第4章:がん再発予防に効果が期待できる薬草・民間薬・健康食品

 5.ベータグルカンや蛋白多糖を主成分とする健康食品は免疫力を高めて抗がん力を増強する

     【概要】
     【免疫力を高めることはがんの再発予防に有効】
     【免疫力を高めるサプリメント】
     【がん再発予防のための健康食品の利用の仕方と注意点】

【概要】

 きのこに含まれるベータグルカンや蛋白多糖が免疫力を高めるメカニズムについては、第2章の6で説明しています。このような抗腫瘍多糖を抽出したり、吸収を高めるために加工したものががんに効く健康食品としていくつも市販されています。その代表がアガリクス、メシマコブ、AHCC、冬虫夏草などであり、これらを組み合わせたものや他の成分を添加したものもあります。これらについて宣伝した書籍も多く出版されていますが、誇大広告が多いのが特徴です。中には体験談をでっちあげた宣伝もあります。商品の中にはイカサマもありますので、信頼できる商品を選ぶことが大切です。 
 免疫力を高める効果などの健康作用は期待できますが、ネズミの実験で示されているような劇的な効果は人間では期待できません。がんを縮小させるような効果はほとんど期待できないというのが真実です。再発予防効果も100%ではなく、再発率をわずかに下げる(数%)程度です。

【免疫力を高めることはがんの再発予防に有効】

 アガリクスやメシマコブのようなβグルカン製剤を単独で使用してがんを治そうという考えは勧められません。ベータグルカン製剤だけでがん組織が縮小する可能性は極めて低いと言わざるを得ないからです。
 しかし、免疫力を高めることは、抗がん剤や放射線治療の副作用を軽減したり、再発を予防する効果は期待できます。人間で実際に免疫力を高める効果があれば、たとえ腫瘍が小さくならなくても、自覚症状の改善や延命効果は期待できます。
 免疫力が低下すると転移と再発が起こりやすくなります。手術や化学療法や放射線療法は「侵襲的治療」と呼ばれますが、この「侵襲的」というのは「がん細胞を攻撃する」ということと同時に「体に害を及ぼす」という意味も含まれています。がん細胞を取り除く侵襲的治療はがん治療の基本であることは間違いありませんが、このような攻撃的な治療法は、正常組織を障害して、生体の体力や免疫力を低下させる欠点を本質的に持っています。侵襲的治療に伴う全身状態の悪化と免疫力の低下は、体のあちこちに存在しているがん細胞にとって再発・転移の絶好のチャンスとなります(図28)。したがって、免疫力の低下を少しでも食い止められれば、がんの転移や再発を予防する効果が期待できることになります。

図28:がんの3大治療(手術、抗がん剤、放射線)は体の防御力(抗がん力)を低下させて、再発や転移を促進する

 一旦がんを治療したあとに再発や転移を予防することをがんの
第3次予防といいます。最近では、がんが治ったあとに、二つ目のがん、三つ目のがんにかかる人が増えてきました。がんになる人は免疫力の衰えなど他のがんにもなるリスクも高くなっているからです。時にはがんの治療(抗がん剤や放射腺照射)が新たながん(2次がん)をつくり出すこともあります.医学の進歩によってがんを取り除く治療法が進歩してくると、がん治療の宿命である再発や多重がんや2次がんの発生を予防することががん死から免れるキーポイントとなります。ベータグルカンを使ったサプリメントはがん細胞に対する免疫力を高める点では、ある程度の有用性は期待できます。

【免疫力を高めるサプリメント】

アガリクス
 アガリクス茸という名前はマッシュルームの総称でその種類は幾つかありますが、その中でもがんに効くと言われているのは
Agaricus blazei Murill(アガリクス・ブラゼイ・ムリル)の一種類だけで、それを通称アガリクスと呼んでいます。輸入物の中にはAgaricus blazei Murill以外のアガリクス茸も輸入され安く販売されているケースがありますので、原料の産地がわからない加工品はよく調べる必要があります。 ちなみに、スーパーなどで販売されているマッシュルームは学名上はアガリクス・ビスポラス(Agaricus bisporus)といいます。
 抗腫瘍活性の成分としてはベータ(1-3)Dグルカンとベータ(1-6)Dグルカンの一般的な二種類のベータグルカンですが、アガリクスに含まれるベータ(1-6)Dグルカンと蛋白質の複合体に強い免疫力増強作用があるという報告や、その他のベータグルカンなどにも免疫増強作用が報告されています。
 マウスの2箇所(わき腹)にがん細胞を植え付けて、片方の腫瘍内にアガリクスの成分を注射すると、腫瘍の縮小と同時に他方の腫瘍も縮小したという実験結果が報告されています。これはマクロファージやリンパ球の活性化による免疫力の増強が抗腫瘍効果と関連することを意味しています。
 マウスにアガリクスを経口投与すると、脾臓のリンパ球のうちT細胞(ヘルパーT細胞とキラーT細胞)の数の増加が見られたと報告されています。人間でも抗腫瘍免疫(Th1細胞活性)をわずかに上げるというデータの出ているものもありますが、数値的にはわずかの効果です。
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メシマコブ
 メシマコブは、桑の木に自生するタバコウロコタケ科に属するコブ状のキノコで、直径30cmの大きさに成長するまでに20年から30年もの歳月がかかることから幻のキノコとして貴重に扱われてきました。長崎県男女群島の女島(めしま)が有名な産地である事と、その姿がコブ状のキノコの為、メシマコブという名前がついています。
 1968年に国立がんセンター研究所からメシマコブの高い抗がん作用が発表されていますが、栽培が困難なために実用化されないままでした。その後1997年に韓国で初めて製品化に成功し、抗がん作用のある医薬品としても認可され医療の現場で使われています。日本でも製品化に成功し、高品質の物が利用できるようになり一般に知られるようになってきました。
 韓国で 医薬品に認可されたメシマコブはPL2とPL5という菌株から作られた製剤です。これは学名をフェリナス・リンテウスというキノコの菌糸体を培養し、その有効成分を抽出精製した酸性タンパク多糖体の一種です。現在、韓国の多くのの医療機関で抗がん剤として使われていますが、そのブームゆえに類似品やニセモノも出回っています。
 
国立がんセンター研究所のデータはマウスに注射で腹腔内に注入した結果であり、またその投与量は極めて多いので、人間が口から服用して効果があるという保証はありません。アガリクスと同様に、信頼できる臨床試験の結果は得られていません。

AHCC
 AHCCとはActive Hexose Correlated Compoundの頭文字を取った命名で、「活性化多糖類関連化合物」という意味の製品です。数種類のキノコの菌糸を培養タンクで培養し、培養した菌糸の細胞壁に含まれる食物繊維を酵素処理した機能性食品です。 
 ナチュラルキラー細胞活性を高める効果が人でも報告されていて、ラットを使った動物実験では、がん細胞の増殖や転移を抑える効果も報告されています。AHCC の活性成分はベータ1, 4結合したグルコースのオリゴマー(ベータ1,4-Dグルカン)でその一部がエステル化されていることが明らかとっています。
 AHCCが肝臓がん切除後の再発率を低下させ生存率を上昇させるという臨床試験の結果が、関西医科大学のグループから報告されていますが、厳密なランダム化試験では無いので、他の臨床試験の結果が必要です。

冬虫夏草 (とうちゅうかそう)
 ガの幼虫に生えたキノコの一種です。このキノコはバッカクキン科のフユムシタツクサタケ(冬虫夏草菌)と呼ばれる菌類で、とくにコウモリガ科の昆虫の幼虫に寄生します。養分を昆虫などから得て寄生生活をし、とりついた昆虫などの体内で、菌糸の固まりである菌核をかたちづくり、やがて虫の体を突き破って、キノコ(子実体)を生じます。学名をCordyceps sinensisといいます。
 日本では、1993年の世界陸上大会での中国女子中距離選手(いわゆる「馬軍団」)の大活躍がきっかけに話題となり、冬虫夏草の驚くべき効果が広く一般に知られるようになりました。
免疫力を高め、造血作用や血流改善作用によって体力を増強し、疲労回復の促進などの効果が知られており、動物実験などで抗腫瘍効果も多く報告されています
 ラットに冬虫夏草の水エキスを、体重1kgあたり200mg服用させるとクッパ‐細胞(肝臓にいるマクロファージの一種)の貪食能を高めることや、肺がん細胞やメラノーマ細胞を植え付けたマウスの実験でがん細胞の肝臓への転移を抑制することなどの結果が報告されています。

その他、アラビノキシラン、霊芝、カバノアナタケ、チャーガなど多くの製品が販売されています。価格と品質に注意しながら次ぎに解説することを参考にしながら選択して下さい。

【がん再発予防のための健康食品の利用の仕方と注意点】

がんに効くというサプリメントを選ぶとき、次の2点を基準にして下さい。

1.
「がんに効く」とはっきり宣言しているものは買わない
 がんの再発や進展の予防に推奨されている健康食品は、(1)
免疫力を増強する、(2)抗酸化力を高める、(3)血管新生を阻害してがんの発育を抑える、(4)がん細胞にアポトーシス(細胞死)を引き起こす、などの作用メカニズムを根拠にしています。このような効果ががんの再発予防に有効であることは確かですが、このような健康食品が人のがんの予防や治療にどの程度貢献できるかは、現時点でははっきりしたデータは極めて少ないと言わざるを得ません。
 健康食品の場合には、マスコミ戦略的な宣伝で過大評価される傾向になります。動物実験や試験管内(in vitro)での研究でがんに対する有効性が指摘されたものでも、全てが人のがんの予防や治療において有効であるとは限りません。ところが、このような「がんの予防や治療に効果があるかもしれない」という段階の報告も、「はっきり効く」とか「効果が証明された」という話にいつのまにか置き換わって、学問的な十分な根拠が不明なまま健康雑誌を賑わせ、テレビで取り上げられているものが少なくありません。
 
「がんに効く」と表現することは薬事法や健康増進法に違反します。このような宣伝を行っている業者は、儲け主義優先で悪質な業者と考えて間違いありません。このような業者からは購入しないことが賢明です

2.
高価なものが効くとは限らない
 健康食品も賢く活用すればがんの再発予防において有益と考えられていますが、成分や品質が確かなものでなければ効き目は期待できません。がんという患者の弱みに付け込んで、儲けを優先した悪質な業者や全くのインチキ商品もあります。その被害に遭わないためには幾つかの注意点があります。
 まず第一に、
高額であればあるほど警戒しないといけません。健康食品の販売や民間療法に従事している業者の多くは良心的ですが、一部には患者の弱みに付け込んで儲けを企んでいる人がいるのも確かです。薬事法違反や全く効かないインチキ商品を売って捕まった業者は後を絶ちません。問題はそれによって、患者さんが経済的な被害だけでなく、間違った治療で病気を悪化させることもあることです。
 高いものほど効果があると思うのでしょうか、高額なものにも何ら疑いをもたない人が多いようです。本当は、
高額であればあるほど、その効果について疑問をもって厳密に調べる必要があるのです。定価を高く設定し、大幅な値引きをしていたり、商品の数ヶ月分を一度に購入させたり、クレジットやローンをすすめる場合も注意が必要です。
 
他の治療方法を批判したり「これだけで大丈夫」といっているときも警戒するべきです。がん治療や再発の予防においては、有用な方法をうまく組み合わせて効果を高めることが大切です。西洋医学を否定したり、他の治療法や批判して「これだけで大丈夫」と謳っている場合には警戒する必要があります。動物実験のデータや、科学的根拠または理論の説明がない場合も注意が必要です。

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