Antioxidants in Cancer Therapy; Their Actions and Interactions With Oncologic Therapies
(がん治療における抗酸化剤:それらの作用と治療薬との相互作用)
Davis W. Lamson, MS, ND and Matthew S. Brignall, ND
Altern Med Rev 1999;4(5):304-329

この論文は180の文献をまとめた26ページの長文ですので、全文は掲載できません。個々の抗酸化剤に関して引用文献の詳細な紹介がなされていますが、この部分は「まとめ」のみ和訳しています。

要旨:

抗酸化物質は放射線照射やある種の抗がん剤によって発生するフリーラジカルの作用を減弱するので、それらの治療の効果を弱める可能性があるという懸念がある。抗がん剤治療中は、抗酸化剤の投与(服用)をすべきでないという、疑問が発生している。
抗酸化物質は様々ながんにおいて有益であることを、この論文で まとめている証拠は示している。少数の特殊な場合を除いて、抗がん剤や放射線治療中に抗酸化剤を投与しても、これらの治療効果を減弱させないことを、動物実験やヒトの臨床試験は示している。
実際、抗酸化剤を抗がん剤治療中に使用することにより、治療効果を高めるだけでなく、副作用を弱めることを示す研究結果が多く存在する。

イントロダクション:

食品や薬などとして外から摂取される抗酸化物質は、物質を酸化するフリーラジカルを除去することによって、細胞の酸化障害を予防する。
しかしながら、がん治療においては、ある種の抗がん剤はフリーラジカルを発生して細胞のダメージによってがん細胞の壊死(ネクローシス)を引き起こすので、抗酸化物質を抗がん剤治療中に使用することは、抗がん剤の抗腫瘍効果を弱める可能性があるという論理的な懸念が提示されている。この疑問の重要性は、がん患者の23%の人が抗酸化剤を摂取しているという最近の研究結果から明らかである。

がん治療における抗酸化剤の研究は、急速に発展している領域である。抗酸化物質はヒトにおけるがん予防物質として精力的に研究されている。この論文では、がん患者における治療手段の一つとしての抗酸化剤の使用と、放射線や抗がん剤との相互作用について考察する。

この領域においては、多くの研究がなされているが、引き続き研究が必要な課題もある。がん治療における抗酸化剤の使用に関するさらに詳細な考察については、今年の初めに出されたPrasadの論文が参考になる。抗がん剤治療中に抗酸化剤を使用すると副作用を予防できることが、多くの論文で報告されている。これらのデータに関してはWeijlらによってまとめられている。

がん治療における抗酸化剤使用の見解の相違:

フリーラジカルによってがん細胞を殺すような抗がん剤を使って治療を行っている時は抗酸化作用をもったサプリメントを使ってはいけない、という見解を示している論文が最近発表されている。その論文は、抗酸化剤と抗がん剤の併用に関してはもっと研究が必要であることを指摘し、抗がん剤とある特定の抗酸化剤の相互作用についてさらに研究が必要であることを喚起している。しかしながら、がん治療における抗酸化剤の補助治療としての可能性について科学的な結論は出していない。

本論文において著者は、抗酸化剤使用が問題ないと言っているのではないが、むしろ、今まで報告された研究結果は、抗がん剤や放射線治療において、多くの抗酸化剤の注意深い適切な使用は有用であることを示しているのである。

抗酸化剤はアルキル化剤の酸化作用を妨げる可能性が示唆されている。アルキル化剤はDNAを障害し、がん細胞を壊死に陥らせて殺す。しかしながら、最近の研究によると、多くの抗がん剤はアポトーシス(プログラム細胞死)を引き起こすことによって抗腫瘍効果を発揮することを示唆している。抗酸化剤はこのアポトーシスによる機序を促進することが報告されている。このことから、抗酸化剤が多くの抗がん剤の効果を阻害するという多くの意見(議論)は、あまりに短絡的であり、おそらく間違っている

多くの動物実験が、抗がん剤と抗酸化剤を併用すると、動物に植え付けたがんの増殖が抑えられて、延命効果があることを報告している。

ヒトの小細胞は肺がんの臨床研究において、サイクロフォスファミドとアドリアマイシンとビンクリスチンの3種の抗がん剤に、放射線照射と抗酸化剤やビタミン剤や微量元素や脂肪酸などを併用した場合の効果について報告がある。その結論は、「抗がん剤や放射線治療に、抗酸化剤を併用すると、患者の生存率を高める」というものであった。

2つの臨床試験で、メラトニンと抗がん剤を併用すると、抗がん剤単独より抗腫瘍効果が高まることが明かとなっている。このような有益な結果を生み出す処置は、抗がん剤治療中は抗酸化剤は使用しないという意見に反論している。これらの研究についての詳細は後述する。

抗酸化剤と抗がん剤の相互作用は、推測される作用メカニズムにのみ基づいて予測できない、というのが本論文の著者らの意見である。抗酸化剤と抗がん剤や放射線との間に存在する有益な相互作用の利点を患者に役立てるために、医師は研究結果に注意を払うべきである。さらに、抗がん剤治療の後に抗酸化剤を使用することが有益であることを示す多くの証拠があることに医師は知るべきである。

がんの通常療法の一般的なプロトコールでは、治療終了後に十分な観察と再検討により戦略を立てる時期がある。この時期は、補助的(追加的)な治療が極めて必要であり、それによって治療の成功率が高まるのである。

抗がん剤のまとめ:

抗がん剤は次のような幾つかのカテゴリーに分類される。

アルキル化剤(cyclophosphamide,ifosfamideなど)、核酸に影響する抗生物質(doxorubicin, bleomycinなど)、白金複合体(cisplatinなど)、細胞分裂阻害剤(vincristineなど)、代謝阻害剤( 5-fluorouracilなど)、カンプトテシン誘導体(topotecanなど)、生体反応調整剤( interferonなど)、ホルモン療法剤( tamoxifenなど)。

フリーラジカルを発生して細胞障害作用を示す抗がん剤として知られているのは、アルキル化剤、抗腫瘍性抗生物質、白金複合体である。これらのカテゴリーの抗がん剤は、抗がん活性を減弱するかもしれない抗酸化物質との相互作用に関する見解を明らかにしなければならない。酸化作用によるメカニズムが関与していない抗がん剤(5-フルオロウラシルやタモキシフェン)と抗酸化剤との有害作用の可能性も指摘されている。

抗がん剤には、DNAを障害してがん細胞に壊死を引き起こすという作用機序の他に、アポトーシスを引き起こす機序もある。がん細胞に壊死を引き起こさない少ない量の抗がん剤でも、がん細胞にアポトーシスを引き起こすことができる。アポトーシスを起こしにくくするような遺伝子変異が起こると、そのがん細胞は抗がん剤に抵抗性になる。少なくとも一つの抗酸化物質(ケルセチン)は、そのようなアポトーシス抵抗性を克服することが示されている。

放射線療法は、照射する放射線によるフリーラジカル発生によって細胞を殺す。これには2つのメカニズムが関与している。ひとつは、アポトーシスの機序によって、照射後数時間以内に細胞死を引き起こす。第2の機序は、放射線によって細胞分裂を障害して細胞の増殖を阻害し、がん細胞を殺す。現在の知見によれば、放射線の最大のターゲットは細胞DNAと考えられている。しかしながら、放射線が細胞膜の脂質の過酸化によってアポトーシスのシグナルを発生させることが示されている。これは、「DNA障害が細胞死に必要」という仮説に代わるメカニズムとして示唆されている。

ビタミンAとカロテノイドのまとめ:

レチノイン酸は前骨髄球性白血病の治療に有効。
ビタミンAとベータカロテンは動物実験およびヒトでの研究で放射線の治療効果を高める。
ビタミンAとベータカロテンはサイクロフォスファミドの治療効果を高める。
ビタミンAが抗がん剤治療の効果を高めることを示すヒトでの臨床試験の結果が報告されている。
ビタミンAはメトトレキセートやシスプラチンやエトポシドの作用を阻害しない。
動物実験などで、ビタミンAが抗がん剤の治療効果を弱めるという証拠はない。
ベータカロテンは、ドキソルビシンやエトポシドの治療効果効果を弱めないことが動物実験で証明されている。
ある一種類のがん細胞の研究で、ベータカロテンが5ーフルオロウラシルの効果を減弱させることが報告されている。

ビタミンCのまとめ:

ヒトとマウスの研究で、ビタミンCは放射線治療の効果を高める。
ビタミンCは、生体内(in vivo)の研究で、サイクロフォスファミド、ビンブラスチン、ドキソルビシン、5ーフルオロウラシル、プロカルバジン、アスパラギナーゼの効果を高める。
上記のビタミンCの効果はビタミンKの併用によって増強できる可能性がある。
試験管内(in vitro)の研究で、ビタミンCはシスプラチンとパクリタキセルの効果を増強する。
生体内(in vivo)の研究で、ビタミンCが抗がん剤治療の効果を弱めることを示す証拠はない。
ビタミンCはドキソルビシンに抵抗性の乳がん細胞に対してドキソルビシン抵抗性を増強する可能性がある。

ビタミンEのまとめ:

がん細胞株を用いた実験において、ビタミンEはがん細胞にアポトーシスを誘導した。
末期がんにおいて、ビタミンEとオメガー3脂肪酸の併用は生存期間を延長した。
マウスにビタミンEを500mg/kg(ヒトに換算して35000 IU)投与すると放射線治療の効果を増強する。
生体内の研究で、ビタミンEは5ーフルオロウラシル、ドキソルビシン、シスプラチンの活性を増強する。
生体内でビタミンEが抗がん剤の効果を弱めることを示唆する証拠はない。

セレニウムのまとめ:

セレニウムと放射線治療の間の相互作用に関するデータは不十分である。
セレニウムは、マウスの実験でシスプラチンの効果を増強し、ヒトの研究でシスプラチンの毒性を軽減した。
セレニウムが抗がん剤治療の効果を減弱することを示唆する証拠はない。

Coenzyme Q10(コエンザイムQ10)のまとめ:

ヒトで通常使用されるコエンザイムQ10が放射線治療の効果を阻害することはない。
生体内(in vivo)の研究でコエンザイムQ10はドキソルビシンの効果を阻害しない。
コエンザイムQ10は抗がん剤の効果を阻害することを示すin vivo研究はない。

メラトニンのまとめ:

メラトニンはがん細胞のアポトーシスを促進する。
メラトニンはヒトの悪液質の症状を軽減する。
末期がん患者に対して、メラトニン単独で生存期間を延ばす。
ヒトにおいてメラトニンは放射線治療の効果を高める。
タモキシフェン、シスプラチン、エトポシドで治療されている患者において、メラトニンは生存期間を延ばし、腫瘍を縮小させる。
メラトニンが抗がん剤治療の効果を弱めるということを示唆するin vivoの研究結果はない。

N-acetylcysteine(NAC) のまとめ:

ヒトおよび試験管内(in vitro)の研究で、 NACは放射線治療の治療効果を阻害することはない。
生体内(in vivo)において、NACはサイクロフォスファミドの治療効果を阻害しない。
がん治療におけるNACの有用性は限られている。
2つの動物実験のうち1つで、NACがドキソルビシンの効果を弱めることが示されている。しかし、この結果は、ヒトの研究では再現できなかった。
試験管内(in vitro)の研究で、シスプラチンの効果を弱めることが報告されている。

グルタチオン(Glutathione)のまとめ:

グルタチオンは放射線治療を阻害するとは考えられない。
ヒトにおいて、グルタチオンはシスプラチンの毒性を減弱し、抗腫瘍効果を増強する。
グルタチオンと抗がん剤の相互作用についての研究はまだ十分でない。

フラボノイドのまとめ:

in vitroの研究で、幾つかのフラボノイドはがん細胞の放射線感受性を高める。
緑茶、ケルセチン、ゲニステインは抗がん剤抵抗性のがん細胞株を使った研究で、抗がん剤の細胞内濃度を高める。
生体内において、ケルセチンはシスプラチンとブスルファンの抗腫瘍効果を高め、ドキソルビシンやエトポシドの作用を阻害しない。
タモキシフェンの活性は、in vivo研究ではタンジェレチン(tangeretin)によって減弱され、in vitro研究ではゲニステインによって減弱した。

多種類の抗酸化剤の併用のまとめ:

種々の抗酸化剤を組み合わせて用いると、生体内(in vivo)において、相乗的に抗腫瘍効果が高められる。多種類の抗酸化剤を組み合わせて、抗がん剤や放射線と併用すると、生存期間を延ばし、副作用を軽減することが、ヒトで示されている。

このレビュー全体を通しての結論と私見(福田):

抗酸化剤を化学療法や放射線療法を一緒に使用することは、多くの場合有益と考えられる。しかし、現時点では、3つの例外を考慮しておく(正しいかどうかは現時点では未解決)

1)フラボノイドはタモキシフェンの効果を阻害する可能性がある。

フラボノイドは植物の広く存在しているので、野菜や果物に多いことになり、これらの食事由来のものまで制限する必要があるのかは、現時点では不明。乳がんの予防には、フラボノイドもイソフラボンのような植物エストロゲン(フィトエストロゲン)も有用となっているが、エストロゲン依存性の乳がんの治療後には、イソフラボンのようなフィトエストロゲン活性をもったサプリメントは控えたほうがよいかもしれない。抗エストロゲン剤(タモキシフェンなど)を使用しているときは、フラボノイド製剤は控える方がよいかもしれないが、野菜や果物まで制限するのは意味がないと思う。これらの天然のものには、フラボノイド以外の抗腫瘍活性成分や健康物質があることを忘れてはいけない。(トピックス4,5参照)この件に関しては今後の研究の進み具合で見解が変わる可能性がある。

2)NACはドキソルビシンの作用を阻害する可能性がある。

がん治療においてNACの有益性は低いので、NACを使用する根拠はないと考えてもよいかもしれない)

3)ベータカロテンは5ーフルオロウラシルの効果を減弱する可能性がある。

その機序は現時点で不明であるが、それが明らかになるまでは、5ーフルオロウラシル使用時にはベータカロテンは使用しないほうが無難。

・天然の抗酸化物質が、生体内で通常のがん治療を妨げる可能性を示唆する証拠はない。

・抗酸化剤の投与は、それが化学療法や放射線療法との併用の有無に拘わらず多くの有益な効果を示す。

・抗酸化剤のサプリメントを摂取している人は、そうでない人に比べて、通常治療によく耐え、体重減少が少なく、生活の質が良くなり、そしてもっとも重要な点は、延命していることである。

抗酸化剤が抗がん剤のフリーラジカル作用を減弱させるから、抗腫瘍効果を妨げるかもしれない、という考えは短絡的すぎるかもしれない。放射線や抗がん剤によってDNAが少し傷付くだけでがん細胞はアポトーシスを起こし、抗酸化剤がアポトーシスの過程を促進することが報告されている。がん細胞は抗酸化酵素のカタラーゼが少ないので、細胞内に過酸化水素が蓄積しやすいなどの正常細胞との違いもあり、また抗酸化剤は状況によっては酸化剤となって細胞を攻撃することもある。抗酸化剤には単独でもある程度の抗腫瘍効果があることから、単なるラジカル消去剤としての捉え方でなく、抗腫瘍薬としての捉え方も必要かもしれない。いずれにしろ、まだ十分に明らかになっていない点もあるので、今後の研究成果を追っておく必要がありそうです。