サメ軟骨、サメ肝油


【抗がん作用の根拠】

 がん組織が大きくなるためには、栄養や酸素を運ぶ血管を増やしていく必要があります。新しい血管を作ることを「血管新生」といい、がん細胞自身が血管を作る蛋白質を分泌して血管新生を促進しています。
 がんの治療後に血管新生を阻害する薬を投与すれば、残ったがん細胞の増殖を抑制して再発を防ぐことになり、がん組織が小さいうちに腫瘍血管の新生を阻害できればがんの退縮も可能と考えられています。したがって、血管新生阻害剤は抗がん剤開発の分子標的として重要視されているのです。
 サプリメントでは、サメ軟骨やサメ肝油、サメ肝油に含まれるスクアラミン、ウコンに含まれるクルクミン、大豆イソフラボンのゲニステインなどに血管新生阻害作用が報告されており、「がんを兵糧攻めにする」という治療効果を唱っています。しかし、これらの多くは基礎研究レベルであり、人での効果が証明されているわけではありません。むしろ、がん細胞の増殖抑制に対してはほとんど効果が無いというのが正しい評価かもしれません。

【注意すべき点】

 健常な成人においては、体の中で血管が新生する必要はありません。人体において血管が新生されるのは、妊娠初期(胎盤形成や胎児の発生過程)、炎症部位(慢性関節リュウマチ、糖尿病性網膜症、乾癬など)、創傷治癒過程(手術後やケガ)、虚血部位周囲での側副血行路の形成(心筋梗塞や閉塞性動脈硬化症など)とがん組織が上げられます。したがって、血管新生阻害作用を持つ物質は、炎症性疾患や腫瘍に対して治療効果を持つ反面、胎児の発育や創傷治癒や障害し、虚血性疾患を悪化させる可能性を有しています。
 血管新生阻害作用を唱えているサプリメントのサメ軟骨エキスやサメ脂質などは、リュウマチのような炎症性疾患やがんなど、血管新生が病気の進展に関与している疾患に対する治療効果が期待されています。しかし、血管新生阻害による薬効(病的な血管新生を阻害すること)のみが強調され、血管新生阻害作用に内在する問題点(生理的血管新生を阻害することによる副作用)にはほとんど言及されていません。
 血管新生阻害作用が本当にあるのであれば、妊娠初期に服用すれば、胎盤形成に影響したり、四肢形成の初期段階で必要な血管新生が阻害され、胎児の発育に悪影響を及ぼす可能性は否定できません。さらに、手術を受けるときには創傷治癒を妨げ、狭心症や心筋梗塞のような虚血性心疾患をもっている人には、血管新生を阻害して虚血症状を悪化させる可能性もあります。
 文献上は、サメ軟骨やサメ脂質によるこのような潜在的な副作用を懸念する警告がなされています。また、サメ脂質は血液凝固を阻害する可能性もあるので、手術前後での使用には注意が必要であります。サメ軟骨の粉末を大量に服用した場合には、胃腸障害だけでなく、カルシウムの摂取量が増えることによって高カルシウム血症が起こる可能性も指摘されています。

【メモ1】血管新生阻害作用とは

 体の組織が生きていくためには血液から栄養や酸素の供給をうけることが必要で、血管が詰まって血液が流れなくなると組織は死んでしまいます。同様に、がんも血液からの栄養と酸素の供給が止まると死んでしまいます。
 がん細胞は正常細胞を押しのけて自分勝手に増殖するために、回りの正常な組織から栄養や酸素を一人占めしようとします。その手段として、がん細胞自身が積極的に自分の栄養血管を増やそうとしています。がんが大きくなるためには、栄養や酸素を運ぶ血管を増やしていく必要があるからです。このように新しい血管を作ることを「血管新生」といい、がん細胞自身が血管を作る蛋白質を分泌して新しい血管を増やそうとしているのです(図)。


図:がん細胞は新生血管を作り出す増殖因子を放出し、栄養と酸素を運ぶ血管を増やして増殖する。原発巣から遊離したがん細胞は新生血管を介して血管内に入って他の場所に運ばれ(遊送)、血管壁に着床し、血管外に出て転移巣を形成する

 がん細胞が100個くらいになると、それ以上大きくなるためにはがん組織専用の血管が必要になって、がん細胞が血管を新生するための増殖因子を産生しだすといわれています。したがって、がんの治療後に血管新生を阻害する薬を投与すれば、残ったがん細胞の増殖を抑制して再発を防ぐことになります。がん組織が小さいうちに腫瘍血管の新生を阻害できればがんの退縮(消えてなくなること)も可能と考えられています。
 血管新生が阻害されると、がん細胞は針の先程の大きさにも成長できません。例えがん細胞を直接殺すことができなくても、がん組織の血管新生を阻害できると、がんを兵糧攻めにして発育を抑え、ついにはがん細胞の塊を小さくすることができます。また、がんは新生した血管を経路として転移を起こしますので、血管新生を抑えればがんの転移を防ぐことにもなります。
 がん細胞が腫瘍血管を新しく作るために、まずがん細胞は血管内皮細胞増殖因子(VEGF)という蛋白質を分泌して、近くの血管の内皮細胞の増殖を刺激します。さらに周囲の結合組織を分解する酵素を出して増殖した血管内皮細胞をがん組織の方へ導き、血管の内腔を形成する因子を使って新しい血管を作っていきます。これらのステップのいずれかを阻害してやると血管新生を阻止できます。
 がん組織における血管新生を阻害する作用は、がん治療へ応用できます。つまり、新しい血管を作らせず、栄養や酸素の供給を遮断してがんを「兵糧攻め」にしようという考えです。がん組織の血管新生を阻害できれば、がんの増殖を止めることができ、がん細胞を殺す抗がん剤治療と併用すれば、抗がん剤治療後のがん細胞の再増殖を抑えることができます。さらに、がんの転移も新生血管を介して起こるので、血管新生を阻害すれば転移を防ぐことにもなります。以上のような理由で、血管新生阻害剤は、抗がん剤開発の分子標的として重要視されており、現在、数多くの血管新生阻害剤が世界中で開発されています。
 健康食品でも、サメ軟骨や、サメ脂質に含まれるスクアラミン、ウコンに含まれるクルクミン、大豆イソフラボンのゲニステインなどに血管新生阻害作用が報告されており、「がんを兵糧攻めにする」という治療効果を唱っています。
 血管新生阻害剤として効果が認められている医薬品にサリドマイドがあります(日本では未認可)。サリドマイドの臨床試験の結果では、多発性骨髄腫、脳腫瘍、カポジ肉腫、腎臓がん、前立腺がん、肝臓がんなど多くの腫瘍で有効性が報告されています。一般的に血管の豊富な腫瘍で効果が出やすいようです。
 血管内皮細胞増殖因子(VEGF)に対するモノクローナル抗体(抗VEGF抗体)が医薬品として使用されています。この医薬品は、大腸がんの治療において抗がん剤と併用することによって延命効果が証明されており、腎臓がんなど他の腫瘍でも効果が検討されています。
 以上のことから、血管新生阻害作用のあるものは、がんの種類によってはがんの縮小が期待できますし、がん治療後の再発予防の効果も期待できます。抗がん剤や放射線による治療と併用すればそれらの抗腫瘍効果を高めることが期待できます。ただし、健康食品として販売されているサメ軟骨や脂質を素材とした製品には、人間での有効性の証明は十分ではありません。少なくとも現時点では、サリドマイドや抗VEFGF抗体と同じレベルでの効果を期待するだけのデータはありません。

【メモ2】サメ軟骨の抗がん作用は否定的?

 サメにはがんの発生が極めて少ないことや、サメに発がん剤を多く与えてもがんが発生しにくいことから、サメ軟骨の抗がん活性の研究が始まりました。サメには軟骨が多く、軟骨には血管が乏しいので、軟骨の何らかの成分が血管新生を阻害する作用があるのでがんが出来にくいのではないかと推測されました。実際に、サメ軟骨の成分の中に血管新生阻害物質が見つかり、がんや炎症性疾患の血管新生を抑える目的で開発されています。サメ軟骨中の血管新生阻害物質としてプロテオグリカンやペプチドなどが指摘されています。サメの肝油からもスクアラミンやその他の未知の成分による血管新生阻害作用が報告されています。
 このように、サメの軟骨や脂質を素材にした抗がんサプリメントは、腫瘍の血管新生を阻害する作用が根拠になっています。その他の血管新生阻害作用をもった抗がんサプリメントの素材としてウコンに含まれるクルクミンや大豆イソフラボンのゲニステインが使用されていますが、これらは試験管内レベルの結果に基づくものであり、血管新生阻害作用が期待できる濃度は血中に達しる濃度よりかなり高いレベルであることから、実用的な意味で血管新生阻害剤としての価値はありません。
 サメ軟骨の血管新生阻害作用は動物や人での研究で報告されています。塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含んだペレットをウサギの角膜に移植して、血管新生を刺激する実験モデルにおいて、粉末化したサメ軟骨の経口投与は、bFGFで引き起こされる血管新生を阻害しました。つまり、粉末化したサメ軟骨を口から摂取しても、角膜における血管の新生を抑えるレベルの阻害物質が吸収されることを意味しています。
 モントリオール医科大学の研究では、29人の健康な男性ボランティアをランダムに3群に分け、液体サメ軟骨を23日間毎日経口投与し、12日目にポリビニールアルコールを詰めた穴のあいたシリコンチューブを前腕部の皮下に埋め込みました。23日目にチューブを取り除き、内皮細胞の密度などで血管新生の程度を組織学的に比較した結果、液体サメ軟骨の服用が創傷における血管新生を阻害する臨床効果があることが示唆されました。
 血管新生阻害作用があれば、抗腫瘍効果も期待できるのですが、サメ軟骨の抗がん活性については多くの議論があり、必ずしも証明されているわけではありません。動物を使った実験で、サメ軟骨エキスががん細胞の増殖を抑えるという結果が報告されていますが、効果を認めなかったという報告も多くあります。米国のがん治療研究財団ががん患者を対象に大規模研究を行い、進行がん患者に大量のサメの軟骨の粉末を摂取させ、抗がん作用があるかどうか研究しました。しかし、抗がん作用は確認できなかったと、第33回米国臨床腫瘍学会で報告されています。
 この結果は、サメ軟骨エキスの活性成分の投与量が関連しているようです。サメ軟骨の粉末の場合には、1日に100グラムに及ぶ量を服用しないと、抗がん作用を示すほどの血管新生阻害作用は認められないようです。しかしこの量は、特有な臭いや胃腸障害がでたりして飲むのが大変です。
 そこで、血管新生阻害成分を抽出した液体サメ軟骨エキスが開発されており、サメ軟骨粉末食品の100gに相当する血管新生阻害作用の有効成分を数ccの液体エキスに濃縮した製品などが抗がんサプリメントとして販売されています。米国で臨床試験が実施されていますが、最終的な結論はまだ出ていません。ある臨床試験では延命効果は認められなかったというネガティブの結果がでているそうです。
 サメ肝油に含まれるスクアラミンやその他の脂質成分についても血管新生阻害作用が指摘されていますが、現時点では試験管および動物実験レベルでの検討が主体です。

【メモ3】妊娠可能な人、手術前後、心臓に持病がある人は避けるべき

 健常な成人においては、体の中で血管が新生する必要はありません。人体において血管が新生されるのは、妊娠初期(胎盤形成や胎児の発生過程)、炎症部位(慢性関節リュウマチ、糖尿病性網膜症、乾癬など)、創傷治癒過程(手術後やケガ)、虚血部位周囲での側副血行路の形成(心筋梗塞や閉塞性動脈硬化症など)とがん組織が上げられます。したがって、血管新生阻害作用を持つ物質は、炎症性疾患や腫瘍に対して治療効果を持つ反面、胎児の発育や創傷治癒や障害し、虚血性疾患を悪化させるという副作用を有します。
 血管新生阻害剤として最も有名なのが、サリドマイドです。サリドマイドはもともとは催眠薬として40年ほど前に発売されていましたが、妊娠初期にサリドマイドを服用した母親から、手や足の発育不全や聴覚障害を持つ子供が多く生まれ、サリドマイドの強力な催奇形性が明らかとなって発売中止になりました。しかし、この催奇形性の原因を研究するうちにサリドマイドには血管新生阻害作用にあることが判明し、現在では、がんや炎症性疾患の治療に応用されるようになりました。
 健康食品で血管新生阻害作用を唱えているものとして、サメ軟骨エキスやサメ脂質などがあり、それらはリュウマチのような炎症性疾患やがんなど、血管新生が病気の進展に関与している疾患に対する治療効果が期待されています。しかし、血管新生阻害による薬効(病的な血管新生を阻害すること)のみが強調され、血管新生阻害作用に内在する問題点(生理的血管新生を阻害することによる副作用)には言及されていません。
 血管新生阻害作用が本当にあるのであれば、妊娠初期に服用すれば、胎盤形成に影響したり、四肢形成の初期段階で必要な血管新生が阻害され、胎児の発育に悪影響を及ぼすはずです。さらに、手術を受けるときには創傷治癒を妨げ、狭心症や心筋梗塞のような虚血性心疾患をもっている人には、血管新生を阻害して虚血症状を悪化させる可能性もあるのです。
 サメ軟骨やサメ脂質のなかには、薬剤として開発されるような血管新生阻害物質が存在しますが、健康食品として売られているものには、それらの活性成分が薬効を示すに十分な量含まれているわけではないので問題ない、という業者の本音も聞かれます。しかし、腫瘍血管の新生を阻害すると言っているのであれば、手術後の創傷治癒を妨げ、狭心症や心筋梗塞のような虚血性心疾患をもっている人には、血管新生を阻害して虚血症状を悪化させる可能性を警告しておくべきで、妊娠可能な女性への使用も制限するべきです。
 文献上は、サメ軟骨やサメ脂質によるこのような潜在的な副作用を懸念する警告がなされています。また、サメ脂質は血液凝固を阻害する可能性もあるので、手術前後での使用には特に注意が必要です。サメ軟骨の粉末を大量に服用した場合には、胃腸障害だけでなく、カルシウムの摂取量が増えることによって高カルシウム血症が起こる可能性も指摘されています。
 食品の扱いですので、このような警告は必要ないかもしれませんが、血管新生阻害作用の存在を示唆する宣伝を行っているのであれば、それに関連したトラブルが発生すれば製造物責任法(PL法)の「指示・警告上の欠陥」による責任問題が発生する可能性はあります。この場合、欧米の論文ですでに警告がなされている点が重要で、「健康被害を予見できる状況」にありますので、問題が起これば「適切な警告を怠った」ということで損害賠償が請求できるはずです。

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