第4章:がん再発予防に効果が期待できる薬草・民間薬・健康食品

 2.ウコンに含まれるクルクミンは抗酸化作用と抗炎症作用によってがんを予防する

     【概要】
     【ウコンはカレー粉やたくわんの着色剤として食品に使われている】
     【炎症はがんの発生や進展を促進する】
     【ウコン成分クルクミンは転写因子NF-kBの活性を阻害して抗炎症作用と抗腫瘍活性を示す】
     【ウコンの利用の仕方】

【概要】

 ウコンは健康増進の様々な効果をもった民間薬で、その成分のクルクミンのがん予防作用が注目されています。ウコンを加工した健康食品やウコンを含むハーブティーが市販されており、これらを利用することはがんの再発予防に効果が期待できます。

【ウコンはカレー粉やたくわんの着色剤として食品に使われている】

 ウコン(Curcuma longa)はインドや東南アジアなど熱帯地方に生えているショウガ科の植物です。国内では、沖縄、九州南部、屋久島に自生し、また栽培もされています。その根の部分は生姜に似ており、その乾燥粉末は「ターメリック」という香辛料であり、カレー粉の黄色い色素の元でもあるので馴染み深い食材です。黄色色素を利用してたくわんの着色剤やウコン染めの名で染料としても使われています。
 昔から薬草としても使われており、
利胆(胆汁の分泌促進)芳香性健胃薬の他に止血鎮痛を目的に漢方処方にも配合されます。肝臓の解毒機能を強化し、二日酔いの防止にも効果があります。最近では、胃腸病や高血圧などの幅広い効用も認められるようになりました。

【炎症はがんの発生や進展を促進する】

 マクロファージや好中球は、細菌や真菌など外界からくる病原体を攻撃したり、ウイルスに感染した異常細胞やがん細胞を除去することにより、生体防御機構の中心的役割を果たしています。このときマクロファージや好中球は炎症性刺激に応答して、活性酸素を産生し、さらに誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の合成を高めます。iNOSは一酸化窒素(NO)というフリーラジカルを産生し、COX-2はプロスタグランジンを作りだし、炎症反応を増幅させます。iNOSとCOX-2はNF-kBという転写因子(遺伝子のスイッチをオンにする蛋白質)が活性化されることによりマクロファージの中で量が増えます(後述)。これらの炎症反応は生体防御における生理的な応答ですが、炎症が遷延して慢性炎症の状態が長期間持続すると、活性酸素や一酸化窒素などのフリーラジカルやプロスタグランジンはがんの進展を促進します(図27)。一般に慢性炎症ががんの促進因子であり、抗炎症剤ががん予防剤となるのはこのような理由によるものです。

図27:炎症は生体防御と発がん促進の2面性をもっている

 COX-2により合成されるプロスタグランジンががんの発生や進展を促進することは第2章の5で説明しています。ここではさらに、一酸化窒素とがんとの関係を説明しておきます。
 炎症性刺激によってマクロファージからiNOS遺伝子の転写が誘導されiNOS蛋白が細胞内で増加し、NOが大量に産生されます。NOはミトコンドリアの呼吸酵素やDNA合成酵素を阻害して、病原菌や腫瘍細胞の増殖を抑制することによってマクロファージの生体防御作用に関与しています。しかし、NO自身化学反応性に富み、さらに
スーパーオキシド(O2-)と反応して生じるパーオキシナイトライト(ONOO-)はさらに酸化力が強いため、炎症巣における大量のNOと活性酸素の産生はDNAの障害を引き起こし、発がんのイニシエーターとして作用します。また正常な細胞も障害することによって、細胞増殖を引き起こし、プロモーション作用も起こします。NOはがん細胞を刺激して血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor, VEGF)の発現を誘導することが報告されています。VEGFは腫瘍組織の新生血管を増生させる事により、がん細胞の増殖を促進ます。このように、慢性炎症において過剰なNO産生が長期間つづくと発がんを引き起こすことが想定されていて、最近の研究では、NOを発生する物質を動物に投与することによってがんを作り出せることが証明されています。慢性炎症巣におけるNO産生を抑制し、あるいはNOを消去する物質は、がん予防効果が期待されています。

【ウコン成分クルクミンは転写因子NF-kBの活性を阻害して抗炎症作用と抗腫瘍活性を示す】

 1988年、アメリカのラトガー大学薬学部のコニー博士らは、マウスを使った実験を行い、ウコンに含まれるクルクミン(curcumin)が皮膚がんの発生を抑制するという研究結果を報告しました。それ以来、日本や台湾を中心にウコンのがん予防効果の研究が進められています。発がん物質を使った動物実験では、皮膚がん、胃がん、大腸がん、乳がん、肝臓がん、などの発生を抑える効果が報告されています。
 クルクミンは胆汁分泌を促し、脂肪の消化吸収を助ける作用があり、肝臓の解毒作用を強化する働きがあります。強い抗酸化作用と同時に、NF-kBという転写因子の活性化を阻害することにより、炎症や発がんを促進する誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)やシクロオキシゲナーゼー2(COX-2)の合成を抑えてがんの発生を予防したり、がん細胞を死にやすくするなどの効果が最近の研究で明らかにされがん予防物質として注目を集めています(図28)。

図28:クルクミンは、抗酸化作用、炎症細胞からの誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)やシクロオキシゲナーゼー2(COX-2)の合成を阻害する作用、がん細胞のアポトーシス感受性を高める作用、などによってがん再発を予防する

 転写因子のNF-kBは、通常は細胞内でIkBという阻害蛋白と結合して不活性な状態で存在しています。マクロファージに炎症性のシグナルが来ると、IkB蛋白が分解してNF-kBはフリーになって細胞の核に移行します。核内においてiNOSやCOX-2などの遺伝子の調節領域に結合して、これらの蛋白質の合成を開始します。最近の研究で、
クルクミンはIkBの分解を阻止してNF-kBの活性化を抑制することによって、マクロファージからのiNOSやCOX-2の合成を抑えることが明らかになっています。
 また、がん細胞においては、活性酸素などによってNF-kBが活性化されると、増殖が促進され、アポトーシスという細胞死が起こりにくくなります。アポトーシスとは、細胞がある情報を受けて、自ら能動的に死んでいく「プログラムされた細胞死」のことをいいます。
多くのがん細胞は、転写因子NF-kBが活性化されるとアポトーシスが起こりにくくなって増殖速度が早くなります。がん細胞で活性化されたNF-kBを阻害してやるとがん細胞が抗がん剤で死にやすくなり、クルクミンががん細胞のNF-kBの活性化を阻害してがん細胞のアポトーシスを引き起こすことが報告されています
 このように、クルクミンのNF-kB活性の阻害は、炎症細胞からの誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)やシクロオキシゲナーゼー2(COX-2)の合成を阻害し、がん細胞のアポトーシス感受性を高めて死にやすくすることにつながり、さらに抗酸化作用も加わってがん予防効果を発揮することになります。
ただし、クルクミンのこのような効果は、試験管内のデータであり、人体内でこのような抗腫瘍効果がどの程度期待できるかは不明です

【ウコンの利用の仕方】

 クルクミン含量の多いウコン・エキスを粉や粒にした健康食品も販売されています。お茶(ハーブティー)として日常的に飲用することもできます。ウコン茶を煎じるときは、1日量を6ー10グラムとし、400ー600ミリリットルの水に加えて沸騰させます。沸騰して5分ほどたったら火を止め、これを2ー3回に分けて空腹時に飲むようにします。また、煮物や焼き物に入れると、ショウガに似た独特の風味が楽しめます。抗酸化作用や免疫力増強作用のあるハーブティーとしてウコンと高麗人参の組み合わせは効果があります。

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