第6章:がんに立ち向かう「心」と「精神力」を養う方法
6.体をリラックスさせる自律訓練法
【概要】
【自律訓練法は心身をリラックスさせるさせるための訓練】
【自律訓練法の実際】
【概要】
自律訓練法は、自律神経の訓練法ではなく、心身のリラックス法です。系統だった自己暗示によって、リラックスしたときの体の状態を意識して作り、心もリラックスさせる方法で、気功と似た原理です。うまく使いこなすまでには練習が必要ですが、うまくいったときの爽快感は格別です。現代人は休養の時間が不足しており、自律訓練法や気功によって日頃から心身をリラックスさせる時間を作ることは、がん再発の予防にも効果があるはずです。
【自律訓練法は心身をリラックスさせるさせるための訓練】
自律訓練法は1920年代に心身症や神経症の治療法としてドイツの精神科医シュルツ(J.H.Schultz) によって開発され、1950年代に我が国に導入された心身のリラクセーション法です。自己暗示によってリラックスした時の体の状態をイメージすることで、精神的にもリラックスすることができます。
自律訓練法はそのすぐれた心身調整効果によって急速に発展し、医学的な治療法として用いられるばかりでなく、職場におけるストレス緩和法、心身の健康増進法、さらにスポーツやステージ活動における集中力養成法やあがり防止法、創造性の開発法などとして、広く用いられるようになりました。
「腕が重い」とか「腕が温かい」などの言葉を心の中で繰り返し唱えます。「腕が重い」というのは筋肉の緊張が解けている状態をイメージすることであり、「腕が温かい」というのは。血管が拡張し血流がよくなった状態をイメージすることです。このように自分自身で暗示をかけていって、腕や脚に「重さ」や「温かさ」を感じることによってリラックスした状態を自分で作り出せるようになるのです。
始めてもすぐに効果が現れるわけではありません。1日3回(朝昼夜)行い、何回か繰り返しているうちに、だんだんと腕が重い、腕が温かいと感じられるようになります。その時は、副交感神経が働いてリラックスした状態になります。しばらく続けていると、必要に応じてリラックス状態を作り出せるようになります。【自律訓練法の実際】
1.場所:なるべく、くつろげる場所で行います。適度に静かで適温、やや暗め、広すぎたり狭すぎたりしない場所を選びます。
2.圧迫刺激を除く:体を圧迫するような、腕時計やベルトをはずします(靴をスリッパなどには着替えても良い)。
内部刺激を除く: 空腹時を避け、トイレは済ましておき気になる用事などは済ましておきます。
3.姿勢:基本的に、リラックスした姿勢で行います。
仰臥姿勢:ベッドや布団に仰向けになります。掛け布団などはなるべく掛けないようにします。枕は首筋まで入れ、首に力が入らないようにします。両腕は体の両脇に自然に伸ばし、両脚はやや開いて伸ばします。
安楽椅子姿勢 :頭を支えることが出来る背もたれのある椅子を使います。
単純椅子姿勢:普通の椅子で行う場合。このとき、椅子に深く座り、ひざは鈍角で、つま先・かかとは床につけます。両足は肩幅に開き、手をひざの上に、手のひらを下にして軽く置きます。背筋を伸ばし、口は開き加減にします。
4.深呼吸:姿勢が決まったら、深呼吸を2?3回行って、肩と首の力を抜きます。
5.公式:公式というのは、自分自身に語りかける決まり文句です。この言葉によって、自分に暗示をかけ、その通りの状態を引き出そうというわけです。人によっては、深い自己催眠状態に移行することができます。この状態で、イメージトレーニングをすると効果がとても大きくなります。この時、自律訓練をやるぞ!と気張るのではなく、心身の状態のおもむくままにまかせる受容的態度をとります。例えば、「気持ちがとても落ち着いている」という場合、ムキになって、リラックスしようとするのではなく、「気持ちがとても落ち着いている」という背景公式を単純に心の中で繰り返えせばよいのです。(図41)
●背景公式(安静練習)
「気持ちがとても落ち着いている」・・・これを何度か繰り返し、実際に気持ちを落ち着けます。
●第1公式(重感練習)
「腕が重たい」・・・腕の力を抜くための暗示です。利き腕から始めると効果的です。実際に腕が重く、だるく、感じ、腕の感覚が鈍くなれば次の段階に進みます。両足も同じ方法で、重だるい感じにします。足は腕よりも比較的簡単にこの状態になります。
●第2公式(温感練習)
「手足が温かい」・・・血流を良くする暗示です。実際に温かく感じたら次へ進みます。
●第3公式(心臓調整)
「心臓が静かに規則正しく打っている」・・・リラックス状態に入っているので、心臓に負担をかけないためのものです。この公式は、心臓疾患など、心臓に自信のない人には不向きですから飛ばします。
●第4公式(呼吸調整)
「呼吸が楽にできる」・・・気管や気管支を広げ、空気の流れを良くするためのものです。
●第5公式(腹部温感練習)
「おなかが温かい」・・・内臓とその裏側にある太陽神経叢という神経のネットワークの働きを高めます。
●第6公式(額涼感練習)
「額が涼しい」・・・意識を静め、潜在意識を浮上させる働きをします。この時点で、イメージトレーニングを行うと効果的です。
6.消去動作
自律訓練法を行ったあとは、体の筋肉が弛緩し、心身ともにリラックスした状態になります。そのため、朝や日中などに自律訓練法を行ったときには体を活発に動かせる状態に戻す必要があります。手を握ったり開いたり、肘を曲げ伸ばしたりしながら、除々に身体を動かします。急に立ちあがってはいけません。公式の途中で、虫が這っているような不快感や痛みを感じた場合、すぐに消去動作を行って公式を中止します。その後、時間をおいて再開します。
寝床の上で行って、そのまま眠ってしまうなら必要ありません。
7.練習回数と時間:一回につき3~5分を一日に2~3回します。長い時間やるより、一日に2~3回に分けて行った方が効果的です。
図41:自律訓練法の練習の仕方
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