抗酸化作用を持つ漢方薬や健康食品によるがんの予防 活性酸素などのフリーラジカルは体の内外から発生して体の構成成分を障害します。遺伝子の本体であるDNAにキズがつくとがん細胞が発生し、細胞や組織が障害されて免疫力や治癒力が低下するとがんに対する抵抗力が低下してがん細胞の増殖を許してしまいます。 フリーラジカルの害から体を守る防御システムが体には備わっていますが、その防御システム(抗酸化力)を抗酸化剤やフリーラジカル消去物質を投与して強化してやれば、発がん過程や老化のスピードを遅らせることが可能になります。 ビタミンE,Cやカロチンなどの抗酸化物質を多く含む野菜や果物を多く摂取すると、成人病やがんの予防に良いことは今や常識になっています。抗酸化力の高い健康食品も老化予防やがん予防を宣伝文句に売られています。抗酸化能で注目されているものは身近にたくさんあります。 赤ワインがブームになったきっかけは、フレンチ・パラドックスという現象です。ヨーロッパやアメリカの国々を調べると、心臓疾患による死亡率は動物性脂肪の摂取量とほぼ相関するのですが、フランスは例外で、脂肪摂取量が高い割に心臓病による死亡率が低いという結果が明らかになりました。その理由としてフランス人がよく飲む赤ワインの中に含まれる抗酸化物質が注目されています。赤ワインには赤色色素のアントシアニンやカテキン類などフラボノイドと呼ばれる抗酸化物質が多く含まれています。フラボノイドはフェノール性水酸基を幾つももっているのでポリフェノールとも呼ばれ、スーパーオキサイドやヒドロキシラジカルなどを捕捉して消滅させる作用があります。赤ワインの抗酸化力はそれに含まれるポリフェノールの量に比例して強くなること、赤ワインをボランティアに飲ませると血液の抗酸化力が実際に高まることが報告されています。 お茶を多く飲んでいるところの人はがんの発生が少ないという疫学的調査結果があります。その理由として、お茶にふくまれるエピガロカテキン・ガレートなどのカテキン類の抗酸化力が注目されています。さらにお茶には脂質の酸化を抑えたりコレステロールを減らして動脈硬化を防ぐ効果も知られています。 ボケ予防に効果があると言われるイチョウ葉エキスの効果も、抗酸化作用や血液循環改善作用が優れているフラボノイドなどの成分が含まれているからです。 その他にも、ニンニクやゴマなど多くの食品の抗酸化力の効果が報告され、病気の予防との関連が指摘されています。したがってブドウやお茶やニンニクやゴマなどに含まれる抗酸化物質を材料とした健康食品は成人病ががんやぼけの予防に効果があることは納得できます。 植物由来の生薬の抗酸化力は一般に高く、物によってはこれら抗酸化性の健康食品よりも高い効果をもつものもあります。これが漢方薬が老化やがんの予防に有効である理由の一つと考えられます。(メモ参照) メモ:生薬は抗酸化物質の宝庫: 植物は光合成を行うことで生命を維持しています。日光の紫外線の刺激から発生する活性酸素から身を守ることは、植物にしてみれば至極当然のことで、その植物が貯えている物質の中に強力な抗酸化物質やラジカル消去物質を数多く含んでいます。生薬は「抗酸化物質の宝庫」といわれますが、植物由来であるから当然のことなのです。 生薬に含まれる抗酸化物質として、カロチノイドやビタミンC・Eなどの天然抗酸化剤のほか、フラボノイドやタンニンなどのポリフェノール・カフェー酸誘導体・リグナン類・サポニン類などが知られています。 カロチノイドとビタミンCは光合成過程で発生する各種活性酸素種の消去剤としての役割を担っています。山梔子(さんしし、クチナシの果実)、番椒(ばんしょう、トウガラシ)、陳皮(ちんぴ、ミカンの果実)などの色はカロチノイド色素によるものです。ビタミンE(α-トコフェノール)も植物界に広く分布し、脂溶性であるため細胞膜の脂質の過酸化に対して強い抑制作用を示します。ビタミンCは水溶性の抗酸化性ビタミンで、ビタミンEと相乗作用して抗酸化能を高めます。 フラボノイドやタンニンはその構造の中にフェノール性OH基を多数持つためポリフェノール類と呼ばれています。フェノール性OH基が水素をラジカルに渡して安定化させ、自らは安定なラジカルとなることによってラジカル消去活性を示します。フラボノイドとは、植物に多く含まれている黄色やクリーム色の色素のことです。活性酸素を除去する抗酸化作用が強く、紫外線による害から守る作用がありますので、葉・花・果実など日光のよく当たる部分に多く含まれ、ほとんどの植物がもっています。例えば、イチョウの葉はフラボノイドの宝庫で、イチョウの葉特有のフラボノイドには、抗酸化作用のみならず、体内の血管を広げ、血流を改善する効果もあります。ドイツやフランスなどでは痴呆症の薬としても利用されています。黄ごん・甘草・麻黄・紅花などにもフラボノイドが多く含まれています。タンニンを含有している大黄や芍薬は強い活性酸素消去活性を持っています。 クロロゲン酸(3ーカフェオイルキナ酸)を始めとするカフェー酸誘導体は植物界に広く分布しています。艾葉(ガイヨウ、キク科のヨモギ)やその同属植物には、カフェー酸・クロロゲン酸・ジカフェオイルキナ酸類が多量に含まれており、これらはいずれも強い抗酸化作用が認められています。 カフェー酸の2量体であるロズマリン酸は、ヨーロッパで多く用いられているハーブのロズマリー(マンネンロウ)や薬用サルビア(セージ)などのシソ科植物の主要成分でもありますが、蘇葉(そよう)や夏枯草(かごそう)などのシソ科植物を基原とする生薬にも多く含まれています。このロズマリン酸にも強い抗酸化活性や抗炎症作用が認められています ゴマ油は酸化に対して安定ですが、それはゴマの種子に多量に含まれている含まれているリグナン類の優れた抗酸化作用によるものです。胡麻に含まれる成分セサミンが肝臓ガンの発生を抑える働きを持つことが、発ガン実験の研究で明らかになっており、その作用機序として抗酸化能が重視されています。五味子(ゴミシ)はチョウセンゴミシの果実を基原とする生薬ですが、この中にはシザンドリンやゴミシンなど多くのリグナン類が含まれていて、強い抗酸化力を持っています。薬用人参や柴胡や甘草などにはサポニン類が多く含まれています。これらのサポニンにも抗酸化作用があります。 |
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