第4章:がん再発予防に効果が期待できる薬草・民間薬・健康食品

 8.セレンは活性酸素を消去する酵素の活性を高める

     【概要】
     【グルタチオン・ペルオキシダーゼは過酸化水素を分解する】
     【セレンはグルタチオン・ペルオキシダーゼの働きに必要な微量元素】
     【セレンのがん予防効果】
     【メモ:ミネラルの補充はバランスが大切】

【概要】

 体の抗酸化力を高めるためには、抗酸化物質(ビタミンC,ビタミンE,,ポリフェノールなど)を取り入れえるだけでなく、体に備わっている抗酸化酵素(活性酸素消去酵素)の働きを高めることも大切です。種々の微量元素が抗酸化酵素の活性に必須であり、その中でセレン(またはセレニウム)は過酸化水素を水と酸素に分解するグルタチオン・ペルオキシダーゼの活性に必要です。セレンを補充することは、体の抗酸化力を高め、老化やがん予防に効果があることが明らかになっています。
 
セレンを補充すると抗酸化力のみならず免疫力も高まってがんの再発を遅らせる効果が報告されています。また、抗がん剤や放射線治療の副作用を軽減する効果も指摘されており、がんの予防や治療の目的でセレンをサプリメントとして摂取する価値はあります。

【グルタチオン・ペルオキシダーゼは過酸化水素を分解する】

 私たちの体は肺から取り入れた酸素を利用して、細胞のミトコンドリアでエネルギーであるATPを効率よく生産しています。しかし、その一方で、いわゆる活性酸素が発生して、細胞のDNAや蛋白質や脂質を酸化するため、老化やがんの原因となります。
 このような活性酸素の害を防ぐため、種々の抗酸化酵素や抗酸化性物質といった活性酸素を消去するための防御システムが体には備わっています(図32)。

図32:活性酸素の生成と消去
活性酸素の生成と消去には種々の微量元素が関与している。セレン(Se)は過酸化酸素を分解するグルタチオン・ペルオキシダーゼの活性に必要


 酸素(O2)がエネルギー産生や種々の酵素反応や炎症細胞の活動に使われると、電子が一個余分についた
スーパーオキシドが発生します。スーパーオキシドはスーパーオキシド・ディスムターゼ(SOD)という抗酸化酵素によって過酸化水素(H2O2)に変換され、さらにカタラーゼグルタチオン・ペルオキシダーゼによって水と酸素に変わります。
 過酸化水素が鉄や銅イオンなどと反応して生成される
ヒドロキシ・ラジカル(・OH)は酸化力が極めて強いため、細胞の酸化障害の主要な原因となっています。したがって、過酸化水素を片っ端から水と酸素に変換してくれるグルタチオン・ペルオキシダーゼの働きを高めてやることは、体の酸化障害を予防する有効な手段となります
 
グルタチオンは3つのアミノ酸(グルタミン酸、システイン、グリシン)から成る物質で、細胞内に大量に存在します。グルタチオンの中のシステインに含まれるSH基が電子供与体となり、フリーラジカルに電子を与えて安定化させる働きがあります。
 細胞内には
還元型グルタチオン(GSH)として存在し、電子を与えたあとは2量体(GSSG:酸化型グルタチオン)に変化して安定になるため、フリーラジカルによる電子の連続的な奪い合いを止めることができます。酸化型グルタチオン(GSSG)はグルタチオン・レダクターゼがNADPHからの電子をGSSGに転移してGSHに戻ります。
 この還元型グルタチオンを電子供与体として過酸化水素を水と酸素に分解したり、脂質過酸化物を還元して無毒化するのがグルタチオン・ペルオキシダーゼです。

【セレンはグルタチオン・ペルオキシダーゼの働きに必要な微量元素】

 上記のように、グルタチオン・ペルオキシダーゼはフリーラジカルや活性酸素に対する生体防御において重要な役割を担っています。この酵素はセレンセレノシステイン(アミノ酸の一種のシステインに含まれるイオウ原子がセレンに置き換わっている)の形でその酵素活性部位に持っています。血漿中のグルタチオン・ペルオキシダーゼ量はセレン欠乏の指標として測定されています。つまり、セレンが欠乏するとグルタチオン・ペルオキシダーゼの量が減って体の抗酸化力が低下することになります。
 セレンが必要な蛋白質はグルタチオン・ペルオキシダーゼ以外にもありますので、
セレンの欠乏は抗酸化力の減弱だけでなく、様々な細胞の働きに支障がでてきます。セレンが欠乏すると酸化ストレスにたいする抵抗力がなくなり、免疫力も低下して感染症にかかりやすくなります。セレンは精子の運動能を高める作用や心臓疾患や白内障を予防する効果も知られています。
 したがって、セレンが欠乏しないように注意することは病気の予防において大切です。セレンが土壌中に不足しているフィンランドでは、政府が中心となってセレンを耕作地に散布し、国民がセレン不足におちいらないよう気を配っているそうです。抗過酸化力のあるビタミンEと一緒に摂ると、生体膜の過酸化脂質化防止の働きが強化されて老化性疾患の予防に効果的といえます。
 人間の生命活動に欠くことのできない微量元素として鉄、カルシウム、カリウム、マグネシウム、マンがん、亜鉛、クロム、銅、コバルト、セレンなどがあります。
セレンは抗酸化力と免疫力を高める効果があるため、抗がん力を高めるのに重要なミネラルと言えます。

【セレンのがん予防効果】

 土壌中のセレン濃度が高い地域ほどがん発生率が少ないという研究がアメリカから発表されています。セレン濃度が高い地域に育つ農作物はセレンの含量が多く、それを食べる住民の血中セレン濃度も高くなって体の抗酸化力が増すことががん予防につながると予想されています。セレンの摂取量とがんの発生率が逆相関することは、その他の研究でも指摘されています。
 がんの治療(手術や放射線)中には、がん細胞に対する細胞性免疫の応答性は低下しますが、1日200マイクログラムの亜セレン酸ナトリウム(sodium selenite)の補充を行うと、細胞性免疫の応答性は増強するという報告があります。
 セレンには抗酸化力増強だけでなく、がん細胞のシグナル伝達系に作用して、細胞増殖を抑え、細胞死(アポトーシス)を誘導する効果があることも最近報告されています。
 抗酸化力を増強するため、がんの化学療法や放射線療法の毒性を軽減し、がん治療の効果を高めることも期待できます。したがって、がんの治療や再発予防においては、セレンを補充することは有効と言えます。
 微量のセレンは多くの食品に含まれています。ニンニクにはセレンが豊富に含まれていてニンニクのがん予防効果の一部はセレンが関連しています(第1章6参照)
 ヨーロッパやアメリカなどではセレンを栄養補助食品としてスーパーマーケットで手に入れる事が出来ます。そして自らの健康を考えて自発的に補給しています。
 健康維持や病気の予防のためにセレンは1日50ー200マイクログラムが必要といわれています。セレンを添加した培養液で増殖させたパン酵母を使った健康食品はセレニウムの他に多くの微量元素やビタミンなども豊富です。
  セレンは発がん物質によるDNAの変異や酸化障害を抑制し、がんの進展を抑える効果があり、
1日に100-200マイクログラム のセレンはDNA障害を抑えて発がん抑制やがんの進展予防に有効と報告されています。ただし、上限は400マイクログラムであって、それ以上の過剰の摂取は有害である可能性も指摘されています。

【メモ:ミネラルの補充はバランスが大切】

 ミネラルを摂取するときは、バランスよくとることが大事です。単体のミネラルを大量に摂ると逆に体にとって有害になることも少なくありません。例えば、カルシウム不足を解消したければ、マグネシウムもいっしょに摂る必要があります。カルシウムだけをサプリメントで大量に摂ると、マグネシウムの排泄が促進されて、体内のマグネシウムがいっそう少なくなってしまいます。マグネシウムが少なくなると、カルシウムやカリウムの吸収が悪くなるので逆効果 になってしまいます。
 
セレンと亜鉛はともに免疫力や抗酸化力を高めてがんを初めとして様々な病気の予防に効果がありますが、この両者は拮抗的で、亜鉛の摂取量を増やすとセレンの吸収は低下することが知られています。亜鉛は多くの酵素の働きに必要で、免疫機能に大きな影響をもっています。亜鉛が不足すると免疫機能の低下により発がんのリスクが増大するという意見もありますが、亜鉛の豊富な食物を摂取している人では発がんリスクが高いという報告もあります。
 この理由として、亜鉛の血中濃度が高いときにはセレンの血中濃度は低いという両者の拮抗関係が示唆されています。つまり、
亜鉛の摂取量を増やすとセレンの吸収は低下することが知られているのです。実験的にも、亜鉛は濃度が高すぎても低すぎてもがんの危険を増やすことがわかっています。

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