悪性の脳腫瘍や悪性黒色腫は腫瘍が限局している場合には手術による切除が行われます。範囲が広くて切除できない場合や、再発した場合には抗癌剤治療などが行われます。しかし、悪性度の高い脳腫瘍や悪性黒色腫の場合には、抗癌剤が効きにくく治療に抵抗します。
サリドマイドは血管新生阻害作用を持ち、多発性骨髄腫・カポジ肉腫・腎臓癌など幾つかの癌で治療効果が報告されています。悪性脳腫瘍(膠芽腫や悪性星細胞腫など)や悪性黒色腫にも、サリドマイドがある程度の効果を示すことが報告されています。しかし、サリドマイド単独ではこれらの悪性度の高い腫瘍を抑えることは限界があるようです。幾つかの抗癌剤と併用した治療法が試されていますが、テモダール(Temodar)という内服できる抗癌剤との併用が可能性が高い方法として報告されています。
サリドマイドに関する一般的解説はこちらへ:
Temodar(テモダール)とは:(Temodarの詳細はこちらへ)
Temodar (temozolomide)は悪性星細胞腫(anaplastic
astrocytoma)などの悪性脳腫瘍の治療薬として米国FDA(食品医薬品局)が1999年に認可した抗癌剤です。
Schering-Ploughという米国の製薬会社が開発し、悪性星細胞腫の治療薬としては米国で20年ぶりに新たに認可されました。悪性星細胞腫以外の悪性脳腫瘍や悪性黒色腫にも効果が認められています。
DNA合成を阻害することによって増殖中の癌細胞を殺す「アルキル化剤」という種類の抗癌剤に属します。主な副作用は吐き気、嘔吐、頭痛、倦怠感、便秘などであり、白血球減少や血小板減少という骨髄抑制が投与量を制限する副作用となります。
日本ではまだ未認可であり、個人輸入でしか日本では使用できません。保険が使えないので、全額実費負担になりますが、1ヶ月分が30万円近くなるのが問題です。
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脳腫瘍や悪性黒色腫に対するサリドマイドやテモダールの効果に関する最近の報告の要旨を以下に和訳しています。どの程度の効果が期待できるかの参考になると思います。
Temozolomide as an alternative to irradiation for elderly patients with
newly diagnosed malignant
gliomas.(新たに診断された悪性神経膠腫の高齢患者に対する放射線治療の代替としてのTemozolomide)Cancer 97:2262-2266,
2003 |
要旨:
【背景】悪性神経膠腫の高齢患者(70歳以上)に対する適切な治療法については議論が多い。高齢者は放射線療法に耐えることが困難な場合が多いので、保存的な治療を推奨する医師も存在する。悪性神経膠腫に対して有効な新しいアルキル化剤であるtemozolomideはこのような患者に対して他の治療法の可能性を提示している。この薬は自宅で経口的に投与され、生命に危険を及ぼす副作用も少ない。
【研究の方法】86例の高齢の悪性神経膠腫の患者に対して検討を行った。このうち、32例は放射線治療の代わりに1ヶ月間のtemozolomide治療を受けた。
【結果】放射線治療のグループとtemozolomide治療のグループの間で生存率に違いはなかった。
temozolomide治療の方が毒性は低く、より多くの患者が自宅で死亡した。
【結論】高齢の悪性神経膠腫の患者に対して、temozolomide治療は放射線治療と同じくらいの有効性を示す。経口的に投与できるという点と、副作用による死亡率が低いという点で、temozolomide治療は放射線治療より優れており、放射線治療に代わりうる治療法といえる。
Phase II Trial of Temozolomide in Patients With Progressive Low-Grade
Glioma. (進行性の低悪性度神経膠腫に対するTemozolomide治療のフェースII臨床試験) J Clin Oncol
21(4):646-651, 2003 |
要旨:
【目的】Temozolomide (Temodar; Schering-Plough Corp, Kenilworth, NJ) は
imidazole
tetrazinoneであり、体内でメチル化活性を持つ物質5-(3-methyltriazen-1yl)imidazole-4-carboximideに変換される。今までの研究で、進行性の新たに診断された悪性神経膠腫の治療に対してTemodarの有効性は確認されている。この研究をさらに進めて、進行性のlow-grade
glioma(低悪性度神経膠腫)の患者に対するフェースII臨床試験を行った。
【患者と方法】Temodarは5日間連続で1日1回空腹時に内服した。初回は1日量が200
mg/m2であった。この治療を28日周期でくり返し行った。有効性の評価はMRIによる画像診断と身体所見の検査で行った。
【結果】
low-grade
gliomaの46例の患者について検討した。治療に反応した割合は61%(complete responseは24%、partial
responseは37%)であり、さらに、35%の患者は進行が止まった。
無進行期間(Progression-free survival,
PFS)の中間値は22ヶ月であり、98%は6ヶ月間のPFSであり、76%は12ヶ月のPFSであった。この研究期間に見られた毒性は軽度であり、6例の患者に見られたのみであった。3例はgrade
3 の白血球減少を呈し、2例でgrade 3
の血小板減少がみられた。1例は頭蓋内出血、白血球減少、血小板減少、敗血症を併発して死亡した。
【結論】low-grade
gliomaに対してTemodarは有効と考えられ、したがってこの薬のさらなる評価が必要である。
Temozolomide plus thalidomide in patients with advanced melanoma: results of
a dose-finding trial.(進行したメラノーマに対するtemozolomideとサリドマイドの併用:用量決定のための試験)J Clin
Oncol 2002 Jun 1;20(11):2610-5 |
要旨:
【目的】手術不能のatage III
またはIVの悪性黒色腫患者における、経口の細胞毒性(cytotoxic)薬物であるtemozolomideと細胞静止性(cytostatic)薬剤のサリドマイドの安全性と用量を決定するために検討した。
【患者と方法】
脳転移を認めない手術不能のatage
III またはIVの悪性黒色腫患者において、temozolomideは50 mg/m2/dayの6週間投与と4週間の休薬、75
mg/m2/dayの6週間投与と4、3、2週間の休薬、というスケジュールで用量と投与期間を変えて検討。サリドマイドは1日200
mgから開始して、400 mgまで増量した。安全性と効果を評価した。
【結果】70才以下では、サリドマイドは400
mg/日まで重大な副作用もなく、70才以上でも、200
mg/日では安全に投与可能であった。多い副作用は便秘と神経障害であった。12例中5例に有効であり(1例は完全緩解、4例は部分緩解)、緩解期間は平均6ヶ月であり、平均生存期間は12.3ヶ月であった。
【結論】temozolomideとサリドマイドの併用療法は、安全性に問題は無く、進行したメラノーマにも抗腫瘍効果を示した。
Schering-Plough 研究所は、種々の癌に対するTemodar
(temozolomide)カプセルの効果を検討した臨床試験の結果を発表した。Temodarに関する36の臨床試験結果の概要が、米国臨床癌学会(ASCO)の第37回年次総会で発表された。
『これらの研究はまだ予備試験の段階であるが、Temodarが非常に悪性度の高い癌の幾つかに適用できる可能性があることに、我々は非常に期待している』と、Schering-Plough研究所のJean-Jacques
Garaud医学博士は述べている。『Temodarの効果をさらに検討するために、研究が進行している』
米国のFDA(食品医薬品局)は1999年、Temodarを治療抵抗性の悪性星細胞腫の成人の治療への認可を早めることを承諾した。治療抵抗性の悪性星細胞腫というのは、ニトロソウレアやプロカルバジンで治療した後、癌が再発して進行している患者たちである。Temodarの治療効果は、現時点では患者に使用した場合の反応率(奏功率)にすぎず、再発した悪性星細胞腫におけるランダム化二重盲検試験において、症状改善や延命効果や癌の進展抑制の効果が証明されているわけでは無い。
Temodarはこの種類の脳腫瘍に適用される薬としては、米国では20年ぶりに新たに認可された薬である。Temozolomideは経口の細胞毒性物質で、イミダゾテトラジン系アルキル化剤の第2世代というべき薬剤である。細胞毒性治療というのは、癌細胞のように早い速度で増殖(細胞分裂)している細胞の分裂を妨げるように計画された治療である。
Schering-Plough社は、イギリスのCancer
Research Campaign Technology, Ltd.からtemozolomideの世界中における販売権を得ている。
Temodarを用いた悪性星細胞腫の試験において、投与量を規定する副作用は骨髄抑制(血小板減少)であった。この副作用は通常、治療を開始した最初の数サイクルで起こり、累積性はなく、14日以内に回復することが多い。
骨髄抑制による入院や輸血や治療の中断が生じたのは、temozolomide治療を受けた患者の10%以下であった。
最も多い副作用は吐気(53%)、嘔吐(42%)、頭痛(41%)、倦怠(34%)、便秘(33%)であり、これらの症状が強くでるのは10%以下であった。吐気や嘔吐は通常の制吐剤をtemodar服用前に使用すれば容易にコントロールすることが可能であった。
oligodendroglioma(乏突起細胞腫)、low-grade glioma(低悪性度神経膠腫)、新たに診断されたglioblastoma
multiforme(多形神経膠腫)などの治療におけるtemozolomideの研究結果がASCOで発表された。さらに、新たな投与スケジュール法の結果も報告された。
癌患者の20〜40%において脳への転移が起こる。癌の治療効果が良くなって癌患者の生存期間が延びるに従い、転移性脳腫瘍の頻度も増加している。
『転移性脳腫瘍という困難な病気に立ち向かうためには、既存の治療を改良し、さらに新たな方法を開発して、より多くの選択肢が得られるようにすることが重要である』と国立脳腫瘍研究所のRobert
Tufel博士は述べている。
ASCOで発表された2つの転移性脳腫瘍におけるフェースII研究では、放射線治療と併用した場合の安全性や効果が検討された。現時点では、転移性脳腫瘍に対する治療は放射線照射が最も有効である。転移性脳腫瘍に対する放射線治療の補助としてtemozolomideの有効性を評価する研究も進行中である。
転移性メラノーマは、皮膚癌全体の5%であるのに、皮膚癌関連死亡の75〜85%を占めており、皮膚癌の中でもっとも治療困難で死亡率の高い腫瘍といえる。
ASCOではtemozolomideとサリドマイドの併用療法のフェースI試験の結果が発表された。サリドマイドは生体反応を調整して細胞機能に影響し、転移性メラノーマの治療にも有用である。
インターフェロン、シスプラチン、ビンブラスチン、インターロイキン-2などとtemozolomideを併用したフェースII試験の結果も発表された。
非小細胞性肺癌の多くは再発し、その場合の治療は困難であり結果は悲惨である。進行した再発非小細胞性肺癌の難治例におけるtemozolomideの予備試験の結果も報告された。
急性白血病は、骨髄や脾臓やリンパ節において、白血病細胞が急速に増殖する病気である。治療抵抗性で再発した急性白血病の治療に、強力な化学療法の代替としてtemozolomideが有効である可能性を示す予備試験の結果も報告された。
癌は多くの場合、複数の方法で治療される。違ったメカニズムの薬剤を組み合わせれば、相加効果や相乗効果によって治療効果を高めることができる論理的根拠がある。
CPT-11
(irinotecan), VP-16 (etoposide), topotecan, cisplatin, gemcitabine, vinorelbine,
paclitaxel, thalidomideなどとのtemozolomideの併用が検討され、その結果がASCOで発表された。
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