温泉や入浴は血液循環の改善やリラクセーション効果により体の自然治癒力を活性化する。

【概略】

体を温め血液循環を促進すると新陳代謝が活性化されて自然治癒力も高まります。温泉が「万病に効く」といわれるのは、体の治癒力を高める様々な効果があるからで、ガンが発生しやすい体質を改善する効果も期待できます。

特別な温泉に入らなくても、毎日の快適な入浴が疲労回復心身のリフレッシュに有効です。体の疲れを溜めないことが、体の抵抗力や治癒力を維持するコツで、38〜40℃程度のぬるめのお湯でゆっくり温まると疲労回復が早まります。ガンの発生予防や再発予防にもこのような日々の疲労回復とリフレッシュが大切です。

【自然治癒力を高めると難病も治る】

温泉にはいろんな病気を治す効果が知られています。肩凝りや腰痛や冷え症や不妊症など全く関連がないような多くの疾患が、その効能として挙げられています。「万病に効く」といういわれ方もされます。病気の原因をターゲットにしている西洋医学の考え方では、一つの方法で痛みや婦人病や皮膚疾患などの多くの効能を持つ治療法など通常は考えられません。しかし、体の自然治癒力を活性化する方法なら、このようなことが可能なのです。

温泉に含まれる成分や温熱作用、水圧や浮力による機械的作用、裸になる事の解放感なども加わって全身の血行が良くなり、心身ともにリラックスさせる効果があります。血液やリンパ液の流れが良くなると、栄養物質の供給と老廃物質の排出が順調になり、組織の新陳代謝恒常性維持機能再生・修復機能が活性化されて、自然治癒力が高まることになります。従って、肩凝りの人は肩凝りが治り、冷え症の人は冷え症が治るというようにその人が持っている体の異常(病気)が治るから「万病に効く」ということになるのです。すなわち、自然治癒力を高める治療法は多くの病気を治すことができるのです。

体には驚くほどの可能性と能力、つまり自分で治す自然治癒力があり、その力を高める事は、ガンが発生しにくい体を作ることになります。

【新陳代謝を良くすると抗ガン力は高まる】

機械は一旦作ってしまうと、その部品は人が交換しないかぎり何時も同じです。しかし、生きた体を構成する組織や細胞は絶えず栄養を取り入れて老廃物を排泄し、古い細胞は死んで新しい細胞が置き換わっています。

体の約200分の1の細胞が毎日死んで、それに相当する数の細胞が細胞分裂によって新たに作り出されて補充されています。この時の細胞死は遺伝子のプログラムによって調節されており、プログラム細胞死とかアポトーシスという言葉で呼ばれています(図)。

図.アポトーシス(プログラム細胞死)は細胞の若返りやキズの修復に重要な役割りを持つ

細胞にキズがついてもそれを自ら修復する機能が備わっています。しかし、時間が経つとつぎはぎだらけの古い(老化した)細胞になって機能が落ちます。ある程度古くなると自分で細胞死のスイッチをいれて自殺(自滅)し、新しく生まれた若い細胞にまかせたほうが組織全体の機能を良い状態に維持する上では都合がよいので、アポトーシスの仕組みが生物の進化の過程で発達したようです。これは細胞回転といわれる生理的な現象ですが、「細胞交代型の若返り」といえます。

生理的な細胞回転以外に、細胞が発ガン物質にさらされてDNAの異常を多く受けたり、ウイルス感染によって細胞機能が異常を起こした場合などは、いちいち修復するより、細胞にアポトーシスのメカニズムを発動させて自殺に追いやり、正常な細胞が分裂して新しい細胞を補う方がより確実です。障害した細胞が自滅して新しい細胞が置き換わる仕組みは「細胞交代型の修復」といえます。細胞分裂は一個の細胞が全く同じコピーを作る事で、組織や臓器の欠損を細胞分裂で補うことを再生といいます。アポトーシスによる細胞死と組織を再生するための細胞分裂は体を構成する組織や臓器の構造と機能を維持する上で重要な役割を担っています。

新陳代謝という言葉は辞書(広辞苑)には「ふるいものが次第に去って、新しいものがこれに代ること」と説明されています。医学用語としても使われていますが、あいまいな言葉であるので西洋医学の教科書にはあまり使われていません。西洋医学では物質代謝あるいは代謝(metabolism)という用語に相当します。

個々の細胞は外部から取り入れた栄養素を素材にして、タンパク質や脂質や核酸など細胞の構成成分を合成すると同時に不要なものは処分し、炭水化物や脂肪酸を酸化してエネルギーを作り出しています。この仕組みが物質代謝です。

細胞を構成する分子は不変ではなく絶えず入れ替わっています。すなわち、細胞や組織の分子成分は一定の速度で合成され、それと同じ速度で分解を受けて新しい分子と入れ替わっています。例えば、肝臓内のタンパク質の総量は不変ですが、約5日の半減期で入れ替わっています。このような動的平衡状態を代謝回転といっています。

細胞が絶えず構成成分を新しく入れ替えていることはエネルギーの無駄のようにも感じますが、環境の変化に対応して内部環境を一定に保つ恒常性維持機能を迅速に働かせるためには重要な意味を持っています。絶えず内部環境を動的平衡状態にしておく方が変化に迅速に対応できるからです。機械も長く停止しておくと動かす必要ができた時に錆び付いて故障しているかもしれません。絶えず動かしている方が、異常を早く見つけて修理できてメンテナンスに有利であり、速く動かす必要があるときにはすぐにその対応ができます。

「新陳代謝を促進する」というのは、単に物質代謝(metabolism)の促進だけでなく、組織の細胞回転(古い細胞がアポトーシスで死んで細胞分裂で新しい細胞が入れ替わること)も含む広い概念で用いられています。(図)。

新陳代謝は、生体の恒常性維持機能や修復・再生機構の基礎であり、新陳代謝が悪い状態では自然治癒力は十分働きません。温泉やマッサージなどは血行を良くして新陳代謝を高めることができるので、体の体の自然治癒力を高めて、抗ガン力を増強することができるのです。 

図。体の新陳代謝は、細胞内の物質代謝と組織内の細胞回転が基礎となる。

【体を温め血液循環を促進すると新陳代謝が活性化されて自然治癒力が高まる】

血液には、酸素を運搬する赤血球、血管の傷を塞ぐ血小板、生体防御に働く白血球などの血球成分と、いろんな栄養素や蛋白質・脂質などを含む血漿成分から構成されます。「血のめぐり」は専門用語で「血液循環」といいます。組織や細胞の活動に不可欠な酸素と栄養物の供給および代謝産物である炭酸ガスや他の老廃物の除去が血液循環によって行なわれています。したがって、血液循環が悪くなることはそのまま組織の働きが悪くなることを意味します。各血液細胞の機能が正常でも、栄養を十分含んでいても、血液循環が正常でなければ用をなしません。

動脈が硬くなる動脈硬化は、血液循環を悪くし組織への栄養や酸素の供給を悪くするため、心臓や腎臓などの臓器の働きを低下させ、組織の新陳代謝を悪くして治癒力を低下させます。

歳をとると新陳代謝が低下します。細胞の物質代謝を活性化する甲状腺ホルモンや成長ホルモンなどの分泌が老化とともに減少し、さらに老化現象として、心臓の機能が次第に衰えたり動脈硬化が進行すると、組織の血液循環が低下して栄養の運搬がうまくいかなくなります。肝臓や腎臓の機能が衰えてくると、タンパク質の合成や解毒機能や老廃物の排泄が低下していきます。このような諸臓器の機能の老化性低下が悪循環を生んで、次第に体の物質代謝や新陳代謝が低下していきます。

熱産生は基本的に代謝の産物ですから、歳をとって代謝が低下して熱産生が減少したり血液循環が悪くなると体の冷えを感じるようになります。歳をとってくると体の冷えを訴えることがおおくなりますが、これは老化にともなう物質代謝や血液循環の悪化が原因となっています。

川も温度が低下して凍りついてくると流れが悪くなるのと同様に、体の冷えはさらにリンパ液や水分の循環も障害してますます新陳代謝を悪くします。温泉やマサージなどによって体を温め、血液や水分の循環を改善することは、全身の組織や臓器の働きを高め、自然治癒力を引き出して、抗ガン力を高めることにつながります。

23-(2).快適な入浴で心身の疲労回復とリフレッシュができる。

【お風呂に入ると疲れがとれる】

日本人は昔から風呂好きの民族として知られています。しかし、最近は生活環境の変化でシャワーだけで済ます人も多くなっています。シャワーは体を清潔にするだけですが、お風呂に入ることは、さらに体を温め、血液循環や新陳代謝を促進し疲労回復の効果が高まります。

体が温まると心拍数が増え血液循環がよくなります。血液循環が良くなると栄養物質や酸素の供給や老廃物質の運搬が促進されます。血液中の疲労物質「乳酸」の量を測定すると、入浴後には入浴前の3分の1に減っていたという研究結果もあります。

【体温に近いぬるめのお湯にゆっくりつかる】

お湯の温度は人によって好みがありますが、38〜40℃程度の体温に近いぬるめのお湯にゆっくりつかるのが疲労回復に適しています。夏なら38℃程度、冬なら40℃程度のお湯で、顔面が少し汗ばむ程度に15〜30分くらいが適当です。

40℃前後のぬるめのお湯につかると、自律神経の副交感神経が優位になり、体の緊張がほぐれ、リラックスした状態になります。熱いお湯は長くつかっていられないため、体の表面だけ温まって体の中まで温まらず十分な効果は得られません。疲れた体をゆっくり休めるにはぬるめのお湯が適しています。

あまり長時間入りすぎたり、何回も出たり入ったりすると「湯疲れ」をおこしたり、心臓が悪いと負担がかかるので注意が必要です。熱めのお湯に入ると、入浴後1−2分で血圧が上昇し、その後体が温まると徐々に下がってきます。血圧が高い人は、かけ湯をしてからゆっくりとぬるめのお湯に入ることが大切です。

肩までつかる全身浴は心臓や肺に負担がかかるので、体力が低下している時は、胸までつかる「半身浴」や、腰までの「腰湯」、足だけの「足湯」などが良い場合もあります。全身がお湯につからなくても、下半身が温まると全身の血行はよくなります。肩が肌寒く感じるときには、肩にタオルをかけたり、手でお湯を肩にかけたりします。

足湯は洗面器やバケツに43℃くらいの熱めのお湯を入れて、約10分程足首までつけます。これだけで血液循環は良くなり、疲労回復にも効果があるので、お年寄りや、ガン治療後で体力が低下した人には適しています。

【楽しい入浴で精神的ストレスも発散される】

入浴は体の疲労回復だけでなく、精神的なリフレッシュにも有効です。入浴中に好きな音楽を聞いたり、様々な入浴剤を利用して入浴を楽しくする工夫も、精神的なリフレッシュに効果があります。

最近は多くの入浴剤が市販されています。色や香りでリラックス効果を高めたり、保温や保湿効果を高める効果もあります。温泉の成分を含むものは、ナトリウムなど無機塩類の成分が皮膚表面のタンパク質と結合して、薄い膜をつくり熱の放散を防ぐ保温効果があります。

泡状の炭酸ガスを発生するものは炭酸ガスが皮膚から吸収されると毛細血管が拡張して血行が良くなります。薬草やハーブなどの成分が含まれているものは、保温と保湿の効果の他、薬効成分による血行改善や香り成分によるリラックス効果などもあります。

やや熱め(43℃)のお湯に5分間位入って、いったんお湯から上がって20℃くらいの水のシャワーを数秒間全身に浴びるような、温冷交代浴を繰り返すと、自律神経を刺激する効果があります。

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