第1章:医者まかせではがんの再発は防げない

 1.がん再発は予防できる

     【目にみえてからでは遅すぎる】
     【がんの3次予防(再発予防)がクローズアップされてきた】
     【がん再発の予防のために自分でやるべき事がたくさんある】
     【がんの再発は防げる】
     【役に立たないがん予防情報も流布している】
     【メモ:再発を早くみつけても意味がない?】

【目にみえてからでは遅すぎる】

  健康診断やがん検診で見つかったものでも、胃がんや大腸がんの約5%、肺がんの約20%に、診断された時にすでに他の臓器への転移(遠隔転移)が見つかっています。検診以外で診断されたものも全て含めると、胃がんや大腸がんの約20%、肺がんの約40%において診断時に遠隔転移が見つかっています。これらはレントゲン検査やエコー検査で見つかるものだけであり、目に見えないレベルの微小ながん転移の存在はもっと多い(7割以上)と考えるのが妥当です。
 一般的にがんが画像診断などで臨床的に診断ができるのは、がん細胞の塊が1グラム位になってからです。臓器によってはもっと早く見つかる場合もありますが、1グラムでも診断が困難ながんもあります。また、多くのがんの体積倍加時間は数十日から数百日のレベルにあることが報告されていますので、手術後に残ったわずかながん細胞が、画像診断で見つかるほどの大きさになるのに、通常は数カ月から数年の月日を要することになります。
 
がんが成長するまで何もしないのではなく、再発のリスクを想定して、肉眼的に見えない微小がんの段階から対策を講じておくことが大切です

【がんの3次予防(再発予防)がクローズアップされてきた】

がんによる死亡を減らすための一つの手段は、がん検診によって転移の起こっていない早期の段階で見つけてがん細胞を取り除くことです。がん組織がまだ小さくて限局している段階では転移が起こっていることが少ないので、適切に切除すれば良性腫瘍と同じように完治することができるからです。この早期発見・早期治療によってがんによる死亡を減らそうという戦略をがんの第2次予防といいます。しかし、がん検診で見つかった場合でも、例えば、胃がんでは5%、肺がんでは25%ですでに遠隔転移(他の臓器への転移)が見つかっています。顕微鏡でしか発見できない微小な転移はもっと高頻度に起こっているはずです。つまり、検診で見つけた段階でも、確実に治せるとは限らないのです。また、いくら早期発見・早期治療を行ってもがんになる人を減らすことはできません。
 そこで、がんで死亡する人の数を減らすには、がんになる人の数を減らすことが最も大切であることが認識されるようになりました。
禁煙などのライフスタイルの改善や食生活の改善によってがんになる率そのものを減らすことを第1次予防といいます。この第1次予防ががん患者数の増加を食い止める根本的な解決法であることは間違いありません。
 しかし、現実問題として、第1次予防や2次予防を徹底しても、がんの患者を減らすことには限界があります。環境中から全ての発がん物質を取り去ることは困難であり、DNAにキズをつける活性酸素は絶えず体の中で発生しています。診断のための費用や労力との兼ね合いで、早期のがんを見つける検診の有効性には限界があります。
 年間60万人以上の人ががんにかかるという状況は当分の間は変わりそうもありません。むしろ増え続けるというのが大方の予想です。そこで不幸にしてがんに罹った人にとっては、がん死から逃れる方法が必要となっています。
一旦がんを治療したあとに再発や転移を予防することをがんの第3次予防といいます。
 最近では、がんが治ったあとに、二つ目のがん、三つ目のがんにかかる人が増えてきました。転移ではなく、胃がんの次に前立腺がん、その次に肺がんなどといったように全く別の部位に新たながんができることです。一人の人に幾つものがんに発生することを
多重がんといいます。 治療方法が進んで治るがんが増えてきたことが原因の一つに挙げられるのですが、がんになる人は免疫力の衰えなど他のがんにもなるリスクも高くなっているのが一般的です。時にはがんの治療(抗がん剤や放射腺照射)が新たながんをつくり出すこともあり、これを2次がんといっています.多重がんや2次がんを防ぐことはがんの第1次予防になるのですが、発がんリスクが高い人が対象ということで、第3次予防に近い積極的な対策が必要です。
 医学の進歩によってがんを取り除く治療法が進歩してくると、がん治療の宿命である再発や多重がんや2次がんの発生を予防することががん死から免れるキーポイントとしてクローズアップされてきたのです(図1)。


図1:がん予防の手段には、がんにならないようにする第一次予防、早期診断により転移する前に治療を行ってがん死から免れることを目標とする第二次予防、がん治療後の再発を予防する第三次予防がある。がんの診断や治療法の進歩にともなって第三次予防の重要性が増してきた。

【がん再発の予防のために自分でやるべき事がたくさんある】

がんの手術をしたあとは、患者さんのみならず主治医も再発が心配です。そこで、他の臓器への転移や手術後の取り残しが予想される場合には、残っている可能性のあるがん細胞を抗がん剤や放射線によって殺す治療法(術後補助治療という)を行ないます。目に見えなくても、残っている可能性があるがん細胞を抗がん剤や放射線照射によって叩いておくほうが再発予防には効果があるからです。しかし、強力な抗がん剤投与は免疫力や抵抗力を低下させることによって再発を促進する可能性も指摘されており、その手加減に関しては議論の余地があります。
 がんが小さくて転移の可能性がないと考えられる場合には、がん細胞を完全に切り取れば治療は終了となりますが、このような早期のがんでも再発することがあります。がんが目で見えるほど成長した段階では既に数億個以上のがん細胞が増えていて、その一部がリンパ液や血液の流れに乗って遠くへ転移している場合があるからです。手術後に再発(転移や局所再発)が見つかれば、がん細胞を取り除く治療(手術、抗がん剤、放射線)が再開されます。
 このように、がんの治療後に転移や再発を見越した補助治療が行われていますが、医者が行えるのは薬や放射線などを使ってがん細胞の増殖を抑えることが中心となります。がん細胞を直接攻撃する治療法以外にも、がんに対する抵抗力を高めるための健康食品や自然療法や伝統医学などの活用、再発のリスクを減らすための食生活やライフスタイルの改善、心の働きで体の自然治癒力を高めるイメージ療法や精神療法など、患者自身で行える再発予防の方法がたくさんあります。このような治療法は先進国で一般的に行われている
通常療法(=西洋医学)とは区別されて代替療法と呼ばれています。代替療法の多くは医学部で教えていないこと、健康保険を使って行えないこと、臨床効果の証明がまだ十分でないこと、などの理由により医者が行うことはほとんどありません。
 代替療法の中にはがんの再発予防や治療に有効なものもたくさんあり、これらを適切に使用すれば、がんの再発を遅らせることも防ぐことも可能なのですが、医者が指導してくれない以上、自分で勉強して実行するしかありません。がんの種類や進行度、体力や体質や性格、食生活や生活習慣などによって、がん再発予防のために必要な方法は患者さんそれぞれで違ってきます。がん死から逃れるためには、患者さん自身が自分のがんの再発を予防するために何をすべきかを判断できるように勉強することも必要なのです。

【がんの再発は防げる】

野菜や大豆製品の摂取量が多いとがん治療後の予後(生存期間)が良好であることが報告されています。例えば、877症例の胃がんの手術後の生存率と食生活の関連を検討した愛知がんセンターからの報告によると、豆腐を週に3回以上食べていると、再発などによるがん死の危険率が0.65に減り、生野菜を週3回以上摂取している場合の危険率は0.74になることが報告されています。
 食事の内容だけでがんの予後(生存期間)を良くすることができるということは、その延長上の事を行えばさらにがん再発を予防できることになります。野菜や大豆というのは、抗酸化力や肝臓の解毒機能を高めたり、種々の抗腫瘍作用が報告されているのですが、漢方薬に使われる生薬も同様の作用でさらに強い効果を持っています。がん予防効果を持ったものをたくさん利用すればがんの再発や転移もさらに予防できることになります。

 【役に立たないがん予防情報も流布している】

 がんの第1次予防のための食生活やライフスタイルに関する方法論はほとんど完成しています。肉や動物性脂肪を減らして野菜や果物を多く摂取するとか、禁煙や適度な運動ががん予防に良いこと、環境中の発がん物質を減らす努力の必要性など、がんの第1次予防のために必要な情報の多くはほとんど常識的な事柄になっています。
 
がんの第一次予防のためにいわれている食生活やライフスタイルの改善は、再発予防の戦略においても基本といえます。しかし、いったんがんにかかって治療した後に、がんの再発を予防しようとすると、がんの増殖や転移を抑えるような方法をもっと積極的に行うことが必要です。がん予防効果のある健康食品や薬剤を用いてがんを積極的に予防する方法を化学予防(chmoprevention)といい、がんの発生や転移や予防を防ぐような薬を化学予防剤といいます。
 抗がん剤はがん細胞を殺すことが目的で、作用が強いため副作用も起こります。一方、化学予防剤は日常的に摂取しても副作用がなく、がんの発生や進展を予防することができるものです。
一種類でがん再発を完全に防げる魔法の薬はありませんが、がん予防に効果のあるものを組み合わせれば、がんの進展を遅らせて、再発を防ぐことも可能になります
 がん予防の研究は、このような化学予防剤の開発が中心になっていて、多くの研究成果が報告されています。しかし、培養したがん細胞や動物実験でがん予防効果が見つかっても、それが人間に有効かどうかわかりません。培養細胞を用いたり、試験管内で行うような実験をイン・ヴィトロ(in vitro)研究といい、動物や人に直接薬剤を投与して効果をみるような実験をイン・ヴィボ(in vivo)研究といいます。イン・ヴィトロの研究でがんを殺す作用があっても、それが胃腸から吸収されなければいくら食べてもがんには効きません。つまりイン・ヴィボ研究で効果が証明されていないとヒトのがんの予防に効果は期待できません。
 たとえば、ビールの中にがん予防効果のある成分が見つかった場合、その研究者はビールはがん予防に有効と発表します。それならビールを飲めば飲むほどがん予防に良いことになるのですが、アルコールの量が多くなるとかえって発がんを促進することになります。疫学的研究で日本酒で2合以上の飲酒はがんになるリスクが上がることが示されています。したがって、例えビールの中の成分にがん予防効果が認められていても、がん再発の予防のためにビールを飲んだ方が良いとは勧められません。
 食物繊維は大腸がんなどの予防に効果がありますが、食物繊維を補うために開発されたある種の機能性食品を摂取すると却って大腸の発がんを促進するという研究結果も報告されています。ベータカロチンのがん予防効果は良く知られていますが、喫煙者がベータカロチンをサプリメントとして1日20mgを摂取すると肺がんの発生を増やすという報告があります。
 
食物繊維もベータカロチンも野菜から摂取している分には何ら問題なくがん予防効果が期待できるのですが、精製してしまうと良くない効果もあるようです。イン・ヴィトロ研究でがん細胞を殺す健康食品や漢方薬はたくさん見つかっていますが、その成分が胃腸から吸収されなかったり、血中の濃度ががん細胞を殺す濃度からかけ離れて低くてとても効果が期待できないものがたくさんあります。
 イン・ヴィトロ研究でがん予防効果が示唆されたものが、イン・ヴィボ研究での効果が検討されていないのに、いつのまにかがんに効くと宣伝されて健康食品として売られているものもたくさんあります。このような役に立たないがん予防法をやっていても自分のがんの再発を予防することはできません。このサイトでは、イン・ヴィボ研究や疫学的研究でがん再発予防に効果が期待できるものを中心に解説しています。

【メモ:再発を早くみつけても意味がない?】

がんが早期に見つかり、治療によって「治癒」に至った患者さんにおいても、がんの再発・転移に対する不安は常につきまといます。万が一、再発・転移を生じたら、一刻も早く発見し治療を開始したいと願うのは、当然の心理です。しかし初発がんとは異なり、「再発・転移がんの場合、早期発見・早期治療はほとんど意味が無い」というのが、現在の世界のコンセンサスです。
 例えば乳がんの場合には、治療後にこれらの検査で再発・転移が早期に発見された患者と、特別な検査を受けなかった患者の間で、治療成績や生存期間はほとんど変わりが無いという結果が報告されています。これは、乳がんに限らず、ほとんど全ての固形がんに共通の傾向です。そのため米国では、固形がんの再発・転移の発見のための検査を医療保険で行うことは、いっさい認められていません。つまり、
初発がんの治療後に、腫瘍マーカーの検査や、PETやCTなどの画像診断によって再発・転移を少しでも早く見つける努力をしても、生存期間を延ばす結果にはつながりにくいようです。
 初発がんの治療後に残っているかもしれないがん細胞を叩くために抗がん剤や放射線治療が行われます。再発・転移は、このような治療で死滅せずに生き残ってきた強靱ながん細胞が増殖して生じるものであり、治療が極めて困難です。現在の治療法では、再発・転移がんが発見された患者を「完治」に導くことはほとんど極めて困難で、多少発見が早くてもその後の経過は大差ないということです。がん治療後に腫瘍マーカーや画像診断で定期的な検査を行うことは、結果が良ければ安心感によって気持ちの安定が図れるという、気休め程度のメリットしか無いというのが正しいかもしれません。
 それでは、がん治療後は何もしないで、運命に任せるしかないのでしょうか。治療が終わった段階で、残っているがんが、どのような事をしても決められた速度で増殖していくのであれば、何をやっても意味が無いということになります。しかし、
野菜や大豆製食品の多い食事を取っている人は、そうでない人に比べて、がん治療後の再発率が低下するという報告があります。食事の内容いかんで、再発率に差がでてくるということは、がんの予防に効果のあることを実践すれば、がんの再発や転移の抑制も可能ということです。再発を早く見つける努力よりも、再発を予防する努力の方が大切なのです。  


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