高麗人参(Ginseng)のエストロゲン活性:topics-5の続報

Topics-5で記載したように、昔からGinsengのエストロゲン様活性が指摘されていて、今でも乳癌患者でのGinsengの使用の可否について議論されています。

特に、代替医療で最も影響力のあるアンドルー・ワイル博士が多くの著書の中で、「Ginsengにはエストロゲン様作用があるので、子宮筋腫、乳腺症、乳癌といったエストロゲン依存性の疾患には使用すべきでない」と記述しているため、乳癌治療に漢方治療を行うときに、人参の使用が問題視されています。乳癌患者さんからの健康食品や漢方薬に関する質問でも、この点がよく問題になります。

アンドルー・ワイル博士の記述はかなり古い研究結果を基にしており、最近の研究ではGinsengにはエストロゲン活性はなく、乳癌に対して抗腫瘍効果を持つことが報告されています。最近の研究の詳細はTopics-5で解説していますが、私の結論は、「乳癌の治療に人参(Ginseng)が悪影響を及ぼすという作用は現時点では考えにくい」ということでした。

今回、薬や環境物質のエストロゲン活性を測定する最も信頼性の高い方法を確立している財団法人化学物質評価研究機構の安全性評価技術研究所の大塚雅則博士(研究企画部長)の好意により、朝鮮人参エキスのエストロゲン活性をリポーター遺伝子アッセイ(Reporter gene assay)という方法で、エストロゲン・レセプターαとβに対する結合活性を測定してもらいました。
実験内容は以下に示していますが、結果は「朝鮮人参エキスにはエストロゲン・レセプターαとβに対する結合活性は無い」ということであり、最近の多くの報告と一致する実験結果でした。
財団法人化学物質評価研究機構の安全性評価技術研究所で開発されたこの方法は、環境ホルモンなどの検索にも世界標準として使用されているアッセイ法です。

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(実験内容)

人参のReporter gene assay

目的:朝鮮人参エキスのエストロゲン・レセプターαとβ(ERα/β)を介するAgonist及びAntagonist活性をReporter gene assayで検討する。

使用材料:朝鮮人参エキス(100 mg/ml)媒体はDW或いはDMSO

実験濃度域:100, 10, 1, 0.1, 0.01, 0.001, 0.0001 (μg/ml)

使用plasmid:ERα/pcDNA, ERβ/pcDNA, ERE-AUG100-luc+ (いずれも安全性評価技術研究所で開発)

使用kit:Dual luciferase kit

実験濃度域設定理由:本製剤の臨床投与量は一日当たり3-6g/ヒトであり、体重60kgのヒトに6gを投与したと仮定し、その全量が体内に吸収され、均一に分布した場合の濃度が100μg/g(ml)となると推定されることから、100μg/mlを最高濃度とする。

結果:朝鮮人参エキスの0.0001〜100μg/mlの濃度において、エストロゲン・レセプターαおよびβに対する結合活性は認めなかった。
(実験協力:財団法人 化学物質評価研究機構安全性評価技術研究所 武吉正博)

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(考察)

人間が口から人参を摂取すれば、一部の成分が別の物質に代謝されるので、その代謝産物にもエストロゲン活性がないかどうかを調べないと最終的な結論はでません。今後、in vivo(生体内)の実験系でも、エストロゲン・レセプターに対する結合活性を検討する必要があります。
しかし、topics-5で解説しているように、動物実験でも乳がんの増殖を促進する作用は朝鮮人参には認められず、むしろ抑制する効果の方が報告されています。
つまり、「朝鮮人参は乳癌に使用してはいけない」という根拠はないようです。
ただし、朝鮮人参は炎症を悪化させたり、場合によっては癌細胞の勢いを強める場合もありますので、朝鮮人参だけを単独で漫然と使うのは、漢方のがん治療からは間違いです。病状に応じて、抗炎症薬(漢方の清熱薬や解毒薬など)や血液循環を良くする駆お血薬などとの併用が必要であることが基本です(Topics-12参照)。