漢方薬とは何か

ドクダミ茶やアガリクスは漢方薬ではない

「漢方薬を飲んでいます」という人の中には、それがハトムギ茶であったり、ドクダミ茶であることがよくあります。アガリクスなどのキノコやハーブを使った健康食品を漢方薬と思っている人もいます。しかし、これらは「民間薬」あるいは「健康食品」であり、漢方薬ではありません。
民間薬は、下痢止めにゲンノショウコ、便秘にアロエやセンナというように、症状に合わせて飲んだり、健康増進や病気予防の目的で、お茶がわりに飲むのがほとんどです。民間薬は、薬草1種類のみで用い、服用量なども適当で、山野や道ばたに生えているものを採取しても構いません。
最近ブームになっているハーブも、ヨーロッパなどの生活に古くから根づいている民間薬で、料理や健康増進のために利用されています。朝鮮人参やウコンのような漢方で使用する薬草を製品化した健康食品も、厳密な意味では漢方薬とは言えません。

漢方薬は、病気の種類や症状や体質に合わせて、それに合うように複数の薬草を組み合わせて使うというところに、民間薬や健康食品との大きな違いがあります。つまり、オーダーメイドの薬の処方を行うという点が漢方薬の特徴なのです。

漢方薬に使われる薬草は生薬(しょうやく)と呼ばれ、民間薬と異なり、採取の場所や時期、乾燥の仕方や品質の基準などが厳しく決められています。生薬1種類からなる単味の漢方薬もありますが、ほとんどは数種類から多いときには20種類以上の生薬を調合して作られています。

生薬は天然の薬物

人類は数百万年という長い歴史の中で、身の周りの植物・動物・鉱物などの天然産物から、病気を治してくれる数多くの「薬」を見つけ、その知識を伝承し蓄積してきました。このような自然界から採取された「薬」になるものを、利用しやすく保存や運搬にも便利な形に加工したものを生薬(しょうやく)と言います。高度に加工・精製されたものや、その成分だけを抽出したようなものは、生薬とは言いません。
 
生薬の多くは植物性で、食品として使われているものもあります。例えば、ショウガの根は食品としてもポピュラーですが、漢方ではとくに生姜(しょうきょう)と呼び、胃腸機能を整え、体を温める目的で使用します。ニッケイ類の樹皮の桂皮(けいひ)は、体を温めたり血行を良くする生薬ですが、甘味をひきたてる香りがあるので、お菓子に使われたり、紅茶やコーヒーに入れられたりするシナモンと同じものです。
動物や鉱物由来の漢方薬もあります。牛やろばの皮から作ったニカワは、ゼラチンが主成分ですが、漢方では阿膠(あきょう)といい、止血や造血の目的として使用します。貝のカキの貝殻は牡蠣(ぼれい)、大形の動物の骨の化石を竜骨(りゅうこつ)といいます。この2つはカルシウムが主成分で、鎮静効果のあることで知られています。石膏は熱を発散させて解熱させる作用があります。
 
加工の基本は乾燥であり、乾燥によりカビや虫害や腐敗を防ぐことができます。刻み・粉砕などによって、煎じるときに成分が抽出しやすくするような加工も行われます。蒸したり加熱する調製法は、成分の変化を起こして、薬効を変化させたり副作用を軽減する効果もあります。
 
それぞれの生薬には、臨床経験に基づいた効果(薬能)がまとめられています。例えば、桂皮(けいひ)は血液循環を良くして体を温め、寒気を取る効能があります。高麗人参には、消化吸収機能を高めて気力や体力を増す効能が、昔から知られていました。これらの薬能は、人に使った経験からまとめられたものですが、現代における科学的研究によって活性成分や薬理作用も解明されつつあります。

漢方では、複数の天然薬を組み合わせることによって、薬効を高める方法を求めてきました。体質や病気の状態に合わせて複数の生薬が組み合わせて処方されます。これによって複雑な病態や症状に対処でき、また効果をより高め、かつ副作用をより少なくすることができるのです。このように、治療のために複数の生薬を配合したものを漢方薬あるいは漢方方剤といいます。

例えば、滋養強壮薬(補剤)の代表である四君子湯(しくんしとう)人参(にんじん)・白朮(びゃくじゅつ)・茯苓(ぶくりょう)・甘草(かんぞう)・大棗(たいそう)・生姜(しょうきょう)の6つの生薬からなります。
人参・白朮・茯苓・甘草の4つの生薬には、消化吸収機能を高め気の産生を増す作用、免疫力を増す作用があります。甘草は甘味料として食品にも使われており、味を整えたり複数の生薬全体を調和させる作用もあります。大棗・生姜も消化器系の働きを調整する効果を持っています。
人参・甘草は体内の水分を保持する作用があり、一方、白朮・茯苓は体内の水分を排出する作用(利水作用)があります。生姜は体を乾燥させる傾向(燥性)を持ち、大棗は逆に潤いを持たせます(潤性)。人参を使い過ぎると体がむくんだり血圧が上昇したりしますが、四君子湯のように「利水」の作用を持つ生薬と組み合わせて用いることにより、人参の副作用を回避することができます。
すなわち、体力や免疫力や消化管機能を高める目的で、薬用人参や茯苓などを使うときには、それぞれ単独で用いるより組み合わせて用いるほうが、副作用もなく効果を高めることができるのです。

図:四君子湯(人参・白朮・茯苓・甘草・大棗・生姜)は気力の低下と胃腸のアトニー症状(緊張低下)を改善する効果がある漢方薬です。副作用を抑えながら、その効果を最大に高めるために6つの生薬の組み合わせが長い歴史の中で見い出されました。

漢方薬は抗がん力を高める成分の宝庫

がん治療に使用する漢方薬は、100種類以上ある生薬から、6~20種類程度の生薬を選んで作製します。生薬の組み合わせは、患者の体質や病状、治療の状況に応じてオーダーメイドに決定します体力や免疫力を高めると同時に、自覚症状を改善し、がん細胞の増殖を抑えることによって、生活の質(QOL)を良くし、延命することを目標にします。抗がん力を高め、がん細胞の増殖を抑える生薬が多数用意されています。

1.胃腸の調子を整えて元気をつける補気・健脾薬
 人参・黄耆・白朮・蒼朮・山薬・甘草・大棗・茯苓など
6.体の水分の分布と代謝を良くする利水薬
 猪苓・沢瀉・防己・黄耆・蒼朮・白朮・茯苓など
2.栄養を改善して抵抗力を高める補血薬
 当帰・芍薬・地黄・何首烏・阿膠・枸杞子・竜眼肉など
7.体を温めて新陳代謝を高める補陽薬
 附子・桂皮・乾姜・杜仲・蛇床子・山椒など
3.体の潤いを増す滋陰薬
 麦門冬・天門冬・山茱萸・五味子・地黄・玄参など
8.生命力を高める補腎薬
 地黄・山薬・山茱萸・莵絲子・枸杞子・杜仲など
4.体の機能の停滞を改善する理気薬
 陳皮・枳実・香附子・木香・蘇葉・薄荷・柴胡など
9.炎症を抑えたり解毒機能を補助する清熱解毒薬
 黄連・黄ごん・黄柏・山梔子・夏枯草・連翹など
5.組織の血液循環を良くする駆お血薬
 桃仁・牡丹皮・芍薬・紅花・牛膝・莪朮・丹参など
10.がん細胞の増殖や転移を抑える抗がん生薬
 半枝蓮・白花蛇舌草・山豆根・蒲公英・霊芝・竜葵など

生薬や薬草は天然の薬です。抗がん力を高める成分の宝庫であり、これらの成分を利用することによって、体力や免疫力を高め、がん細胞の増殖を抑えることができます。

1。滋養強壮薬の宝庫
   高麗人参・黄耆・茯苓・霊芝、など
栄養、体力、免疫力の増強
2。抗酸化物質の宝庫
   フラボノイド・カテキン・リグナン、など
抗酸化力の増強
3。血液浄化、血行改善物質の宝庫
   駆お血薬・清熱解毒薬、など
解毒力・新陳代謝・治癒力の増強、
抗炎症作用
4。抗腫瘍物質の宝庫
   アルカロイド・トリテルペン・フラボノイドなど
がん細胞の増殖・転移の抑制、
がん細胞のアポトーシス誘導

漢方薬の基礎知識(Q&A)

Q1:漢方薬と民間薬はどこが違う?

Q2:生薬(しょうやく)とは何か

Q3:漢方で使う人参は野菜のニンジンと違うのか?人参はがん治療にどのような効果がある?

Q4:漢方薬とは何か。

Q5:「煎じ薬」とはどのようなものですか?

Q6:エキス製剤とは何ですか?

Q7:「煎じ薬」と「漢方エキス製剤」は何が違うのか。

Q8:煎じ薬の方がエキス剤より効く理由は?

Q9:漢方薬の服用時間について

Q10:健康保険が使える漢方薬と、健康保険が使えない漢方薬があるのはなぜですか。

Q11:漢方薬に副作用はあるのですか?

Q12:瞑眩(めんげん)とは何か?

Q13:漢方薬はどのくらいの期間服用するか?

Q14:漢方薬を飲み忘れたときは次の回に倍の量を飲んでもいいですか?

Q15:漢方薬はなぜ多くの医師に無視されているのでしょうか?

Q16:漢方の専門家はどこにいる

Q17:漢方薬と一般薬(西洋薬)の併用について

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◯ がんの漢方治療や補完・代替療法に関するご質問やお問い合わせはメール(info@f-gtc.or.jp)でご連絡下さい。全て院長の福田一典がお答えしています。