でも、たとえ大した結果でなくても、体裁さえ整っていればほとんど掲載されます。
ある健康食品が「特許を取得」したというと、他のものにない特殊な効果があるような錯覚を抱きますが、たとえそれが非実用的なものでも、特許を申請することも取得することも可能です。特許を取ってもその効果が保証されている訳ではないのです。
また、がんセンターのように権威のある研究機関で研究中とか、医薬品として開発中というと、効果が証明されているような錯覚をしますが、その後の研究で無効が判明したり、開発が中止なるものもあるのです。研究費さえ出せば、研究者は研究をしてくれるのです。研究や開発をしているから本物だとは限りません。
つまり、学会や論文で発表されたり、特許をとっていても、また臨床試験が行われていても、その効果が公に認められたことを意味するものではありません。何も研究しない物よりは、研究していること自体は前向きに評価されるべきですが、宣伝の戦略の常套手段であることも確かです。
【マスコミに報道されても効果が証明されたわけでは無い】
「○○ががんを抑制」という記事が新聞や雑誌に掲載されることがあります。学会発表や論文として報告された事実を元に記事になっているので、でたらめなわけではありません。しかし、このようにして発表された研究の多くは、まだ研究段階であったり、単なる話題性だけでそれほどの効果が無いことも多いのが事実です。
人には投与できないような大量投与でわずかながん抑制効果があっても、研究者は費やした研究費と時間を無駄にしたくないので、学会発表や論文報告まで無理してでも持っていきます。
問題はその効果が、人でも十分に再現できるような現実的なものか、今までのがん抑制物質よりも効果があるのかという点です。たとえ特殊な薬草や健康食品に抗がん活性を認めても、お茶レベルであれば大したことはありません。しかし、発表する研究者は学会発表や論文報告になれば業績として残ることで満足してしまい、その臨床的意義までは責任はとりません。発表したことによって悪徳業者に利用されようが、がん患者に間違った情報が提供されようが関係ないのです。
しかし、一旦記事になってしまえば、「○○はがんに効く」という宣伝文句に利用されて、健康食品業者の金儲けの手段に利用されないとも限りません。その記事を信じてがん患者が無駄な時間とお金を費やしても誰も責任は取らないのです。
販売する業者がスポンサーになっている研究では、実験系を工夫して薬効を引き出そうと努力します。スポンサーの喜びそうな研究結果を出したがる研究者もいます。何百種類ものサンプルをスクリーニングして、もっとも効果の高いものを見つけたのであればそれは意義があるのですが、初めから1種類だけを調べた結果ではあまり意味はありません。他との比較があって始めてその価値が認識できるからです。
新聞記者はそのような事もしらずに、読者の目を引くようなタイトルをつけて記事にします。その記事を目にした読者の多くはそれが非常に有効なものと錯覚してしまいます。販売業者はその記事をうまく宣伝に使って営業すれば、新聞の御墨付きがあるので、容易に販売することができます。そして、研究段階にすぎなかったものが、何時のまにか「がんの特効薬」のような宣伝になってしまいます。このような新聞記事は研究者側が新聞社に売り込むことも良くあります。
研究者は新聞に載ることによって名前が売れ、新聞社は話題性のある記事が書け、販売する業者は宣伝になるということで、だれも損はしません。しかし、大した研究結果でもないのに、それを信じてがんに効くと期待したがん患者さんだけは損をしています。「がんの予防や治療に効果があるかもしれない」という段階の報告も、学問的な十分な根拠が不明なまま健康ブームにのって健康雑誌を賑わせ、テレビで取り上げられているものが少なくありません。
【体験談主体の書籍で宣伝している場合や、「がんが治る」と言っている場合は要注意】
特定の健康食品でがんや難病が治ったとする体験談主体の本は「バイブル本」と呼ばれます。キノコやサメ軟骨などの健康食品を取り上げ、「末期がんが治った」「医者にかからなくてもがんが治る」などと扇情的な見出しで訴えるのが特徴ですが、このようなバイブル本の実態は、出版社と健康食品販売業者がタイアップして出した宣伝本です。直接商品名を挙げて効果を訴えると薬事法違反になるため、商品名は記載せずに、巻末や本に挟み込んだ紙に連絡先を記載しておき、本の内容で興味をもった患者さんに商品を紹介する仕組みになっています。
末期がんからの生還した症例の体験談をいくつも紹介した健康食品が販売されていますが、このようなバイブル本に紹介されている体験談の多くはでっちあげであるか、都合の良い部分だけを強調している場合が多いという事実が明らかになっています。がんが治ったという症例のエピソードは、実際に効き目があるように現実味を与え読者に強い印象を与えるため、この手の宣伝の常套手段となっています。人によってはある程度の効果があり、がんが消える場合も稀にはあるかもしれませんが、多くの話は、ライターや作家が書いたフィクション(作り話)なのです。
「○○を使ってがんが消滅した」という事実をCTやレントゲン写真や腫瘍マーカーの数値の推移で示している場合もあります。その健康食品だけでがんが縮小したのであれば、それは評価すべきです。しかし、これらの多くは、抗がん剤や放射線などの他の治療を受けていたり、多くの健康食品や漢方薬などの代替医療を行っていて、実際はどれが効いているのか判らない例も多いのです。
このような臨床例での宣伝では、他の治療については言及せずに、あたかもその健康食品の効果でがんが縮小したように記載しています。ある抗がんサプリメントで腫瘍マーカーが激減したというデータを出していて、実際には手術や抗癌剤治療を行っていて、その事実がうまく隠されているような詐欺的なものもあります。本人はがんだと信じて、ある健康食品で治ったと信じているのですが、本当はがんではなかったというのもあります。
手術や抗がん剤で治療したあと、その健康食品を服用しているから再発が起こっていない、というような例を出している場合もありますが、何もしなくても再発しないことは多いので、効果があるという根拠にはなりません。医学に素人の人はこのようなでたらめな論理に簡単に騙されてしまいます。
健康食品の体験談で良いことを述べて商品を紹介している場合、「これは個人の感想で薬効を説明しているのではありません」という断りを記載しておけば、薬事法にも健康増進法にも触れないと判断されているようです。また、医者が「これががんに効く」といっても、個人的意見というスタンスをとれば摘発しにくいかもしれません。がんに効くと思い込ませる合法的な方法を、販売業者はいつも考えているのです。
がんの自然退縮が稀に起こるのは事実ですので、末期がんが治ったという体験談が全てウソとは断定できません。しかし、正確な医学的なデータに基づいて専門医によって客観的に検証されていないものは、まず信じない方が正解です。むしろ、そのような体験談を数多く載せて宣伝広告している健康食品は、買ってはいけない種類のものです。医学に素人の人達をだます意図があるからです。
【講演会で患者を集めて宣伝している場合は要注意】
健康食品では「がんに効く」という表現だけで違法性があり、行政から指導の対象となります。宣伝が露骨であったり、法外な値段で販売しているような悪徳業者は逮捕されることもあります。しかし、このような規制の網をくぐり抜ける表現や販売法も巧妙化し、がん患者や家族の弱みにつけ込む悪質な売り方も進化しています。
がんの治療に関する講演会は、がん患者やその家族にとっては、情報を得る手段として有用です。しかし、主催者が抗がんサプリメントの販売業者である場合は、注意が必要です。販売業者が主催していても、患者さん向けの有益な講演会の場合も多いので、そのような講演会の全てが悪いわけではありません。健康情報を正当に啓蒙するための講演会も多くあります。ただし中には、商品を販売するためのがん患者を集めることが目的の講演会もあります。主催者がNPO(非営利活動団体)法人の名前であっても、それが販売業者の隠れみのになっている場合もあります。
講演会やセミナーなどの形式で人を集め、その中である特定の健康食品を紹介しても、それが薬事法や健康増進法に違反しない範囲の解説であれば、問題はありません。宣伝本や紙面への広告では証拠が残りやすいのですが、講演の場合には、巧みに表現すれば違法性を指摘しにくい場合もあり、録音や写真撮影を禁止しておけば証拠も残りません。つまり、医学の知識のない患者をだましたり、がん患者の弱味につけこんでインチキな商品を販売する手段としては、成功しやすいと言えます。
西洋医学から見放されてわらにもすがる思いの心理状況になっている場合は、正しい判断ができなくなっており、「がんを治す」という断定的な効き目を訴えるものに飛びつきやすいようです。そのようながん患者を囲い込んで、弱味につけ込めば、何百万円というものを購入させることもそれほど困難ではないようです。
健康食品だけでなく、マイナスイオンや温熱療法の器具を買わされる場合もあります。売る方は、がん患者をカモだとしか思っていないことも多いのです。講演会やセミナーで商品の購入を勧められても、高価な場合は、その場で購入の手続きをしない方が賢明です。講師がたとえ医師であっても、「これでがんが治る」と思い込ませるような話しをしている場合は、かなり怪しいと考えておく方が賢明です。販売する方も必死ですから、十分にガードしておかないと、簡単に騙されてしまいます。
【西洋医学を否定し、これだけで大丈夫と言っている場合は要注意】
人の弱味につけ込んで売る商売というのは、良心的な業者より儲け主義の業者が生き残る市場であり、誇大広告や過剰な宣伝、あるいは詐欺的な行為が必然的に行われています。
医学的に証明されていない、いいかげんな「いかさま医療」のことを欧米では「quackery」と言います。このquackeryというのは、「があがあ(あひるの鳴き声)の他に「にせ医者、山師、いかさま師」という意味があります。つまり、いかさま医療を行なう人達は、あひるがガアガアと鳴くように、自分達が行なっているいい加減な薬や治療法を、いかにも効果があるように言いふらすのです。欧米でも日本でも、山ほどいい加減な代替医療が存在しています。
民間療法の施術者の中には、中途半端な医学的知識を振りかざして、「がんができている」と脅したり、逆に重大な病気が隠れているにもかかわらず、大したことはないと断言してしまうこともあります。後者の場合、病気の発見が遅れて手遅れになることもあります。
西洋医学的に明らかにがんがあるのに、代替医療的な診断法を用いて、「がんは無い」というでたらめな診断をする医師や、実際はほとんど効果がないのに、データを捏造して、西洋医学の治療より効果があると発表している医師もいます。
代替医療で使われている診断法の中には、占いや霊感の類いのような常識的に納得できない診断法もあります。しかし、占いや霊感を信じる人が多いので、常識的には非科学的と言えても、インチキだと断定できない事情もあります。
標準治療を受けると死ぬと脅したり、「命とお金とどちらが大切なのか」と恫喝まがいに高い治療費を請求する場合もあります。気が弱ければ大金を払ってしまうことが多く、宗教や占いで金を巻き上げる手法と同じことを行なっている医者や施術者もいるのです。生きるか死ぬかの苦悩を持っているときには、冷静な判断はできなくなっていることも多いのですが、いんちき医療に引っかかると、お金と同時に命までも失うことになります。
がん治療や再発の予防においては、有用な方法をうまく組み合わせて効果を高めることが大切で、西洋医学を否定したり、他の治療法や批判して「これだけで大丈夫」と言っている場合には警戒する必要があります。
がんの診断や治療においては、西洋医学を優先すべきです。健康食品や民間療法ががんに効くなどと宣伝されていても、まず通常の医療(=西洋医学)を受けることを考えるべきであり、西洋医学の治療を補う目的で健康食品や民間療法を賢く利用するという立場を明確にしておくべきです。
【極めて高額で一度に大量の購入を勧める、稀少価値を宣伝する】
高価なものほど品質が良く効き目がありそうな気になります。人間のこの心理をついて、安いものでも高く売った方がよく売れると、わざと法外な価格にしている場合もあります。
また、入手しにくい希少なものほどひょっとしたらがんの特効薬になるのではないかと期待感をもたせます。少ししか採取できない希少な薬草を、高級な包装で販売していると、非常に高額でも購入してみたくなります。
しかし、高価なものほど効くわけではありませんし、希少だから効くという根拠もありません。単なる錯覚です。むしろ、高価な場合や希少価値だけを唱っている場合は、だまされているのではないかと疑ってみることも大切です。「極めて希少な薬草を使った漢方薬」というと効果が高いのではないかを期待しがちですが、このような宣伝は景品表示法に違反します。
健康食品の販売や民間療法に従事している業者の多くは良心的ですが、一部には患者の弱みに付け込んで儲けを企んでいる人がいるのも確かです。また、医学の知識の乏しい業者は、食品の販売と同じ感覚でサプリメントを販売します。効果や品質は二の次で、一つでも多く売るために、良いことばかりを宣伝しています。良心的な販売者でも、単価の高いものを売る方が利益も多いので、高価な商品を勧める傾向にあります。
薬事法違反や全く効かないインチキ商品を売って捕まった業者は後を絶たちません。問題はそれによって患者が高額の被害を受けていることです。高額(月10万円以上)な健康食品を、「がんが治る」と思い込ませるような宣伝を行って販売している場合には、業者から食い物にされている可能性があることを認識しておく方が良いと思います。
高いものほど効果があると思うのか、高額なものにも何ら疑いをもたない人が多いようです。本当は、高額であればあるほど、その効果について疑問をもって厳密に調べる必要があります。定価を高く設定し、大幅な値引きをしている場合もあります。商品の数ヶ月分を一度に購入させたり、クレジットやローンをすすめる場合も要注意です。このように高級なブランド品を売るような感覚で抗がんサプリメントを販売している場合には、購入しない方が無難です。
わらにもすがるような状況のがん患者は、病状が何時悪化するか判らないし、すぐに服用できなくなる可能性も高いので、販売業者はまとめて購入すると値引きするような方法で、最初に数カ月分の購入を勧めることがあります。これは、明らかに患者の利益ではなく、自分たちの儲けを優先している業者です。
【大量摂取を勧める場合は要注意】
「毒にも薬にもならない」という言葉があります。毒にならないものは薬にもならないという意味で、何らかの薬効があるものであれば副作用はつきものです。
滋養強壮の漢方薬や、栄養素として必要なビタミンやミネラルでさえ、必要以上に摂取すれば、副作用がでることがあります。
天然物だから安全だという根拠はありません。特に抗がん剤治療中は、ビタミンやニンニクですら大量にとれば危ないのです。食品だから安全、天然物だから副作用は無いという先入観をもっていると、抗がんサプリメントは思わぬ落とし穴が待ち受けています。
抗がんサプリメントを服用して、具合が悪くなったときも、サプリメントには副作用が無いという間違った先入観によって、「効き目が弱いからもっと多く服用するように」と助言される場合もあります。
医者が薬を使って病状が悪化したときは、まず副作用を考えて、薬を中止するのが基本です。健康食品を摂取して病気が悪化する場合も、「その健康食品を止めて医師か薬剤師に相談するように」という助言が常識的です。「もっと多く摂取するように」と助言するのは、販売量を増やしたいのが本音であり、医学的には間違った対応です。
効果があるものであれば、量が多い方が効き目が高くなる可能性はあります。サプリメントの中には、大量に摂取によって効果が高まるという医学的根拠があるものもあり、その場合には大量摂取の意味があります。しかし、健康食品には「副作用がない」「がんを悪化させることはない」という先入観は間違いです。
【不安感や恐怖心をあおる説明には要注意】
ある程度の進行がんの場合、数年以内に何割かの確率で再発しています。例えば、3cm程度の肺がんが見つかった患者さんが手術を受けて、その手術が成功したとしても、5年生存率は50%くらいです。
したがって、そのような患者さんに片っ端から、「あなたは3年以内に再発します」といえば、半分以上の確率で当たることになります。どの占いよりも当たる確率が高いのががんの再発なのです。
西洋医学的にはPETやCTなどではっきりと異常がでなければ再発とは診断できません。たとえ1mmくらいの小さな転移がたくさんあっても、再発を科学的に証明することは現在の医学では不可能です。
西洋医学の医者の多くは、がん患者に説明するときに悲観的な立場で話す傾向にあります。「リンパ節に転移があったので再発する率が高い」というのは科学的な事実ですので、それは間違いではありません。しかし、「主治医が悲観的なことしか言わない」という話しを多くのがん患者さんから聞きます。これは最悪の結果を想定して説明しておく方が、実際に再発した場合に、医者の責任回避がしやすいという心理も働いています。しかし、がん患者さんは不安になり、それが抗がんサプリメントを利用する切っ掛けになっており、がんビジネスに騙される原因にも成っています。
医者自身が、再発や転移の不安を積極的に説明しているので、抗がんサプリメントを販売する方も、がん患者の不安や恐怖心を利用した説明を行ないやすくなっています。人の不安や信仰心につけ込み、先祖のたたりがある等といって恐怖心をあおって商品を売り付ける霊感商法と同じようなことが抗がんサプリメントの販売でも行なわれています。
西洋医学的な診断ではまだがんの再発が証明できない段階でも、非科学的な診断法を使って、「あなたの体にはがん細胞を増殖している」と断言し、その治療と称して、抗がんサプリメントを販売している医者もいます。
医者でなければ、このような診断行為は医師法違反になりますが、医者が診察した結果であれば、その診断法が非科学的なものでも、詐欺だということはできません。その診断法が間違いだと証明しなければ詐欺にはならないのですが、数mm以上のがんしか診断できない現代医学のレベルでは、目にみえないがん細胞があると主張されても、それがウソだと証明することができないからです。
がんが目にみえないレベルでがんの再発を予測しても、半分は当たるので、その医者は何時の間にか口コミで評判になります。再発しなくても、自分の治療が効いたからだと言うことができます。このようにがん患者の心配や恐怖心をあおって、サプリメントを売り付ける方法は、口がうまければ、ほとんどの患者が騙されてしまいます。
本来、がんの代替医療は、限界のある標準治療の不安を軽減する受け皿のはずです。代替医療を行なっている医師の多くは、がん患者の不安感や恐怖心を無くすことを重視しています。しかし、代替医療を行なっている医者の一部には、がん患者の不安や恐怖心をあおって、高い治療を受けさせている場合があります。たとえ医者であっても、むやみにがん患者の不安感や恐怖をあおるような場合は、信用しない方が良いと思います。
【商品の価格が表示されていない場合は要注意】
特定商取引法によって、通信販売の場合は、商品の価格や送料や支払い方法などを明記することが義務づけられています。しかし、通信販売の形態をとらず、ある商品の宣伝だけをして、商品に興味のある人は「お気軽にご相談下さい」「専門の相談員が詳しく御説明します」という方法で、がん患者を集めて商品を販売している場合があります。
このような場合は、価格が理不尽に高いのが普通です。始めから価格を表示していたら、その高額な価格だけで、だれも問い合わせてみようという気がしません。しかし、がんに効くという話しをさんざん聞かされ、その商品に期待感を持ってしまうと、かなり高額なものでもつい購入してしまうのが人情です。
電話などで消費者から問い合わせを受けると、相談員などという肩書きの社員が説明を始めます。相談員は薬剤師などの資格があるわけではなく、商品説明の訓練を受けているだけの場合が多いようです。その商品には他の健康食品には無い作用があるとか、進行がんが治った人がたくさんいるというようなことを織り込みながら、商品説明を進めていきます。これらの説明は多くの場合マニュアル化されていて、一定の説得力があるように工夫されています。説明を聞いているうちに、試してみたいという気持ちにさせるような、テクニックを持っているのです。効果が高いから価格も高いと言われれば、その値段にも納得してしまいます。
もう治療法が無いと匙を投げられた状態であっても、その商品を使えばまだ治る可能性があるという期待感を持ってしまえば、数百万円のお金でも出す気になります。
購入を迷っていると、がんが治ったという体験談や医師のコメントが載ったパンフレットや宣伝本などが送られてきます。藁をも掴むがん患者にとっては、そこに記載された内容を読んで、その商品に賭けてみようという気になります。高いものを買わせるテクニックなのです。
商品の価格に一切触れていない宣伝広告には、決して手を出さないことが大切です。インターネットの通信販売などで、培養細胞や動物を使った実験でがん細胞を殺す効果や免疫増強作用を派手に宣伝し、患者の体験談を載せ、販売価格がどこにも書かれていない場合は、悪徳業者と判断して、まず間違いはありません。
【医薬品の規制の不十分な国からの個人輸入は危険】
漢方薬や健康食品を通信販売や個人輸入で購入するとき、中国や東南アジアなど薬の規制が不十分な国からの製品には注意が必要です。その理由は、漢方薬の中に西洋医学で使用する医薬品成分が混入されていたり、有害な成分を含む生薬が規制されていないからです。
糖尿病に効くという漢方薬に西洋医学で使用する血糖降下薬が混入されて、それを飲んだ人が低血糖をおこして死亡する事件もありました。アトピーに効く漢方薬にステロイドが入っていたり、痩せる漢方薬に食欲減退作用のある麻薬類似の医薬品や甲状腺ホルモンが混入されていたなど、その例は多数報告されています。
カリフォルニア衛生研究所のコウ博士が、カリフォルニアで中国の漢方薬を調査したところ、鉛・ヒ素・水銀などの重金属の含有量が非常に高かったという報告があります。重金属で汚染された薬草を服用すれば、体の免疫力や抵抗力を障害してがんを促進することにもなります。鉛やヒ素は発がん性もあります。食品や医薬品に対する規制や管理が不十分な国から輸入された健康食品は、かなり危険な成分も入っていることを認識して置く必要があります。
中国の漢方薬では、日本では使用が禁止されている毒性の強いもの、発がんプロモーター活性を持つものなどが使用されている場合もあるので、成分がはっきりしていない場合には安易な使用は危険です。例えば、アリストロキア酸はアリストロキア属の植物に含有される成分で、腎障害を引き起こすことが知られています。現在、日本においては、医薬品として承認許可を受けた生薬及び漢方製剤にはアリストロキア酸を含有するものは製造・輸入されていませんが、中国ではアリストロキア酸を含む生薬も規制されずに使用されており、中国製漢方薬の個人使用によると疑われる腎障害が報告されています。
どのようなものが入っているのか判らないようなものは、むやみに使えば体に悪い影響が出て、がん治療にとってマイナスになることもあります。もし、西洋薬と併用して漢方治療を行うのであれば、使っている生薬が明らかであることと、西洋薬と併用した場合の相互作用について知識のある医師や薬剤師の指導をうけながら行う方が安全です。滋養強壮程度の健康食品程度の漢方ならそれほど問題がありませんが、「がんに効く」という宣伝文句があるならば、使用されている生薬が公開されていないと危険かもしれません。
また、個人の使用目的で輸入する個人輸入の場合は、未承認医薬品でも輸入して使用することはできます。しかし、この使用は自己責任で行うものであり、その商品によって健康被害を受けても、販売業者や輸入代行業者に責任を問うことはできません。誰も責任を取らない販売形態ですので、がんに効くと宣伝されている中国の漢方薬やサプリメントの個人輸入はかなり危険だと思います。
【販売者の住所が不明、必要な表示がない場合は騙される危険がある】
通信販売で、販売業者の名称や所在地、商品の価格や支払い方法などを記載していない場合は特定商取引法違反になります。
住所を表示していない場合は、業者の責任や所在をわからなくして摘発から逃れる意図がはっきり読み取れます。したがって、そこで紹介している商品も信頼できないと言えます。
「○○療法研究所」や「○○研究会」「○○患者会」のような医療団体や患者団体を思わせるような名称や、NPO(非営利団体)法人を取得している場合は、それが純粋に情報発信や情報交換が目的の場合は問題ないと思いますが、健康食品の販売を目的としている場合には、何らかの意図があるはずです。NPO法人の紹介であるとか、医療団体や患者団体が販売しているものなら信頼できると思い込みやすいという点を利用している可能性があります。一見、消費者の味方と思わせるような内容であっても、それが健康食品を売るのが目的のものであれば、騙されている可能性があります。
商品の表示が不完全なものも注意が必要です。賞味期限か製造年月日が表示されていない、成分表示あるいは原材料表示をしていないようなものには手をださない方が賢明です。
比較的長期に保存しても変質しにくいものは、製造年月日かこれに代わるロット番号や製造記号などでも許容できるかもしれません。しかし、健康食品は食品ですので、製造年月日か賞味期限のいずれも表示されていない場合は、業者が製造管理を一切行なっていないことが明らかなので、こういう商品には絶対に手を出してはいけません。
成分表示や原材料表示をしていないものは食品衛生法にも触れます。企業秘密だから成分を公開できないと言っているものもありますが、そのようなものは全てインチキだと考えて間違いありません。
特定保健用食品の許可を取得した製品は決められた内容で効能効果を表示できますが、無許可・無認可の健康食品は薬効的な表示や宣伝をすることは薬事法で一切禁止されています。違法な表示を堂々とするような製品はまともな業者ではないと断言できます。
【ネズミのがんの発生を予防しても人間のがんを予防するとは限らない】
動物発がん実験でがんの発生を予防する効果が証明されれば、人間のがんの予防にも効く可能性が高いと言えます。しかし人間のがんの発生と動物実験でのがん発生とはかなり異なりますので、動物実験でがん予防効果が認められても、人間にもがん予防効果があるという証拠にはなりません。
胃がんや大腸がん、肺がん、皮膚がんなど、それぞれのがんを動物に発生させる発がん剤が知られています。そのような発がん剤は、ある臓器や組織の細胞のDNAに変異を起こして、がん細胞を発生させます。このような発がん剤によってがんを発生させる時に、食品成分を食事や飲水の中に混ぜたり、直接投与することによって、がんの発生を予防する物質を見つける研究が盛んに行なわれています。
しかし、このような動物発がん実験というのは、人間に大量の発がん物質を無理矢理飲ませたり、大量の放射線を照射するようなものであり、人間における一般的ながんの発生とはかなり異なります。
例えば、発がん剤の多くはフリーラジカルの作用によってDNAと反応して遺伝子の変異を起こします。このような場合、抗酸化作用やフリーラジカル消去作用をもった成分であれば、発がん剤を用いた動物実験ではがん予防効果が認められます。しかし、人間の場合、抗酸化剤だけを長く服用してもがんをはっきりと予防できるという証拠は得られていません。お茶のカテキンやいろんな植物のフラボノイドなどが、動物実験ではがん予防効果が証明されているのですが、果たして人間でも効果があるのか結論がでていないのが現状です。
また、ネズミを使った実験では、「必要最低限」の栄養素を配合した飼料を使用している点も大切です。これは、実験結果を均一にするために必要なのですが、抗腫瘍効果を際立たせる作用もあります。このような餌では、リンゴやみかんの皮でも、発がん抑制作用を出すことができます。日頃からキノコを食べていない人にキノコの健康食品を与えればキノコの健康作用がでやすいかもしれません。しかし、日頃からキノコを食べている人ではそのような効果は出にくいのは当然かもしれません。
栄養失調に人には不足してる栄養素を補充するだけで効果がみられますが、日頃から雑多な食品成分を摂取して栄養が足りている人の場合は、ある特定のものを補っても効果は見られないことが多いのです。
【ネズミに植えたがんが縮小してもヒトのがんが縮小することは稀】
キノコに含まれるベータグルカンなどの多糖体成分が免疫力を高めて抗がん作用を示すという動物実験の結果が、1960年代ころから数多く発表されました。がんを移植したネズミに様々なキノコの抽出物を投与して抗がん作用を検討する研究は、国立がんセンターを始め、多くの大学の研究室でも行なわれました。そのような実験の中には、ほとんどのがんが縮小するような結果が得られた実験もあります。ただし、それがそのまま人間に当てはまるとは限りません。
「がん増殖阻止率96.7%」と言われると、医学に素人の人は、ほとんどのがんが治るように信じてしまいます。しかし、これはネズミにメシマコブのエキスを大量にしかも注射で投与した場合の結果であり、人間が口から摂取しても、このような効果は期待できません。免疫増強作用によって感染症を予防したり、QOL(生活の質)を高めたり、抗がん剤の副作用を軽減する効果など、多少の有用性は期待できるかもしれませんが、メシマコブ単独でがん細胞の増殖を阻止する力は、人間が口から摂取する方法では、極めて小さいのが真実です。
この手の研究には2つの大きなトリックがあります。一つは、人間では口から服用するサプリメントなのに、ネズミの実験では注射でエキスを投与した結果が使われていることです。ベータグルカンという多糖体は確かに注射で投与すると免疫力を高める効果があります。しかし、消化管からはほとんど吸収されません。吸収されるように分解して分子量を小さくすると、今度は免疫増強作用が減少してしまいます。
そこで、キノコの多糖体は腸管壁にある免疫組織を刺激して腸管免疫を活性化するのだという説明がなされています。あるいは吸収される低分子のものにも免疫力を高める効果があるという解釈もあります。しかし、このような考え方にはまだ十分は証明はなされていません。免疫力を高めると宣伝されている健康食品の中には、人体で多少の免疫力増強作用を示したものはありますが、その効果はわずかであり、とてもがんを消滅させるようなレベルではないことだけは確かです。
第2のトリックは、人間に自然に発生したがんは、正常細胞と免疫学的に区別が困難なのですが、ネズミに移植したがん細胞は、正常細胞とかなり異なるので、免疫学的に排除しやすい状態なのです。したがって、キノコの抽出エキスなどで、免疫力全体を活性化すれば、ネズミに移植したがん細胞は免疫細胞によって簡単に排除されます。しかし、人間に発生したものは、免疫細胞は正常とがん細胞を十分に区別できないので、いくら免疫力を高めても、がんを排除することは困難なのです。
ネズミに免疫力を高めてがんを排除するという実験結果は、人間ではほとんど期待できない実験モデルなのです。
【好転反応という言葉に注意】
漢方薬を使用して効いてくる時に、いろんな症状がでることがあります。体がだるくなったり、下痢したり、めまいを起こしたり、一時的に症状が悪化したりなどその症状は様々です。これには副作用の場合と、薬が効いて体が反応しているために生じた症状の場合があります。後者を漢方では「瞑眩(めんげん)」と呼んでいます。健康食品の場合には「好転反応」という言い方をされる場合があります。
サプリメントを服用して一時的に症状や病状が悪くなるのは、薬が効いている反応であり、そのあとに病気が好転してくるはずだと解釈して、好転反応という言葉が使われています。
免疫力を高めるようなサプリメントは、マクロファージやリンパ球を刺激しますが、それによって体の中ではホルモンや化学伝達物質や自律神経などに変化がでてきます。その結果めまいを起こしたり、熱が出たり、下痢をおこすといった体調不良が起こることはあり得ます。薬やサプリメントを服用しても全く何も変化がなければ、本当に何も作用していないかもしれません。その点、症状に変化がでるということは、実際に体に反応を引き起こしているので、効果を期待させます。しかし、このような症状の変化の中には副作用によるものの方が多いのも事実です。
いろんな体調の変化があった場合、それが不快なものでなく体調が悪化しない場合には好転反応や瞑眩の可能性があるので、しばらく服用量を減らして様子をみるという対処で良いと思います。症状が治ってきたら徐々に量を増やしていきます。
しかし、痛みや吐き気など不快な症状が強くなったり、食欲が低下して体調が悪化する場合には副作用の可能性があります。基本的にはそのサプリメントの服用を中止する必要があります。
抗がんサプリメントを使用して、いろんな不快な症状が出てきて、販売業者に問い合わせると、それらを安易に好転反応として説明する場合が多いようです。好転反応というのは健康食品業界の便利な言い訳にすぎません。漢方の場合、専門家であっても副作用と瞑眩を区別することは難しいことです。医師以外の人(販売員)が簡単に好転反応や瞑眩などと称して効果の証しであると説明している場合は、医薬品的な効能効果の標榜に該当するとして薬事法で禁止されていますし、医療行為ととられれば医師法違反にもなる違法行為なのです。
【免疫力を高めてがんを治すという宣伝に過剰な期待を持たない】
「免疫力をあげればがんが治る」というのは、一つの医学的な見解であり、それを主張することは言論の自由かもしれません。しかし、免疫力を高めると言われている健康食品の宣伝に、この言葉が巧みに利用され、「免疫を高めることによってがんを治す」と思い込ませるような宣伝が多く見られます。
確かに、免疫力が十分に高まれば、QOL(生活の質)の改善や、感染症やがんの再発を予防する効果が期待でき、がんを治すのに役にたつ可能性はあります。がんが治らなかった場合は、それは免疫が十分に上がらなかったからだと言えば言い訳できるので、販売業者にとっても都合がよいようです。しかし現実は、いろんな方法で免疫力を高めても、「がんを治す」だけの実力はまだありません。がんワクチンや活性化リンパ球療法などの免疫療法は最先端の医療ですが、これらすらまだ研究段階で有効性は証明されていません。
「免疫力が低下するとがんが発生しやすくなる」というのは正しいのですが、逆に「免疫力を高めればがんが治る」かというと、それほど簡単ではありません。
免疫細胞ががん細胞を排除するには2つの重要なステップがあります。一つはがん細胞と正常細胞を区別して攻撃するべきがん細胞を見つけることです。2つめは、敵と認識されたがん細胞を攻撃して排除することです。兵士であれば、敵を識別する目が前者であり、敵を攻撃する鉄砲が後者に相当します。
がん細胞には正常細胞とは異なる抗原が存在し、それをマクロファージなどの抗原提示細胞が認識し、その情報をリンパ球に伝えることによって、リンパ球ががん細胞を攻撃するようになります。がん抗原を認識する能力と、がん細胞に対するリンパ球の攻撃力のどちらが低下しても、がんに対する免疫力は低下してしまいます。一方、免疫力を高めてがん細胞を殺すには、この2つのステップが共に正常に機能しないと目的を達成できません。
活性化リンパ球療法という治療法があります。患者からリンパ球を取り出して、培養液の中で攻撃力を高め、数千倍に増やして戻します。しかし、この方法ではがん細胞が縮小することは稀です。活性化して増やしたリンパ球が、がん細胞を認識できるリンパ球であれば、活性化して数を増やせばがん細胞を殺すことができます。しかし、実際は、敵と見方を識別できない兵士を増やして、鉄砲をたくさん持たせて帰しているだけであれば、体内に戻っても、ただウロウロするだけで役に立ちません。
がんワクチンなど、がん細胞を免疫システムが認識する方法の研究が進められています。免疫細胞にがん細胞を認識させることができれば、免疫療法はもっと効果のある治療法になるはずです。しかし、アガリクスなどの抗がんサプリメントで免疫力を高めるといっているのは、非特異的にリンパ球を活性化しているだけなので、がんを認識する力が低下している場合にはがんを縮小させる効果はあまり期待できません。
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