抗がんサプリメントの正しい使い方


(1)食生活を見直し、足りない部分を補う

 東洋では古来より医食同源といって食べ物と薬に一線を画することなく、疾病を予防し健康増進の目的で食事と薬とを同列に扱う伝統があります。これは、毎日体に取り入れる食べ物こそが体を作り、体を治すということを長い歴史の中で体験しているからです。現代栄養学でも、食品の三次機能(生体調節機能)を明らかにして、食生活の中から病気を予防することの大切さを認識してきました。
 健康食品やサプリメントというのは、そのような食品の健康作用を利用したものなのですが、サプリメントの利用者の中には、サプリメントに頼りきって日頃の食生活を疎かにしている人も多いようです。しかし、いくら健康食品やサプリメントを摂取しても、日頃の食生活が間違っていれば、効果は少なくなります。特にがんの予防や治療に利用する目的であれば、まず食生活を見直し、それでも足りない部分をサプリメントで補うという態度が必要です。例えば、がん予防の目的にドコサヘキサエン酸(DHA)をサプリメントで補充しても、肉や動物性脂肪の多い食事ばかりしていては、ほとんど効果は期待できません。
 米国がん研究財団からは、食生活とがん予防に関する多数の学術論文を分析した結果をまとめたリポートが発表されています。それによると、がん予防における食生活の指標として以下のようなコンセンサスがまとめられています。
1)野菜や果物、豆類、など植物性食品が豊富な食事をする。でんぷん質の主食食品はなるべく精製度を抑えたものを摂取(胚芽米や玄米、全粒粉のパンなど)し、精製した砂糖の使用は抑える。
2)四季を通じ野菜・果物を豊富に摂取し、総エネルギーの7%以上を多種類の野菜・果物類から摂取する。
3)脂肪の取りすぎに注意する:動物性脂肪を控え、植物油を使用して総エネルギーの15〜30%の範囲に抑える。
4)赤身の肉は控えめにする:牛肉、羊肉、豚肉などの赤身の肉を1日80g以下に抑える(総エネルギーの10%以下までとする)。できれば赤身の肉の代わりに魚類などを多く取る。
5)食塩や塩蔵物の取りすぎに注意する:塩分は1日6g以下。調理に香辛料やハーブを使用し、減塩の工夫をする。
6)食品添加物や残留農薬に注意する。
7)食品の保存に注意し、かびの生えたものを食べない。
8)黒焦げの食物は避け、直火焼きの魚や肉、塩干(塩蔵処理した干物)、薫製品は取りすぎない。
9)アルコールの摂取は控えめにする。

1と2は、抗酸化能やラジカル消去活性を有する物質や食物繊維を積極的に取ることによって、発がん抑制因子を増やす食事であり、3から9は発がんを促進する発がん因子の摂取を減らす努力です。このような食生活を実践することが大切であり、サプリメントはその補助という考え方を基本にするべきです。

(2)通常治療を補うことを主な目標とする

 通常治療(標準的治療)の効果を高め、副作用を軽減する方法があれば、それはがんの治癒率を高めることができます。西洋医学が完全ではない以上、西洋医学で足りない部分を、何か別の手段(伝統医学やサプリメントなど)で補ってみたら、ということはだれでも考え付く発想です。
 がんの通常療法も代替療法も目的は同じで、がんを治療し治癒させることです。しかし、両者のアプローチは異なります。通常治療が抗がん剤や放射線のように毒性のある手段でがん細胞を殺すことを目標にするのに対して、代替医療は一般的には、食欲不振や倦怠感や胃腸障害などの自覚症状の改善や、栄養や体力や抵抗力を高めて体に備わった抗がん力を増強することを目標にしています
 抗がんサプリメントには、1)体力や免疫力を高める、2)抗がん剤や放射線治療の副作用を軽減する、3)がんの進展や転移を抑える、4)血管新生を阻害する、5)二次がんを防ぐ、6)がん細胞のアポトーシスを誘導する、など様々な作用が宣伝され主張されています。これらの多くの宣伝には根拠のないものが多いのは事実です。しかし、通常治療の副作用を軽減する効果や、延命やQOL(生活の質)の改善に有効性が認められたものもあります。それらを適切に利用すれば良い結果が得られるはずです。
 手術や抗がん剤や放射線治療は正常な組織や臓器にもダメージを及ぼし、その結果、体力や抵抗力の低下、感染症などの合併症の原因になります。副作用が強いと治療を中止せざるを得ません。また体力や免疫力が低下すれば転移や再発を促進することにもなります。
 体力や免疫力を高め、ダメージを受けた組織の回復を促進するサプリメントなどを利用すれば、副作用を軽減し、転移や再発の予防につながります。抗がんサプリメントは、それだけでがんを縮小させる効果を期待するのではなく、通常治療の欠点を補うことを目標にすることが大切です


図:抗がんサプリメントは、がんの通常治療の欠点を補うことによって、抗腫瘍効果を増強し、転移や再発を予防することを第一の目標にする。

【メモ:がんの侵襲的治療とがん死因との関係】

 がん患者の死亡原因のうち、がんそのものの要因ではなく抗がん剤や放射線や手術などの治療の副作用が関連しているものがかなり占めています。放射線や抗がん剤はがん細胞を抑制・殺傷しますが、同時に正常な細胞までをも障害します。その結果、体力や免疫力などの生体防御力が低下し、感染症などに対する抵抗力が低下します。大きな手術では、術後の感染症などの合併症や、栄養障害などが問題になります。
 抗がん剤の多くは骨髄にダメージを与え、病原菌と戦う白血球などの細胞を作る働きを低下させるため、感染症に罹りやすくなります。そのため化学療法(抗がん剤治療)を受けている間は頻回に白血球の数が測定され、数が少なくなりすぎた場合には、次の治療が延期されるか、薬剤の投与量が減らされます。その他にも消化管の粘膜を障害して下痢をおこしたり、食欲を低下させます。肝臓や腎臓の機能を障害することもあります。そのような副作用を治療する薬も開発されて使われていますが、体力や抵抗力の低下を防止するという点ではまだ十分ではありません。
 がん治療において栄養価の高い食事は有用です。栄養状態が良ければ、感染症と戦う抵抗力を高めることも、回復を促進することもできます。さらに抗がん剤治療や放射線治療に耐え、副作用を軽減することもできます。食欲低下などで食事からだけでは十分な栄養がとれない場合には、栄養補助を目的としたサプリメントは有効ですがん性悪液質による体重減少を防ぐだけでも延命効果はあります。免疫力や抗酸化力を高めるサプリメントも、体の抵抗力や抵抗力を高めることによって再発予防や延命に有効です。
 老化やがんの治療に伴って低下する生体防御力を高めることができれば、延命につながります(図)。栄養状態を良くし、体力や免疫力を高めて体の防御力を高めることを目標に、適切な抗がんサプリメントを利用することが大切です。


図:生体防御力は20歳前後をピークにして老化とともに低下していく。がんの侵襲的治療や感染症や栄養不全で生体防御力はさらに低下する。生体防御力があるレベルまで低下すれば死に至る。治療によって生体防御力を高めることは延命につながる。

(3)攻撃的ながん治療に耐える体の土台を作る。

 外科手術や化学療法、放射線療法などは適応がある場合は積極的に行なうべきです。これらの攻撃的な治療によって生じる体力や抵抗力の減弱を防止し、合併症の発症を回避し、体力回復をはかる目的に漢方治療やサプリメントは有用といえます。
 免疫力低下の防止や回復促進に有効なサプリメントは、侵襲的治療の結果引き起こされる種々の副作用を防止あるいは軽減することができます。感染に対する抵抗力を高めて日和見感染を予防することもできます。栄養状態や免疫力が高いと抗がん剤はよく効き目を現します。体全体の治癒力を高めることはがん治療に耐える体を作り、治療効果を高めることになります。
 がん治療の結果は、「がんの強さ」と「がんに対する抵抗力(抗がん力)」のバランスによって決定します。したがって、がん細胞を取り除く攻撃的な治療(手術、抗がん剤、放射線)だけでは片手落ちであって、「治療に耐えられる体力づくり」と、「抗がん力を高める」ための治療(漢方治療、健康食品、代替医療など)を十分に活用することが大切です(図)。


図:がんの統合医療。
がんを攻撃する治療と体の抗がん力を高める治療を併用することががんを克服するポイントとなる。


 さて、このような攻撃的ながん治療に耐える体を作るには、その土台からしっかりしたものにしなければなりません。土台がしっかりしていないと、いくら免疫細胞を刺激するサプリメントを摂取しても効果は現れません。
 土台を作るためには、タンパク質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルといった栄養素の不足が無いようにすることが基本です。これらは日頃の食事から摂取されますが、食事の量が減っているとか、治療によって消耗が激しいときには、サプリメントで積極的に補うことが大切です。
 また、血液循環を良くし、組織の新陳代謝を良くすることは回復力や治癒力を高めます。この目的には適切な漢方治療やハーブ類に効果の高いものが多くあります。
 腸内の善玉菌を増やして、腸内環境を良くすることは解毒力や治癒力を高める上で重要です。腸内の乳酸菌を増やすプロバイオティクス(probiotics)は、抗生物質投与によって引き起こされる下痢を予防し治療します。
 抗がんサプリメントの利用においては、がん細胞を攻撃するものだけでなく、通常医療による攻撃的ながん治療に耐えられる体を作るのに役に立つものも大切です。

(4)作用の異なるものを組み合わせる

 一つの抗がんサプリメントで、がんを予防したり、がんを縮小できるものはありません。野菜や果物を多く摂取する食事はがんの予防に有効ですが、ニンジンのベータカロテンとか、トマトのリコピンのように一つの成分を使っても、がんを予防する効果は得られません。むしろ、ベータカロテンのように一つの成分を多く摂取するとがんの発生を促進することもあります(こちらを参照)。がんの予防や治療において、「魔法の弾丸」はまだ存在しません。
 免疫を高めることは、多くの場合がんの予防や治療に有効です。そこで、免疫力を高めると言われているものを片っ端から摂取している人もいます。しかし、アガリクスやメシマコブやチャーガやレイシなどと、ほとんど同じような効き目の商品を多数摂取しても、そのうちの1種類を摂取したときとあまり効果は変わらないはずです。 
 10種類以上のキノコのエキスを組み合わせた商品もありますが、「どれかが効くだろう」というアイデアにすぎません。このようなキノコの成分は、免疫細胞を刺激して免疫力を活性化する作用はあるかもしれませんが、いくら免疫細胞にムチを打っても、栄養状態や血液循環が悪ければ、効果は全く期待できません。免疫細胞を刺激しても、細胞が増えるのに必要なビタミンやミネラルやタンパク質などの栄養素の一つでも不足すれば、リンパ球は増えることができないからです。免疫力を高めるためには、まず消化吸収機能を高めて栄養状態を良好にし、全身の血液循環を良い状態に保持し、組織の新陳代謝や諸臓器の機能を高めるなど、体全体の機能がバランスよく良好な状態にあることが必要です。
 がん細胞にアポトーシスという細胞死を引き起こすという抗がんサプリメントや、血管新生を阻害してがんの増殖を抑える作用を主張した抗がんサプリメントなどがあります。それらが本当に人体内でそのような効果があるのであれば、がんを縮小させることも可能かもしれません。しかし、実際は、それほど大きな効果は期待できません。薬草の成分の中には、細胞の増殖や転移を抑える成分が見つかっていますので、多少の効果は期待できるかもしれませんが、1種類だけでがんの増殖を完全に抑えることができるものはありません。
 体力や抵抗力や治癒力を高めるためには、栄養状態や血液循環や腸内環境を良くし、免疫力と抗酸化力を高めるサプリメントを組み合わせます。血液循環や新陳代謝が良くなれば肝臓や腎臓での解毒機能も高まります。
 がん細胞の増殖を抑える作用のあるものは、動物や人体での効果が証明されているものをいくつか組み合わせると相乗効果が期待できるかもしれません。
 抗がんサプリメントをがんの予防や治療に利用するときには、違った作用機序のものを組み合わせて、積み重ねによる相乗効果を期待することが大切です。病気の状況や体調や治療の状況に合わせて、より適切な組合せを考えることも大切です。

(5)手術を受けるときの注意

 手術侵襲が強ければ、体力の消耗もはげしく、栄養の需要も高まります。手術後には、ダメージを受けた組織を修復するために新しい細胞や組織を作る必要があり、傷を治すためには、さらに余分の栄養素が必要になります。
 新しい細胞や組織を作ったり、病原菌に対抗して感染症を防いだり、治癒システムを十分に働かせるためには、栄養素が不足しないことが必要条件になります。必要な栄養素が不足すると、手術後の回復が遅れ、様々な合併症の原因となります。
 したがって、手術からの回復力を高めるためには、高品質の栄養素の補充は有効です。手術後の回復力を高めるためには、蛋白質、ビタミンA,ビタミンC,マグネシウム、銅、鉄、亜鉛が特に必要です。手術前に、これらの栄養素が不足していないように準備しておくことが大切です。不足がなく、予備能力を高めることが手術を成功に導くポイントになります。
 このような栄養摂取は、日頃の食事が基本になります。どの程度サプリメントによってサポートするべきかは、手術の程度によります。簡単な小さな手術であれば、サプリメントは不要ですが、大きな手術の場合はサプリメントでの栄養補充も有効です。
 漢方治療では、術後全身状態の速やかな回復をはかる目的で、術前の漢方治療の有用性が報告されています。薬用人参と黄耆を含む参耆剤(十全大補湯・人参養栄湯・補中益気湯など)は手術の適応能力を高める基本方剤と考えられています。
 漢方薬のように十数種類の生薬を組み合わせる場合には、お互いの生薬の相殺作用によって薬物代謝酵素への偏った影響は少ないのですが、ある特定の薬草やハーブを大量に摂取することは危険です。ハーブ類は、麻酔薬などの薬物の代謝速度や血液凝固能に影響して手術のリスクを増すので、手術の1〜2週間前からハーブは禁止すべきという意見もあります。
 薬物代謝や血液凝固に影響する可能性のあるサプリメントで、手術の1週間くらい前から使用を止めておいた方が無難だと言われているものとして次のようなサプリメントがあります。ニンニク(Garlic)、ショウガ(Ginger)、イチョウ( Gingko biloba )、ドコサヘキサエン酸、サメ肝油、セントジョーンズワート(St. John’s Wort)、エキナセア(Echincea)、マオウ(Ephedra)、高麗人参(Ginseng)、バレリアン(Valerian)、カバ(Kava)、ビタミンEなどです。
 これらは、臨床試験や臨床報告に基づくものではなく、理論的な可能性に基づくものです。しかし、手術前にはこのようなサプリメントを止めるのは賢明です。
 ビタミンEのようなものでも手術前後では問題になることがあります。1日200IU以上のビタミンEは出血を起こしやすくする可能性があります。毎日200IU以上を服用している場合には、手術の2週間前から中止するか、1日200IU以下にすることが大切です。
 病気の状況によっては、主治医から食事やサプリメントについて注意や指導がある場合もあります。その場合は主治医に従って下さい。服用しているサプリメントについて主治医に知らせておくことが大切です。手術の前後に服用を控えるべきサプリメントやハーブについて主治医と相談することが大切です。

(6)抗がん剤治療中の場合

 近年、抗がん剤治療による吐き気や白血球減少などの副作用を抑える治療法(支持療法)も発展してきました。しかし、数値として現れない要素の中に、もっと大事なものがあります。例えば、制吐剤を用いて、抗がん剤による吐き気を止めることはできますが、吐き気だけを止めても食欲が亢進するわけではなく、消化吸収機能が高まるわけでもありません。骨髄の幹細胞に直接働きかけて白血球減少を食い止める薬もありますが、栄養状態の悪化や体力の消耗がひどくなれば、白血球の数は正常でも体の抵抗力はなくなります。
 西洋医学的な支持療法を使用して、目にみえる副作用だけを対処していても、いつのまにか消化管機能の低下や失調が発生し、食事が取れなくなり、抵抗力がなくなってしまうということはよく経験されます。
 抗がん剤の副作用による体力低下や貧血や白血球減少は、漢方医学的には気虚血虚として把握され、十全大補湯・人参養栄湯・補中益気湯などの補剤が選択されます。これらの補剤に血液循環を良くする駆オ血薬を加えた処方は抗がん剤の副作用を軽減する上で有用です。
 抗がん剤治療中は、正常組織のダメージの回復のためにタンパク質は通常の50%以上多く必要になります。ビタミンやミネラルも通常よりも多く必要になります。栄養価の高い食事に加えて、マルチビタミン・マルチミネラルのサプリメントは健常の人の推奨量の2倍くらいは摂取してもよいかもしれません。ただし、過剰な摂取はどんなものでも勧められません。マルチビタミン・ミネラルとは、体に必要な数十種類のビタミンやミネラルを、それぞれの必要摂取量などをもとにバランスよく配合したサプリメントで、欧米ではベーシックサプリメントとして最も多く利用されています。
 抗がん剤治療中の抗酸化性ビタミン(ビタミンA、ビタミンC,ビタミンE, コエンザイムQ10)の摂取には賛否両論あり、コンセンサスは得られていません(こちらを参照)。抗がん剤の中にはフリーラジカルの破壊力を利用して、がん細胞の核のDNAを破壊し、がん細胞の活動を抑えるものがあるからです。抗がん剤の投与を受けている時は、過剰な摂取は控えておくのが良いと思います。他の抗酸化性サプリメントでは、植物由来のフラボノイド類などのポリフェノールを精製したものでなく、野菜や果物の抽出エキスのようなものであれば問題ないようです。
 どのような抗がん剤を使用する場合でもN-アセチルシステインは使用できません。N-アセチルシステインは細胞内に存在する抗酸化物質であるグルタチオンのレベルを高める作用がありますが、シスプラチンなど多くの抗がん剤の効果を弱めることが報告されています。
 オメガ3不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)エイコサペンタエン酸(EPA)は両方を合わせて1日1〜2グラムくらい摂取すると、免疫力を高め、悪液質を改善し、抗がん剤の治療効果を高めます。この程度の量であれば、血小板凝集を阻害して出血しやすくなる副作用の心配はありません。 
 免液力を高めるベータグルカンなどの多糖体製剤やメラトニンは、抗がん剤治療と併用しても大きな問題はありません。抗がん剤治療による免疫力低下を軽減する効果が期待できます。

(7)放射線治療中の場合

 放射線ががん細胞を殺す力は、放射線が体内の水分と反応して発生する活性酸素によるものです。放射線照射による細胞へのダメージががん細胞にだけ作用すればよいのですが、そのように都合よくはいきません。正常な細胞にも障害が及び、細胞分裂の障害やDNAの変異(異常)を来す可能性もあります。細胞分裂の盛んなリンパ球や好中球、消化管粘膜、皮膚などの細胞や組織にダメージが及ぶと免疫力の低下や下痢などの副作用が発生し、DNAの変異は放射線障害の晩期障害としてがんの発生の原因となります。
 放射線治療中は、抗がん剤治療中と同じで、ダメージを受けた正常細胞の回復を促進するためにビタミンやミネラルやタンパク質などの栄養素が不足しないように、バランスのとれた食事を心掛けることが大切です。十分に栄養がとれない場合は、マルチビタミン・ミネラルの適量の摂取は推奨されます。免疫力を高めるサプリントも問題はありません。亜鉛の補充により放射線による皮膚障害が軽減するという研究報告もあります。
 ただし、抗酸化性ビタミンなど活性酸素やフリーラジカルを消去するサプリメントに関しては、かなり議論があります。
 例えば、マウスの動物実験で体重1kg当たり20mg以上のCoQ10は放射線治療の効果を減弱するという報告があります。一方、ビタミンAやビタミンCやビタミンEは放射線治療の効果を高め、副作用を軽減するという研究報告もあります。
 ビタミンAとその前駆物質のベータカロテンが、がん細胞の放射線感受性を高め、放射線治療による腫瘍の縮小効果と生存期間を良くしたという動物実験の結果が報告されています。しかし、人間ではそのメリットはまだ十分に証明されていません。放射線治療後の炎症や線維化を軽減するなど短期間のメリットは数多く報告されているのですが、抗腫瘍効果や延命効果といった長期の観察でのメリットの証明がまだ十分ではありません。副作用軽減作用が放射線の効果を弱めている結果ではないことと、腫瘍縮小効果や延命効果を増強できることが人体で証明されない限り、副作用を軽減するという効果だけでそのようなサプリメントを使用することは危険かもしれません。
 したがって現時点では、放射線治療中に抗酸化性ビタミンや抗酸化性サプリメントを過剰に摂取することは勧められません野菜や果物の豊富な食事から摂取する分には問題はなく、抗酸化性ビタミンやポリフェノール類の豊富な食事はむしろ推奨されています。食事から摂取する分には自ずと摂取量に限界があり、放射線の治療効果を妨げるほどの大量を摂取することはできないからです。しかし、サプリメントの場合は、食事から摂取できる数百倍の量を摂取することも可能なので、問題になるのです。
 メラトニンは放射線治療の副作用を軽減し、腫瘍縮小効果を高めることが、臨床試験で確認されています。グリオブラストーマの30例による臨床試験において、放射線照射単独とメラトニンの1日20mg投与を併用した場合の効果が比較されています。1年後の結果で、放射線のみのグループは16人中1人しか生存できませんでしたが、メラトニンを服用したグループでは14人のうち6人が生存しました。また、メラトニンを服用した患者では放射線治療による副作用はより少なかったことが観察されています。
 サメ脂質から見つかったアルキルグリセロール(alkylglycerol)は、人間での臨床試験で、放射線治療によって引き起こされる白血球減少を軽減し、免疫増強作用を示し、がん患者の生存率を上昇させることが報告されています。このように、臨床例で効果の認められたものを利用することが大切です。

(8)サプリメントの目的は腫瘍の縮小ではなく、症状の改善を目指す

 がん患者さんがサプリメントを選択する際に、もっとも重視しているのは「がんが治るかどうか」です。がんが治らなくても、がん組織が縮小するか、大きくならないような効果を期待しています。しかし、サプリメントの中で、腫瘍を縮小させる効果がはっきりと証明されているものは皆無といっても過言ではありません
 動物実験や培養細胞の実験で抗腫瘍効果が証明されているものは幾つかあり、その中にはがん細胞の増殖を遅らせるような効果が人間でも期待できるものもあります。しかし、厳密な臨床試験で腫瘍の縮小効果が証明された報告はまだありません。西洋医学の多くの医者が「サプリメントはがんには効かない」「気休めでしかない」と考えているのは、がんを縮小させるような効果がヒトでは証明されていないからです。
 しかし、がん手術後の再発予防効果や、抗がん剤や放射線治療の副作用の軽減、食欲不振や胃腸障害や倦怠感などの自覚症状を改善する効果に関しては、臨床試験である程度の有効性が認められたものは数多くあります。がんが縮小するかではなく、抗がん剤による体力消耗や抵抗力の低下などの副作用を緩和したという学術報告は多く発表されています。
 がん治療の本質は、がんを縮小させることではなく、生活の質(QOL)を良くして延命することにあります。体力や抵抗力を高め、体調の良い状態で延命させるという効果においては、サプリメントは十分に効果が期待できるのです。このような基本的な考え方は欧米ではよく認識されているのですが、現在の日本では、サプリメントに過度の期待をかけ、またそのような患者心理につけ込んだ宣伝が行なわれているために、かえってサプリメントに対する適切な評価が妨げられているように思います。
 さて、抗がん剤治療中には、効き目の強いサプリメントを安易に使用すると、抗がん剤の効き目に影響する可能性がありますので、その作用を十分に熟知した医師や薬剤師の指導のもとに利用すべきです。抗がん剤治療中の補完医療の主な目的は、抗がん剤でダメージを受けた正常組織の回復を促進するために、栄養状態を良くし、体力や抵抗力を高め、組織の血液循環や新陳代謝を良くすることです。そのため、栄養素の補充、体力や抵抗力の増強、腸内環境を整える、血液や体液の流れを良くして回復力を促進するものなどが適しています。
 抗がん剤治療では、その治療効果と副作用をはかりにかけることになります。副作用が少なくなれば、抗がん剤治療も十分に受けられ、がんの縮小や延命効果も上がります。抗がん剤の副作用による体調不良や不愉快な症状が少しでも緩和すれば、生活の質(QOL)も良くなります。
 サプリメントだけでも、体力や抵抗力を高めれば、がんの増殖を抑えることや、縮小させることも不可能ではありません。しかしそのような縮小効果をはじめからサプリメントに求めるのは無理があります。体調を良くし、体力や抵抗力や回復力を高めることを主体にすることが、がん治療中のサプリメントの正しい使い方だと思います

(9)がん治療後の再発予防は積み重ねが大切

 がんの手術時にがん細胞を取り残すと、がんが発生した原発部位あるいはその周辺から再びがんが増殖してきます。これを「局所再発」と言います。また、がん細胞が原発部位から離れた所へ飛んでいき、別の場所にもがん細胞の塊を形成することを「転移」といいます。手術時に転移が見つからなくても、目にみえない小さな転移がすでに存在することは多く、局所再発や転移によってがんの再発が起こります。
 がんの手術をしたあとは、患者さんのみならず主治医も再発が心配です。そこで、他の臓器への転移や手術後の取り残しが予想される場合には、残っている可能性のあるがん細胞を抗がん剤や放射線によって殺す治療法(術後補助治療という)を行ないます。目に見えなくても、残っている可能性があるがん細胞を抗がん剤や放射線照射によって叩いておくほうが再発予防には効果があるからです。しかし、強力な抗がん剤投与は免疫力や抵抗力を低下させることによって再発を促進する可能性も指摘されており、その手加減に関しては議論の余地があります。
 がんが小さくて転移の可能性がないと考えられる場合には、がん細胞を完全に切り取れば治療は終了となりますが、このような早期のがんでも再発することがあります。がんが目で見えるほど成長した段階では既に数億個以上のがん細胞が増えていて、その一部がリンパ液や血液の流れに乗って遠くへ転移している場合があるからです。手術後に再発(局所再発や転移)が見つかれば、がん細胞を取り除く治療(手術、抗がん剤、放射線)が再開されます。
 このように、がんの治療後に転移や再発を見越した補助治療が行われていますが、医者が行えるのは薬や放射線などを使ってがん細胞の増殖を抑えることが中心となります。がん細胞を直接攻撃する治療法以外にも、がんに対する抵抗力を高めるための健康食品や自然療法や伝統医学などの活用、再発のリスクを減らすための食生活やライフスタイルの改善、心の働きで体の自然治癒力を高めるイメージ療法や精神療法など、患者自身で行える再発予防の方法がたくさんあります。詳しくはこちらへ
 野菜や大豆製品の摂取量が多いとがん治療後の予後(生存期間)が良好であることが報告されています。食事の内容だけでがんの予後(生存期間)を良くすることができるということは、その延長線上の事を行えばさらにがん再発を予防できることになります。野菜や大豆というのは、抗酸化力や肝臓の解毒機能を高めたり、種々の抗腫瘍作用が報告されているのですが、そのようながん予防効果を持ったものをたくさん利用すればがんの再発や転移もさらに予防できることになります。
 ここで大切なことは、基本は食生活であることです。個々の食物のがん予防効果はわずかですが、それらが積み重なると、がんの再発リスクを半分以下に減らすことができますサプリメントに対しては過大な期待を持つのではなく、免疫力や抗酸化力や血液循環を良くするもの、解毒機能を高め、がん予防効果が知られているものなどをバランスよく摂取することが大切です。
 食生活がちゃんとしていればサプリメントの摂取は不要で、意味がないと言う意見もあります。しかし、免疫機能も体内の酸化防止の能力も20歳台をピークにして年齢とともに徐々に衰えていくという現実があります。免疫監視機構を正常に維持することはがんの再発を抑える手段として重要であり、抗酸化物質を多く含む野菜や緑茶の摂取とがん死亡が逆相関するという疫学的事実もあります。従って、免疫賦活作用や抗酸化性物質を有する機能性食品やサプリメントなどを積極的に取ることは、極端に偏った取り方をしなければ有益と考えられます
 ある特定の成分を偏って摂取することが有害であることはベータカロテンの例でも明らかです。カロテン類をサプリメントから摂取する場合は、ベーアカロテン以外の様々なカロテン(アルファカロテンやリコピンなど)もバランスよく配合したものを利用します。また、ビタミンCやフラボノイドなどの水溶性の抗酸化物質も同時にバランスよく摂取することが大切です。しかし、できれば野菜や果物など食品から摂取する方が安全でより有効かもしれません。

(10)がん体質の改善を目指す

 がん組織は氷山の一角であり、その下には、がんになりやすい体質という大きな山が潜んでいます(図)。1個のがんが出たということは他にもがんができやすい状態になっています。
 がんは全身病であり、がんが増殖しやすいような体内環境にあるときは、がん組織を取り除いても、また再発していきます。体力や免疫力の低下があるときには、それを改善してやることががんの再発予防の基本になります。がん組織は氷山の一角であり、水面下にある治癒力低下の要因を取り除くことが大切で、そのために漢方薬やサプリメントが役にたちます。 
 体の治癒力・防御能の低下はがんが顕在化する重要な要因となります。これが老化に伴ってがんの発生が増加する理由の一つです。環境中の発がん物質、体内の慢性炎症、がん発生を促進する食品などの発がん要因をできるだけ除くことに加えて、体の防御能と治癒力の維持と強化を積極的にはかることが、発がんを予防する決め手の一つになります。
 生体防御能の強化は、がんに対する免疫監視機構を介したがん細胞の除去につながるほか、発がんの重要な要因である感染症を予防することにもなります。薬用人参やニンニクによるがん予防効果が報告されていますが、これらの生体防御能強化作用の関与が指摘されてます。
 体は絶えず酸化されており、この酸化障害が老化や発がんの重要な要因であるため、体の抗酸化能も重要な自然治癒力の一つであり、がんの発生や再発を予防する上でも大切です。その他、組織の血液循環や新陳代謝の障害、諸臓器の働きや栄養状態の悪化、胃腸の虚弱などもがんに対する抵抗力や治癒力を低下させる要因になります。
 たとえ一つのがんを克服しても、またすぐ別のがんが発生するようでは元も子もありません。体ががんになりやすい状態では再発や転移も起こりやすくなっています。サプリメントの利用はこのようながん体質を改善することを目標にすると有益です。

  
図:がん組織は氷山の一角。たとえがん組織を除去しても、体の治癒力を低下させる要因や、がんの発生を促進させる要因が改善されない限り、再びがんが発生(再発)してくる。

(11)知人や家族が勧めてもむやみに摂取しない

 がんの診断を受けたり、治療を受けていると、家族や親戚や知人が、いろんな健康食品やサプリメントを勧めてくれます。お見舞いの花や果物を持ってくる感覚で、様々な健康食品を持ってくる場合もあります。同じ病室の人が、自分で使って調子が良いからと、分けてくれることもあります。
 このような行為の多くは、良くなってもらいたいという善意の気持ちからだと思います。しかし、がん治療中はこのような善意があだになることもあります。問題は医学知識のない人が、健康食品なら問題ないであろうと信じていることです。
 「良いものを多く服用すればより効くかもしれない」という心理が患者本人や家族に働いています。がんに効くと宣伝されている健康食品を片っ端から摂取している人も多くみられます。確かに、副作用がなく、がん細胞の増殖を抑えたり殺す作用があるものであれば、服用する量に比例して効果があらわれるはずです。
 しかし、その宣伝されている効果が信頼できないものであれば、お金の無駄になるだけです。場合によっては大量に摂取するために、食事の量が犠牲になっている場合もあります。たとえば、サメ軟骨粉末は1日に50g以上を摂取しないと抗腫瘍効果は期待できないと言われていますが、1日50gを摂取すると食欲が低下し、食事が十分に入らず、吐き気もあって、有害性の方が大きいと言う結論が出ています。栄養が不足していては、いくら免疫細胞を活性化する健康食品を摂取しても、免疫細胞は作られません。販売業者が流す都合のいい情報や誇大広告を信じて、健康食品をむやみに勧めると、かえって病気を悪化させることもあることを知っておくことが大切です。
 ネットワークビジネスで販売されている抗がんサプリメントもありますが、これはがん治療中は避けた方が無難です。ネットワークビジネスとは、「マルチ・レベル・マーケティング」や「消費者参加型ダイレクトセリング」などと言われ、細かい点は会社によって異なりますが、基本は、消費者をディストリビューター(販売者)として友人・知人にその商品の紹介販売を行なうビジネスに参加させ、さらにそれら友人・知人にもビジネスに加わってもらうことによってネットワークを作りあげ、それを拡大させながら商品を販売する手法です。ディストリビューターになると安く商品を購入でき、それを販売すると収入になり、自分が勧誘したディストリビューターの販売利益の一部も自分の収入になるという仕組みです。
 ネットワークビジネスはそれ自体に問題があるわけではありません。良質な製品もたくさん取り扱われています。その製品が良いことを確認して自分以外の人に購入を働きかけることは、健康増進が目的の場合には問題無いと思います。問題はがん治療中に、その治療の内容や病状を知らずに健康食品を勧めることです。
 がん患者さんの中には、患者の仲間から健康食品を勧められ、それを摂取している人が結構たくさんいます。がん患者からある抗がんサプリメントを摂取しているという体験談を直接聞くわけですから、勧められた方も安心感をもってしまいます。しかし、一見善意のように見えても、ただ商品を紹介して販売したいのが目的かもしれません。がんの種類や治療の状況を把握せずに、医学に素人が、サプリメントを紹介するというのは、恐ろしいものがあります。免疫を高める健康食品を悪性リンパ腫の患者に紹介するような間違いが簡単に起こリ得ます
 また、このようなネットワークビジネスでは、末端の販売員の上に複数の中間販売員や総代理店などがあって流通ルート上には大勢の販売員が連なっていて、この人たち全員の利益も商品の価格の中に含まれることになるので、原価の割にかなり高価な価格になっているのが実情です。
 がん治療中は、家族や知人が生半可な知識でサプリメントを勧めることは控えた方が良いし、患者仲間から抗がんサプリメントを勧められても安易に利用しない方が無難です。

(12)特定成分の大量摂取は慎重に。症状が悪化したら中止する。

 体に良さそうなものはたくさん摂取すればそれだけ健康になるように思います。がんに効くサプリメントも、いろんなものを多く摂取すれば、それだけがん細胞の増殖を抑えてくれるように感じます。ある抗がんサプリメントを思いきって大量を摂取すると、何かが起こるのではないかと期待してしまいます。
 抗がんサプリメントを使った治療では、ビタミンやミネラルの大量療法が行なわれています。また、免液力を高めるサプリメントや、がん細胞にアポトーシスを引き起こすと言われている抗がんサプリメントを多く摂取する代替医療もあります。
 がん細胞にアポトーシスを誘導したり、増殖速度を遅くするような成分を利用するときには、効果が出る血中濃度になるまで量を増やさなければ意味がないので、大量摂取が必要な場合もあります。したがって、私は抗がんサプリメントの大量摂取は場合によっては推奨しています。
 しかし、効果が出る量というのは、副作用が出る量でもあることを理解しておくことが大切です。体調が悪くなったり、不快な症状がでてくるときは、すぐに中止するのが賢明です。
 サメ軟骨粉末は、体重1kg当たり1〜2グラムを毎日摂取すれば、がん細胞の増殖を抑える効果が期待できると言われています。しかし、このような大量を摂取するとほとんどの人に胃腸障害が出て、食欲が無くなり、体力が低下してしまいます。したがって、サメ軟骨の粉末自体は抗がんサプリメントとしては有用では無いと考えられています。サメ軟骨に含まれる抗腫瘍成分を抽出して必要な量を摂取できるようにしたサプリメントなら有用かもしれません。
 食事からのオメガ6不飽和脂肪酸(リノール酸やアラキドン酸)の摂取を減らし、ドコサヘキサエン酸のようなオメガ3不飽和脂肪酸をサプリメントで多く摂取するとがん細胞の増殖速度を遅くしたり、抗がん剤が効きやすくなることが報告されています。オメガ6:オメガ3の比を1以下にして腫瘍が消滅したという症例報告もあります。したがって、オメガ3不飽和脂肪酸を多く摂取する治療法はある程度の効果が期待できます。オメガ3不飽和脂肪酸をサプリメントで1日7グラム以上摂取する臨床試験も行なわれていいますが、下痢や出血が止まりにくくなるという副作用が問題になっています。
 抗酸化力を高めるためにセレニウム(セレン)やビタミンCの大量療法も行なわれています。セレニウムは過酸化水素を分解するグルタチオン・ペルオキシダーゼの活性を高めます。セレニウムには抗酸化力増強だけでなく、がん細胞のシグナル伝達系に作用して、細胞増殖を抑え、細胞死(アポトーシス)を誘導する効果があることも最近報告されています。大量摂取を勧める代替医療もありますが、1日400マイクログラム以上の過剰摂取は有害である可能性も指摘されています。
 亜鉛は、肝機能や免疫力を高める効果を期待して、単独での商品も多く販売されていますが、亜鉛の過剰摂取は発がんリスクを高めるという報告があります。1日100mg以上の亜鉛をサプリメントとして服用している人は前立腺がんが発生するリスクが約2倍以上に上昇することが、米国国立健康研究所(NIH)の最近の研究で明らかになっています。亜鉛が不足すると免疫力が低下して発がんリスクを高めるのですが、亜鉛の過剰摂取はセレンの吸収を阻害することによって発がんリスクを高めることが指摘されています。つまり、亜鉛とセレンの吸収は拮抗関係にあり、亜鉛の摂取量を増やすとセレンの吸収は低下することが知られているからです。実験的にも、亜鉛は濃度が高すぎても低すぎても癌の危険を増やすことがわかっています。
 マルチ・カロテノイド、ビタミンC、ビタミンE、コエンザイムQ10、セレン、亜鉛などをがんの発生予防や再発予防の目的で利用するときには、これらの多種類のビタミンやミネラルをバランス良く複合したサプリメントを適量補充することが大切です。単独での摂取や偏った過剰摂取は勧められません。ビタミンA、ビタミンE、ベータカロテンをサプリメントで摂取していた人は、摂取していない人と比べ死亡率が約5%高かったという疫学データも報告されていますので、脂溶性ビタミンの取り過ぎは健康に良くない可能性もあります。
 がん治療中は、不足しがちなビタミンやミネラルを補充することは大切ですが、過剰な摂取は治療を妨げる場合もあるということを認識しておく必要があります。素人判断での摂取は危険な場合もあります。
 その他にも野菜ジュースやある種の植物エキスを大量に摂取する食事療法、高濃度のミネラルを摂取する治療など様々な治療法があり、場合によっては効果が期待できる可能性は否定できません。しかし、体調や症状が悪化する場合にはすぐに中止することが基本です。

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