6.ショウガはプロスタグランジンE2の合成を阻害してガン細胞の増殖を抑制する。

【概略】

ショウガ(生姜)は、古来食用および薬用として非常に馴染み深いもので、消化器系に対する強壮効果があり、多くの中国料理に新鮮なショウガが使用されています。生薬名はショウキョウといい、漢方薬の構成生薬としても高頻度に使用されています。ショウガの成分のジンゲロールショウガオールは、プロスタグランジンの合成を阻害して炎症を抑え、ガン細胞の増殖を抑制する作用(抗プロモーター作用)を持っています。さらに、フリーラジカル消去作用があって、発ガン物質が引き起こす遺伝子の突然変異を抑制する作用(抗変異原性)も持っており、ガンの進展や再発の予防に効果が期待できます。

【シクロオキシゲナーゼ阻害剤はガン予防効果がある】

マクロファージや好中球は、細菌や真菌など外界からくる病原体を攻撃したり、ウイルスに感染した異常細胞やガン細胞を除去することにより、体を守る働きをしています。このとき、マクロファージや好中球は、活性酸素や一酸化窒素などのフリーラジカルを産生し、さらにプロスタグランジンなどの化学物質を放出して、腫れや充血や痛みなどの炎症反応を引き起こします。

シクロオキシゲナーゼ(cyclooxygenase,COX)はアラキドン酸からプロスタグランジンを産生するときに最初に働く酵素です。COXには、多くの組織において恒常的に発現しているCOX-1と、炎症性刺激や増殖因子によりマクロファージなどの炎症細胞や消化管粘膜上皮細胞において合成されるCOX-2の2つの種類が知られています。

プロスタグランジンには多くの種類がありますが、COX-1によって産生されるプロスタグランジンは消化管や腎臓や血小板など多くの臓器や細胞の生理機能において重要な役割を果たしています。一方COX-2は、炎症や発ガン過程で合成が刺激され、大量のプロスタグランジンを産生して、ガンの発育を促進する働きをします。炎症で増えてくるCOX-2の働きを抑えてやるとガンを予防する効果があることが報告されています。

アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症剤(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs, 略してNSAID)といわれる薬はシクロオキシゲナーゼを阻害してプロスタグランジンE2の産生を抑えることによって、鎮痛効果や解熱効果を発揮し、いろんな炎症性疾患の治療に使われています。1990年代の初めころ、鎮痛剤として日常的にアスピリンを服用している人には、大腸ガンの発生頻度が低いことが、幾つかの疫学的研究の結果明らかになりました。

米国ジョージア州アトランタのアメリカ癌協会(American Cancer Society)の疫学部門のヒース博士らは、約66万人の成人を1982年から1988年まで追跡調査し、アスピリンの服用と大腸ガンによる死亡の関係を検討しました。その結果、一ヶ月に16回以上のアスピリン服用を1年以上続けている人たちは、アスピリンを服用していない人に比べて大腸ガンになるリスクは約60%に減少することを明らかにしました。その他の疫学的研究でも、NSAIDを常用している人は大腸ガンや胃ガンが少ないことが明らかになっています。
Aspirin use and reduced risk of fatal colon cancer.
(Thun MJ, Namboodiri MM, Heath CW Jr.)N Engl J Med 1991 Dec 5;325(23):1593-6

さらに、動物の発ガン実験を用いた研究でNSAIDが大腸ガンの発生を予防したり、ガン細胞の転移や再発を抑える効果があること、ガン細胞にアポトーシス(細胞死)を引き起こす作用があることなどが明らかになっています。

これまでのNSAIDはCOX-1もCOX-2も両方とも阻害するため、生理的な作用をするために必要なプロスタグランジンの産生も抑制し、消化管粘膜の障害や腎臓障害などの副作用が問題となっていました。そこで炎症や発癌過程において誘導されてくるCOX-2のみを選択的に阻害する薬も出現してきて、ガンの化学予防剤として注目されています。

【ショウガの成分がシクロオキシゲナーゼを阻害する】

ショウガ(生姜)に含まれるジンゲロールショウガオールという物質は、アラキドン酸を代謝してプロスタグランジン、トロンボキサン、ロイコトリエンなどを合成するシクロキシゲナーゼやリポキシゲナーゼという酵素を阻害する働きを持っています。その抗炎症作用はインドメタシンのようなNSAIDに匹敵するといわれています。

このような抗炎症作用は、ガン細胞の増殖を抑える抗プロモーター活性になります。動物の発ガン実験やガンを移植した実験において、ショウガのジンゲロールなどの成分はガンの増殖や転移を抑えることが多く報告されています。

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