9.セレニウム(selenium)は抗酸化力と免疫力を高めてガン再発を予防する

【概略】

体の抗酸化力を高めるためには、抗酸化物質(ビタミンC,ビタミンE,,ポリフェノールなど)を取り入れえるだけでなく、体に備わっている抗酸化酵素(活性酸素消去酵素)の働きを高めることも大切です。種々の微量元素が抗酸化酵素の活性に必須であり、その中でセレニウムは過酸化水素を水と酸素に分解するグルタチオン・ペルオキシダーゼの活性に必要です。セレニウムを補充することは、体の抗酸化力を高め、老化やガン予防に効果があることが明らかになっています。

セレニウムを補充すると抗酸化力のみならず免疫力も高まってガンの再発を遅らせる効果が報告されています。また、抗ガン剤や放射線治療の副作用を軽減する効果も指摘されており、ガンの予防や治療の目的でセレニウムをサプリメントとして摂取する価値はあります。

【グルタチオン・ペルオキシダーゼは過酸化水素を分解する】

私たちの体は肺から取り入れた酸素を利用して、細胞のミトコンドリアでエネルギーであるATPを効率よく生産しています。しかし、その一方で、いわゆる活性酸素が発生して、細胞のDNAや蛋白質や脂質を酸化するため、老化やガンの原因となります。

このような活性酸素の害を防ぐため、種々の抗酸化酵素や抗酸化性物質といった活性酸素を消去するための防御システムが体には備わっています(図)。

図:活性酸素の生成と消去
活性酸素の生成と消去には種々の微量元素が関与している。セレニウム(Se)は過酸化酸素を分解するグルタチオン・ペルオキシダーゼの活性に必要。

酸素(O2)がエネルギー産生や種々の酵素反応や炎症細胞の活動に使われると、電子が一個余分についたスーパーオキシド(Oが発生します。スーパーオキシドはスーパーオキシド・ディスムターゼ(SOD)という抗酸化酵素によって過酸化水素(H2O2)に変換され、さらにカタラーゼグルタチオン・ペルオキシダーゼによって水と酸素に変わります。

過酸化水素が鉄や銅イオンなどと反応して生成されるヒドロキシ・ラジカル(・OH)は酸化力が極めて強いため、細胞の酸化障害の主要な原因となっています。したがって、過酸化水素を片っ端から水と酸素に変換してくれるグルタチオン・ペルオキシダーゼの働きを高めてやることは、体の酸化障害を予防する有効な手段となります。

グルタチオンは3つのアミノ酸(グルタミン酸、システイン、グリシン)から成る物質で、細胞内に大量に存在します。グルタチオンの中のシステインに含まれるSH基が電子供与体となり、フリーラジカルに電子を与えて安定化させる働きがあります。

細胞内には還元型グルタチオン(GSH)として存在し、電子を与えたあとは2量体(GSSG:酸化型グルタチオン)に変化して安定になるため、フリーラジカルによる電子の連続的な奪い合いを止めることができます。酸化型グルタチオン(GSSG)はグルタチオン・レダクターゼがNADPHからの電子をGSSGに転移してGSHに戻ります。

この還元型グルタチオンを電子供与体として過酸化水素を水と酸素に分解したり、脂質過酸化物を還元して無毒化するのがグルタチオン・ペルオキシダーゼです。

【セレニウムはグルタチオン・ペルオキシダーゼの働きに必要な微量元素】

上記のように、グルタチオン・ペルオキシダーゼはフリーラジカルや活性酸素に対する生体防御において重要な役割を担っています。この酵素はセレンをセレノシステイン(アミノ酸の一種のシステインに含まれるイオウ原子がセレンに置き換わっている)の形でその酵素活性部位に持っています。 血漿中のグルタチオン・ペルオキシダーゼ量はセレン欠乏の指標として測定されています。つまり、セレンが欠乏するとグルタチオン・ペルオキシダーゼの量が減って体の抗酸化力が低下することになります。

セレニウムが必要な蛋白質はグルタチオン・ペルオキシダーゼ以外にもありますので、セレニウムの欠乏は抗酸化力の減弱だけでなく、様々な細胞の働きに支障がでてきます。セレニウムが欠乏すると酸化ストレスにたいする抵抗力がなくなり、免疫力も低下して感染症にかかりやすくなります。セレニウムは精子の運動能を高める作用や心臓疾患や白内障を予防する効果も知られています。

The importance of selenium to human health.
(Rayman MP.) Lancet 2000 Jul 15;356(9225):233-41  

したがって、セレニウムが欠乏しないように注意することはガンのみならず多くの病気の予防において大切です。セレニウムが土壌中に不足しているフィンランドでは、政府が中心となってセレニウムを耕作地に散布し、国民がセレニウム不足におちいらないよう気を配っているそうです。抗過酸化力のあるビタミンEと一緒に摂ると、生体膜の過酸化脂質化防止の働きが強化されて老化性疾患の予防に効果的といえます。

人間の生命活動に欠くことのできない微量元素として鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、クロム、銅、コバルト、セレニウムなどがあります。セレニウムは抗酸化力と免疫力を高める効果があるため、抗ガン力を高めるのに重要なミネラルと言えます。

【セレニウムのガン予防効果】

土壌中のセレニウム濃度が高い地域ほど ガン発生率が少ないという研究がアメリカから発表されています。セレニウム濃度が高い地域に育つ農作物はセレニウムの含量が多く、それを食べる住民の血中セレニウム濃度も高くなって体の抗酸化力が増すことがガン予防につながると予想されています。

セレニウムの摂取量とガンの発生率が逆相関することは、その他の研究でも指摘されています。ガンの治療(手術や放射線)中には、ガン細胞に対する細胞性免疫の応答性は低下しますが、1日200μgの亜セレン酸ナトリウム(sodium selenite)の補充を行うと、細胞性免疫の応答性は増強するという報告があります。

Effect of selenium on the immunocompetence of patients with head and neck cancer and on adoptive immunotherapy of early and established lesions.
(Kiremidjian-Schumacher L, Roy M.)Biofactors 2001;14(1-4):161-8

セレニウムには抗酸化力増強だけでなく、ガン細胞のシグナル伝達系に作用して、細胞増殖を抑え、細胞死(アポトーシス)を誘導する効果があることも最近報告されています。

Selenium and signal transduction: roads to cell death and anti-tumour activity.
(Ghose A, Fleming J, Harrison PR.)Biofactors 2001;14(1-4):127-33

抗酸化力を増強するため、ガンの化学療法や放射線療法の毒性を軽減し、ガン治療の効果を高めることも期待できます。したがって、ガンの治療や再発予防においては、セレニウムを補充することは有効と言えます。

【抗酸化力を高めるためには微量元素の不足に気をつける】

体の抗酸化力を高めるための食生活へのアドバイスは、抗酸化性ビタミン(ビタミンC,ビタミンE,βカロテン)やポリフェノール類(フラボノイド、カテキンなど)の摂取量を増やすために野菜や果物の取ることでした。

しかし、抗酸化酵素(活性酸素消去酵素)の方も、やはり食品の選択によって決まるものです。スーパーオキシド・ディスムターゼ(SOD)カタラーゼグルタチオン・ペルオキシダーゼといった抗酸化酵素は、その活性にマンガン、亜鉛、鉄、銅、セレニウムなどの微量元素が必須です。これらのすべては何らかの食品から得る以外にありませんが、食生活に注意を払っていても、これらの微量栄養素のどれかが不足しているというケースが意外と多いようです。その理由の一つは、特定のミネラルが不足する土壌に育つ作物にミネラルが欠けているというケースです。セレニウムを例にとれば、セレニウム不足は北ヨーロッパ全体、中国、アフリカの一部、その他の地域で見られます。

したがって、抗酸化力を高めるためにセレニウムを初めとする微量元素をサプリメントとして摂取することは、抗ガン力を積極的に高めて再発を予防するための手段として推奨できます。

微量のセレニウムは多くの食品に含まれています。ニンニクにはセレニウムが豊富に含まれていてニンニクのガン予防効果の一部はセレニウムが関連しています。(リンク

ヨーロッパやアメリカなどではセレニウムを栄養補助食品としてスーパーマーケットで手に入れる事が出来ます。そして自らの健康を考えて自発的に補給しています。

健康維持や病気の予防のためにセレニウムは1日50〜200マイクログラムが必要といわれています。セレニウムを添加した培養液で増殖させたパン酵母を使った健康食品はセレニウムの他に多くの微量元素やビタミンなども豊富です。ビタミンEを添加したサプリメントも市販されています。

セレニウムは発ガン物質によるDNAの変異や酸化障害を抑制し、ガンの進展を抑える効果があり、1日に100-200マイクログラム のセレニウムはDNA障害を抑えて発ガン抑制やガンの進展予防に有効と報告されています。ただし、上限は400マイクログラムであって、それ以上の過剰の摂取は有害である可能性があると指摘されています。

Selenium in global food systems.(Combs GF Jr.)
Br J Nutr 2001 May;85(5):517-47

The protective role of selenium on genetic damage and on cancer.
(El-Bayoumy K.)Mutat Res 2001 Apr 18;475(1-2):123-39
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