4.肝臓機能を改善し発癌を予防する高麗人参と田七人参
高麗人参(Panax ginseng)と田七人参(Panax
notoginseng)は共にウコギ科の生薬で、滋養強壮作用や肝機能改善作用や発がん予防作用が注目されています。両者は効能に若干の違いがあり、慢性肝炎・肝硬変や肝臓がんの治療においてうまく使い分けると非常に有用な薬になります。
【高麗人参は万能薬】
高麗人参は朝鮮人参や薬用人参と呼ばれ、昔の高麗国(朝鮮半島)に自生していたウコギ科の(ウドの仲間)多年草で、多くの栄要成分を含む根が、古く4〜5千年前より不老長寿の薬草として使用されてきました。高麗人参を1度栽培すると、その土地は極端にやせてしまい、以後15年は農地として利用が出来ないと言われるほど、大地に含まれるありったけの栄養分を存分に吸収して育ちます。
人参の学名はPanax
ginsengといいますが、このPanaxという属名はギリシャ語のPan(万能)とacos(薬)から名付けられたものであり、ヨーロッパでも古くからその多彩な薬効が注目されていたようです。なお、野菜のニンジンはセリ科の植物で全く別のものです。
人参の臨床的効果は、消化吸収機能を賦活化し、種々のストレスに対する生体の非特異的抵抗性を強くすると考えられます。蛋白合成や新陳代謝や血液循環を高め、血中の免疫グロブリンを増加させ、マクロファージ(体内の異物を細胞内に取り込み消化する食細胞の一つ)や好中球の貪食能を高めて免疫力を増強します。男性ホルモン増強作用、細胞寿命延長作用、抗腫瘍作用、精神安定、精神賦活作用なども報告されており、まさに自然治癒力を高める全ての条件が含まれています。ソ連のブレフマン(Brekhman)教授は「種々のストレス刺激に対する非特異的な抵抗力を増し、生体の働きを助ける」作用から、薬用人参をAdaptogen(適応促進薬)と呼びました。イギリスのフルダー(Fulder)博士は「生体の生理機能を調和させるハーモナイザー(調和薬)」であるといっています。
漢方では、高麗人参は「気」の量を増す薬(補気薬という)の代表です。「気」というのは、生体エネルギーを表わす漢方の考え方で、気の量が不足すると、疲れやすく、倦怠感や抵抗力低下が起こります。高麗人参は体のエネルギーを増やすことによって、体の抵抗力や自然治癒力を高めると考えています。
【高麗人参には自然治癒力を高める多くの薬効成分が含まれている】
体の抵抗力や自然治癒力を高める高麗人参の作用は、一つの成分によるものでなく、多くの成分が関与していて複雑です。治癒力を高める代表的成分はサポニンと呼ばれる物質です。サポニンは英語で、フランス語ではシャボンといい、泡立つものという意味です。サポニン自体はいろいろの植物に含まれていますが、人参サポニンはジンセノサイドというステロイドホルモンと似た構造をもつサポニンが主成分で、10種類以上のジンセノサイドが知られています。種類によってその薬理作用は異なり、一つの成分が同じ組織においても複数の作用を示すなど、薬用人参全体で極めて複雑な薬理作用を呈する理由の一つになっています。
人参サポニンは蛋白合成を促進し、新陳代謝と免疫力を高めます。人参サポニンの中にはガン細胞を殺し、転移を抑制するものも報告されています。サポニンには抗酸化作用もあり、発ガン物質による遺伝子の変異を抑える作用(抗変異原性)を持つ人参サポニンも報告されています。また細胞膜と反応して細胞膜上のレセプター(受容体)などの蛋白と作用して細胞の機能にも作用します。
人参サポニンには、脳の働きを興奮させる作用を持つものと、逆に鎮静させる働きのものがあります。一見すると相対立する効果なのですが、これも脳の働きの状態に応じて、集中力を高める必要があるときには脳の働きを活性化する作用が現れ、体が休息する状態では鎮静作用が現れるのです。これは体の活動状態の方向性にしたがって薬の作用が現われるからです。
サポニン以外にも、セスキテルペンなどの精油成分、多糖体、ペプチドグリカン、アミノ酸、ヌクレオシドなども種々の効果に関連しています。例えば、アミノ酸の一種のアルギニンが多量に含まれており、血管拡張や消化管運動の伝達物質である一酸化窒素の生成を高める効果が指摘されています。
薬用人参は、虚弱体質の胃腸疾患に用いられる漢方薬には人参が配合されていますが、消化吸収機能を高め、体力や抵抗力を高めて種々のストレスに対する適応能力を高めることができるので、虚弱体質自体を治す効果も期待できます。このように複数のメカニズムで体の自然治癒力を高めるような西洋薬はありません。
【高麗人参にはガンの予防や治療に効果がある】
高麗人参は、各種の悪性腫瘍によって引き起こされる貧血、気力減退、食欲不振、倦怠感などの改善に有効で、さらにガンの侵襲的治療(手術、抗ガン剤、放射線照射)による骨髄障害や肝障害や免疫機能低下を抑制し回復を促進する効果もあります。最近では、ガン細胞の増殖や転移を抑制する効果や、ガンの発生を予防する効果が報告されていて、ガン治療後の再発予防にも効果が期待されています。
ヒトの疫学的調査で、高麗人参にガンを予防する効果が韓国から報告されています。40歳以上の4634人を対象に、高麗人参の摂取状況とガンの罹患率を検討したところ、高麗人参を長期間摂取している人たちは、ガンになるリスクが半分以下に減少していることがわかりました。高麗人参によるガン予防効果は特定の種類のガンに限定するのではなく、胃ガンや肺ガンなど多くの種類のガンに対して予防効果があるようです。たとえば、高麗人参非摂取グループの発ガンリスクを1にした場合、高麗人参を摂取したグループの胃ガンになるリスクは0.33で、肺ガンになるリスクは0.30と減少し、その効果は用量依存的で高麗人参を多く摂取している人ほど発癌リスクが低かったと報告されています。高麗人参の中でも後で述べる紅参が最もガン予防効果があるそうです。
ガン細胞の増殖や転移を抑える成分についての研究も多く報告されています。腸内細菌が人参サポニンを代謝して作り出す物質の中に、ガン細胞にアポトーシス(細胞死)を引き起こしたり、転移を予防するものが見つかっています。
発ガン剤と腫瘍プロモーターを用いた二段階皮膚発ガン実験において、紅参は発ガンを抑制し、マウス肉腫やメラノーマの移植腫瘍の増殖に対する抑制作用も報告されています。また人参サポニンの代謝産物には抗変異原性作用があることも報告されています。
今まで報告されたヒトの疫学的調査や臨床試験、動物実験の多くが薬用人参がガン予防に有効であることを報告しています。高麗人参の免疫賦活作用、抗変異原性作用、ガン細胞の増殖や転移の抑制作用など複数の作用によって、ガンの発生や悪性化の進展を抑制しているようです。
【高麗人参の利用の仕方】
高麗人参は通常4〜6年の栽培の後、畑から掘り出します。掘り出した状態の生の人参を水参(生参)と言い、水参を日に干して乾燥したものを白参と言います。紅参(こうじん)は、最も効果のある6年根の水参を外皮をむかないまま蒸気で蒸して乾燥させたものです。漢方薬に使用される人参は白参に相当しますが、紅参も使用できます。前述のようにガン予防効果は紅参の方が強いことが報告されています。
紅参は韓国産が良く、中国産は農薬が多く、日本産やアメリカ産は成分がうすいと言われています。韓国でも土産で安く売られている高麗人参茶と、薬局で売られている高品質の紅参とは別物と考えたほうがよいでしょう。日本市場向け輸出品の中には品質のよいものが見られます。韓国では紅参の生産に専売制が敷かれていて、韓国人参公社が独占製造した「正官庄紅参」は品質に信頼のおける高麗人参と評価されています。「正官庄」とは、正(まさに)官(政府が)庄(包装した)と言う意味で、国家が品質を保証する韓国政府専売品の印です。
日本の薬局には多くの種類の紅参末あるいは紅参茶が売られています。最近では、通信販売やインターネットで安く購入することもできます。安いものも売られていますが、品質が悪いと効き目も低いので、良い品質のものを購入することが基本です。マルチ商法まがいは、品質が悪いので注意が必要です。紅参と名前がついていても産地や加工方法などで成分や品質が大きく違い、粗悪なものにはガン予防効果が期待できません。
値段の目安として、紅参茶を1日3回程度飲用すると1ヶ月5000円前後、紅参末を1日3〜6g服用で、1ヶ月に5000円〜10000円程度かかります。
ガン治療の途中や後で体力や食欲の低下がある場合、血行が悪く冷え症などの漢方治療の適応がある場合には、医療機関で保険を使って医療用の品質の確かな紅参を使うこともできます。ちなみに値段はツムラと正官庄の紅参末で1gの薬価が44.7円で、製薬会社によっては20円程度です。1日6gで1ヶ月の薬価は約8000円。3割負担で約2500円程度に安くなります。
何も病名がつかない、病院に行くのが面倒であれば、若干出費はかさみますが市販のもので信頼のおけるもの(正式に韓国から輸入したもの)を購入することを勧めます。
【高麗人参は炎症を増悪させる可能性もある】
高麗人参は一般的にはガン再発の予防効果が期待できますが、それは、体力・気力が低下して免疫力や新陳代謝が障害されている場合と考えておいた方がよいと思います。細胞の代謝を賦活する作用が強く、血管拡張作用や免疫増強作用があるので、炎症性疾患や熱がある状態では病気を増悪させる場合もあります。例えば、慢性関節リュウマチで関節の腫れや熱が強い時期には、人参は症状を悪化させることがあります。
元気が有り余っている人や高血圧や肥満のある人は、人参を単独で大量に摂取すると、むくみや興奮・不眠・のぼせ・顔面紅潮などのほか、湿疹、血圧上昇などの有害作用が見られることがあるので注意が必要です。
ただし、紅参には動脈硬化の進行を抑える作用や、血管を拡張して高血圧を改善する作用もありますので、血圧が高いことは人参を避ける根拠にはなりません。元気が有り余っているように見えても、免疫力や新陳代謝や血液循環が悪い人は多くいます。服用して体調が悪くなるなら、上記の理由で薬が合っていないと考えてやめることが大切です。それが正しい薬の使い方です。
【田七人参は肝臓の血流を改善して肝機能を高める】
田七人参は朝鮮人参(高麗人参)と同じ「ウコギ科」に属する植物で中国雲南省の名産です。 呼称は昔から
「雲南田七」「田三七」「三七人参」等々たくさんあります。
「三七」の由来については、茎が三つに別れていて葉が七枚だからとか、成長するまで、3年から7年の歳月を要するから だとか諸説あるようです。
田七栽培は1年を通して温暖で適度な湿度が必要で、標高1000から500mの山の傾斜地で、しかも直射日光を嫌うので、一面覆いをかけて栽培されています。種まきから収穫まで3〜7年を要し、収穫後は土地がすっかり痩せてしまうので、10年くらいは同じ土地で栽培ができないといわれており、田七人参が高価な理由となっています。
田七の根には3〜8%のサポニンを含み、これは薬用人参の10倍以上に及びます。その他、フラボノイド、ステロ−ル、有機ゲルマニウム、鉄分、アルギニン、止血成分デンシチンなどを含んでいます。
田七人参に含まれるサポニンは、体力を増強し、心筋の酸素代謝を改善するとともに、フラボノイド化合物は、冠状動脈を拡げ心筋の供血や血管の弾力性を高めることが確認されています。高麗人参と異なり、血圧の高い人も服用できるメリットがあります。
さらに田七人参は肝臓補強作用が優れて、世界中に知られている中国の肝臓病治療薬「片仔廣」は、全成分の85%が田七人参です。田七人参は抗炎症、抗酸化、肝細胞保護作用、障害肝細胞再生促進作用などが報告されています。ウイルスに対抗できるだけの免疫力を高め、肝臓の原動力である血液を正常な状態にもどすことで、その機能を改善し、ウイルスによって壊された細胞の再生力を高めます。
炎症をくいとめることは、肝炎を改善へ導くための重要なファクターです。
肝臓にはもともとつよい修復力がありますから、炎症の拡大をおさえて、一刻もはやく肝臓の機能を回復すれば、壊れた細胞をみずからの力で修復できます。
田七人参はウイルスを直接たたくわけではありませんが、肝臓を正常な状態にもどし、低下した機能を回復するための、重要な役割をはたしているわけです。
田七中の有機ゲルマニウムという成分に、体内のウイルスやがん細胞を排除するインターフェロンを誘発する力がある、といわれています。近年の研究により、田七人参の発がん予防作用や抗がん活性も報告されています。
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