第4章:がん再発予防に効果が期待できる薬草・民間薬・健康食品
7.抗酸化作用を目的とした健康食品は精製していない天然のものが良い
【概要】
【体はフリーラジカルの害にさらされている】
【フリーラジカルはがんの悪性化を促進する】
【抗酸化物質の補充はフリーラジカルの害を防いでがんの再発や進展を抑える】
【抗酸化剤の2面性に注意】
【精製した抗酸化物質より野菜ジュースの方ががん予防効果が優れている】
【プロポリスとイチョウ葉は天然の抗酸化物質の宝庫】
【概要】
強い酸素ストレスに曝される植物はその生存のために優れた抗酸化機構を発達させています。様々な抗酸化物質を合成し蓄積することもそのひとつであり、これらをヒトが摂取した場合に生体の抗酸化機構に貢献しています。活性酸素やフリーラジカルによる生体組織の障害が、がんを含めて多くの病気の原因あるいは増悪要因となっています。このような疾患の治療や予防に対して、抗酸化やラジカルスカベンジャー作用を有する天然の物質を用いることが最近盛んに試みられ、有用性を示すデータが蓄積しています。しかし、合成したり精製した抗酸化剤を多く摂取すると有害な作用が出ることも報告されています。抗酸化物質は野菜や果物など食品から取るのが理想ですが、抗酸化力を補う目的で健康食品を使うなら、できるだけ天然に近い精製していないものを偏らないで摂取することが大切です。
【体はフリーラジカルの害にさらされている】
この世の全ての物質は全て原子からできています。原子というのは物質を構成する最小の単位で、原子核を中心にその周りを電気的に負(マイナス)に帯電した電子が回っているという形で現されます。通常、電子は一つの軌道に2個づつ対をなして収容されますが、原子の種類によっては一つの軌道に電子が一個しか存在しないことがあります。このような「不対電子」を持つ原子または分子をフリーラジカル(遊離活性基)と定義しています。フリーは英語で「自由な」、ラジカルは「過激な」という意味で、フリーラジカルは自由な過激分子ということになります。
本来、電子は軌道で対をなっている時がエネルギー的に最も安定した状態になります。そのためにフリーラジカルは一般的には不安定で、他の分子から電子を取って自分は安定になろうとします。フリーラジカルとは、「不対電子をもっているために、他の分子から電子を奪い取る力が高まっている原子や分子」と定義できます(図31)。
図31:不対電子を持っている原子や分子をフリーラジカルという。フリーラジカルは他の物質から電子を奪って安定化するが、電子を奪われた物質(酸化された物質)はフリーラジカルとなってさらに他の物質から電子を奪うようになる。
ある原子や分子から電子が一個なくなると、その物質は「酸化」されたといいます。逆に電子を一個もらうとその物質は「還元」されたといいます。フリーラジカルは他の原子や分子と反応して、相手から電子を奪い取ります。つまり、相手の物質を酸化する力が強い物質(酸化剤)なのです。
フリーラジカルの代表は活性酸素です。私たちが呼吸によって取り込んだ酸素がエネルギーを産生する過程でスーパーオキシド・ラジカル(O2-)という活性酸素が発生します。ふつうの酸素分子は16個の電子の持っていますが、スーパーオキシド・ラジカルは17個の電子をもっており、そのうち1個が不対電子になりフリーラジカルとなるのです。
スーパーオキシド・ラジカルは体内の消去酵素(スーパーオキシド・ジスムターゼ、略してSOD)によって過酸化水素(H2O2)に変わり、過酸化水素はカタラーゼという消去酵素によって除去されます。しかし、活性酸素の一部は微量元素(鉄イオンや銅イオン)やスーパーオキシドと反応して、ヒドロキシルラジカル(・OH)が発生します。ヒドロキシルラジカルも一つの不対電子をもっており、その酸化力は活性酸素のなかで最も強力で、細胞を構成する全ての物質を手当たりしだいに酸化して障害をおこします。
呼吸により取り入れられた酸素の2%ほどが活性酸素になるといわれています。白血球が有害な細菌を殺す過程でも活性酸素が発生します。活性酸素以外に一酸化窒素も細菌を殺すために白血球やマクロファージという貪食細胞から産生され、一酸化窒素と活性酸素が反応して極めて強力なフリーラジカルが発生することも知られています(第4章12)。免疫細胞が産生するフリーラジカルは生体防御に必要ですが、炎症における過剰なフリーラジカル生成は、がん細胞の発生や老化を促進する要因となっています。
さらに紫外線、排気ガス、たばこ、肉体的・精神的ストレス、化学合成医薬品、食品添加物など、私たちの身の回りにも活性酸素やフリーラジカルを発生させる原因が溢れています。【フリーラジカルはがんの悪性化を促進する】
活性酸素などのフリーラジカルは体を構成するいろんな成分を酸化して障害し、この酸化障害が病気や老化を促進する原因となっています。
遺伝子の本体のDNAは活性酸素によって鎖が切れたり、遺伝情報の文字の役目の塩基と呼ばれる部分(A,G,C,Tの部分)がはずれたり、酸化されて変化したりします。グアニン(G)という塩基が酸化されて生じる8-ヒドロキシ-2'-デオキシグアノシン(OHG)がDNAの酸化障害のマーカーとして使われていますが、正常の細胞でもOHGが検出され、活性酸素が体のあらゆる部位でたえまなく生成されていることを示しています。老化した動物は若いものより臓器のOHGの量が多いことや、組織のOHGの量ががんが発生するリスクと相関することなどが報告されています。
細胞の増殖やアポトーシスをコントロールしている遺伝子の働きに異常がおこると、無制限に増殖するがん細胞の発生につながります。DNAの変異が蓄積すると、さらに転移しやすい悪性度の高いがん細胞が発生してきます。
活性酸素は蛋白質自体にも酸化障害を引き起こします。蛋白質を構成しているアミノ酸の中のいくつかは活性酸素によって酸化されてカルボニル化合物という物質に変わり、脳や目の水晶体などの蛋白質のカルボニル化合物の量は老化によって増加することが報告されています。このような異常な蛋白質の蓄積は、蛋白質自体の機能を低下させ、結果として免疫組織を初めとする臓器や組織の機能の低下を引き起こします。
脂質が酸化された過酸化脂質は動脈硬化の原因となり、血液循環を障害して組織の新陳代謝や治癒力を低下します。細胞膜の脂質が活性酸素の攻撃で過酸化脂質を生じると膜の性質が変わったり細胞の老化の原因となります。
このようにDNA・蛋白質・脂質など細胞を構成する成分に、活性酸素やフリーラジカルによる酸化障害が蓄積する事ががん細胞の悪性度を促進する原因として重要です。【抗酸化物質の補充はフリーラジカルの害を防いでがんの再発や進展を抑える】
体の内外から発生するフリーラジカルの害を防ぐ防御機能が体には備わっています。活性酸素を消し去る酵素(SODやカタラーゼやグルタチオン・ペルオキシダーゼなど)や抗酸化物質(尿酸やグルタチオンなど)は絶えずフリーラジカルや活性酸素を除去しています。たとえDNAに異常が起こっても、DNA修復酵素の働きや自ら死を選ぶアポトーシスのメカニズムによってDNAの変異が蓄積しないような仕組みが備わっています。
このような体の防御機能によって、フリーラジカルを一つも残さず掃除できれば老化やがんの発生をくい止めることができます。しかし、フリーラジカルに対する生体の防御システムの力が足りなければ、フリーラジカルの毒性を阻止したり軽減することができず、体の老化や治癒力の低下は進み、がんが発生しやすい状態になります。
したがって、生体の防御システムをくぐり抜けて発生した活性酸素やフリーラジカルを体外から抗酸化剤やフリーラジカル消去物質を投与して消去すれば、がんが進展するスピードを遅らせることが可能になります。
植物は光合成を行うことで生命を維持しています。日光の紫外線の刺激から発生する活性酸素から身を守ることは、植物にしてみれば至極当然のことで、その植物が貯えている物質の中に強力な抗酸化物質やラジカル消去物質を数多く含んでいます。植物に含まれる抗酸化物質として、カロテノイドやビタミンC・Eなどの天然抗酸化物質のほか、フラボノイドやタンニンなどのポリフェノール・カフェー酸誘導体・リグナン類・サポニン類など多彩な種類が知られており、植物はまさに「抗酸化物質の宝庫」といえます。
カロテノイドとビタミンCは光合成過程で発生する各種活性酸素種の消去剤としての役割を担っています。カロテノイドにはβカロテンやリコピンなどがあり、このうちトマトに多く含まれるリコピンはカロテノイドの中で最も抗酸化能が強いといわれ、がん予防物質として注目されています。ビタミンEも植物界に広く分布し、脂溶性であるため細胞膜の脂質の過酸化に対して強い抑制作用を示します。ビタミンCは水溶性の抗酸化性ビタミンで、ビタミンEと相乗作用して抗酸化能を高めます。
フラボノイドやタンニンはその構造の中にフェノール性OH基を多数持つためポリフェノール類と呼ばれています。フェノール性OH基が水素をラジカルに渡して安定化させ、自らは安定なラジカルとなることによってラジカル消去活性を示します。
フラボノイドとは、植物に多く含まれている黄色やクリーム色の色素のことです。活性酸素を除去する抗酸化作用が強く、紫外線による害から守る作用がありますので、葉・花・果実など日光のよく当たる部分に多く含まれ、ほとんどの植物がもっています。例えば、イチョウの葉はフラボノイドの宝庫で、イチョウの葉特有のフラボノイドには、抗酸化作用のみならず、体内の血管を広げ、血流を改善する効果もあります。ドイツやフランスなどでは痴呆症の薬としても利用されていますが、最近はがん予防効果も報告されています(後述)。
ゴマ油は酸化に対して安定ですが、それはゴマの種子に多量に含まれている含まれているリグナン類の優れた抗酸化作用によるものです。胡麻に含まれる成分セサミンが肝臓がんの発生を抑える働きを持つことが、発がん実験の研究で明らかになっており、その作用機序として抗酸化能が重視されています。【抗酸化剤の2面性に注意】
ベータカロテンが喫煙者の肺がんの発生を促進することが報告されています。その理由はいろいろな説明がありますが、抗酸化剤の2面性が関連している可能性が指摘されています。つまり抗酸化剤(anti-oxidant)は状況によっては酸化剤(pro-oxidant)にも成りうる点です。
一般に抗酸化剤はフリーラジカルに電子を与えることによってフリーラジカルを安定にしますが、一方、電子を取られた抗酸化剤のほうはフリーラジカル、つまり酸化剤としての性質を持つようになります。低分子で水溶性の抗酸化剤(ビタミンCなど)は電子を与えたあと尿中に排泄されるため問題ありませんが、ベータカロチンのように油に溶けるものは排泄されずに体内に止まって酸化剤として働く可能性もあります。
ビタミンEやベータカロテンは細胞膜に入って活性酸素からの障害から細胞を守っていますが、時間とともに酸化されてその効力は低下し、逆に酸化剤としての性質を持ってきます。ビタミンCには、一度酸化したビタミンEやベータカロテンなどを還元し元に戻す働きがあります。したがって、水溶性の抗酸化剤が十分補給されない状態で、脂溶性の抗酸化剤だけを大量に摂取することは、却って良くないことが理解できます。喫煙者では、煙草の煙の中のフリーラジカルが肺組織の細胞を常時酸化していますが、水溶性の抗酸化剤の補給なしに脂溶性の抗酸化剤であるベータカロテンンだけを大量にとることが危険であることは推測できます。また、ビタミンCやカテキン類のような水に溶けるものでも、鉄や銅などの金属が存在するとそれと反応してフリーラジカルを産生することが知られています。
たとえ天然のものでも、精製して純粋な成分にした抗酸化剤を、一種類に偏って多量に取ることは避けたほうがよいようです。【精製した抗酸化物質より野菜ジュースの方ががん予防効果が優れている】
西洋医学の考え方では、精製した単一物質の利用がより有効であり科学的とされる傾向がありますが、抗酸化剤によるがんの予防に関してはこの考え方は当てはまらないようです。
秋田大学医療技術短期大学の成澤富雄教授は、ラットに発がん物質を投与して大腸がんを作る実験で、リコピンとトマトジュースのがん予防効果を比較しています。リコピンはトマトに含まれるカロテンで強い抗酸化作用とがん予防効果をもっています。リコピンの量が同じになる条件でトマトジュースを投与すると、リコピン単独の場合より、より強くがんの発生を予防しました。トマトジュースの中にはリコピン以外に、ビタミンCやビタミンE、カロテンや様々なポリフェノール類など多くの抗酸化物質が含まれるため、リコピンの濃度だけを同じにすればトマトジュースの方が抗酸化作用は強くなるため、がん予防効果も強くでることは当然かもしれません。
植物が自分を守るために蓄積している抗酸化物質は、より効率的にフリーラジカルを消去できるような組み合わせが自然に出来上がっている可能性があり、植物を食物としてきた人間には、植物の抗酸化物質を利用するように進化してきたはずです。天然の組成を崩して単一の成分だけを利用することは、生体内での抗酸化作用を弱めるだけでなく、βカロテンの例のように有害作用となって現れる可能性もあります。
抗酸化物質を多く含む植物成分を原料にした健康食品を利用する場合には、できるだけ自然の素材を活かしたものが良いといえます。
【プロポリスとイチョウ葉は天然の抗酸化物質の宝庫】
目次へ戻る ホームへ戻る 4章-8へプロポリスは、蜜蜂が花々や樹皮などから採取してきた樹液と蜜蜂の唾液や酵素が混ぜ合わされて出来たニカワのような物です。蜂が巣の中を無菌状態に保つために利用しているようで、強力な抗菌作用があります。
古代エジプトでは、ミイラ化するための防腐剤として、インカ帝国では発熱を伴う病気などの治療薬として用いられていたと記録されており、現代に至るまで、ロシアや東欧諸国では、プロポリスが自然療法として盛んに使用されてきました。
蜜蜂が集める樹液はそれぞれの風土により様々ですが、樹液の種類によって薬効に大きな違いがあります。ブラジル産で、ユーカリの樹液を含むものが最も優れているといわれていますが、その理由は高温多湿地域で、バクテリアや細菌に犯されやすいため、強力なプロポリスを蜜蜂自身が必要とし、ユーカリをはじめ多様な植物の存在がそれを可能にしているとのことです。
プロポリスには非常に濃いフラボノイトが含まれていて、さらに種々のミネラル、アミノ酸、ビタミン、などを含み健康増進に効果があることが知られています。さらに、ブラジル産プロポリス抽出液中に抗がん作用のある新規物質が発見されされて以来、がんの予防や治療への効果も検討されています。
動物実験では、肝臓がん、乳がん、肺がん、皮膚がん、腎臓がん、大腸がんなどの発生や進展を抑制することが報告されています。培養細胞を使った実験では、抗がん作用を示す活性成分として、アルテピリンC(Artepillin C)やカフェイン酸フェネチル・エステル(caffeic acid phenethyl ester)などが見つかっています。これらは、抗酸化や抗炎症作用の他、がん細胞を直接殺す作用などが報告されています。
プロポリス製品にはアルコール抽出の他に水抽出液や、錠剤、粉末入りカプセル等様々な製品が市販されていますが、ブラジル産プロポリスを原料とした信頼のおけるものを使用することが大切です。
イチョウ葉エキスは、ヨーロッパでは認知症の治療薬として医者が使う薬となっています。日本ではまだ薬として認められていないため健康食品なのですが、他のどの薬よりもイチョウ葉エキスの方が認知症の予防や改善に有効であることが報告されています。その理由は、抗酸化物質と血流改善物質の宝庫だからです。イチョウ葉エキスに含まれるフラボノイドやギンコライド等の成分が脳内の血流を促進し、さらに活性酸素の発生を抑える抗酸化作用もあり、老化を促進させる過酸化脂質ができるのを防ぐ効果があるようです。
このような抗酸化作用や血流改善作用はがんの再発予防にも効果が期待できます。マウスに発がん剤を投与して胃がんを発生させる実験では、イチョウ葉エキスががんの発生を抑制する効果が報告されています。培養したヒト膀胱がん細胞の培養液の中にイチョウ葉エキスを添加すると、がん細胞内のグルタチオン量が増加し、抗酸化酵素やDNA修復酵素の発現が上昇することが報告されています。また、抗がん剤の副作用を抑える作用も報告されています。
このように、プロポリスやイチョウ葉エキスに含まれる成分は、抗酸化力を増し、抗炎症作用や血流改善作用やがん細胞を殺す作用などによって、がんの再発や進展を抑える効果が期待できます。