第2章:食生活を変えてがん再発を予防する方法:野菜・果物・大豆・魚
8.柑橘類はがん予防物質の宝庫
【概要】
【体にはがんを押さえ込む免疫力が備わっている】
【免疫療法はがん手術後の生存率を高める】
【きのこにはβ-グルカンなどの抗腫瘍多糖が含まれている】
【生体防御に大きな役割を果たす腸管免疫】
【メモ:「サプリメントに副作用がない」というのは誤り】
【メモ:ネズミで効いても人間に効くとは限らない】
【概要】
野菜や果物を多く食べることはがん予防の基本となっていますが、果物の中では特に柑橘(かんきつ)類のがん予防効果が注目されています。柑橘類とはみかんの仲間で、精油のリモネン、フラボノイドのヘスペリジン、カロテノイドのベータ・クリプトキサンチン、水溶性食物繊維のペクチン類など作用メカニズムの異なる様々ながん予防物質が見つかっています。
柑橘類は多種多様ながん予防成分を含む食品素材の代表であり、日頃の食事に柑橘類を果皮を含めて積極的に取り入れることはがんの再発予防に効果が期待できます。【柑橘類は多様ながん予防成分を含む】
柑橘類はどれもミカン科の常緑樹の果実で、世界中に数百種類もあります。柑橘類を総称して、一般に「みかん」と言っています。温州みかん、オレンジ、レモン、グレープフルーツ、八朔、など様々な柑橘類が販売されています。
食品とがん予防の関連を検討した疫学研究の多くが、柑橘類の摂取ががん予防に有効であると結論づけています。動物発がん実験を用いて柑橘類に含まれるがん予防成分を研究した結果、モノテルペン類のリモネン(limonene)、フラボノイドのヘスペリジン(hesperidine)、カロテノイドのベータ・クリプトキサンチン(beta-cryptoxanthin)、クマリンのオーラプテン(auraptene)、ポリメトキシフラボノイドのノビレチン(nobiletin)、水様性食物繊維のペクチン類などの多彩な成分にがん予防効果が報告されています。
がん予防の作用メカニズムはそれぞれの成分によって異なっています。果皮に多く含まれているリモネンはがん細胞の増殖を抑制しアポトーシスという細胞死を誘導することが、カロテノイド類やフラボノイド類やオーラプテンには抗酸化作用や抗炎症作用などが報告されています。水様性食物繊維のペクチン類や低分子のオリゴ糖には、ビフィズス菌や乳酸菌などの善玉菌を増やして、腸内環境を改善し免疫機能を高めて抗腫瘍効果を示すことも報告されています。
異なる作用メカニズムを持つがん予防物質を組み合わせて用いると、相乗効果によってがん予防効果が高まります。柑橘類には実に様々な活性成分が含まれていますが、これほどまでにがん予防成分が多様な食品素材も稀です(図20)。柑橘類は古くから薬用利用が盛んな植物素材の一種であり、陳皮(温州みかんの乾燥果皮)や枳実・枳穀(ダイダイやナツミカンの果実を乾燥したもの)など生薬の原料としても頻用されていることも、柑橘類が多彩な薬効をもっていることを示しています。
図20:柑橘類はがん予防物質の宝庫
柑橘類を丸ごと利用すると、作用メカニズムが異なる様々ながん予防成分を摂取することができ、それぞれの相乗効果によってがん予防効果が高まる。果皮を利用することが大切。【柑橘類のがん予防物質の代表リモネンは皮に含まれる】
柑橘類の果皮の独特の香りは精油(エッセンシャルオイル)によるもので、その主成分はモノテルペン類のリモネンです。柑橘類の果皮の精油成分の中でリモネンが90%以上を占めています。
リモネンにはラットの乳腺、皮膚、肝臓、肺、胃など多くの臓器における発がん実験で予防効果が報告されており、ラットの乳がんや膵臓がんなどでがんを小さくする抗腫瘍効果も報告されています。
リモネンには、フェースII解毒酵素の合成を増やして発がん物質を解毒する力を増強して発がんのイニシエーションを抑制する作用、がん細胞の増殖を抑制しアポトーシスという細胞死を引き起こしてがんの発育を抑制する抗プロモーション作用など、多彩なメカニズムで相乗的にがん予防効果をしめし、予防だけでなく、転移や再発の予防、がん治療にも効果が期待されています。果皮には様々なフラボノイドも含まれていて、抗酸化作用や抗炎症作用などによりがん予防効果を助けています。
アリゾナ大学医学部のハーキン博士らは、アリゾナ州の住民を対象に、柑橘類の摂取状況と皮膚がんの発生状況を疫学的に検討しました。柑橘類の摂取と皮膚がんの発生率との間に明らかな相関は認めれれませんでしたが、皮も利用している人が住民全体の約35%いて、その人たちは皮を摂取していない人たちに比べて皮膚がんが約66%に減ったと報告されています。そして、柑橘類の果皮を食事に多く取り入れている人ほど皮膚がんの発生が少ないということでした。果皮に含まれるリモネンやフラボノイド類やオーラプテンなどの総合的な効果が予想されます。柑橘類が乳がんの予防に効果があることも報告されています。
リモネンなどの精油成分は、唾液や胃液の分泌を高めて消化吸収を促進し、食欲を高めます。副作用もほとんどないので、食事の中で柑橘類の皮を使うことはがんの再発予防にも有効です。ミカンの皮を千切りにして食べたり、皮ごとフレッシュジュースとすると、蒸発しやすい精油のがん予防効果を活用することができます。【温州みかんに多く含まれるβ?クリプトキサンチンは強いがん抑制効果がある】
日本人に最もなじみの深い温州みかんに多く含まれているベータクリプトキサンチンに、強い発がん抑制効果があることが、農水省果樹試験場や京都府立医科大学などのグループの研究で明らかになっています。
ベータクリプトキサンチンは柑橘類のオレンジ色のもとになる色素(カロテノイド)の一種であり、柑橘類の中では温州みかんに圧倒的に多く含まれています。このベータクリプトキサンチンはニンジンに含まれるカロテノイドのβベータカロテンの数倍の強さのがん予防効果を持っている事が、動物発がんの実験で示されています。βベータクリプトキサンチンは温州ミカンの果肉に特に多く含まれていて、果実1個に1ー2mg含まれています。温州みかんを1日一個食べればがん予防に有効な量のベータクリプトキサンチンを摂取できるそうです。
以上のことから、温州みかんなどの柑橘類を、果肉と果皮を一緒に食べる工夫をすれば、異なるメカニズムを持つがん予防物質を同時に摂取することができることになります。【メモ:がん再発予防のための食生活と生活習慣】
目次へ戻る ホームへ戻る 3章-1へがんの一次予防(発生予防)で推奨されていることの多くは、がん再発予防にも有用と考えられます。以下の内容はがんの一次予防だけでなく三次予防(再発予防)の基本です。
1)発がん因子の摂取を減らす
○禁煙。
○動物性脂肪や赤身の肉は取りすぎない。
○アルコールは酒1日1合(女性はその半分)以下。
○食品添加物、残留農薬に注意する。
○カビの生えたものは食べない。
○焦げや薫製は避ける。
2)発がん抑制因子の摂取を増やす
○野菜や果物、豆類など植物性食品が豊富な食事をする。
○胚芽米、玄米など、精製度の低いでんぷん質を主体の食事をする。
3)身体機能のバランス維持と運動
○適性体重を維持し、痩せすぎ、肥満を避ける。
○適度な運動(たとえば1日1時間程度の速歩など)。
4)がんを抑制する積極的対策
○抗酸化物質の適切な摂取。
○免疫賦活食品の摂取
○温泉、ハーブ、アロマテラピーなど、心身リフレッシュ。
○気功などで心身の調和
○ビフィズス菌などにより腸内環境の改善。