モルトリンパ腫(MALT-lymphoma)とマントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma)に対するサリドマイドの治療効果

悪性リンパ腫とは免疫細胞の癌(悪性腫瘍)です。
悪性リンパ腫はB細胞リンパ腫、T およびNK 細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫の三つに大別されています。
悪性リンパ腫の治療は抗癌剤を中心に行われていますが、場合によっては再発したり抗癌剤に抵抗性を示して難治性の場合も少なくありません。

サリドマイドはB細胞の腫瘍の一つである多発性骨髄腫に対して著明な効果を示すことが明らかになっており、欧米ではサリドマイドは多発性骨髄腫の標準的治療と認められています。
悪性リンパ腫に対しては、サリドマイドの効果はまだ証明されていませんが、B細胞系の腫瘍に関しては、多発性骨髄腫と同じようにサリドマイドが効く可能性が指摘されています。

症例が少ないため、ランダム化試験のような厳密な臨床試験の報告はありませんが、症例報告レベルではB細胞系のリンパ腫に対する効果を示唆する報告が複数あります。
銀座東京クリニックでも、マントル細胞リンパ腫に対してサリドマイド治療を行った経験が数例ありますが、効果がある手ごたえを感じています。

モルトリンパ腫(MALT-lymphoma)とマントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma)に対するサリドマイドの治療効果に関する論文の要旨を紹介します。

1)Response to thalidomide in chemotherapy-resistant mantle cell lymphoma: a case report.(化学療法に抵抗性のマントル細胞リンパ腫のサリドマイドに対する反応:症例報告)Br J Haematol. 119(1):128-130. 2002

マントル細胞リンパ腫は臨床的に徐々に進行し、治療に抵抗して予後の悪いB細胞リンパ腫の一種です。標準的治療法である程度の効果はありますが、再発しやすく平均生存率は3年以下といわれています。
この論文では、抗癌剤やステロイドやリツキサンによる治療に抵抗性をしめし、再発をくり返したマントル細胞リンパ腫がサリドマイド治療で効果が認められた症例を報告しています。
サリドマイド単独で1日800mgの用量で投与し、腫瘍の縮小が6ヶ月間認められたことを報告しています。

2)Antitumor activity of rituximab plus thalidomide in patients with relapsed/refractory mantle cell lymphoma.(再発した治療抵抗性のマントル細胞リンパ腫に対するリツキサンとサリドマイドの併用による抗腫瘍効果)Blood.15;104(8):2269-2271. 2004

この論文では、再発した治療抵抗性のマントル細胞リンパ腫の患者16例についてリンパ腫をターゲットにした治療(リツキサン)と腫瘍の微小環境をターゲットにした治療(サリドマイド)の併用効果を検討しています。
リツキサン( Rituximab )は 375 mg/m(2) を4週間おきに点滴し、同時にサリドマイド(1日200mgから開始し、15日目には400mgまで増量)を投与し、腫瘍の進行が認められるまで治療を継続しています。
16例中13例 (81%) で明らかな縮小がみられ、うち5例(31%)では完全寛解(complete responders)を認めました。

腫瘍の進行のない生存期間の平均(Median progression-free survival) は 20.4 ヶ月 (95% confidence interval[CI], 17.3-23.6 months), で3年生存率は 75%と推定されました。
重篤な副作用としてはサリドマイドによる血栓症が2例に、高度の白血球減少が1例に認められました。

つまり、この研究結果から、リツキサンとサリドマイドの併用治療は、再発した難治性のマントル細胞リンパ腫の治療として有効であるといえます。

3)Very good partial response in a patient with MALT-lymphoma of the lung after treatment with low-dose thalidomide.(低用量のサリドマイドで著明に縮小したMALTリンパ腫の一例)Leuk Lymphoma. 2005 Sep;46(9):1379-82.

この論文では、肺に原発したMALTリンパ腫にサリドマイドが著効を示した例を報告しています。症例は52歳の男性で、肺に原発したMALTリンパ腫を低用量(100 mg/day)のサリドマイドで治療し、10ヶ月後には著明な縮小を認めています。

MALTというのは、mucosa-associated lymphoid tissue(MALT)の略で、消化管、肺、唾液腺、甲状腺、胸腺などのリンパ節外の臓器から発生するリンパ腫です。何らかの先行性炎症を基盤として発症し、たとえば、胃原発の場合はHelicobacter pyroliが関与し、甲状腺の場合は橋本病などの自己免疫疾患との関与が指摘されています。
比較的限局し、10年生存率は約80%と予後は良いので、サリドマイド治療が考慮されることは少ないのですが、MALTリンパ腫の代替治療の1候補としてサリドマイドを認識しておくことが必要です。

まとめ:

サリドマイドには血管新生阻害作用や、B細胞を活性化する転写因子として知られているNF-kBの活性を抑制すること、リンパ球の増殖や活性を調節するサイトカインの産生に影響する作用があるので、B細胞系の悪性腫瘍の増殖を抑える効果が期待できるようです。

B細胞の表面の抗原(CD20)に対する抗体であるリツキサン(リツキシマブ)はリンパ球に直接作用して抗腫瘍効果を発揮しますが、サリドマイドは腫瘍細胞の増殖を支える微小環境(血管新生や増殖因子や転写因子など)に作用することによって抗腫瘍効果を発揮するようです。

したがって、B細胞系の腫瘍に対してリツキサンとサリドマイドの併用は有効な治療法として期待でき、再発をくり返し難治性の場合には、試してみる価値がありそうです。