人参(ニンジン)Ginseng radix

高麗人参

[基原]ウコギ科のオタネニンジン。薬用人参朝鮮人参高麗人参とも呼ばれる。通常、細根を除去し、軽く湯通しして乾燥させて用いる。蒸した後に熱風乾燥し赤褐色になったものを紅参という。

[薬能・薬理作用]
○消化吸収機能を賦活化し、種々のストレスに対する生体の非特異的抵抗性を強くする。蛋白合成を促進し、新陳代謝と免疫能を高める。強壮作用や抗疲労作用もある。
○各種の悪性腫瘍によって引き起こされる貧血、気力減退、食欲不振、癌性疼痛などに有効。侵襲的治療による骨髄障害や肝障害や免疫機能低下を抑制し、回復を促進する。手術などによる身体衰弱や栄養状態の改善にも有効。癌細胞の増殖や転移抑制なども報告されている。  
○むくみが生じることがあり、太って血色のよい活動的な者(実証)が服用すると、興奮、不眠、のぼせ、顔面紅潮などのほか、湿疹、血圧上昇などの有害作用が見られることがあるので注意が必要。活動性の炎症など熱象があるときは使用しない。

[常用量/日]1ー9g

文献的考察

ヒトの疫学的調査でがん予防効果が報告されている。

Non-organ specific cancer prevention of ginseng: a prospective study in Korea.(Yun TK, Choi SY.) Int J Epidemiol 1998 Jun;27(3):359-364

薬用人参を長期間摂取しているグループは、癌に罹るリスクが半分以下に減少することを示した韓国の疫学調査。40歳以上の4634人を対象に、薬用人参の摂取状況と癌罹患率を検討した結果、薬用人参による癌予防効果は特定の癌種に限定するのではなく、胃癌や肺癌をふくめて多くの種類の癌に対して予防効果があった。たとえば、薬用人参非摂取グループの発癌リスクを1にした場合、薬用人参を摂取したグループの胃癌になるリスクは0.33で、肺癌になるリスクは0.30と減少。また、その効果は用量依存的で薬用人参を多く摂取している人ほど発癌リスクが低かった。

薬用人参を経口摂取したあと腸内細菌が作り出す物質ががん細胞にアポトーシス(細胞死)を引き起こしたり、がん転移を予防する。

Induction of apoptosis by a novel intestinal metabolite of ginseng saponin via cytochrome c-mediated activation of caspase-3 protease.(Lee SJ, Ko WG, Kim JH, Sung JH, Moon CK, Lee BH.)Biochem Pharmacol 2000 Sep 1;60(5):677-685

人参サポニンのジンセノサイドRb1, Rb2, Rcの腸内細菌による代謝産物である20-O-(beta-D-Glucopyranosyl)-20(S)-protopanaxadiol (IH-901)は白血病細胞(HL-60)にアポトーシスを引き起こす作用がある。HL-60(ヒト前骨髄球性白血病細胞株)に対するIH-901 による50%増殖阻害濃度は24. 3 microMであった。

Antimetastatic efficacy of orally administered ginsenoside Rb1 in dependence on intestinal bacterial hydrolyzing potential and significance of treatment with an active bacterial metabolite.(Hasegawa H, Uchiyama M.)Planta Med 1998 Dec;64(8):696-700

ジンセノサイドRb1の腸内細菌による代謝産物の20-O-beta-D-glucopyranosyl-20(S)-protopanaxadiolはマウスの肺がん細胞を用いた動物実験でがんの転移を抑制した。

The cancer-preventive potential of Panax ginseng: a review of human and experimental evidence. (Shin HR, Kim JY, Yun TK, Morgan G, Vainio H.) Cancer Causes Control 2000 Jul;11(6):565-576

薬用人参のがん予防効果に関する文献的レビュー。ヒトの疫学的調査や臨床試験、動物実験の多くが薬用人参ががん予防に有効であることを報告している。しかし、ヒトにおけるがん予防効果を結論づけるにはまだ研究が必要と述べている。

(注:普遍性を求めようとすると限界がある。薬用人参は一般的にはがん再発の予防効果が期待できそうであるが、それは、体力・気力が低下して免疫力や新陳代謝が障害されている場合と考える。薬用人参を単独で使用するのでなく、抗酸化作用や血液循環改善作用を有する健康食品や漢方薬と併用することが大切)

薬用人参のがん予防効果は人参のタイプと年数によって異なる。紅参のほうががん予防効果が高い。

Saponin contents and anticarcinogenic effects of ginseng depending on types and ages in mice. (Yun TK, Lee YS, Kwon HY, Choi KJ.) Zhongguo Yao Li Xue Bao 1996 Jul;17(4):293-298

マウスの肺がんモデルの検討で、通常の生薬の人参(白参)なら5〜6年もの、紅参なら4〜6年ものにがん予防効果を認めた。年数の経ったもの、あるいは紅参にしたものががん予防効果が強い。

Cancer chemopreventive and therapeutic activities of red ginseng. (Xiaoguang C, Hongyan L, Xiaohong L, Zhaodi F, Yan L, Lihua T, Rui H.) J Ethnopharmacol 1998 Feb;60(1):71-78

紅参は動物発がんモデルや移植腫瘍の実験系において抑制作用を示した。免疫賦活作用や抗酸化作用との関係を指摘している。

人参は熱を加えると抗腫瘍効果が上がる。

Antioxidant and anti-tumor promoting activities of the methanol extract of heat-processed ginseng.(Keum YS, Park KK, Lee JM, Chun KS, Park JH, Lee SK, Kwon H, Surh YJ.)Cancer Lett 2000 Mar 13;150(1):41-48

通常の紅参を作るときより高い温度で処理するとより抗酸化作用の高いサポニンが生成され、発がん予防効果も高まる。紅参のように熱処理を加えることにより成分が変化して、がん予防効果が増すようである。

メモ(1):人参は万能薬。

薬用人参は高麗人参や朝鮮人参と呼ばれ、昔の高麗国(朝鮮半島)に自生していたウコギ科の(ウドの仲間)多年草で、多くの栄要成分を含む根が、古く4〜5千年前より不老長寿の薬草として使用され続けました。高麗人参を1度栽培すると、その土地は極端にやせてしまい、以後15年は農地として利用が出来ないと言われるほど、大地に含まれるありったけの栄養分を存分に吸収して育ちます。人参の学名はPanax ginsengといいますが、このPanaxという属名はギリシャ語のPan(万能)とacos(薬)から名付けられたものであり、ヨーロッパでも古くからその多彩な薬効が注目されていたようです。

人参の臨床的効果は、消化吸収機能を賦活化し、種々のストレスに対する生体の非特異的抵抗性を強くすると考えられます。蛋白合成や新陳代謝や血液循環を高め、血中の免疫グロブリンを増加させ、マクロファージ(体内の異物を細胞内に取り込み消化する食細胞の一つ)や好中球の貪食能を高めて免疫力を増強します。男性ホルモン増強作用、細胞寿命延長作用、抗腫瘍作用、精神安定、精神賦活作用なども報告されており、まさに自然治癒力を高める全ての条件が含まれています。

ソ連のブレフマン(Brekhman)教授は「種々のストレス刺激に対する非特異的な抵抗力を増し、生体の働きを助ける」作用から、薬用人参をAdaptogen(適応促進薬)と呼びました。イギリスのフルダー(Fulder)博士は「生体の生理機能を調和させるハーモナイザー(調和薬)」であるといっています。

メモ(2):薬用人参には自然治癒力を高める多くの薬効成分が含まれている

人参の作用は一つの成分によるものでなく、多くの成分が関与しています。主要成分はサポニンと呼ばれる物質です。サポニンとは英語でフランス語はシャボンで、泡立つものという意味です。サポニン自体はいろいろの植物に含まれていますが、人参サポニンジンセノサイドというステロイドホルモンと似た構造をもつサポニンが主成分で、10種類以上のジンセノサイドが知られています。種類によってその薬理作用は異なり、一つの成分が同じ組織においても複数の作用を示すなど、薬用人参全体で極めて複雑な薬理作用を呈する理由の一つになっています。

人参サポニンは蛋白合成を促進し、新陳代謝と免疫能を高めます。血中の免疫グロブリンを増加させ、マクロファージ(体内の異物を細胞内に取り込み消化する食細胞の一つ)や好中球の貪食能を高めます。ある種の人参サポニンは癌細胞を殺したり、転移を抑制したりするものも報告されています。サポニンには抗酸化作用もあり、発がん物質による遺伝子の変異を抑える作用(抗変異原性)を持つ人参サポニンも報告されています。また細胞膜と反応して細胞膜上のレセプター(受容体)などの蛋白と作用して細胞の機能にも作用します。

人参サポニンには、脳の働きを興奮させる作用を持つものと、逆に鎮静させる働きのものがあります。一見すると相対立する効果なのですが、これも脳の働きの状態に応じて、集中力を高める必要があるときには脳の働きを活性化する作用が現れ、体が休息する状態では鎮静作用が現れるのです。これは体の活動状態の方向性にしたがって薬の作用が現われるからです。

サポニン以外にも、セスキテルペンなどの精油成分、多糖体、ペプチドグリカン、アミノ酸、ヌクレオシドなども種々の効果に関連しています。例えば、アミノ酸の一種のアルギニンが多量に含まれており、血管拡張や消化管運動の伝達物質である一酸化窒素の生成を高める効果が指摘されています。

薬用人参は、虚弱体質の胃腸疾患に用いられる漢方薬には人参が配合されていますが、消化吸収機能を高め、体力や抵抗力を高めて種々のストレスに対する適応能力を高めることができるので、虚弱体質自体を治す効果も期待できます。このように複数のメカニズムで体の自然治癒力を高めるような西洋薬はありません。人体実験のくり返しによって発見された薬だからできるのだと言えます。

メモ(3):紅参とは

高麗人参は普通4〜6年の栽培の後、畑から掘り出します。採掘したままの状態の人参を水参(生参)と言い、水参を日に干して乾燥したものを白参と言います。紅参(こうじん)は、最も効果の有る6年根の水参を外皮をむかないまま蒸気で蒸して乾燥させたものです。名前は違いますが、植物的には同じで加工法が異なるだけです。紅参は「蒸し人参」と言えます。漢方薬に使用される人参は白参に相当しますが、紅参も使用できます。がん予防効果は紅参の方が強いことが報告されています(後述)。

メモ(4):正官庄 紅参 とは ?

高麗人参の中でも特に紅参は珍重されており、韓国ではこの紅参への加工に専売制がしかれる程です。「正官庄」とは、正(まさに)官(政府が)庄(包装した)と言う意味で、韓国人参公社(韓国専売公社の後身)が独占製造し、国家が品質を保証する韓国政府専売品の印です。「正官庄」の紅参は品質に信頼のおける高麗人参と評価されています。

メモ(5):紅参の使用および購入

高麗人参製品は、各メーカーごとに独自の品質管理をしているため、加工品に関してどの製品をどのくらい飲めば効果があるか、ということはなかなか言えないのが実状です。値段も様々で、韓国でも土産で安く売られている高麗人参茶と、医薬品をはじめとする高品質の紅参(顆粒で数千円、エキスなら数万円)とは別物と考えたほうがよいでしょう。

薬局には多くの種類の紅参末あるいは紅参茶が売られています。値段の目安として、通常、紅参茶を1日3回程度飲用すると1ヶ月5000円前後、紅参末を1日3〜6g服用で、1ヶ月に5000円〜10000円程度が目安となります。

安いものも売っていますが、品質が悪いと効き目も低いので、良い品質のものを購入することが基本です。最近では、通信販売やインターネットで安く購入することもできます。

紅参は韓国産が良く、中国産は農薬が多く、日本産やアメリカ産は成分がうすいと言われています。韓国で買うなら薬局で買うほうが確実で、土産物は成分がうすいため効果が低いようです。日本市場向け輸出品の中には品質のよいものが見られます。マルチ商法まがいは、品質が悪いので注意が必要です。紅参と名前がついていても産地や加工方法などで成分や品質が大きく違い、粗悪なものは効果が期待できません。

メモ(6):医療用の紅参末を使う場合

ちなみに値段はツムラと正官庄の紅参末で1gの薬価が44.7円。製薬会社によっては20円程度です。1日6gで1ヶ月の薬価は約8000円。3割負担で約2500円程度に安くなります。

体力低下・全身倦怠や冷え性などで漢方治療を受けているか、がん治療中であれば保険で使用できます。しかし、何も病名がつかない、病院に行くのが面倒であれば、若干出費はかさみますが市販のもので信頼のおけるもの(正式に韓国から輸入したもの)を購入します。

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