第2章:食生活を変えてがん再発を予防する方法:野菜・果物・大豆・魚

 4.アブラナ科野菜(キャベツやブロッコリーなど)は抗酸化力と解毒能を高めて抗がん力を高める

     【概要】
     【アブラナ科野菜とは】
     【肝臓のフェース2酵素群が発がん物質を解毒する】
     【アブラナ科野菜のがん予防効果はイソチオシアン酸塩成分が関与】
     【ブロッコリーの新芽(スプラウト)はがん予防効果が高い】
     【野菜ジュースや青汁の利用も効果的】

【概要】

 アブラナ科野菜(キャベツ、ブロッコリー、ケールなど)の辛味成分であるイソチオシアン酸塩成分には体内の解毒酵素の働きや抗酸化力を高める効果が知られており、アブラナ科野菜をジュースや料理などに使って1日100グラム以上食べることはがん再発の予防に効果があります。

【アブラナ科野菜とは】

 アブラナ(油菜)は菜の花とも呼ばれていて、3ー5月に黄色の十字架状の花が密集して咲く背丈が1ー2mの植物です。種には油が多くふくまれていて植物油の原料として栽培されていましたが、近年、野菜としてスーパーでも売られるようになりました。
 アブラナと同じ仲間(アブラナ科)で野菜として食用されているものに、キャベツ、ブロッコリー、ケール、カリフラワー、芽キャベツ、ダイコン、ハクサイ、カブ、コマツナ、チンゲンサイ、ワサビなどがあります。茎の上部にある葉の基部の葉肉が張り出して耳状になり、茎を抱くのが特徴です。

【肝臓のフェース2酵素群が発がん物質を解毒する】

 薬物や発がん物質などが体内に摂取されると,肝臓などの細胞内にある酵素の働きによって解毒されて体外に排泄されます。このような解毒酵素には大きくフェース1酵素群(phase 1 enzymes)フェース2酵素群(phase 2 enzymes)に分類されています。フェース1酵素は物質を酸化したり加水分解して物質を変換し、フェース2酵素は抱合反応などによって解毒する作用をもっています。このような薬物代謝酵素は多くの場合薬物の作用の消失を導くことから、解毒反応と呼ばれていますが、フェース1酵素群は場合によっては、発がん物質の前駆体を活性化し、発がん性を持たせるように働くこともあります。
 一方、
グルタチオン・S・トランスフェラーゼ(glutathione S-transferases), キノン還元酵素(quinone reductases)、などのフェース2酵素は、DNAの変異を起こす発がん物質を不活化する作用を持っているので、フェース2酵素の量を増やす作用の食品や薬物のがん予防効果が注目されています

【アブラナ科野菜のがん予防効果はイソチオシアン酸塩成分が関与】

 アブラナ科の野菜にはがん予防効果が報告されていますが、その最も大きな理由は、アブラナ科の野菜に多く含まれているイソチオシアン酸塩成分にフェース2酵素の量を増やす作用があるからです。イソチオシアン酸塩はアブラナ科野菜に含まれる辛味成分です。
 ジョンズ・ホプキンス大学のポール・タラレー博士らは、
ブロッコリーに含まれるスルフォラファン(Sulforaphane)というイソチオシアン酸塩成分がフェース2酵素の合成を誘導する効果が強く、がん予防に効果があることを1994年に発見しました。その後も多くの研究でアブラナ科野菜に含まれるイソチオシアン酸塩成分のがん予防効果が確認され、そのメカニズムの研究が行われています。
 フェース2解毒酵素の遺伝子の発現調節領域には、抗酸化反応エレメント(antioxidant response element)という領域があって、Nrf2という転写因子が結合するとフェース2解毒酵素の発現が誘導されます。 イソチオシアネートなどのフェノール性抗酸化剤はmitogen-activated protein kinases (MAPK)を活性化して、転写因子のNrf2が細胞核内に蓄積し、遺伝子の抗酸化反応エレメントへの結合を促進して、抗酸化に働く種々の遺伝子の発現を誘導して酸化ストレスを軽減させる作用があります。さらに、イソチオシアネート類には、がん細胞に対してアポトーシス(プログラム細胞死)を誘導する作用も報告されています。
 アブラナ科野菜はビタミンCやA、食物繊維、カルシウムなども豊富ですので、がん予防にはさらに効果が期待できます。以上のことから、アブラナ科野菜はがん細胞の増殖を抑え、抗がん力を高める作用を持つと言えます(図12)。



 図12:アブラナ科野菜の抗がん作用

【ブロッコリーの新芽(スプラウト)はがん予防効果が高い】

 ジョンズ・ホプキンス大学のタラレー博士らは1997年、ブロッコリーやカリフラワーの新芽(3日目くらい)には、成長したブロッコリーの10- 100倍近いイソチオシアン酸塩成分があることを発見しました。最近の研究では、胃がんの原因になるヘリコバクター・ピロリ菌の増殖を抑える効果がブロッコリー・スプラウトに見つかっています。新芽は英語でスプラウト(sprout)と言います。
 このような研究から、がん予防の食品としてブロッコリー・スプラウトが一躍注目されています。サンドイッチやサラダに入れるとおいしい若芽は、かなり市場に出回るようになりました。ブロッコリー・スプラウトから作ったサプリメントや健康食品も販売されています。

【野菜ジュースや青汁の利用も効果的】

 がん予防作用のあるイソチオシアン酸塩成分は野菜の細胞を壊すことで吸収しやすくなるのでアブラナ科野菜を食べる時にはとにかく良く噛むことが大切です。野菜ジュースとして摂取することは効果があります。また、生の野菜をすりつぶして絞った絞り汁(青汁)を利用するのも効果的です。ケールを材料にした青汁などが販売されています。
 アブラナ科野菜を通常量取っておれば、がん予防に十分な量のイソチオシアン酸を摂取できると言われています。したがって、これらの野菜から十分な量のイソチオシアン酸をとる努力が大切で、イソチアン酸を栄養補助食品として摂る必要はないと思います。

最近、アブラナ科植物に含まれるインドール-3-カルビノールや、これが重合したジインドリルメタンの抗がん作用が注目され、米国ではサプリメントとして販売されています。ジインドリルメタンの抗がん作用についてはこちらで、解説しています。


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