漢方薬とCOX-2阻害剤を併用した免疫力増強法:

(ポイント)

1)生薬に含まれるβ-グルカンサポニン精油成分の組み合わせによって、漢方薬の免疫増強効果を相乗的に高めることができる。
β-グルカンの豊富な霊芝(れいし)・梅寄生(ばいきせい)・茯苓(ぶくりょう)・猪苓(ちょれい)、サポニンの豊富な高麗人参(こうらいにんじん)・田七人参(でんしちにんじん)・党参(とうじん)・黄耆(おうぎ)、精油成分の豊富な当帰(とうき)・川きゅう(せんきゅう)・鬱金(うこん)・莪朮(がじゅつ)などを組み合わせると、免疫増強効果を相乗的に高めることができる。
これらを組み合わせることは、免疫細胞の活性化だけでなく、胃腸の状態を良くし、組織の血液循環を良くすることによって、免疫力が高まりやすい体の状態に整えることができる

2)COX-2阻害剤(celecoxib:商品名セレコックスやセレブレックスなど)を併用する。COX-2阻害薬は腫瘍免疫を増強し、炎症反応によるがんの進展を抑制する。
マクロファージにより産生されるプロスタグランジンE2(PGE2)は、リンパ球の活性化や増殖を抑え、リンパ球によるサイトカインの産生を抑制する作用がある。したがって、PGE2の産生を抑えるCOX-2阻害剤は腫瘍組織における免疫細胞の活性や増殖を高めることができる
さらに、免疫抑制作用(
免疫寛容)の成立において重要な役割を果たしているインドールアミン酸素添加酵素(Indoleamine 2,3-dioxygenase: IDO)の作用をCOX-2阻害剤のcelecoxib(セレコックス)が阻害して、がん細胞に対する免疫寛容を解除し、がんに対する免疫力を高めることが報告されている。
さらに、COX-2阻害剤は、炎症反応を抑えることによってがん細胞の悪性進展を抑制する効果や、血管新生を阻害して増殖を抑える効果などが報告されている。

したがって、免疫増強作用を有する漢方薬とCOX-2阻害剤(セレコックス、セレブレックス)を併用すると、がん細胞に対する免疫細胞の攻撃力を相乗的に高めることができる

(根拠)

1。生薬に含まれる免疫増強成分:β-グルカン、サポニン、精油

【キノコに含まれるβ-グルカン】
免疫力を高める成分としては、キノコに含まれるβ-グルカンなどの多糖体成分が有名です。 「免疫力を高めてがんを治す」ような物質を多くの研究者が探してきました。その結果、抗がん活性をもった多糖(抗腫瘍多糖)の存在がキノコなどから発見されました。
多糖体というのはブドウ糖のような単糖がいくつも結びついた高分子物質のことで、その結び付きの違いで作用も異なってきます。
抗腫瘍多糖の代表は(1→3)-βD-グルカン(以下β-グルカンと略す)という多糖体で、類似の基本構造を有する多種のβ-グルカンが、きのこ類や生薬などから多数みつかっています。
β-グルカンにはマクロファージ・T細胞・ナチュラルキラー(NK)細胞・補体系などの免疫増強にかかわる種々の免疫細胞を活性化する作用が証明されています
腸の粘膜には特殊なリンパ球が存在し、腸管壁での免疫応答(腸管免疫)が全身免疫に影響しています。高分子量のβ-グルカンは消化管からは吸収しにくいので、腸管免疫を介した免疫増強作用の可能性が示唆されています。
β-グルカンはサルノコシカケ科のキノコの仲間に多くふくまれています。漢方薬に使われる生薬としては、霊芝(サルノコシカケ科のマンネンタケの一種)、猪苓(サルノコシカケ科のチョレイマイタケの菌核)、茯苓(サルノコシカケ科のマツホドの菌核)、梅寄生(サルノコシカケ科のコフキサルノコシカケの子実体)などがあります。

【サポニンの免疫増強作用】
サポニン(saponin)の名前は泡を意味する「シャボン(サボン)」に由来します。サポニンは多くの植物に含まれる成分で、水に混ぜて振ると石けんのように持続性の泡を生ずる化合物群に付けられた名称です。サポニンには免疫増強作用を含め様々な効能があることが報告されています。サポニンは植物以外ではナマコやヒトデなどの棘皮動物にしか見つかっていません。つまり、植物に特徴的な薬効成分と言えます。
柴胡(サイコ)に含まれるサイコサポニンには肝障害改善作用・抗炎症作用・抗アレルギー作用、インターフェロン産生を高めて免疫力を高める効果が報告されています。
高麗人参に含まれるサポニンも、マクロファージの貪食能を高め、リンパ球を活性化して細胞性免疫や抗体産生を高めることが報告されています。多くの動物実験で、ワクチンなどで免疫するときに、高麗人参を経口摂取させると、抗原に対する抗体の産生が高まる結果が得られています。人体での臨床試験でも、高麗人参の水溶性エキス100mgを1日2回、8週間摂取すると、好中球の貪食能が著明に高まることが明らかになっています。高麗人参に含まれるニンジンサポニンは、免疫増強作用に加えて、滋養強壮作用や、精神・神経系や内分泌系に対する作用など多様な生理作用が報告されています。
黄耆(オウギ)に含まれる様々なトリテルペンサポニンは免疫力を高める作用があることが知られています。マクロファージやリンパ球を活性化して、細胞性免疫や抗体産生を高める効果があります。オウギを服用すると鼻粘膜のIgAやIgGの分泌を高めることが報告されています。インターフェロンやインターロイキン-2の産生を高め、がん細胞に対する免疫力を高めます。
このように多くの研究で、サポニンにはインターロイキンやインターフェロンといったサイトカインの産生を高める作用があることが報告されています。
サイトカインとはリンパ球や炎症細胞などから分泌される蛋白質で、細胞の増殖、分化、細胞死などの情報を伝達し、免疫や炎症や創傷治癒など様々な生理機能の調節を担っています。サイトカインは細胞表面の膜上にある受容体に結合することによって、受容体に特有の細胞内シグナル伝達の引き金となり、極めて低濃度で生理活性を示します。白血球が分泌し免疫系の調節を行なうインターロイキン、ウイルス増殖阻止や細胞増殖抑制の働きをもつインターフェロン、様々な種類の細胞増殖因子など、数百種類のサイトカインが知られています。
つまり、生薬に含まれるサポニンは免疫細胞からのサイトカインの産生を高めることによって、細胞性免疫や抗体産生を活性化し免疫力を高めます。免疫力を高める生薬の代表である高麗人参や黄耆の免疫増強作用もサポニンの関与を大きいと考えられています。

【精油の免疫増強作用】
精油(せいゆ)は植物に含まれる揮発性の芳香物質です。香りの成分で、その種類によって、食欲を高める効果、血液循環を良くする効果、気の巡りを良くする効果など様々な薬効が知られています。免疫力を高める効果も報告されています。
煎じ薬をインスタントーコーヒーのようにスプレードライ法で粉末にする過程では、水と一緒に精油成分も揮発して無くなります。これが、漢方薬のエキス粉末製剤が煎じ薬よりも効果が落ちる理由です。

免疫増強を目的とした健康食品やサプリメントでは、β-グルカンを主体にしたものがほとんどです。しかし、β-グルカンで免疫細胞を刺激するだけでは十分な効果が得られません
漢方治療は胃腸の状態を良くして栄養状態を良くし、組織の血液循環や新陳代謝を高めて免疫細胞が活性化しやすい状態にします。
免疫増強作用を有するβ-グルカンとサポニンと精油成分の相乗効果を利用すると、漢方薬の免疫増強効果をさらに高めることができます

以上のように、βグルカンもサポニンも精油も植物に特徴的に含まれ、動物には見つからない成分です。薬草や野菜の抗がん作用はこのような植物に特徴的な成分によって発揮されます。これが、漢方治療ががん治療に有用な理由にもなっています。

漢方薬の免疫増強作用

図:漢方薬は生薬に含まれるβグルカンやサポニンや精油の相乗効果によって免疫力を高める。

2。プロスタグランジンE2は免疫を抑制する。

マクロファージにより産生されるプロスタグランジンE2(PGE2)は、刺激されたリンパ球の活性化を抑え、リンパ球によるサイトカインの産生を抑制する作用があります。この結果、宿主免疫反応が遷延するのを防ぎ、過剰な免疫反応からの生体の防御機構としての役割を担っていると考えられます。
がん組織ではマクロファージだけでなく、がん細胞自体もCOX-2を多く持っていて、PGE2の合成が高まっています。このように、腫瘍組織におけるPGE2の産生が免疫抑制に関与することは、PGE2合成の阻害剤の投与によって免疫応答が回復することからも推察されています。
PGE2はヘルパーT細胞のサブセットのうちTh1細胞(がん細胞に対する細胞性免疫を担う免疫細胞)からのサイトカインであるIL-2やインターフェロンーγの産生を選択的に抑えることも明らかになっています。
PGE2の存在は、リンパ球の活性化の段階のみならず、ヘルパーT細胞の分化の段階にも影響し、相乗的に細胞性免疫を抑制すると考えられています。つまり、腫瘍組織における炎症細胞やがん細胞において多く発現しているCOX-2が合成するPGE2は癌に対する免疫力を抑える作用をもっているのです。
がん細胞は様々な方法で宿主の免疫監視機構より逃れることにより生き延びようとしています。がん細胞がPGE2を産生することにより宿主の抗腫瘍免疫反応を抑制するのもその一つと言えます。
PGE2は免疫を抑制するだけでなく、がん組織の新生血管を増生し、がん細胞の増殖速度を促進したりしてがんを悪化させる作用も知られています

シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)はがんを悪化する

図:がん組織の中のがん細胞や炎症細胞は転写因子のNF-κBが活性化しており、IL-8やCOX-2を大量に産生している。IL-8は腫瘍血管の新生を亢進し、COX-2の合成するプロスタグランジンE2は腫瘍血管新生・がん細胞の増殖刺激・抗腫瘍免疫の抑制などの作用によってがんを悪化させる。

3。COX-2阻害剤はがん細胞に対する免疫寛容を解除する
インドールアミン酸素添加酵素(Indoleamine 2,3-dioxygenase: IDO)はアミノ酸のトリプトファンをN-Formylkynurenineへ代謝する酸素添加酵素です。
この酵素(IDO)は制御性T細胞の誘導など免疫抑制作用(免疫寛容)の成立において重要な役割を果たしており、その作用機序は局所的なトリプトファンの枯渇とその代謝産物(キヌレニンなど)によ ると考えられています。
多くの癌ではIDOの高発現が認められ、がん細胞はその免疫抑制作用を巧みに利用して宿主の免疫監視機構を回避しつつ増殖していることが知られています。さらに、IDOを多く発現しているがん細胞が進行が早く、治療に抵抗して予後が悪いことが報告されています。
最近の報告で、COX-2阻害剤のcelecoxib(セレブレックス、セレコックス)がIDOを阻害して免疫寛容を解除して、がんに対する免疫力を高めることが報告されています
生薬の鬱金(うこん)に含まれるクルクミンには、活性化した樹状細胞のIDOを抑制して抗腫瘍免疫を高めることが報告されています。(J. Biol. Chem. 284:3700-3708, 2009)

4。免疫賦活剤による癌増殖促進作用はCOX-2阻害剤で回避できる

キノコ由来の抗腫瘍多糖であるβ-グルカンが免疫力を活性化するときのメカニズムとしてマクロファージという細胞が重要な役割を果たします。
マクロファージの表面細胞表面にはβ-グルカンに反応する受容体(レセプター)があり、この受容体が刺激されると、遺伝子の発現を調節する転写因子の一つであるNF-κBという細胞内の蛋白質が働いて、炎症や免疫に関与する様々な酵素やサイトカインの合成を高めます。
転写因子NF-κBの活性化によって発現が誘導される酵素として、誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)シクロオキシゲナーゼー2(COX-2)があります。iNOSが合成する一酸化窒素(NO)には抗菌・抗腫瘍作用がありますが、NOはフリーラジカルであるため大量に放出されると正常細胞を傷つけて発がん過程を促進することが知られています。
COX-2はプロスタグランジンという化学伝達物質を合成します。プロスタグランジンにはたくさんの種類がありますが、炎症反応において活性化されたマクロファージはプロスタグランジンE2を大量に産生します。このプロスタグランジンE2はリンパ球の働きを弱めたり、がん細胞の増殖を促進する作用があります。
また、活性化したマクロファージは、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)インターロイキン-12 (IL-12)を合成します。
IL-12はナチュラルキラー細胞を活性化したり、細胞性免疫(Th1細胞)を増強して抗腫瘍的に働きます。TNF-αはその名の通りがん細胞を殺す作用があるのですが、大量に産生されると悪液質の原因となったり、腫瘍血管の新生を刺激する結果になります。
このようにマクロファージを活性化することは、免疫力を高めて抗腫瘍効果を発揮することになるのですが、場合によっては、酸化ストレスを高めたり悪液質を増悪させ、がん細胞の増殖を促進する可能性が十分あることに注意が必要です
したがって、癌治療において免疫力を高めるために漢方薬や健康食品を取る場合でも、単に免疫力を高めるものだけを漫然としかも大量に取ることは問題があることがわかります。
論理的に考察すると、がんの治療で免疫力を有効に活性化するためにはCOX-2阻害剤を併用すると良いと考えられます。つまり、免疫反応を刺激した場合に「がんを悪化させる」ような反応は、COX-2を阻害してPGE2の産生を阻害しておけばかなり防げると考えられます
COX-2を阻害することは、がん細胞に対する免疫寛容を軽減して抗腫瘍免疫の力を高めることにもつながり、血管新生を阻害し、癌細胞の強さも弱めてくれるので、極めて有効な方法と考えられます。
漢方薬の構成生薬の中で最も体力増強作用が強い高麗人参は、体の中に炎症があるときには使いすぎると炎症を悪化させることが知られています。がん治療の場合に人参を使うときには、炎症を抑える生薬(清熱解毒薬)や気血の流れを良くする生薬(駆お血薬理気薬)と組み合わせなければなりません。それは、がんにおいては、体のなかで炎症反応が起こっており、血液の流れも悪くなっているからです。
高麗人参は気の量を増す生薬ですが、気や血の巡りが悪くなっているときに、それを改善せずに気の量を増すと、川がせき止められているときにダムを放流するのと同じようなものです。漢方のがん治療ではこのような生薬の組み合わせにも配慮する必要があります。

「免疫力を高めることはがん治療にプラスになる」ことは間違いないのですが、免疫力を高めるときに「がんを悪化させるメカニズムも作用する」という点も頭にいれておくべきです。

免疫力を高める時に「がんを悪化させるメカニズムも作用する」

図:炎症反応は生体防御機構の中心であるが、過剰で遷延する炎症反応は組織障害や発がんの原因となる。マクロファージを活性化することは、免疫力を高めて抗腫瘍効果を発揮するが、活性酸素やプロスタグランジンE2の産生などによって、免疫力を抑制したり、がん細胞の増殖を促進する場合もある。

以上のことから、がんの治療において、漢方薬や健康食品で免疫力を高めるときにはCOX-2阻害剤を併用する方が良いように思います。漢方治療においては、免疫力を高める生薬に加えて、抗炎症作用や血行を改善する生薬や抗癌活性を持った生薬などをうまく組み合わせると、がんを抑えこむことも可能になるかもしれません。これが、抗がん力を高める漢方治療とCOX-2阻害剤を併用する理論的根拠と考えます。

漢方薬とCOX-2阻害剤の併用は抗腫瘍免疫を高める

図:ヘルパーT前駆細胞(Th0)は1型ヘルパーT細胞(Th1)と2型ヘルパーT細胞(Th2)に分化誘導される(①)。Th1細胞はインターフェロン・ガンマ(IFN-γ)や インターロイキン-2(IL-2)を分泌して細胞性免疫に関与し(②)、Th2細胞はIL-4, IL-5, IL-6, IL-10などを分泌して液性免疫に関与する(③)。ヘルパーT前駆細胞(Th0)がTh1細胞になるためにはマクロファージや樹状細胞から分泌されるIL-12が必要である(④)。Th1細胞はキラーT細胞を活性化してがん細胞を攻撃する(⑤)。マクロファージから分泌されるIL-12とTNF-αはナチュラルキラー(NK)細胞を活性化する(⑥)。がん細胞とマクロファージから産生されるシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)はプロスタグランジンE2(PGE2)を産生し、PGE2はTh1活性を阻害する(⑦)。COX-2阻害剤はCOX-2活性を阻害してPGE2の産生を阻害することによってTh1活性を亢進する(⑧)。体力や免疫力を高める補剤や抗炎症と解毒作用のある清熱解毒薬や血液循環を良くする駆瘀血薬を使った漢方薬はマクロファージの活性を高めると同時に、Th1阻害要因(栄養障害、悪液質、血液循環障害など)を改善することによってTh1活性を高める(⑨)。がん細胞を攻撃するのはTh1細胞であるため、漢方薬とCOX-2阻害剤の併用は、抗腫瘍免疫を高める作用において相乗作用を示す。

(まとめ)

免疫力を高める漢方薬とCOX-2阻害剤のセレコックスの併用は、がんに対する免疫力を相乗的に高めることが期待できます。
さらに、COX-2阻害剤の効果を高めるω3不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)も免疫力増強効果を高めると考えられます。

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