莪朮(ガジュツ)

Zedoariae Rhizoma (日本薬局方)、英名:Zedoary, White turmeric

[基原]ショウガ科ウコン属のガジュツ Curcuma zedoariaの根茎

インド、ヒマラヤ地方の原産で、インド、ネパール、タイ、中国南部、沖縄などで栽培されている。高さ約1mの多年草で、地下に肥大した根茎を持ち、夏に根から穂状花序を伸ばし、淡黄色の花を咲かせる。別名「紫ウコン」と言う。

図:ガジュツ(莪朮)は紫ウコンとも呼ばれ、ショウガ科ウコン属の多年草で、根茎が薬用として中国やインドの伝統医療で古くから利用されている。がんの予防や治療に有効な様々な効果も報告され注目されている


「ウコン」という名称がつくものには、春ウコン (Curcuma aromatica)、秋ウコン(Curcuma longa)、 紫ウコン (Curcuma zedoaria)などがあります。春ウコンは春にピンクの花をつけ、秋ウコンは秋に白い花をつけます。根茎を薬用や香辛料として利用します。春ウコンの根茎は中国では姜黄(きょうおう)という生薬で、紫ウコンの根茎は莪朮(がじゅつ)をいう生薬です。

[薬用部位]:根茎は水洗後、湯通しして乾燥させるか、周皮を取り除いて輪切りにして乾燥させて生薬として利用する。(日本薬局方に収録:Zedoariae Rhizoma)
常用量は1日3ー9 。

成分としては 精油を1-1.5%含み、多種類のモノテルペノイド類やセスキテルペノイド類などを含む。

[薬能・薬理作用]
中国伝統医学やインド伝統医学(アーユルベーダ)では古くから胃腸障害、消化不良、感染症、発熱などの治療に使用されている。

理気の効能により血行を促進すると同時に、強い駆オ血の作用により、血腫や凝血塊などを吸収して除き、オ血による腫瘤なども軟化させる効果が知られている。三稜と類似した効能をもち、併用することにより抗がん作用も強化できると言われている。

精油成分中にセスキテルペン(Sesquiterpene)類を多く含み、がん細胞に対する抑制作用がある。同時に免疫力を増強する効果も有し抗腫瘍作用が期待できる。中国では注射液ががん治療に用いられている。

精油には芳香健胃作用があるので、消化異常によるガス停滞・腹鳴・腹部膨満感・疼痛などにも有効。

胃がんや胃潰瘍の原因となるヘリコバクター・ピロリに対する抗菌作用が報告されている。その他の病原菌に対する抗菌作用も報告されている。

近年、ガジュツはがんの治療や予防に有効な作用が注目されており、以下のような報告がある。

○成分のElemeneに抗腫瘍活性がある。Elemeneはがん細胞にアポトーシス(プログラム細胞死)を起こす。

Initial study on naturally occurring products from traditional Chinese herbs and vegetables for chemoprevention. J Cell Biochem Suppl 1997;27:106-112
ヒト前骨髄球性白血病HL60、ヒト赤芽球性白血病K562、ヒト末梢血リンパ球細胞に対するElemeneの50%増殖抑制濃度(細胞増殖の程度を半分にする濃度)は、それぞれ27.5 microg/ml, 81 microg/ml, 254.3 microg/mlであった。つまり、正常細胞の増殖を抑えないで、がん細胞の増殖を抑えることが可能。Elemeneによるがん細胞増殖抑制の作用メカニズムは細胞分裂を止めて(細胞周期のDNA合成期から細胞分裂期への移行を停止する)アポトーシス(プログラム細胞死)を起こすことであった。
The antitumor activity of elemene is associated with apoptosis.[論文は中国語] Zhongguo Zhong Xi Yi Jie He Za Zhi 1994 Nov;14(11):647-649
ガジュツ(Rhizoma zedoariae)から分離された成分のElemeneはがん細胞にアポトーシス(プログラム細胞死)を引き起こすことによって抗がん活性を示す。

○莪朮の熱水抽出エキスはがんの転移を抑制する。

Suppressive effect of Zedoariae rhizoma on pulmonary metastasis of B16 melanoma cells. J Ethnopharmacol. 101:249-257, 2005
B16メラノーマ(悪性黒色腫)細胞をマウスに移植して肺転移を起こす実験モデルで、メラノーマ細胞を移植する2週間前から移植後4週間後まで、莪朮の熱水抽出(250mgと500mg/kg)を投与すると、肺転移の数が著明に減少し、生存期間も延びた。

○莪朮は肝細胞障害を改善する作用がある。

Inhibitory effect and action mechanism of sesquiterpenes from Zedoariae Rhizoma on D-galactosamine/lipopolysaccharide-induced liver injury. Bioorg Med Chem Lett 1998 Feb 17;8(4):339-344
セスキテルペン類(furanodiene, germacrone, curdione, neocurdione, curcumenol, isocurcumenol, aerugidiol, zedoarondiol, curcumenone)やクルクミン(curcumin)は、D-ガラクトサミンによる肝細胞毒性を抑制し、マクロファージからの一酸化窒素産生を抑制し、D-ガラクトサミンと腫瘍壊死因子α (TNF-α)で惹起されるマウスの肝細胞障害を抑制する。
Hepatoprotective constituents from zedoariae rhizoma: absolute stereostructures of three new carabrane-type sesquiterpenes, curcumenolactones A, B, and C. Bioorg Med Chem 9(4):909-916,2001
ガジュツに含まれるセスキテルペン類のcurcumenolactones A, B, C は、肝細胞保護作用があり、D-ガラクトサミンとリポポリサッカライドで惹起されるマウスの急性肝細胞障害を抑制する。

○莪朮に変異原性(発がん性)は認めない。

Effects of rhizoma zedoariae on nickel sulfide induced unscheduled DNA synthesis of human lymphocytes.(論文は中国語) Zhonghua Zhong Liu Za Zhi 18(3):169-172,1996
ガジュツに変異原性は認められず、硫化ニッケルによるDNA障害に対して阻害作用を示した。

上記のように莪朮の成分のelemeneは抗がん剤治療の効果を高めるという報告があります。ただし、臨床レベルでは、まだ証明されたわけではありません。世界中の臨床試験のシステマティック・レビューを行なっているコクランデータベースのレビューでは肺がんにおけるエレメンの効果について以下のような評価を出しています。

Elemene for the treatment of lung cancer.(肺がん治療のためのエレメン)

背景エレメンは中国薬草であるガジュツ(Rhizoma Zedoariae)から分離され、中国では肺がん患者の治療に用いられている。現在まで、その効果はシステマティックにレビューされていない。
目的本レビューは、肺があ患者の治療に対するエレメンの有効性および安全性を判定することを目的とした。
検索戦略Lung Cancer groupによって提案された戦略に従って以下を検索した。Cochrane Central Register of Controlled Trials(コクラン・ライブラリ 2006年第2号);MEDLINE(1966年〜2006年6月);EMBASE(1974年〜2006年6月);OVID(1950年〜2006年6月);Chinese Biomedical Literatureに関するCBMdisc(2004年第1号中国語)およびCNKI(Chinese Knowledge Internet 1994年〜2006年6月)。
選択基準本レビューでは、言語や発表状況にかかわらず、エレメンを化学療法薬、放射線治療、手術、理学療法、その他の有効な中国薬草療法の単独または併用で比較しているランダム化比較試験(RCT)のみを探した。
データ収集と分析2名のレビューアがランダム化比較試験のオリジナル試験の著者に電話し、試験の選択と除外について判断した。
主な結果ランダム割り付けを用いたと主張している20件の試験を同定した。16名の研究著者に電話で問い合わせたところ、彼らがランダム化手順を誤解したことが分かり、試験は非ランダム化試験と認定された。残り4件の研究の著者にはコンタクトできなかったので、これらの研究は「評価待ちの研究」セクションに割り付けられている。
レビューアの結論ランダム化比較試験から、肺がんに対する治療としてエレメンの有効性を確認する、または否定するエビデンスはない。肺がんに対するエレメンの有効性および許容性を明らかにするために、肺癌治療に対するエレメンのランダム化臨床試験が必要である。

つまり、莪朮やその抗がん成分のエレメンに関しては、臨床効果が判定できるようなランダム化比較臨床試験の結果が無いので、なんとも言えないというのが現状のようです。基礎研究や臨床経験から、莪朮の抗がん作用が期待されて使用されていますが、本当の有効性については、今後の研究を待つしかありません。

しかし、莪朮にはがん細胞の増殖抑制やアポトーシス誘導や転移抑制などの抗がん作用の他に、抗酸化作用、がん予防効果、抗菌作用、肝障害を予防する効果、抗潰瘍作用、抗炎症作用、抗変異原作用など、がんの予防や治療に役立つ薬効が報告されていますので、がんの漢方治療において有用な生薬の一つと言えます。

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