硫酸ヒドラジン(Hydrazine sulfate)の悪液質改善作用と抗腫瘍活性について

概要:

硫酸ヒドラジンは癌の代替医療として30年以上前から検討されています。
硫酸ヒドラジンの抗腫瘍活性は動物実験などで示唆されていますが、ヒトでの抗腫瘍効果については賛否両論があり結論は出ていません。

しかし、癌患者における食欲不振や体力の消耗などの原因である癌性悪液質(カヘキシー)を改善する効果が示唆されています。そのメカニズムとして、癌細胞が増殖するために必要なエネルギーの元であるグルコースの利用を硫酸ヒドラジンが妨げるという作用、また硫酸ヒドラジンがTNF-αの働きを阻害する作用などが報告されています。

硫酸ヒドラジンの服用により末期癌の約半数において、体重増加、食欲の回復、疼痛の軽減、生存期間の延長などの効果がみられたという報告もあります。腫瘍の安定化や縮小も期待でき、他の癌治療の効果を高めることが期待できます。

硫酸ヒドラジンは栄養補助食品として米国で販売されていますので、服用に伴う危険性(副作用)は低いと考えられますが、FDA(米国食品医薬品局)は硫酸ヒドラジンを癌治療薬として使用することは認めていませんし、癌の代替医療としてヒトでの有用性はまだ結論が出ていません。したがって、癌治療に使用する場合には、自己責任のもとで服用することが条件になります。
しかし、悪液質の改善や癌細胞の増殖抑制や延命効果を期待して、癌の代替医療として試してみる価値はありそうです。

歴史:

硫酸ヒドラジンはNH2NH2・H2SO4という化学構造で、ロケット燃料、殺虫剤、さび防止剤などに含まれる一般的な産業化学物質です。

この硫酸ヒドラジンが癌患者の衰弱過程を抑制し、腫瘍の成長を阻害することができるということを、米国のジョセフ・ゴ−ルド博士が1968年に報告しています。
ロシアの研究では、硫酸ヒドラジンの治療を受けた48人の末期癌患者のうち、35%に腫瘍の安定化あるいは縮小がみられ、59%に自覚症状の改善がみられています。

米国癌学会は硫酸ヒドラジンの有効性を疑問視し、米国では否定的な見解が主流を占めていましたが、癌の代替医療としての有用性を報告した研究や論文も多くみられ、硫酸ヒドラジン治療は癌の代替医療の分野では注目されています。

抗腫瘍効果の根拠:

1。癌細胞が増殖するためには、癌細胞がグルコースを利用してエネルギーを産生する必要があります。癌細胞が必要なエネルギーを獲得するために、体の蛋白質を分解して糖を作って、それをエネルギー源として利用します。その結果、体重の減少や体力の消耗が起こります。
この糖新生過程に働くフォスフォエノールピルビン酸カルボキシキナーゼという酵素を硫酸ヒドラジンは阻害することによって、癌患者における悪液質の発生を抑え、かつ癌細胞の増殖を阻止する効果が期待できることになります。

注:
癌細胞は正常な細胞よりも10倍以上も貪欲にグルコースを摂取します。癌細胞は、肝臓で乳酸から変換されたグルコースを主な糖質として利用しています。癌細胞がグルコースをエネルギー源として使うとき、グルコースを十分に燃焼されず、乳酸が老廃物として蓄積します(嫌気性解糖)。この乳酸は肝臓でもう一度グルコースに変換され、そのグルコースがまた癌細胞に利用されて、癌細胞は多量な糖質をどんどん消費していきます。その結果、悪循環が成立してしまいます。
つまり、癌細胞が活発に成長している間、正常な細胞は飢えており、中には癌細胞に栄養を与えるために分解していくものさえあります。このために、体が消耗し衰弱していくのです。
肝臓が乳酸をグルコースに変換する過程である糖新生を阻害すれば、この悪循環を断ち切ることができるとゴ−ルド博士は考えました。硫酸ヒドラジンは糖新生を阻害する効果があるため、癌の悪液質を改善する効果があるのです。

2。癌性悪液質の発生には、 腫瘍壊死因子 -alfa(TNF-α)が関与する場合があります。TNF-αはカケクチンとしてもしられ、癌患者ではTNF-αが多く産生されるために、体重の減少や食欲不振などが起こります。硫酸ヒドラジンはTNF-αの活性を抑制する効果が報告されています。この作用も、硫酸ヒドラジンが癌性悪液質を改善する効果を発揮する理由となっています。

以上のように、硫酸ヒドラジンは、糖新生の阻害とTNF-αの産生阻害の両方の作用で悪液質を改善する効果が期待できるのです。

悪液質を改善すれば延命できる:

癌が大きくなって命を落とす主な理由は、栄養の悪化による衰弱、体力・抵抗力の低下による感染症、老廃物の蓄積による諸臓器機能の低下などが総合的に組み合わさって、最終的には生命力が低下するからです。癌組織の塊による直接的な影響よりも、癌性悪液質による体力・抵抗力の低下の方が、生存期間を決定する要因として重要なのです。悪液質による体力の消耗や衰弱を抑制できれば延命することは可能です。
毒薬で癌細胞を攻撃する代わりに、体の衰弱を止めると言うのが、硫酸ヒドラジン療法なのです。

(その他の悪液質改善の方法はtopics-10でも解説しています)

投与法:

食事の前か食事中に60 mgを服用します。
最初の数日間は1日1回、そして1日2回、その後1日3回投与されます。
投与する期間や量は症状の変化による調整します。

抗癌剤や放射線療法と組み合せて使用することにより、これらの効果を高めることができます。

副作用と注意:

適切に使用すれば高度な副作用はほとんど発生しません。

主な副作用は、吐気、めまい、皮膚のかゆみ、眠気などで、投与された人の5〜10%に発生します。しかし、そのような副作用は軽度で一過性のものがほとんどです。

長期にわたって多量に投与された場合、稀に手足の痛みやしびれを経験することがあります。このような時には、服用量を減らすことでコントロールできます。稀に肝障害の報告もあります。

硫酸ヒドラジンはMonoamine oxidase阻害作用がありますので、チラミン(tyramine)を多く含む食品(チーズ、ビ−ル、赤ワイン)を取り過ぎると血圧上昇や動悸を引き起こすことがあります。
麻薬、鎮静薬、トランキライザー(精神安定剤)、アルコ−ル、抗うつ薬を服用中の時は使用できません。

使用にあたっては、自分の判断で服用するのではなく、医師の指導のもとに行うのが賢明です。