本来、漢方薬は「証」にしたがって用いるべきであり、病名によって使用される一般薬(西洋薬)との併用は望ましいものではないという意見もあります。しかし実際には、一般薬の限界や欠点を補うという観点からの漢方薬の有用性も指摘されており、両者の併用は今後増えることはあっても減ることはないと考えられます。
ステロイドホルモンの副作用を予防する柴胡剤(柴苓湯など)や抗癌剤の副作用を軽減する補剤(十全大補湯など)のように、一般薬と漢方薬の併用により治療効果が高まる組み合わせも知られています。しかし一方、両薬剤の相互作用によって、治療効果や副作用に悪影響が出る組み合わせもあります。
漢方薬は多数の成分を含むため、一般薬との相互作用を予測することが困難な場合が多いのが実情です。しかし、相互作用が問題になる生薬は限られているので、その生薬成分の薬理作用に基づいて予測される薬の相互作用に注意を払うことで現実的な対応ができます。漢方薬と一般薬を安全かつ効果的に併用するためには、漢方薬を構成する生薬に目を向け、以下に記載していることを理解しておく必要があります。
1。マオウ(麻黄)配合製剤:
マオウにはエフェドリン、メチルエフェドリン、プソイドエフェドリンが含まれており、これらは交感神経刺激作用、中枢神経興奮作用、代謝促進作用などがあります。
(1)エフェドリン類含有製剤、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤、甲状腺剤(チロキシン、リオチロニンなど)、カテコールアミン製剤(エピネフリン、イソプレナリン等)、キサンチン系製剤(テオフィリン、ジプロフィリン等)との併用で交感神経刺激作用が増強され、不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮などが現れやすくなります。
(2)ジギタリス強心配糖体との併用でジギタリス中毒を増強(心室性不整脈の危険)します。中枢神経興奮薬との併用で神経過敏や易刺激性が増強される可能性があります。
(3)逆に、α遮断薬やβ遮断薬と併用すれば、相互に作用は減弱します。硝酸薬の抗狭心症作用を減弱します。
(4)副腎皮質ホルモンの代謝が促進されて、副腎皮質ホルモンの作用を減弱する可能性があります。
(5)尿をアルカリ化する薬剤(制酸薬や炭酸脱水素酵素阻害薬など)はエフェドリンの尿細管排泄を減少するのでエフェドリンの作用が増強する場合があります。
2。カンゾウ(甘草)配合製剤:
カンゾウの主成分のグリチルリチン、グリチルレチン酸は副腎皮質ホルモン様作用により電解質代謝に影響し、偽アルドステロン症(高血圧、低カリウム血症、浮腫)やミオパシーを起こすことが知られています。
(1)ループ系利尿剤(フロセミド、エタクリン酸)やチアジド系利尿薬との併用で血清カリウム値の低下が現れやすくなり、その結果としてミオパシーが現れやすくなります。
(2)副腎皮質ホルモンの代謝を抑制し、電解質代謝作用(水・Na蓄積、K排泄)を増強するので、副腎皮質ホルモン剤との併用は偽アルドステロン症を起こしやすくする可能性があります。しかし、この相互作用はカンゾウにより副腎皮質ホルモン剤を減量させることができる根拠にもなっています。
3。サイコ(柴胡)配合製剤:
インターフェロン製剤と小柴胡湯をウイルス性肝炎患者へ投与すると、副作用として間質性肺炎を生じることが報告されています。それぞれ単独でも間質性肺炎を生じることがありますが、併用によりさらに副作用が発現しやすくなる可能性があります。現在、小柴胡湯とインターフェロン製剤(α、β)の併用は禁忌になっている。
小柴胡湯以外のサイコ配合製剤では禁忌の指定はありませんが、インターフェロンとサイコ配合製剤を併用する場合には、間質性肺炎の発生の可能性に注意しておく必要があります。
4。ダイオウ(大黄)配合製剤:
ダイオウの瀉下作用は、ダイオウに含まれるセンノサイドが腸内細菌によって分解されて生じるレインアンスロンが腸管を刺激し蠕動運動を亢進させることによって起こります。この際、腸管粘膜のプロスタグランジン産生亢進が関連しています。
(1)腸内細菌を減少させる抗生物質の使用によってダイオウの瀉下作用が減弱する可能性があります。
(2)プロスタグランジンを合成するシクロオキシゲナーゼを阻害する作用のある非ステロイド性抗炎症剤(アスピリン、インドメタシンなど)を常用している場合には、ダイオウの瀉下作用が減弱する可能性があります。
5。タンニンを多く含む生薬:
ケイヒ(桂皮)、シャクヤク(芍薬)、ダイオウ(大黄)、ボタンピ(牡丹皮)などタンニンを含む生薬は多くあります。タンニンは鉄や蛋白質と結合し、鉄剤や酵素製剤の作用を減弱する可能性があります。通常、漢方薬は食間あるいは食前の服用なので、一般薬と同時に服用する事は少ないと思われますが、鉄剤や酵素製剤を服用している場合には漢方薬との同時服用を避ける方が無難です。
6。カルシウムを多く含む生薬:
セッコウ(石膏)、リュウコツ(竜骨)、ボレイ(牡蠣)はカルシウムを多く含みます。
(1)テトラサイクリン系抗生物質、ニューキノロン系抗菌薬とカルシウムがキレートを形成して吸収が低下する可能性があるので、服用の間隔をあけるようにします。
(2)カルシウムはジギタリス強心配糖体の心筋収縮力を増強する場合があります。
7。コウイ(膠飴)配合製剤:
大建中湯や小建中湯に含まれるコウイはマルトースやデキストリンなどの二糖類を多く含んでいます。食後過血糖改善薬として使用されるαーグルコシダーゼ阻害薬のアカルボースと併用すると、未消化の糖質が腸内細菌によって分解され、炭酸ガスや水素ガスを発生して、腹部膨満感や放屁や腸閉塞症状が増悪する可能性があります。
8.その他:
(1)胃内のpHを高める薬(H2ブロッカーや制酸剤など):
胃内のpHが上昇すると、ブシやマオウの有効成分であるアルカロイドの吸収が高まるという報告があります。したがって、H2ブロッカーや制酸剤を服用している時には、ブシやマオウの副作用が出やすくなる可能性があります。
(2)薬物代謝酵素へ影響する生薬:
漢方薬の生薬の中には、薬物代謝酵素を阻害したり誘導することによって一般薬の薬物動態に影響する可能性がありますが、具体的な相互作用として報告されているものはありません。
近年、グレープフルーツジュースの成分であるナリンギンがチトクロームP4503A4(CYP3A4)の薬物代謝を阻害するため多くの薬剤の薬物動態に影響することが明らかとなっています。ミカン科の生薬である枳実(キジツ)、呉茱萸(ゴシュユ)、陳皮(チンピ)などが多くの漢方方剤に含まれていますが、これらの生薬にはナリンギンはほとんど含まれていないので、グレープフルーツジュースにみられる薬物動態への影響は、漢方薬に含まれるミカン科の生薬の場合は問題ないと言われています。
一方、セント・ジョーンズ・ワート(セイヨウオトギリソウ)はCYP3A4やCYP1A2を誘導することによって、これらの薬物代謝酵素で代謝される薬剤(シクロスポリン、ジゴキシン、ワルファリン、など)の作用を減弱させることが明らかになっています。漢方薬と併用中に一般薬の効果が通常よりも低い場合や効き過ぎる場合は、漢方薬の薬物代謝酵素への影響も念頭に入れておく必要があります。
参考文献:
1)福岡県薬剤師会薬事情報センターhome
page:漢方薬と西洋薬の相互作用
https://www.jp-info.com/fukuyakuqa/qa01/qa01_26_t01.htm
2)原敬二郎:服薬説明に必要な漢方薬の基礎知識、薬局、51:
2511-2516, 2000
3)漢方に強くなる服薬指導;漢方調剤研究6(4)別冊
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