第4章:がん再発予防に効果が期待できる薬草・民間薬・健康食品
1.紅参(こうじん)はがんに対する抵抗力全般を高めてがんの再発を防ぐ
【概要】
【高麗人参は万能薬】
【高麗人参には自然治癒力を高める多くの薬効成分が含まれている】
【高麗人参にはがんの予防や治療に効果がある】
【高麗人参のがん予防効果は人参のタイプと年数によって異なる】
【高麗人参の利用の仕方】
【高麗人参は炎症を増悪させる可能性もある】
【概要】
高麗人参(朝鮮人参あるいは薬用人参ともいう)には滋養強壮効果があって、種々のストレスに対する体の抵抗力を高めます。各種のがんによって引き起こされる食欲不振や体力減退、がん治療後の身体衰弱や抵抗力の低下の改善に有効で、がんの漢方治療においても頻用されています。がんの予防や再発予防にも有効であることが多くの研究で示されています。高麗人参を蒸した後に熱風乾燥して作った「紅参(こうじん)」にはがん予防効果が特に強いことが報告されています。
血液循環が悪く体力や免疫力が低下している人のがん再発予防に向いており、元気が有り余っている人や体の中に炎症がある場合(熱がある時など)には不向きです。【高麗人参は万能薬】
高麗人参は朝鮮人参や薬用人参と呼ばれ、昔の高麗国(朝鮮半島)に自生していたウコギ科の(ウドの仲間)多年草で、多くの栄要成分を含む根が、古く4ー5千年前より不老長寿の薬草として使用されてきました。人参の学名はPanax ginsengといいますが、このPanaxという属名はギリシャ語のPan(万能)とacos(薬)から名付けられたものであり、ヨーロッパでも古くからその多彩な薬効が注目されていたようです。なお、野菜のニンジンはセリ科の植物で全く別のものです。
人参の臨床的効果は、消化吸収機能を賦活化し、種々のストレスに対する生体の非特異的抵抗性を強くすると考えられます。蛋白合成や新陳代謝や血液循環を高め、血中の免疫グロブリンを増加させ、マクロファージ(体内の異物を細胞内に取り込み消化する食細胞の一つ)や好中球の貪食能を高めて免疫力を増強します。男性ホルモン増強作用、細胞寿命延長作用、抗腫瘍作用、精神安定、精神賦活作用なども報告されており、まさに自然治癒力を高める全ての条件が含まれています。ソ連のブレフマン(Brekhman)教授は「種々のストレス刺激に対する非特異的な抵抗力を増し、生体の働きを助ける」作用から、薬用人参をAdaptogen(適応促進薬)と呼びました。イギリスのフルダー(Fulder)博士は「生体の生理機能を調和させるハーモナイザー(調和薬)」であるといっています。
漢方では、高麗人参は「気」の量を増す薬(補気薬という)の代表です。「気」というのは、生体エネルギーを表わす漢方の考え方で、気の量が不足すると、疲れやすく、倦怠感や抵抗力低下が起こります。高麗人参は体のエネルギーを増やすことによって、体の抵抗力や自然治癒力を高めると考えています。【高麗人参には自然治癒力を高める多くの薬効成分が含まれている】
体の抵抗力や自然治癒力を高める高麗人参の作用は、一つの成分によるものでなく、多くの成分が関与していて複雑です。治癒力を高める代表的成分はサポニンと呼ばれる物質です。サポニンは英語で、フランス語ではシャボンといい、泡立つものという意味です。サポニン自体はいろいろの植物に含まれていますが、人参サポニンはジンセノサイドというステロイドホルモンと似た構造をもつサポニンが主成分で、10種類以上のジンセノサイドが知られています。種類によってその薬理作用は異なり、一つの成分が同じ組織においても複数の作用を示すなど、薬用人参全体で極めて複雑な薬理作用を呈する理由の一つになっています。
人参サポニンは蛋白合成を促進し、新陳代謝と免疫力を高めます。人参サポニンの中にはがん細胞を殺し、転移を抑制するものも報告されています。サポニンには抗酸化作用もあり、発がん物質による遺伝子の変異を抑える作用(抗変異原性)を持つ人参サポニンも報告されています。また細胞膜と反応して細胞膜上のレセプター(受容体)などの蛋白と作用して細胞の機能にも作用します。サポニン以外にも、セスキテルペンなどの精油成分、多糖体、ペプチドグリカン、アミノ酸、ヌクレオシドなども種々の効果に関連しています。
薬用人参は、虚弱体質の胃腸疾患に用いられる漢方薬には人参が配合されていますが、消化吸収機能を高め、体力や抵抗力を高めて種々のストレスに対する適応能力を高めることができるので、虚弱体質自体を治す効果も期待できます。このように複数のメカニズムで体の自然治癒力を高めるような西洋薬はありません。【高麗人参にはがんの予防や治療に効果がある】
高麗人参は各種の悪性腫瘍によって引き起こされる貧血、気力減退、食欲不振、倦怠感などの改善に有効で、さらにがんの侵襲的治療(手術、抗がん剤、放射線照射)による骨髄障害や肝障害や免疫機能低下を軽減し回復を促進する効果もあります。最近では、がん細胞の増殖や転移を抑制する効果や、がんの発生を予防する効果が報告されていて、がん治療後の再発予防にも効果が期待されています。
ヒトの疫学的調査で、高麗人参にがんを予防する効果が韓国から報告されています。40歳以上の4634人を対象に、高麗人参の摂取状況とがんの罹患率を検討したところ、高麗人参を長期間摂取している人たちは、がんになるリスクが半分以下に減少していることがわかりました。高麗人参によるがん予防効果は特定の種類のがんに限定するのではなく、胃がんや肺がんなど多くの種類のがんに対して予防効果があるようです。たとえば、高麗人参非摂取グループの発がんリスクを1にした場合、高麗人参を摂取したグループの胃がんになるリスクは0.33で、肺がんになるリスクは0.30と減少し、その効果は用量依存的で高麗人参を多く摂取している人ほど発がんリスクが低かったと報告されています。高麗人参の中でも後で述べる紅参が最もがん予防効果があるそうです。
がん細胞の増殖や転移を抑える成分についての研究も多く報告されています。腸内細菌が人参サポニンを代謝して作り出す物質の中に、がん細胞にアポトーシス(細胞死)を引き起こしたり、転移を予防するものが見つかっています。
発がん剤と腫瘍プロモーターを用いた二段階皮膚発がん実験において、紅参は発がんを抑制し、マウス肉腫やメラノーマの移植腫瘍の増殖に対する抑制作用も報告されています。また人参サポニンの代謝産物には抗変異原性作用があることも報告されています。
今まで報告されたヒトの疫学的調査や臨床試験、動物実験の多くが薬用人参ががん予防に有効であることを報告しています。高麗人参の免疫賦活作用、抗変異原性作用、がん細胞の増殖や転移の抑制作用など複数の作用によって、がんの発生や悪性化の進展を抑制しているようです。【高麗人参のがん予防効果は人参のタイプと年数によって異なる】
高麗人参のがん予防効果は、それに含まれる人参サポニンなどの量や種類により左右されます。
韓国のYun博士らが行なったマウスの肺がんの実験では、通常の生薬の人参なら5ー6年もの、紅参なら4ー6年ものにがん予防効果が認められています。年数の経ったもの、あるいは紅参にしたものががん予防効果が強いということです(図26)。
図26:高麗人参は加熱処理して紅参にするとがん予防効果が高まる
高麗人参は熱を加えると抗腫瘍効果が上がることが報告されています。その理由は人参に加熱処理を加えると成分に変化が起こるからで、高い温度で処理するとより抗酸化作用の高いサポニンが生成され、発がん予防効果も高まるという実験結果が報告されています。
また愛媛大学生化学の奥田教授らは、高麗人参を蒸したり乾燥させて紅参を作る過程で、人参に大量に含まれるアルギニンに果糖とブドウ糖が結合してArginyl-Fructosyl-Glucose (AFG)が生成されることを報告しています。アミノ酸の一種であるアルギニンは蛋白質や一酸化窒素の原料になりますが、AFGに含まれるアルギニンは蛋白質の合成に使われずもっぱら一酸化窒素の生成に向けられるそうです。一酸化窒素は血液循環を良好にし、免疫力を増強する作用をもっています。
以上のような研究結果から、がんの再発予防には6年ものの紅参が最も効果があることが推測できます。【高麗人参の利用の仕方】
高麗人参は通常4ー6年の栽培の後、畑から掘り出します。掘り出した状態の生の人参を水参(生参)と言い、水参を日に干して乾燥したものを白参と言います。紅参(こうじん)は、最も効果のある6年根の水参を外皮をむかないまま蒸気で蒸して乾燥させたものです。漢方薬に使用される人参は白参に相当しますが、紅参も使用しています。前述のようにがん予防効果は紅参の方が強いことが報告されています。
紅参は韓国産が良く、中国産は農薬が多く、日本産やアメリカ産は成分がうすいと言われています。韓国でも土産で安く売られている高麗人参茶と、薬局で売られている高品質の紅参とは別物と考えたほうがよいでしょう。日本市場向け輸出品の中には品質のよいものが見られます。韓国では紅参の生産に専売制が敷かれていて、韓国人参公社が独占製造した「正官庄紅参」は品質に信頼のおける高麗人参と評価されています。「正官庄」とは、正(まさに)官(政府が)庄(包装した)と言う意味で、国家が品質を保証する韓国政府専売品の印です。
日本の薬局には多くの種類の紅参末あるいは紅参茶が売られています。最近では、通信販売やインターネットで安く購入することもできます。安いものも売られていますが、品質が悪いと効き目も低いので、良い品質のものを購入することが基本です。マルチ商法まがいは、品質が悪いので注意が必要です。紅参と名前がついていても産地や加工方法などで成分や品質が大きく違い、粗悪なものにはがん予防効果が期待できません。
がん治療の途中や後で体力や食欲の低下がある場合、血行が悪く冷え症などの漢方治療の適応がある場合には、医療機関で保険を使って医療用の品質の確かな紅参を使うこともできます。【高麗人参は炎症を増悪させる可能性もある】
目次へ戻る ホームへ戻る 4章-2へ高麗人参は一般的にはがん再発の予防効果が期待できますが、それは、体力・気力が低下して免疫力や新陳代謝が障害されている場合と考えておいた方がよいと思います。細胞の代謝を賦活する作用が強く、血管拡張作用や免疫増強作用があるので、炎症性疾患や熱がある状態では病気を増悪させる場合もあります。例えば、慢性関節リュウマチで関節の腫れや熱が強い時期には、人参は症状を悪化させることがあります。
元気が有り余っている人や高血圧や肥満のある人は、人参を単独で大量に摂取すると、むくみや興奮・不眠・のぼせ・顔面紅潮などのほか、湿疹、血圧上昇などの有害作用が見られることがあるので注意が必要です。
ただし、紅参には動脈硬化の進行を抑える作用や、血管を拡張して高血圧を改善する作用もありますので、血圧が高いことは人参を避ける根拠にはなりません。元気が有り余っているように見えても、免疫力や新陳代謝や血液循環が悪い人は多くいます。服用して体調が悪くなるなら、上記の理由で薬が合っていないと考えてやめることが大切です。