5.駆オ血薬は肝臓機能を良くする

【血液は流れることが大切】

血液の流れが滞ると組織の栄養は低下し、防御機構は十分に働きません。血流が途絶えると組織は死んでしまいます。毛細血管レベルの血液の流れを微小循環といいますが、微小循環が悪化すると、細胞への酸素や栄養物質の供給や、細胞が産生する炭酸ガスや老廃物質の排出が障害され組織の新陳代謝が低下します。微小循環の悪化は組織の治癒力や抵抗力を低下させることになります。

肝炎が進行して肝臓組織に線維化をおこって肝臓が硬くなると、血液の流れが悪くなります。このような状態を漢方では「オ血」と行っています。このオ血を改善する生薬が漢方薬には多く含まれています。漢方薬が肝炎や肝硬変に対して西洋医学の薬にない効果を発揮できるのは、肝臓の血液循環を改善する効果をもっているからです。

【オ血の概念と症状】

日本の漢方では「オ血」という用語を使い、中医学では「血オ」という言葉を使います。血が何らかの原因により流れにくくなった状態であり、現代医学的には、うっ血・末梢の血液循環障害・出血を伴う組織の損傷など様々な病的状態が複合した症候群と考えられます。

オ血あるいは血オを改善する薬を、日本の漢方では「駆オ血薬」といい、中医学では「活血化オ薬」と呼びます。「活血」とは血液の質を改善して流れを良くすることで、「化オ」とは血液の汚れや血流の停滞を取り除くことです。駆オ血も活血化オも同じ意味で言い方の違いだけです。

血液の流れがうっ滞すると、皮膚や粘膜の色が暗赤色や紫色になります。血行の異常は爪や指先のように体の末端部分をみるとわかります。指や爪の色が紫や暗赤色の場合はオ血の状態です。粘膜の色は舌を見るとわかります。オ血があると舌の色が暗紫色・青紫色あるいは紫色を呈し、局所に紫色の斑点(オ斑)を認めたり、舌下静脈(舌の裏にある静脈)の拡張を認めたりします。

お腹の血流がうっ滞すると、外から触って痛みを感じることがあります。特に女性では子宮や卵巣など骨盤内の臓器に血液のうっ滞が起こりやすくなっています。下腹部に抵抗・圧痛・腫瘤を触れる場合はオ血の存在の徴候であることが多いようです。皮下出血・紫斑・鼻出血・血尿・血便など慢性に繰り返す出血もオ血の徴候であり、肝臓や脾臓の腫大・子宮筋腫・卵巣のう腫・外傷後の血腫などの腫瘤もオ血を意味します。

肝炎では肝臓が腫大し、肝硬変になると門脈圧が亢進して脾臓が腫れてきます。このような病態では肝臓の中の血液の流れは滞っていて、これが肝機能を悪化させる原因にもなっています。

【駆オ血薬は体質と症状によって使い分ける】

駆オ血作用を有する生薬には、血液凝固や末梢循環に作用する生理活性物質が多数見つかっています。

常用される駆オ血薬のそれぞれには寒熱の薬性や強さの違いがありますので、それぞれの特徴を理解してバランスよく組み合わせて使用することが大事です。

まず、寒熱の違いに関しては、温性(当帰・川キュウ・延胡索・莪朮・紅花・欝金)、微温性(山ザ子)、平性(三稜・牛膝・蘇木・桃仁)、微寒性(丹参・益母草・牡丹皮・芍薬)、寒性(大黄・地竜)に分けられます。

温性のものは身体を温めるので寒証全般に広く用いられ、熱や炎症がある場合(熱証)には寒性の薬を主体に用います。しかし通常は、温性と寒性の薬をバランスよく用いることによりそれぞれの駆犬血薬を幅広く用いることができます。例えば、当帰や川キュウなど温性の駆オ血薬と併用すれば、牡丹皮・丹参・芍薬などの寒性の駆オ血薬を寒証の人にも安心して用いることができます。

瀉下作用を持つ大黄や、腸内を潤して排便しやすくさせる作用をもつ当帰・桃仁・牛膝を使用する時には、軟便や水様便の状態(脾虚)には慎重に用いなければなりませんが、便が固く便秘している場合には積極的に用いてよいことになります。

駆オ血薬の多くは妊婦や月経過多には慎重に用います。また正気を消耗する恐れがあるので虚弱者には、補気薬や健脾薬を配合して気虚を悪化させないように注意しなければなりません。それぞれの駆オ血薬には特徴がありますので、それらをよく理解して使い分けると種々の症状や病気の状態に効果を上げることができます。

当帰は造血作用(補血作用)を持つので血虚や陰虚に対して広く使用でき、さらに傷の治りを促進させる作用もあるので、難治性の皮膚潰瘍などに黄耆とともに使用します。川キュウはゆううつ・抑うつなどを改善する効能があります。延胡索は確実な鎮痛効果をもつので様々な疼痛を緩和します。

欝金は気と血の滞り(気滞と血犬)を共に改善します。成分のセスキテルペンのcurcumolは抗腫瘍効果が報告されています。黄色色素クルクミン(curcumin)には、抗炎症作用・抗酸化作用・一酸化窒素生成抑制作用などの作用が報告されており、抗腫瘍効果やがん予防効果が指摘されています。

莪朮は強い駆オ血作用により、血腫や凝固した血の塊などを吸収して除き、腫瘤を軟化させる効果も期待できます。気を巡らす(理気)もあります。精油成分中にセスキテルペン類を多く含み、がんに対する抑制作用があり中国では注射液ががん治療に用いられています。

紅花は温性の駆オ血薬として組織の血行改善に広く用います。オ血を除いて造血を促進させる目的で十全大補湯などの補血剤に併用します。多糖成分には免疫賦活作用が報告されています。

桃仁は豊富な油性成分を含み、腸管内を潤滑にして便秘を改善します。熱証の犬血に清熱剤とともによく用い、特に炎症による充血によって痛みがある場合に効果があります。

牡丹皮は寒性で消炎(清熱)に働くので、炎症に付随する血行障害によく用いられます。

芍薬のうち白芍(通常の芍薬)は補血作用が主で、赤芍(保険適用外)は駆オ血作用が主体となります。赤芍は寒性で熱を取る効果(清熱)があるので、熱証に伴うオ血(炎症性の血液循環障害)に適します。白芍は補血と同時に陰液(体液)の消耗を防ぐので滋陰の補助となります。さらに、骨格筋や平滑筋の痙攣を緩解して鎮痛するので、様々なけいれん性疼痛に用いられます。

大黄は腸蠕動を刺激して排便を促す作用(瀉下通便)をもたらし、腸管内の腐敗物を除去し、細菌の毒素や有害物質などの吸収による悪影響を防止します。抗炎症・化膿抑制の効果を持ち、凝血・血腫などを分解吸収した代謝産物(肝臓で代謝)を利胆作用によって除去する働きを持ちます。のぼせ・いらいら・不眠なども改善します。大黄は体力が充実し、抵抗力が旺盛で邪気が勝っているときに使うのが原則です。下剤の効果(瀉下作用)の活性物質のアントラキノン類は長時間(10分以上)煎じると分解してしまうので瀉下作用を期待するときには、大黄は煎じ終る数分まえに後から入れます。長時間煎じると瀉下作用が減弱しますが、清熱解毒(抗炎症作用)と駆オ血の作用は残ります。

三稜は強い駆オ血の効能により、血腫・凝血塊などを溶解・吸収して除き、オ血による腫瘤を軟化させる作用を持ちます。莪朮と効能が似ており、よく一緒に使用されますが、薬性が峻烈で正気を消耗する恐れがあるので、虚弱者には補気薬や健脾薬と用います。

丹参は抗炎症や熱を取る効果(清熱)をもち、熱証とオ血を伴う状態に使用します。鎮静的に働き、補血の効果ももつので、眠りが浅い・不安感などの心血虚にも用います。がん細胞のDNA合成を抑制してがん細胞のアポトーシスを誘導する作用も報告されています。

地竜は溶血作用をもち血管内・外の凝血塊や血腫を溶解して除き、組織の血液循環を改善します。

また、前述の田七人参も肝臓や心臓の血液循環を改善する強い効き目をもっています。

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